第十九話 ガーターベルトとTバックを見せたら、二人とも立てなくなったんだけど
「服、作りたい」
朝飯のあと。
うちは教会の宿直室で、今着ている胴衣の胸元を引っ張った。
「もうキツい」
「服ですか?」
「うん。ここ」
童貞神父の前で両腕を上げる。
胸のあたりが引っ張られる。
腰はまだ平気。
でも、胸と尻は明らかに前より窮屈だった。
性神の加護なのか。
それとも、あの豚と会うたびに起きている変化のせいなのか。
召喚された時から自分の身体には自信があった。
なのに最近。
鏡を見るたび。
「また育ってね?」
ってなる。
「仕立て直した方がよいでしょうね」
マジメメガネが眼鏡を押し上げた。
「既製品を買い直すより、身体に合わせてもらう方がよいでしょう」
「だよね。下着も欲しい」
「それも必要でしょう」
「普通のと、エロいやつ」
「……」
「……」
二人。
止まった。
「何?」
「なぜ最後の一言を付け足すのですか」
「欲しいから」
「冒険には必要ありませんよね?」
童貞神父。
「冒険に必要な物しか買っちゃダメなの?」
「そういう意味ではありません!」
「じゃ二人とも来る?」
「なぜ我々が?」
「荷物持ち」
「それなら」
「あと男目線」
「必要ありません!」
「じゃ一人で行くね」
「……」
「……」
「行ってきまーす」
「同行します」
「私も行きます」
「来るんじゃん」
二人とも。
ほんと分かりやす。
*
教会から紹介された仕立屋は、表通りから少し外れたところにあった。
店の中。
布。
糸。
針。
壁いっぱい。
「いらっしゃい」
奥から出てきたのは、四十歳くらいのお姉さん。
首には巻尺。
うち。
童貞神父。
マジメメガネ。
順番に見る。
「三人?」
「うちの服」
「そっちの二人は?」
「付き添い」
「へえ」
にや。
「なるほどねぇ」
「違います!」
童貞神父。
即答。
「まだ何も言ってないけど?」
「……」
面白。
*
採寸。
肩。
胸。
腰。
尻。
腕。
脚。
店のお姉さんの巻尺が身体を一周する。
「ずいぶん腰が細いね」
「そう?」
「その割に胸と尻がしっかりある。脚もただ細いんじゃなくて、ちゃんと筋肉がついてるね」
「前の世界で踊ってたから」
「踊り子?」
「まあ、そんな感じ」
説明すると長い。
そこは適当に。
冒険用の服は黒を基調。
胸元は少し開ける。
腰は細く見えるように。
でも動きやすさ優先。
脚衣は短め。
その上から腰布。
身体がまた変わっても調整できるよう、何か所か紐で締め方を変えられるようにしてもらう。
「で」
「下着だね」
「うん」
普通の。
五組。
仕事用。
しっかり支えて。
動いてもずれないやつ。
それとは別。
「エロいの」
「そっちも本気なんだねぇ」
「むしろ楽しみ」
店のお姉さん。
薄い布。
黒。
赤。
白。
いろいろ出してくる。
「あ」
「まだある?」
「ガーターベルト作れる?」
「がーたー?」
知らない。
なので説明。
腰に付ける。
細い紐が下へ伸びる。
脚に履いた布を留める。
「なるほどねぇ」
店のお姉さん。
すぐ理解。
「留め具を工夫すれば作れるよ」
「黒」
「即決だね」
「絶対黒」
後ろ。
童貞神父。
なぜか天井。
「童貞神父」
「何です?」
「こういうの好き?」
「見てもいない物について聞かないでください!」
「じゃ完成したら見る?」
「……」
「見ない?」
「……それは完成してから判断します」
「見る気じゃん」
「違います!」
はい。
好きそう。
*
「あとTバック」
「また知らない名前だね」
「後ろがめっちゃ細いやつ」
「……下着として?」
「一応」
「必要?」
「知らん」
「欲しい?」
「欲しい」
「じゃ作ろう」
「赤」
横。
マジメメガネ。
眼鏡を外す。
拭く。
「また曇った?」
「曇っていません」
「精神的に?」
「その話をいつまで続けるのですか」
「Tバック好き?」
「なぜ私に聞くのです!」
「完成したら見る?」
「……試着品の確認であれば」
「見るじゃん」
「仕立ての確認です!」
こっちも。
分かりやす。
*
数日後。
