第二話 裸の男神像がフル勃起したんだけど
目を開けた瞬間、最初に見えたのは裸の男神像だった。
でかい。
石造りの台座の上で、筋肉質な成人男性の姿をした神が堂々と立っている。布一枚まとっていない。股間まで遠慮なく彫り込まれている。
その向こうには、でっかいステンドグラス。石造りの柱。長椅子。燭台。高い天井。
「……え、教会?」
そして寒い。
「つか、寒っ!」
腕を抱いて、そこで気づいた。
裸だった。
「はぁ!?」
服がない。
マジで一枚もない。
金髪はある。メイクも落ちてない。ネイルもある。ピアスもアクセも残ってる。
でも服がない。
ブラもない。
パンツもない。
靴もない。
「ちょ、待って! 全裸!? なんで!?」
反射的にしゃがみ込み、胸元と股間を隠す。
意味分かんない。
いや。
何が起きたかは分かってる。
ついさっきまで、神様と話していたからだ。
*
「あなたを異世界へ召喚します」
「マジ?」
「はい」
「異世界って、魔法とかあるやつ?」
「あります」
「ウケる」
目の前にいた男は、めちゃくちゃイケメンだった。
背が高い。小顔。髪型もいい。身体も鍛えてる。服もオシャレ。
クラブとかイベントにいたら、女が勝手に寄ってくるタイプ。
「てか神様、顔良すぎじゃない?」
「私は性を司る神です」
「性神?」
「はい」
「名前ヤバ」
思わず笑った。
神様も笑った。
「あなたには、私がもっとも性的に好む異性の姿として見えています」
「あー、だからか。めっちゃタイプだもん」
「受け入れるのが早いですね」
「だって神なんでしょ? だったら何でもありじゃん」
夢なのか。
死んだのか。
本当に異世界なのか。
そのへんは後でいい。
神がいて魔法があるって言われたなら、とりあえずその前提で聞いた方が早い。
「で、うち何すんの?」
「あなたには私の祝福を与えます」
「チート?」
「その表現でも構いません」
「やったじゃん」
「ただし、生命維持条件があります」
「あ、そういう系?」
やっぱタダじゃなかった。
「まず基本的な加護です。あなたは性交に起因する感染や疾病を受けません。また、行為によってあなた自身や相手が傷つくこともありません」
「え、強くない?」
「体格差や身体的な差があっても、必要な範囲で私の加護が保護します」
「普通に当たりじゃん」
「性的接触によって、負傷、疲労、生命力の消耗なども急速に回復します」
「めっちゃ当たりじゃん」
「さらに、同意してあなたと関係を持った相手は性的な感覚が増幅されます。ただし、意思そのものを操る能力ではありません」
「そこ大事。勝手に惚れさせたり、嫌なのにやらせたりすんの普通にキモいし」
「そのような祝福ではありません」
「ならよし」
ここまでは良かった。
問題はここからだった。
「そして四十八時間以内に一度、私の祝福が認める水準まで絶頂してください」
「……は?」
「達成できなければ死にます」
「重っ!」
思わず叫んだ。
「いや、急に命かかってんじゃん! 二日に一回!?」
「正確には四十八時間以内です」
「自分でやってもいい?」
「構いません」
「じゃ余裕じゃん!」
胸を撫で下ろした。
「最初からそれ言ってよ! 相手見つけなきゃ死ぬのかと思ったし!」
「ただし、四十八時間というのは最低限の生命維持期限です」
「最低限?」
「祝福そのものが、もっと頻繁に絶頂を求めます」
「……どんくらい?」
「一日に何度も」
「多っ!」
「個人差はあります」
「逃げ道みたいに個人差って言うのやめて」
「非常に強い快感を伴います」
「そこまで言う?」
「性神ですから」
「まあ説得力はある」
神様はさらに続けた。
「そして、あなたが使用した道具や、祝福の影響を強く受けた物体は雄化します」
「……雄化?」
「雄になります」
「物が?」
「はい」
「棒とか?」
「はい」
「剣とか?」
「はい」
「家具とか?」
「形状と使用方法によります」
「意味分かんな」
