第二十話 黒革ボンテージと蝋燭で責められて、宿では張形と穴あき下着で囲われましたぞ
「オホッ……豚……奥……オホォッ……!」
「受付のお姉さん、最初から随分と息が荒いですなぁ」
「オホッ……喋るな、この脂ぎったハゲ……! 早く来い……オホォッ……!」
午後。簡単な依頼を終えてギルドへ戻ったおじさんを、受付のお姉さんは冒険者たちの前ではいつも通りの顔で迎えた。けれど、声だけは妙に短い。頬も少し赤い。それでも周囲に向ける笑顔は完璧で、「お疲れさまでした。依頼品を確認いたします」「こちらが報酬です」と何事もなかったように仕事を終わらせる。
そして。
「経過確認がありますので……オホッ……こちらへどうぞ」
「最後、漏れておりますぞ」
「聞こえてない。来い」
奥。
扉。
ぱたん。
かちり。
「オホォッ……遅い、豚……!」
「いや、受付から十歩ほどですがなぁ」
「オホッ……口答えするな……気持ち悪い……!」
ぱんっ!
「オホッ!」
「オホォッ……! その声……ほんっと気持ち悪い……!」
受付のお姉さんは、扉を閉めた瞬間から肩で息をしていた。制服の胸元へ手を掛け、留め具を外す。その下から出てきたのは黒い革。細い帯。金具。肌を隠すためではなく、どこを見せるか選ぶために作ったような、露出の多いボンテージだった。
「オホッ……見るなとは言ってない……」
「では遠慮なく」
「オホォッ……その遠慮のなさが気持ち悪い……!」
「受付のお姉さんが着てきたのでは?」
「うるさい、豚……オホッ……!」
「しかし似合っておりますなぁ」
「オホォッ……お前に褒められると腹が立つ……!」
「ドゥフフ」
「その笑い方!」
ぱんっ!
「オホッ!」
「オホォォッ……気持ち悪い……ほんっと気持ち悪い……!」
受付のお姉さんは、おじさんを押して位置を変えた。
「今日は……オホッ……私が全部決める……!」
「はい」
「嫌なら今言え……オホォッ……!」
「嫌ではありませんぞ」
「なら黙って従え……豚……!」
「はい!」
おじさんが余計なことを言う。
ぱんっ。
「オホッ!」
姿勢が気に入らない。
ぱんっ。
「オホォッ!」
ニヤつく。
ぱんっ。
「オホッ!」
「オホォッ……ハゲ……!」
「はい」
「デブ……オホッ……!」
「はい」
「チビ……オホォッ……!」
「はい」
「腹出てる……!」
「はい」
「脂っこい……オホッ……!」
「今日はまだ風呂一回ですぞ」
「聞いてない……! オホォッ……!」
「はい!」
「顔も悪い……笑い方も気持ち悪い……やることなすこと全部気持ち悪い……オホッ……!」
「そこまで言われますかなぁ」
「なのに……オホォッ……!」
「はい?」
「何で昨日よりまた気になるんだよ、このクソ豚……!」
「雌引き付け度ですかな」
「能力名まで気持ち悪い……オホッ……!」
受付のお姉さんは最初からずっと息が絶え絶えだった。罵倒を一つ吐くたびに「オホッ」と声が混ざり、それでもおじさんを見る目だけは強い。
「宿の娘……オホッ……!」
「はい」
「女将……オホォッ……!」
「はい」
「あのギャル……!」
「はい」
「私……オホッ……!」
「はい」
「……節操なし」
「壮観ですなぁ」
「その顔!」
ぱんっ!
