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36話 王都

 

 ◇




「♪〜〜」


 ♪〜〜


「ウム」

「ああ、良いな」


 王都への馬車の旅は終始こんな感じだった。

 街と街の間でチョージとアオイが作曲しており、新しく仲間になったスライム……ジェットが録音して合奏で試演したり。

 ジェットが有能すぎた。


 しかも、ジェットの分体をアクセ型にして身につけることで、離れたところで会話できるようにまでなった。


 全員お揃いのアクセにしたらキモいので、アオイが腕輪、チョージがピアス、俺が指輪になった。俺は右手の人差し指に嵌めている。

 本当に金属みたいな質感で、たまに蠢く。超エキサイティングな指輪だった。


 ジェットは音に関する魔法を扱えるのと、水魔法が扱えるらしい。

 これまでのチョージが氷を出してアオイが炎で溶かすという面倒な作業が不要になり、結構な量の水をジェットに用意してもらった。


「よし、ここらで配信するか」

「ウム」


 ただ弾きたくなったからという理由で馬車を停める。

 デカい音は馬がビビるんじゃないのという俺の意見もあり、馬車から少し離れたところでの演奏だ。


「配信開始」


 配信ボットがきゅるりと俺たちを見回す。

 ジェットは二つに分裂して、どちらも兎の姿になって片方はヴァイオリン、片方はピアノを出して構えた。


 アオイがピアノを弾きたそうな顔をしている。そういえば一日一時間のピアノも、移動があるからあんまりやれてないな。


「withジェットバージョン、『calling』」


 アオイがスティックを鳴らす。皆一斉に弾き始める。ジェットのヴァイオリンが主旋律をなぞり、ピアノがより華やかな音楽を広げる。


 爽やかな草原の中で歌うの気持ち〜!!




 …………と思っていた時期が俺にもありました。


 歌ってる途中から辺りが暗くなり、あれっと思った途端に降り始めた。その雨足は強く、視界が遮られるほど。

 歌ってる場合じゃないだろとツッコミたいところだが、忘れてはいけない。アオイは雨が降ろうが槍が降ろうがドラムを叩き続ける男だし、チョージは自分の世界に浸っていて周りのことを見ていない男である。

 ここで俺がピーピー言ったら間違いなく蹴られる。ジェットもみんなで演奏するのが本当に楽しいのか、全然気にしてない様子。もともと雨をものともしない魔物さんなので。


 つまり、演奏をやめられなくて。


 ビシャァァ! という雷を背景に最後まで歌いきりましたとさ。本当に雷鳴が劈いちゃったよ。




 ◇




「へくしゅ!」

「風邪感染すなよ」

「風邪じゃねえし。寒ぃだけだし」


 みんなであんなびしょ濡れになったのに俺だけ寒がるとかおかしくね?

