34話 もうさ、俺らと旅しない?
◇
歌い終わって、一休み。遠くに届けるつもりで歌ったから、その内あいつらも来るだろう。来るよね?
来ないと困るよ?
「ふぅ……」
というか、ぶっつけ本番で歌詞入れたけど、ファンタジーを体験させてくれたスライムの歌になってしまった。チョージに怒られそう。
スライムはそれはもう楽しかったみたいで、めちゃくちゃ跳ねまくっていた。ガゼボの柱とか天井とか床とか跳ねまくる。
「ぐぇ!?」
最後に俺の腹に激突。飼い犬に飛び込まれた感じするわ。犬飼ったことないけど。
そのまま倒され、腹の上で飛び跳ねるスライム。
なにこれ〜ぽよぽよしてて全然痛くないしむしろ良い感触〜。
思わず撫でれば、ひんやりとしてつるっとした感触がする。めっちゃ気持ち良い。何これ。
スライムも嬉しそうに俺の手に擦り寄ってくる。
何この概念猫感。
「もうさ、俺らと旅しない? 一緒に音楽やろうよ」
ぶるっ!
「子供なんか攫わなくても、俺ら観客の前で演奏するし。観客いなくても演奏するけど。配信とかもするから、より多くの人に聞いてもらえるよ」
ぷるん。
「あぁ、見た目? 魔物だから怖がられないかって? 大丈夫だよ。気になるならなんかの姿を借りるとか……あのサーカスの時に演奏してた兎の姿とか可愛かったなぁ」
スライムが兎の姿になってヴァイオリンを構えた。めっちゃ可愛い。色を変えられないみたいで真っ黒兎だけど。
「めっちゃ良いじゃん、それ!」
スライムはぴょんぴょんと跳ね、気ままに楽器を弾きまくる。
「もう一曲いくか!」
と、エレキを構えた時。
「ズルい」
「ひぇ!?」
サバァ!!! と泉からアオイが出て来た。
出方がめっちゃホラーだった。声出ちゃった。
「お、泳いできたのかよ!? 俺もどうやって岸に戻れば良いのかなと思ってたけど……」
「ズルい、オレも、叩く」
アオイが獣のようにブルブルと身体を振って、ドラムセットを出した。
ぶっちゃけ狭い。
「うわわ! めっちゃかかったし……んでどの曲やるの?」
「さっきの」
あ、新曲ね。
スライムがビビって俺の後ろに隠れてたけど、アオイが全く気にしないで演奏し始めたので、スライムをひと撫でして促した。
アオイはもうスティックを鳴らしている。
こうなったら演奏開始だ。
スライムも兎の姿になって、ヴァイオリンとハープを奏で始める。
「♪〜〜〜」
ドラムも合わさると楽し〜!!
「お前らァ!!!」
歌ってると向こうからチョージのキレ気味の声。何せガキ無視して演奏してっからね。そりゃキレるよね。
「ベースを忘れんじゃねぇ!!」
「あ、そっち」
泉を凍らせて道を作ってチョージがズカズカとやって来た。
結局、三人+スライム一匹で新曲を演奏するのだった。配信付きで。
ということで。
「ああ!! セリカ!!」
「ウチの子もいるわ!!」
「よかった!!」
演奏後、チョージとアオイもいるから大丈夫だろうという事で、子供達を起こして街まで連れて行った。
子供達はどうして自分達が森にいるかわかっていないようで、親に会いたくてぐずり出す子供が多かったけど、スライムが笛を吹き出したら治まった。
スライム先頭で、左右を俺とチョージ、殿はアオイで歩き、子供達は最終的に完全に遠足のテンションで街まで辿り着けた。
何事かと集まって来た大人達によって子供が引き取られ、再会を喜ぶ声が広がる。
ぷるぷる。
街の人達の前で、スライムが震える。
俺も一歩前に進み出て、声をかける。
「みなさん、聞いてください」
人々の視線に晒され、スライムが少したじろぐ。そんなスライムを腕に抱えた。
「子供達は、みんなこの子のショーを観に行ってました。この子は、みんなにショーを観て欲しくて、演奏を聴いて欲しくて、この子のことを怖がらずに聴いてくれそうな観客を集めていたそうです」
街の人達がざわざわとする。不安そうなスライムをひと撫でして、そのまま話を続ける。
「子供達に怪我はありませんし、眠ったいたようなものなので命に別状もないそうです。結果的に、子供を攫ったことになってしまいましたが、悪気はなかったんです! どうか許してください!」
がばっと頭を下げる。スライムも、器用に身体を折り曲げて頭を下げるような仕草をした。
街の人達は、最初は怒りの混ざった視線を向けていたが、俺たちが頭を下げ続けている姿に毒気を抜かれたのか、次第に角が取れていく。
「……旅の演奏家さん。頭を上げてください」
声をかけてくれたのは、宿屋の店主。
「あなたのおかげで、私の娘は無事に帰って来ました。原因まで突き止めてくださって、本当にありがとうございます」
「いえ、俺は……」
途中目的を忘れて遊んでたし……。
「良いんです。このスライムには、怒りはありますが、それだけです。連れ去られた子供達は全員戻って来ましたし、もう二度と起きないのであればそれで構いません。ただ……」
店主が後ろにいる人達をチラリと見る。やはり、魔物を恐れるような視線や、怒りの視線は残っている。
「この街の近くには、住まないで欲しいと思います。次に会った時に、我々は容赦できません」
「そうですよね。でも、それなら大丈夫です」
「はい?」
俺はスライムにギターを出してもらうように頼む。スライムは身体の一部を変形させて、ギターを形作った。
「この子も演奏家だから、俺たちと来ないかって誘ったんです。だから、一緒に旅をします!」
「おやおや、それは……」
スライムがジャカジャン! とギターを弾く。
「一番素敵な解決方法ですね」
店主も、街の人達も、笑みが溢れた。
街から出る時、宿屋の店主の人がお弁当としてサンドウィッチを用意してくれ、笑顔で見送ってくれた。
魔物を恐れる気持ちはわかる。子供を攫われた怒りが拭えないのも理解している。けれど、これからのスライムの活躍を、どうか見ていてほしい。
今度は人に迷惑をかけない形で、みんなを笑顔にするはずだから。
「ところで、そいつの名前どうするんだ?」
馬車でスライムと戯れていると、チョージに声をかけられた。
黒スライムは、ずっとスライムって呼んでるし、確かに名前が必要か。
「んー。黒いからクロちゃん?」
「ダセェ」
「ウーム」
ぷるん。
あれ、不評。スライムにも嫌がられている。
「どうせ俺のセンスだとこんなレベルだよ! チョージとアオイも意見出してよ!」
「あー? マルチプレイヤー」
「それはただの音楽用語だろ!」
「タマ」
「猫かな? 俺とあんまレベル変わんねーじゃねーか!」
「いっそ混ぜるか」
チョージがビシッとスライムを指差す。
「お前はジェットだ」
ぽよん!