「オホッ!」
「オホォォォッ……!」
*
受付のお姉さんが机から細い蝋燭を取った。
「跪け……オホッ……!」
「はい」
「顔上げるな……!」
「はい」
「昨日から……まだ洗ってない」
「おや」
「何が、とは聞くな……オホォッ……!」
「承知しましたぞ」
「それでも私が命令したら従うんだろ……この変態豚……!」
「受付のお姉さんの御命令なら」
「オホォォッ……! そういうところが本当に気持ち悪い……!」
受付のお姉さんは、汚れていることまでわざわざ告げ、それを利用しておじさんへ屈辱的な奉仕を命じた。詳しく説明する必要すらない。ただ、命令する方は最初から息を切らし、従うおじさんを見るたび身体を震わせる。
「オホッ……そこ……!」
「はい」
「勝手なことするな……オホォッ……! 私が言ったことだけやれ……!」
「はい」
「気持ち悪い……ハゲ……豚……オホッ……!」
「随分嬉しそうに聞こえますぞ」
「嬉しくない……!」
「オホ声が」
「黙れ!」
ぱんっ!
「オホッ!」
「オホォッ……!」
次は蝋燭。
「動くな……オホッ……!」
「はい」
「熱かったら言え……!」
「怪我を心配してくださる?」
「管理が面倒だから……オホォッ……!」
「やはり管理」
「黙れ、豚!」
一滴。
「オホッ!」
「熱い?」
「大丈夫ですぞ」
「そう……オホッ……!」
もう一滴。
「オホォッ!」
「オホッ……もっといい声出せ……!」
「命令ですかな?」
「命令……オホォッ……!」
「はい!」
一滴。
「オッホォォォッ!」
「オホォォォッ……! ほんっと……何しても気持ち悪い声出す……!」
受付のお姉さん自身も、黒革のまま、おじさんへ命令するたびにオホ声を漏らす。
「オホッ……豚……!」
「はい」
「ハゲ……!」
「はい」
「腹出てる……!」
「はい」
「臭い……!」
「昨日から洗ってないのは受付のお姉さんでは?」
「そこ突っ込むな!」
ぱんっ!
「オホッ!」
「オホォッ……!」
罵倒。
蝋燭。
乾いた音。
二人分のオホ声。
外で誰かが通っても、受付のお姉さんは止まらなかった。
「オホッ……今夜は宿へ直帰……!」
「はい」
「寄り道しない……オホォッ……!」
「はい」
「女についていかない……!」
「はい」
「危ない依頼受けない……!」
「はい」
「怪我したら報告……オホッ……!」
「はい」
「風呂……!」
「入ります」
「飯……!」
「食べます」
「オホォッ……よし……!」
「女将さんと娘さんにも同じことを」
「……オホッ」
「受付のお姉さん?」
「今、その二人の話を出したな……?」
「出しましたなぁ」
「豚……!」
「はい」
「明日、全部聞く……オホォッ……!」
「やはり管理ですかな」
「うるさい!」
ぱんっ!
「オホッ!」
*
制服を着直した瞬間。
「本日の確認は以上です。お疲れさまでした」
「切り替え!」
ただし。
「オホッ……」
最後だけ。
小さく漏れた。
*
「オホッ……遅い……!」
「ただいま戻りましたぞ」
夕方。宿へ帰るなり、娘さんがすでに息を切らしていた。
「オホォッ……夕飯前ギリギリ……!」
「間に合っておりますぞ」
「ギリギリはギリギリ……オホッ……!」
厨房から女将さん。
「オホォッ……風呂……!」
「ギルドを出る前に一回」
「宿でも入る……オホッ……!」
「はい」
「飯……!」
「食べます」
「オホォッ……よし……!」
「女将さんまで最初から随分と」
「喋るな、豚……!」
「気持ち悪い……オホッ……!」
二人とも。
最初から。
息。
絶え絶え。
おじさんを見るだけで顔をしかめる。
「気持ち悪いね……オホッ……!」
「ほんと気持ち悪い……オホォッ……!」