 ガタガタ震えているとジェットが分体で布団に擬態してくれた。暖か……うん、なんかつるりとしててモチッとしてて生暖かいです。スライムの質感は全然残ってます。


「ありがとう」


 ぷるぷる。


 こんな雨なので、先を急ぎ、旅人が自由に使える休憩場所のようなところに屋根があったので、そこに馬車ごと入れて休むことにした。


「すごい雨だよね。スコールってやつ?」

「この辺りの風土的にスコールが降るような気候には思えないんだがな」

「これ止むかな……?」

「通り雨なら止むだろ」


 屋根付きとはいえ、下は土なので、雨が染み込んでだいぶぐちゃぐちゃしている。外には出ないで馬車の中で過ごした方がいいだろう。


「流石に三人は狭いな」


 馬の世話を終えたアオイも中に入っているので、馬車の中は半分埋まっている。


「今日は仕方ないね。晩飯どうする?」

「作り置きがあるだろ。それにしよう」

「……肉」


 アオイが肉を焼きたそうにしているが、今日は我慢してもらった。ピアノも弾きたそうだったのにね。


「暇すぎる。共用アイテムボックスに色々物を作って入れておくか」

「助かりまーす」

「イルカも作れるようになれよな」

「なんかレシピが出ないんだよなぁ」

「イルカ、想像力、ない」

「おう喧嘩なら買うぜ!?」

「狭いんだからやめろ!」


 まあ俺、ジェットに包まった状態のまま動けないんだけどね。

 首から下をぴっちり覆っててめっちゃあったかい。あったかいんだけど、外から見るとだいぶ化け物なんだよな。スライムの質感は残ってるから。


「コイツの奇行でも配信しとくか」

「おやめろください」


 中身見えないけどスライムに包まれてる図とか晒したくなさすぎる。なんかやだ。


「配信開始」

「いやだからやめろって!?」

「良いてるてる坊主だな。吊るしとくか」

「吊るさないで!? 首が絞まっちゃうから!」

「この状態で歌えよ。面白ぇから」

「やだよギターも弾けないし」


 そんなことを言っていたら、スライムが身体の一部を変形させてギターを形作った。そのまま触手を伸ばしてジャンジャカ弾き始める。


「ついに自動演奏機能付いちゃったよ」

「ズルい、オレも、叩く」

「やめろこんな狭いところでドラムを出すな!?」

「木箱」

「あ、ちっちゃい箱ね。なるほど」

「早く歌え」


 ちゃっかりチョージまでベースを構えている。まあ寒いし歌ったら身体温まるかな。

 俺は口を開いた。


 ――――――その図たるや、控えめに言ってシュールでした。




 ◇




 願い虚しく晴れない空の下、朝になり雨も弱まったので出発してしばらく。


「なぁ、あれ!」

「着いたか」


 御者台に座るアオイの隙間から前方を見れば、小高い丘に規則的な屋根が連なる街並みが見えてきた。中央に城があり、とても広そうな街だ。


 地図によれば、これが目的地の王都なんだとか。


「ヨーロッパって感じするな」

「自然の感じもほぼそれだな。気候だけは変な気がするが」

「雨、長い」

「空気がじめっとしてるよな。日本を思い出す」


 ダラダラと会話しながら門の近くまで行き、中に入りたい商人や旅人の待機列に馬車ごと並ぶ。

 入り口で身分証を見せたり税金を払ったりすることで中に入れるらしい。

 俺たちはクリスタロス伯爵の紹介状があるので、これが身分証代わりになるんだとか。


「かなり列が長いな。雨の中待たされるのも大変だ」


 チョージが馬車の外を眺めて言う。

 馬車がある商人でも、御者台は屋根がないので雨に打たれているし、徒歩の人たちもいる。

 少しずつ列が進んでいるけど、早くはない。


「雨が降ってなければまだ良いんだろうけどね」

「おう? あんたらこの辺の人じゃないのか?」


 などと話していると、近くにいた商人風の男が話しかけてきた。


「旅の演奏家なんです、俺たち」

「へぇ、そうなのかい。じゃあこの辺で演奏するのは屋内にした方がいいぜ」

「雨だからですか? 晴れの日とかに外で演奏しようかと思ってましたけど」

「無理無理。この雨、もうひと月以上続いてっからね」

「え、ひと月!?」


 長雨にしても降り過ぎでは。どおりで道がずっとぬかるんでるわけだ。


「もうすぐ天照祭なのにねぇ。こりゃ失敗するだろうな」

「てんしょうさい? なんですか、それ?」

「この王都で年に一度行われる祭典だよ。うんと昔に、この辺の天候が荒れ続けていた時があったらしくてな。その時の王族が歌を天に捧げたことで、その年の陽の光を得たって言う言い伝えがあってな。それにちなんだ祭なんだよ」

「へぇ、歌! 楽しそうですね」

「去年お妃様が亡くなられて、今年から姫様がその役を務めるらしいが、どうなるかね。やる前からこんなに天気が悪いのは初めてだからなぁ。みんな不安がってるよ」


 中々ダークな話を聞いてしまった気がする。どうしたもんかとチョージを見れば肩をすくめられた。気にしても仕方ないってことかな。


「色々教えてくれてありがとうございます。屋内で演奏できるところを探してみますね」

「おうよ! 機会があったら聴かせてくれや」

「はーい」


 そう言って商人風の男は前に進んで行った。馬車の人と徒歩の人は列が違ったらしい。


 のんびり待ちながら、しばらくして俺たちの番になった。


「通行証をご提示ください」

「ウム」


 アオイがクリスタロス伯爵から貰った紹介状を手渡す。


「確認できました。進んでください」

「ウム」

「あざまーす」


 そうして中に入り……。


「あれ、まさかあの顔は……」

「手配書にあった子供では……」


 背後から不審な声が聞こえ……。


「そこの馬車、止まりなさい」


 俺たちが兵隊さんに囲まれた。


 ――――――何故!?


「間違いない。貴様がイルカだな!?」

「へ? そうですけど」


 俺が呑気にも返事をした瞬間、兵隊が目にも止まらぬ速さで俺の腕を掴んで引き摺り落とし、剣を突きつけた。


「イルカ、貴様を国家反逆罪の疑いで投獄する!!」




「――――――は!?」




 ガシャンッ、と鉄枷が嵌められ、俺だけが引き摺るように立たされ、連行された。


奇しくもカリンと同じ構え(投獄)

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