仮縫い。
当然。
二人ともついてきた。
「できてるよ」
「おー」
まず服。
かなりいい。
身体をひねる。
しゃがむ。
脚を上げる。
「動ける」
「少し詰めれば完成だね」
「これ好き」
「じゃ次は下着」
「はーい」
*
試着室。
最初は普通の下着。
仕事用。
問題なし。
次。
黒。
薄い下着。
その上。
ガーターベルト。
腰。
黒い帯。
脚へ伸びる細い紐。
鏡。
「……これ、やば」
いい。
めっちゃいい。
自分で見ても好き。
「童貞神父」
外。
「何です?」
「入って」
「なぜ!?」
「完成品見たいんでしょ」
「私はそのようなことを」
「嫌なら来なくていいよ」
「……」
「マジメメガネ呼ぼっかな」
「入ります」
「早」
*
カーテン。
閉じる。
狭い。
童貞神父。
うちを見る。
停止。
「どう?」
「……」
「童貞神父?」
「似合っています」
「それだけ?」
「それ以上、何を言えと」
「じゃ」
うち。
くる。
一回転。
「ここ好き?」
「聞かないでください」
「脚?」
「聞かないでください!」
「ガーター?」
「……」
「好きなんじゃん」
「顔を見て勝手に判断しないでください!」
うち。
一歩。
近づく。
童貞神父。
一歩。
下がる。
すぐ壁。
「嫌?」
「……嫌ではありません」
「帰る?」
「帰りません」
「自分で?」
「自分でここにいます」
「よし」
うち。
童貞神父の首へ腕を回した。
ちゅ。
「……っ」
もう一回。
「ちゅ」
「オホッ……!」
「声!」
「出た」
「ここは店ですよ!」
「知ってる」
ちゅ。
「オホッ……オホォッ……!」
*
狭い試着室。
向き合ったまま。
離れない。
うちの腕。
童貞神父の首。
鏡には。
黒いガーターベルト。
真っ赤な童貞神父。
「オホッ……!」
「少し静かに」
「無理」
「なぜ毎回そうなるんですか!」
「身体がそうなんだって」
「便利な言い訳にしないでください!」
「オホォォォッ!」
しばらくして。
童貞神父の力が抜ける。
「……少し」
「何?」
「休ませてください」
「もう終わり?」
「一度、落ち着かせて」
「うち、まだ足りない」
「え」
「嫌なら終わるよ」
「……」
「どうする?」
「……続けます」
「よし」
「その嬉しそうな顔!」
うち。
首から腕を離さない。
「童貞神父、若いんだから頑張ろ」
「年齢で決めないでください!」
「オホッ!」
*
一度。
また一度。
童貞神父が休もうとするたび。
うちが聞く。
「終わる?」
「……まだ」
「じゃ続き」
性神の加護。
ほんと便利。
多少疲れても。
休めば戻る。
だから。
童貞神父。
最後。
脚。
ぷるぷる。
「もう……」
「もう?」
「立てません」
「マジ?」
「誰のせいですか!」
「うち」
「即答しないでください!」
「でもさ」
鏡。
黒いガーターベルト。
「これ好き?」
「今聞きますか?」
「今」
「……」
「童貞神父?」
「……好きです」
「よし。買う」
「最初から買うつもりだったでしょう!」
「バレた?」
*
童貞神父。
試着室の外。
椅子。
「大丈夫ですか?」
マジメメガネ。
「……大丈夫ではありません」
「何があったのです」
「聞かないでください」
「しかし」
「そのうち分かります」
「嫌な予告をしないでください!」
中。
うち。
次。
赤。
Tバック。
「マジメメガネ」
「……」
「入る?」
「今の彼を見た上で、私に聞いていますか」
「嫌ならいいよ」
「……」
「じゃ童貞神父もう一回呼ぶ」
「試着品の確認だけです」
「来るじゃん」
*
カーテン。
閉じる。
「後ろ向いてて」
「はい」
赤。
整える。
鏡。
前から見ると。
まだ普通。
後ろ。
かなり細い。
「いいよ」
でも。
マジメメガネが振り向く前に。
うち。
前屈み。
お尻を向ける。
「……」
マジメメガネ。
止まった。
「どう?」
「……」
「マジメメガネ?」
「その姿勢で聞く必要がありますか」
「見やすいでしょ」
「わざとですね」
「もちろん」
うち。
少し振り返る。
「似合う?」
「……似合っています」