「何もしてませんぞ!」
「立ってるだけで気持ち悪い……!」
「酷い!」
「オホッ……その声も……!」
*
「部屋へ」
「はい」
「そっちじゃない……オホッ……!」
「はい?」
女将さん。
奥の廊下。
指。
「今日からこっち……オホォッ……!」
壁の一部が抜かれ、小部屋同士が繋げられている。大きな寝台。棚三つ。おじさんの荷物まで、すでに全部移されていた。
「これは」
「寝室……オホッ……!」
「誰の?」
「三人……!」
娘さん。
「私……オホォッ……!」
女将さん。
「私……オホッ……!」
二人。
おじさんを見る。
「それと豚」
「おじさんだけ種族が違いますぞ!」
「オホッ……一人にすると何孕ませるか分かんない……!」
「ぐ」
「風呂場で変な物に触る……オホォッ……!」
「ぐぐ」
「変な女についていく……!」
「それは」
「信用ない……オホッ……!」
「ないね……オホォッ……!」
「はい!」
「今日から寝る時は三人一緒……オホッ……!」
「毎日?」
「毎日……オホォッ……!」
「部屋にいる時は裸……!」
「はい?」
「オホッ……洗濯物増える……!」
「理屈が雑ですなぁ」
「嫌……?」
二人。
息を切らしながら。
じっと見る。
「嫌ではありませんなぁ」
「オホォッ……気持ち悪い……!」
「オホッ……ほんっと気持ち悪い……!」
「聞いたのお二人ですぞ!」
*
その前に風呂。
「オホッ……座れ、豚……!」
「はい」
「オホォッ……動かない……!」
「はい」
女将さん。
右。
娘さん。
左。
二人とも裸で、おじさんの身体へぴったり密着する。
「いやぁ」
「オホッ……何……!」
「随分くっつきますなぁ」
「臭いから洗うだけ……オホォッ……!」
「ちゃんと洗わないから……オホッ……!」
「おじさん、朝から何度も洗われておりますぞ」
「まだ足りない……!」
「気持ち悪いから……オホォッ……!」
女将さん。
首。
肩。
胸。
腹。
ごしごし。
「オホッ……腹……!」
「はい」
「出すぎ……オホォッ……!」
「洗いやすいでしょう」
「そういう返しが気持ち悪い……!」
娘さん。
反対。
「オホッ……耳の後ろ……!」
「はい」
「首……!」
「はい」
「脇……オホォッ……!」
「はい」
「毛まで気持ち悪い……!」
「自然体ですぞ」
「それが気持ち悪い……オホッ……!」
二人は罵倒しながら。
もっと。
密着。
「オホッ……!」
「オホォッ……!」
「お二人とも、息が」
「言うな!」
「黙って!」
「はい!」
右手。
女将さん。
掴む。
「これは私……オホッ……!」
「はい」
左手。
娘さん。
「こっちは私……オホォッ……!」
「両手とも取られましたなぁ」
「勝手に動かすな……!」
「こっちも……!」
二人がそれぞれ、おじさんの手を自分の身体へ導く。胸元や腰を確かめさせるように押し当て、それでも罵倒だけは絶対に止めない。
「オホォッ……気持ち悪い手……!」
「オホッ……指まで気持ち悪……!」
「褒められてはおりませんなぁ」
「褒めてない……!」
「誰が褒めるの……オホォッ……!」
「では離していただければ」
二人。
ぎゅ。
「嫌」
「駄目……オホッ……!」
「なぜ!?」
「洗ってるから……!」
「まだ汚い……オホォッ……!」
「二人とも息が上がっておりますぞ」
「オホッ……黙れ、豚……!」
「オホォッ……気持ち悪い……!」
*
夜。
三人の寝室。
おじさん。
指示通り。
全裸。
「オホッ……本当に脱いでる……!」
「脱げと」
「素直すぎ……気持ち悪い……オホォッ……!」
「理不尽!」
女将さん。
寝台。
座る。
「豚……オホッ……手……!」
「はい」