「あ、嬉しそう」
ということで、黒くて丸い玉。黒玉という宝石から取って、ジェットになりましたとさ。
◆
連日、世間を騒がせている『異世界ロックバンド・プロジェクト』の動画の数々。
リアル神隠しが動画配信されるだなんてファンタジーみたいなこと、話題にならないわけがない。
一時期はヤラセだとか合成だとか、アンチが沸きに沸いたけど、今となっては、有名な研究者まで異世界の風土や植生について考察したり、たまに映る街並みから時代背景や文明レベルなどを考察したり、海外からはこの日本人についての詳細な情報が求められたり、世界規模で話が大きくなって来ている。
ワイドショーではイルカの学生時代の写真なんかが流出したりして、他人のプライバシーなんてあってないような扱いに、コハルは憤慨していた。
けれど、今はこれで良い。
この流れに乗る形で、私たちの計画は遂行される。
イルカが話題になればなるほど、私たちの計画の成功率は上がるのだから。
「準備、できたよ」
コハルは、電話口に短く告げた。
『うん。やろう。協力者もすでに手配済み。コハルの投稿をもって、一斉に送信していくよ』
深呼吸をして、コハルはマウスに指を当てた。
「……じゃあ、投稿するね」
カチッ。無機質な音。
これが銃でいう引き金を引いた音と同義だというのに、なんて罪悪感のない音なのだろう。
『……確認した。協力者にも連絡したよ』
「ありがとう……これで、私たちの贖罪になったかな……」
『どうだろう……イルカのことだから、恨んでないよとか言いそうだからなぁ。でも良いんだ。これは元々僕らの自己満足』
「うん。私たちがそうしたいと思ったからやったこと。イルカくんは関係ない」
『そういうことだ。……ははっ』
「どうしたの?」
『いや……協力者の仕事が早いなって思ってさ。もうトレンドに載ったよ。検索ワードランキングも上位に食い込み始めてる』
「え? 早くない?」
『ちょっと、こういうことができる人と協力関係になってね。はぁ。とにかく、あとはなるようになれだ』
「うん。じゃあまた」
『ああ。おやすみ』
おやすみ、と言って、コハルは通話を切る。
目の前のディスプレイには、これ専用の捨てアカウントで投稿した、胸糞悪い動画が映し出されている。
『【注目!】世間を騒がせている某ボーカルが、元メンバーからハラスメントを受けている動画を見つけました【問題が起きたら消します】』
これは、ファンがたまたま録画していた映像や、キスプラのメンバーが撮り溜めていた証拠動画を、加害者に対してかなり悪意ある形で編集した動画だ。
イルカが受けた言葉の暴力だけでなく、元メンバーが根性焼きされてる映像や、ヒステリックな声に合わせて物を投げ付けられている映像(被害者は流血している)、イルカがライブ後などによく嫉妬のローキックをされていたのでその映像を悪意ある形で切り取った映像など、加害者を悪く見せるためだけの復讐の動画。
キスプラ元メンバーは、後から入ったユウゴ含め全員何かしらのハラスメントを受けているので、むしろネタが多すぎて編集に困ったくらいだった。
なるべく長くしすぎず、たった十分の動画に。
いろんな場面を切り貼りしたような動画で、被害者の顔はモザイクかけているが、加害者の顔のモザイクはかなり緩い。目元くらいしか隠してない。これもわざとである。
こんなことで、贖罪になんてならないことはわかってる。
だってこれは、私たちの復讐だから。
ぶっちゃけイルカはまだマシな方だったのだ。
タダヤスや、ショウなんか、火傷や引っ掻き傷の痕なんて探せばいくらでも残っているくらいだ。
コハルも、これによって己の忘れ去りたい過去が晒される危険性があったが、それはショウが何とかしてくれるらしい。
忘れ去りたい過去も、実の原因はあの女のせいなのだが。
ディスプレイ以外の明かりが無い部屋で、コハルは、一言溢した。
「――――――地獄に堕ちろ」
その声は、女性のものとは思えないくらい、低く、底冷えする声だった。