「好き?」
「答える必要がありますか」
「ない」
「では」
「でも聞きたい」
「……」
「好き?」
「……似合っているとは思います」
「逃げた」
*
うち。
そのまま。
少し近づく。
「マジメメガネ」
「何です」
「来る?」
「……」
「嫌ならなし」
「……自分で行きます」
「よし」
「その確認だけは徹底するのですね」
「そこ大事じゃん」
「その通りですが」
背後。
距離。
縮まる。
「オホッ……!」
「やはり声が」
「始まったら仕方ないって」
「仕方なくありません!」
「オホッ!」
*
最初。
マジメメガネ。
慎重。
丁寧。
ほんと。
マジメ。
「もっと」
「何がです」
「物足りない」
「安全を考えて」
「加護あるじゃん」
「だからといって雑にしてよい理由には」
「じゃ」
うち。
体勢。
変える。
ぐっ。
マジメメガネ。
壁。
「ちょっと!」
「こっちの方が安定する」
「あなたが押しているからでしょう!」
「オホォッ!」
「今度は私が壁ですか!」
「だってマジメメガネ遅いし」
「遅い!?」
「うちが合わせる」
「その言い方!」
*
マジメメガネ。
壁。
うち。
自分のペース。
「オホッ……オホォッ……!」
「少し待ってください」
「何?」
「一度休憩を」
「もう?」
「あなたの基準がおかしいのです!」
「まだ足りない」
「童貞神父にも同じことを言いましたね?」
「言った」
「でしょうね!」
「嫌なら終わる?」
「……」
「マジメメガネ?」
「……終わりません」
「よし」
「なぜ嬉しそうなのです!」
*
そこから。
何度か。
休む。
また続ける。
休む。
また。
結局。
マジメメガネまで。
最後。
壁へ手をついたまま。
「……脚に力が入りません」
「二人目」
「数えないでください」
「でも」
うち。
鏡。
赤いTバック。
「これ好き?」
「今、聞きますか?」
「童貞神父にも聞いた」
「同じ扱いをしないでください!」
「で?」
「……」
「マジメメガネ?」
「……好きです」
「よし。買う」
「最初から買うつもりだったでしょう!」
「二人とも同じこと言う」
*
カーテン。
開く。
童貞神父。
椅子。
マジメメガネ。
もう一つの椅子。
二人。
ぐったり。
うち。
普通。
「ねえ」
「何です……」
「何ですか……」
「二人ともまだ弱くない?」
「誰のせいです!」
「あなたがおかしいのです!」
「いや」
うち。
二人を見る。
「出し方もさ」
「……」
「……」
二人。
嫌な顔。
「何ですか」
「今、それを評価する気ですか」
「だって」
うち。
首。
傾ける。
「まだ薄い感じ」
「何の話です!」
「言わせないでください!」
「ジュースみたい」
「比喩を追加しないでください!」
「もっとさ」
うち。
にや。
「うちが『もう十分』って言うくらいまで鍛えようね」
「なぜ我々が鍛錬対象なのですか!」
「あなたの基準に合わせないでください!」
「二人とも若いじゃん」
「年齢は関係ありません!」
「ありません!」
「じゃ次から特訓ね」
「しません!」
「しません!」
「息合うじゃん」
「合ってません!」
「合っていません!」
元気あるじゃん。
*
店のお姉さん。
何事もなかったみたいに。
布。
畳んでる。
「どうだった?」
「ガーター買う」
「はいよ」
「Tバックも」
「はいよ」
「黒も赤も白も紐も」
「ずいぶん買うねぇ」
「気に入った」
「そっちの二人も?」
「かなり」
「違います!」
「違います!」
「元気あるじゃん」
二人。
また黙る。
店のお姉さんは笑っただけ。
この店。
教会とは昔から付き合いがある。
法衣。
祭具用の布。
そういう物をずっと納めてるらしい。
試着室から何度オホ声が響いても。
苦情。
なし。
途中で一度。
「服だけは破らないでおくれよ」
それだけだった。
強い。
*
問題。
黒。
赤。
二組。
試着中。
そのまま着けていた。
当然。
売り物には戻せない。
「これも買う」
「そうしておくれ」
「ですよね」
「最初から買うつもりだったんだろ?」
「まあね」