右手を取る。
引き寄せる。
「オホォッ……もっとこっち……!」
「はい」
耳元。
「今……張形、使ってる……オホッ……!」
「おや」
「その顔……気持ち悪い……!」
「はい」
「オホォッ……抜いて……!」
「おじさんが?」
「私が命令してる……!」
女将さん。
股を開く。
腰を前へ反らす。
「オホッ……早く……!」
「承知しましたぞ」
言われた通りにする。
「オッホォォォッ……!」
「女将さん?」
「止めるな……オホォッ……!」
「はい」
「オホッ……その真面目な顔……気持ち悪い……!」
「命令に従っておりますので」
「それが気持ち悪い……オホォォッ……!」
「しかしご自分から」
「喋るな、豚……オホッ……!」
女将さん。
荒い息。
「オホォッ……ハゲ……!」
「はい」
「デブ……!」
「はい」
「チビ……オホッ……!」
「はい」
「気持ち悪い……!」
「はい!」
「でも止めるな……オホォォッ……!」
「はい!」
*
「オホッ……次、こっち……!」
娘さん。
もう。
最初から。
頬。
真っ赤。
「はい?」
「今日の下着……オホォッ……!」
「はい」
「胸のところ……開いてる……!」
「おや」
「下も……オホッ……!」
「おやおや」
「その顔……気持ち悪い……!」
「はい!」
娘さん。
おじさんの耳元。
「オホォッ……脱がせて……!」
「普通にですかな?」
「口で……!」
「高度な御注文」
「オホッ……できない?」
「できますとも」
「その即答が気持ち悪い……!」
「ではどうしろと!」
「早く……オホォッ……!」
娘さん。
前。
立つ。
「手……使うな……!」
「はい」
「口だけ……オホッ……!」
「承知しましたぞ」
おじさんが命令に従って近づく。
「オホッ……!」
「まだ何もしてませんぞ」
「近いから……オホォッ……!」
「では離れますかな」
「駄目……!」
「どちらです!?」
「そのまま……オホッ……!」
「はい」
「何でそんな真面目にやるんだよ……オホォッ……!」
「命令なので」
「そういうところが……ほんっと気持ち悪い……!」
おじさん。
やる。
娘さん。
「オホッ……!」
おじさん。
また。
「オホォッ……気持ち悪……!」
罵倒。
「オホッ……!」
罵倒。
「オホォッ……!」
でも。
娘さん。
逃げない。
むしろ近づいてくる。
「オホッ……豚……!」
「はい」
「気持ち悪い……!」
「はい」
「オホォッ……もっと……!」
「どちらですかなぁ!」
*
寝台。
右。
女将さん。
左。
娘さん。
真ん中。
おじさん。
二人。
ぴったり。
「オホッ……豚……!」
「はい」
「オホォッ……気持ち悪い……!」
「はい」
「お二人とも」
「何……オホッ……!」
「何……オホォッ……!」
「そんなに気持ち悪いなら離れて寝ては」
二人。
さらに。
ぎゅ。
「嫌……!」
「駄目……!」
「なぜ!?」
女将さん。
右耳。
「オホォッ……張形……!」
「はい」
娘さん。
左耳。
「オホッ……穴あき下着……!」
「はい」
「気持ち悪い豚……オホッ……!」
「ほんっと気持ち悪い……オホォッ……!」
「それを言いながら密着されましてもなぁ」
「黙れ……!」
「寝て……!」
「はい!」
仕事。
飯。
風呂。
怪我。
服。
寝床。
夜。
全部。
管理。
そして。
管理している女たちは。
「オホッ……!」
「オホォッ……!」
おじさんを見るだけで。
最初から。
最後まで。
ずっと息が絶え絶え。
「いやぁ」
「何……オホッ……!」
「何……オホォッ……!」
「おじさんより、お二人の方が大変そうですなぁ」
「気持ち悪い!」
「気持ち悪い!」
「はい!」