「元の機能は失いません。むしろ強化されます」
「そこだけ聞いたら最高じゃん」
「その代わり、使用された部分などに雄性器官としての性質が発現します」
「最低じゃん」
「定期的に成人男性の声でオホ声を上げます」
「もっと最低」
「白い液体も放出します」
「最悪じゃん!」
「ですが性能は上がります」
「性能の問題じゃないし!」
「一度雄化すると、非常に活動的になります」
「……何それ」
「何度活動してもすぐ回復します」
「聞きたくなかった」
「本来の用途に使われていない時間には、相性のよい雌化物を探すこともあります」
「世界どうなんの!?」
「それはあなた方次第ですね」
「うちら!?」
そこで引っかかった。
「今、あなた方って言った?」
神様は笑った。
「いずれ分かります」
「何その匂わせ」
でも、もっと重要なことがある。
「じゃ、それ避ける方法あんの?」
「祝福を使わなければ」
「四十八時間経ったら?」
「死にます」
「じゃ無理じゃん」
「そうですね」
「……」
考えた。
五秒くらい。
「まあ、死ぬよりマシか」
「決断が早いですね」
「いやだって死ぬんでしょ?」
「はい」
「じゃ、しゃーなくない?」
変なアイテムが増える。
死ぬ。
比べるまでもない。
うちはパパ活もしてたけど、別に常識がないわけじゃない。
街中で裸になったり、他人の物を勝手に変な魔道具へ変えたりしたいわけでもない。
でも命がかかってるなら話は別。
「危なそうなのだけ何とかする。変なだけなら……もう増えればよくない?」
「非常に前向きですね」
「悩んでもルール変わんないじゃん」
死にたくない。
それだけ。
「で、どこに召喚されんの?」
「安全な場所です」
「服は?」
神様が笑った。
「……え」
嫌な予感。
「ちょっと待って。なんで笑った?」
光が広がった。
「ねえ! 服! うちの服は!?」
*
「安全な場所って、教会じゃん!」
確かに安全そう。
人はいない。
魔物もいない。
でも全裸。
「最悪……」
とりあえず服。
いや、布でもいい。
何かないかと立ち上がった。
そのとき。
「……」
裸の男神像が目に入った。
やたら作りが細かい。
「つか、異世界の神像ってそこまで彫る?」
日本なら絶対何かで隠されてそうなところまで、そのまま石で造られている。
性神なのだろうか。
神殿なんだから、それくらいはありそう。
「……」
そして。
身体の奥が、妙に落ち着かない。
「あ」
分かった。
これだ。
さっき神様が言ってたやつ。
一日に何度も来るという衝動。
「いや早くない?」
召喚されたばっかなんだけど。
「今?」
身体は今と言っている。
「……マジかぁ」
服を探す。
衝動。
服を探す。
衝動。
「ちょっとくらい我慢できるっしょ」
できる。
たぶん。
でも、目の前にちょうど裸の男神像がある。
「……」
いやいや。
神像。
罰当たり。
普通に考えてダメ。
「触るだけ」
何の解決にもなっていない。
それでも手を伸ばした。
石像の股間へ指先が触れる。
「普通に石――」
ぐん。
「……は?」
動いた。
「え?」
もう一度触れる。
石像の股間がさらに形を変えた。
「ちょ、待って」
みるみる存在感を増していく。
「勃った!?」
石なのに。
完全に石なのに。
「触っただけじゃん!」
答える者はいない。
裸の男神像は、完全に雄化していた。
「……」
うちは見上げた。
神像を見る。
雄化した部分を見る。
また神像を見る。
「これ、使えってこと?」
知らない。
でも身体はものすごく素直だった。
「……神様」
ため息。
「絶対性格悪いでしょ」
四十八時間以内にどうせやる。
しかも一日に何度も衝動が来る。
雄化するのも避けられない。
「じゃ」
腹を括った。
「一回だけね」
*
結果から言えば。
一回では済まなかった。
「来る、来る来る来る……っ、あっ、ダメ!」
自分の声が教会に響いた。
「お゙っ……!」
「……は?」
一瞬、自分で驚いた。
今の声、誰?