「なら問題なし」
店のお姉さん。
袋。
分ける。
「黒と赤は別に入れとくよ」
「助かる」
童貞神父。
顔。
また赤い。
マジメメガネ。
眼鏡。
拭いてる。
「また精神?」
「今度は汗です!」
*
普通の下着。
五組。
黒。
赤。
白。
紐。
ガーターベルト。
Tバック。
全部。
購入。
店のお姉さんが新品を一枚出す。
「帰りはこれ履いていく?」
「んー」
うち。
見る。
新品。
二人。
見る。
童貞神父。
まだぐったり。
マジメメガネ。
もっとぐったり。
「いいや」
「何がです?」
「このまま帰る」
「このまま?」
「履かない」
「なぜ!」
童貞神父。
急に元気。
「せっかく買ったでしょう!」
「夜使う」
「そういう話ではありません!」
「普通のも五組あります!」
マジメメガネ。
「今日は楽だからいいかなって」
「判断基準が理解できません!」
「じゃ確認する?」
「何をです!」
*
うち。
マジメメガネ。
見る。
「手」
「嫌です」
「まだ何も言ってない」
「分かります」
「出して」
「……」
右手。
うち。
手首。
掴む。
「嫌なら抜いてね」
「それなら最初から普通にしてください」
「はいはい」
スカート。
裾。
少し。
中。
手。
「っ!」
すぐ。
離す。
「ね?」
「何が『ね』ですか!」
「履いてない」
「分かりましたから!」
「確認できた?」
「できました!」
「よし」
「何が『よし』ですか!」
*
「童貞神父」
「私はやりません」
「手じゃないよ」
「では何です」
「見る?」
「見ません!」
「ガーターベルトはあんな見てたのに?」
「あれは試着品です!」
「じゃ一瞬」
「待ってください!」
正面。
スカート。
裾。
指。
少しだけ。
童貞神父。
視線。
落ちる。
次。
顔。
横。
「見た」
「見せたんでしょう!」
「履いてなかったでしょ」
「知りません!」
「今確認したじゃん」
「知りません!」
「ガーターベルトの時より赤い」
「比較しないでください!」
*
会計。
終わり。
「また身体が変わったら来な」
「たぶん変わる」
「なら早めにね」
「二人も連れてくる」
「来ません!」
「私は――」
マジメメガネ。
止まる。
「来ない?」
「……安全確認が必要であれば」
「また来るじゃん」
「あなたの安全確認です!」
「じゃ次、黒いTバックも作ろ」
「増やすのですか!?」
マジメメガネ。
黙る。
「今反応した」
「していません!」
*
店。
出る。
昼。
うち。
真ん中。
右。
童貞神父。
歩くの遅い。
左。
マジメメガネ。
もっと遅い。
「二人とも大丈夫?」
「誰のせいですか」
「あなたです」
「でも歩けてんじゃん」
「ギリギリです!」
「休みたいです」
「若いのに」
「あなたにだけは言われたくありません!」
「同感です!」
「息合うじゃん」
「合ってません!」
「合っていません!」
そこまで同時。
*
風。
ふわ。
スカート。
揺れる。
「……」
「……」
「今見た?」
「見てません!」
「見ていません!」
「元気あるじゃん」
「ありません!」
「ありません!」
「ほら」
*
袋。
黒いガーターベルト。
童貞神父。
赤いTバック。
マジメメガネ。
「次どうしよっかな」
「何がです」
「何ですか」
「童貞神父の日はガーター」
「日を作らないでください!」
「マジメメガネの日はTバック」
「区分しないでください!」
「二人一緒の日は?」
「ありません!」
「ありません!」
「また合った」
*
腰。
親鞘。
「オホッ……」
中。
木剣。
「オホォォォ……」
「お前らまで何」
「オホッ!」
「オホォッ!」
「今日はもう終わり!」
新しい服。
いっぱい。
新しい下着。
いっぱい。
黒。
赤。
白。
紐。
ガーターベルト。
Tバック。
買い物。
成功。
ただ。
帰り道。
二人は。
脚。
ほぼ終了。
うちは。
何も履いてない。
「まあ」
「今度は何です」
「何とかなるっしょ」
「あなたしか何とかなっていません!」
「うち元気だよ?」
「それが問題なんです!」




