06話 魔法を訪ねて
「さぁ、ここだぞ」
太い指を目の前の建物に向けている。ようやく目的地、魔法使いの家に着いたそうだ。
「なかなか奥まで来たね」
高い建物に挟まれた路地をさらに10分ぐらい歩いたか、先程の賑わいは嘘のように辺りは静けさを保っている。
「じゃあ開けるぞ?」
トントンと軽快な音でドアをノックする。すると中から物音と一緒に声がが返ってきた。
「はいはい」
ま、魔法使いの声!どうやら魔女みたいだな、少し緊張してきた。
ガチャリと鍵が開く。そしてドアが向こう側に傾く。その隙間からは黒いローブを着た一人の女性が顔を覗かせていた。その姿は可愛い、と言うより美しい、と形容した方が適切だろう。白の長い髪は腰辺りまで垂れている。
「何?アラン急だね」
静寂を切り裂くような金の瞳がアランを見据える。
「毎回そんなに睨まなくたっていいだろうが」
いかにも強気、という性格が全面に出ている。
「まあ、今回はお願い事があってだな、」
「面倒事は持ち込み禁止だよ、ってその隣の子は?」
意外そうな困惑したような視線が自分にきた。やっぱり少し怖い。
「それなんだよ、少し話がややこしくなるけどよ、」
ふむ、といった具合に考え込んでいる。
「いいわよ、上がりなさい」
少し微笑む。悪い人じゃなさそうだ。
「すまんな、」
「お、お邪魔しまーす」
そうして彼女、ルナール・ローセスの家に入っていった。
「――といった感じなんだよな」
ドアの向こうは仕切りのない1つの部屋。まず目を引くのが本棚。4つの壁のうち2つに見えなくなるほどの夥しい量の本が詰め込まれている。そして何か作業をしていたような机、ソファーの前にあるテーブル。小洒落たインテリアが並んでいる。
アランがハルの事を話し初めて10分ほど経った。本当にこんな時って時間の流れが遅く感じるんだ。終わらない話を聞き流しながらハルは柵に入れられた小動物のように小さくなっていた。
あまりに話が長引くので部屋をキョロキョロ見ていた。奥に階段があった。この上の階に繋がっているのだろう。
「それって本当なの!?」
ルナールはそんな小動物に身を乗り出して近づく。
「うわっ!」
いきなり大きな声を出すんじゃないよ。凝った肩がびくりと跳ねた。
「アルトがどうのこうのの話よ!」
「は、はい!そうです!真実です!」
「嘘は全くないんだね!?」
「はい!も、もちろんです!嘘はつきません!」
いよいよ刑事ドラマの取り調べのようになってきた。
「まあ落ち着けって」
アランが止めに入ってきた。目には救世主の様に映る。しかしそれでも止まらないルナール。
「落ち着いてられるかぁー!ハルだったっけ?可哀想にねぇ」
「あの、その、」
ますます近づいてきた。あ、いい香りがする。
「でもルナ、分かってるな?」
ハルの頭を撫でなから頷く。
「分かってる、極秘にしろ、でしょ?」
「あの、ルナールさん?」
ルナでいいよ、と微笑む。
「やっぱり俺の存在って...」
「うん、広めるとまずいよ、でも大丈夫、私が守ってあげるから、こんなオッサンより...」
「だーれがオッサンだ!」
ルナールの頭をスパンと叩く。いい音だ。
「何すんだよ!私の頭を叩いといてただで済まさないからね!」
あれ?なんでここに来たんだっけ。
「あ、魔法...」
「そ、そうだルナ、それでだな!魔法を...」
ローブのポケットから何やら紙を出す。そして詠唱。ルナールから風というかオーラのような、そんなものを感じた。
本能で分かった。まずい、逃げ...
「くそぉぉぉ!」
次に見たのはアランの顔に握りこぶし程度の大きさがある火の玉が当たり、玉が弾けるところだった。顔は黒くなり、毛先もチリチリになっている。
「どうしたの?クッキー作りにでも失敗しちゃった?」
おほほほと高笑いをしている。やっぱり怖かった。この人には絶対に歯向かってはいけない、そう一瞬で理解した。
「ハルぅ...これが...魔法だ...」
プシュウと顔から煙を出しながら必死に説明する。
「あははは、アラン大丈夫?」
大丈夫だ、もごもごとそう呟いた気がする。
「はははは、本当に大丈夫かな?」
「大丈夫だっつってんだろうがハル!」
久しぶりに心から笑った。それは心の中に蓄積していた不安を和らげてくれる。
「ほんとにアランときたら」
呆れつつもどこか嬉しそうな顔だ。
そうだ、とルナールは思いついた様に手をついた。
「ハル、それならとりあえず魔法使えるようにしてみたら?色々と便利だからね」
2人で話が進んでいく。
「そうだな、んじゃ今日はハルはルナールの家に泊まるか」
「ち、ちょっと!」
何を言い出すんだこのオッサンは。
まずいだろ、女の人の、それも初対面なのに家に泊まらせてもらうのは本当にもう何から何までまずい。
「何よ、私が美人すぎて緊張してるの?」
おとぎ話に出てくる悪者の魔女のように意地悪い口調だ。まぁ確かに魔女なのだが。
「えっと、その、はい...」
やっぱり恥ずかしいよね。確かにルナさんは美人だし、緊張してしまうのはやはり致し方ございません。
「あ、あら、素直なのね、」
少したじろいでいる。横からアランの茶々が入る。
「ルナ、お前ひょっとして、照れてるのかよぉ」
髭をいじりながらニヤニヤ、いや、ニタニタしている。全くもって彼は逆鱗をつつくのが上手い。
「こんのやろう!出てけー!」
バコン、と生々しい音がアランの腹辺りから鳴る。ルナールに蹴られぐふぉ、と息絶えたかに思えるようなグロテスクな声を上げ、ポールのように放物線を描きドアの外に吹っ飛ばされる。そしてガチャンと乱暴に鍵をかけてしまった。
「さてと、ハル、ここからはお楽しみね」
妖艷なほほえみを浮かべている。今、ルナールは蛇でハルは蛙といった力関係なのだろう。
「え!?あの、えと、」
パニックというやつだ。救世主が亡き今自分で解決しなくては。
「冗談よ、ほんと可愛いわね」
振り回されているな、体から力が抜ける。
「とりあえず、色々教える所からね」
待ってて、と言い残し本棚をいじり始めた。
もちろんアランは生きている。
ヒットポイントを表示するなら間違いなく赤色だが。