「んお゙っ……お゙っ、お゙っ……!」
「ちょ、待って、うちこんな声――」
波が来た。
「お゙っ゙お゙っ゙お゙っ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙っ!!」
教会中に響いた。
「…………」
静寂。
「最悪」
こんな声、今まで出したことない。
「神のせいだから」
誰も聞いてないのに言い訳する。
でも終わらない。
祝福が身体の奥で何度も弾ける。
「もう……出てるって……っ、待って、また来る!」
「オホォォォォォ……!」
「え?」
今度はうちじゃない。
低い。
めちゃくちゃ低い。
渋い大人の男の声。
「……神像?」
「オホォォォォォォッ!」
「声、渋っ!」
雄化した神像だった。
しかも白い液体が勢いよく噴き出した。
「うわっ!」
床へ飛び散る。
「ちょ、そっちも出んの!?」
「オホォォォ……!」
「まだ!?」
神像は完全にフル勃起したまま。
元へ戻る気配がない。
「……これが雄化」
そして数秒後。
「オホッ……!」
「回復早っ!」
まただった。
「いやいやいや、何回出すん!?」
神像。
「オホォォォォォ!」
また白い液体。
「無限じゃん!」
さっき神様が言っていた。
雄化した物は回復が早い。
何度でも活動する。
「ほんとに言った通りじゃん……」
しかも神像そのものにも変化が起きていた。
石肌の細かなひびが消えている。
彫刻の輪郭は鮮明になり、以前より神々しくすら見える。
祭壇周辺の空気まで澄んだような気がする。
「……性能上がってんの?」
神像の本来の役割が何なのか知らない。
祈りの対象?
神聖な力を集めるとか?
とにかく、さっきより明らかに立派になっている。
ただし。
「オホォォォ……!」
私生活が最低だった。
「性能は良くなってんのに、挙動が最悪なんだけど」
そういう祝福らしい。
そして、うち自身の身体は驚くほど軽かった。
寒くない。
疲れてない。
むしろ絶好調。
生命維持条件を達成したという感覚もある。
「……これで四十八時間」
いや。
それだけじゃない。
身体の奥には、もう次を求める小さな衝動が残っている。
「マジで一日何回もなんだ」
神像を見る。
「オホォ……」
「お前もか」
数秒考えた。
答えは最初から決まっている。
「……まあ、しゃーないっしょ」
死ぬか。
ギャグみたいな雄化アイテムを増やしながら生きるか。
「生きる方で」
即決。
「もういいや。増えるもんは増える!」
危険なら止める。
誰かの大事な物は避ける。
できれば人目も避ける。
そのくらいはする。
でも生命維持まで我慢する気はない。
「あと普通に気持ちいいし」
そこは認める。
「オホォォォ……!」
「お前は出しすぎ」
*
ガチャ。
「……」
教会の扉が開いた。
白い法衣を着た老人。
その後ろに成人した女性神官。
二人とも止まった。
うちも止まった。
全裸。
びしょ濡れの床。
そして祭壇の横には、完全に雄化した裸の男神像。
「……」
「……」
「……」
「オホォォォォォォ……!」
低く渋い声が教会いっぱいに響いた。
続けて白い液体。
「…………」
老人が神像を見る。
床を見る。
うちを見る。
もう一度神像を見る。
「……何が」
「あー」
「何が起きたのですか……?」
「祝福?」
「それで済ませるのですか!?」
女性神官が叫んだ。
「いや、うちも初回だから詳しく知らんし!」
「オホォォォ……!」
「神像も今しゃべんな!」
「オホッ……!」
「てか連続すんな!」
老人は震える指でうちを指した。
「ま、まさか……昨夜の神託にあった、異界より来る祝福者……?」
「たぶん、うち」
「本当に……?」
「たぶん」
「オホォォォォォォッ!」
「こいつのせいで説得力なくなってるじゃん!」
女性神官が真っ赤な顔で祭壇横の大きな布を投げてきた。
「と、とにかく身体を隠してください!」
「それ! マジ助かる!」
受け取る。
身体に巻く。
ようやく全裸ではなくなった。
「あと服! 服貸して!」
「用意します!」
「ありがと!」
「その前に説明してください!」
「長くなるって!」
「この神像をどうされたのですか!」
老人が神像を見上げた。
すると。
「……おや?」
「何?」
「以前より強い神気を感じる……」
「マジ?」
「石像のひびも消えている」
女性神官も気づいた。
「本当です……」
三人で見る。
以前より明らかに立派になった神像。
「オホォォォォォ……!」
ただしフル勃起。
「……」
「……」
「……」
「性能は上がってるっぽいんだけど」
「何です、その性能は上がったという言い方は!」
「だってそうなんだもん!」
「オホッ……!」
「お前はちょっと黙って!」
異世界へ来て、まだ二十分も経っていない。
なのにもう分かった。
たぶん、これから先。
こういう物は増える。
めちゃくちゃ増える。
「まあ」
うちは布を身体へ巻き直した。
「なんとかなるっしょ」
「オホォォォォォォッ!」
「お前込みでなんとかすんの大変そうなんだけど!」




