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Spring In  作者: Casino
Ⅰ 記憶の証明
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05話 首都の網目

空は青い。綿あめをちぎって空に放った様に雲は漂っている。その下に広がる大陸。大陸の南東に位置する大都市、ムルクベル。人で埋め尽くされている隙間を見ると地面は石畳だ。両脇には飲食店、服屋、などの売店がある。大通りを少し外れると家が一面に並んでいる。大体が木造で所々はレンガ造り、ほとんどは2階、3階建てだと思う。他の町や村ではありえないほどの人口、そして発展ぶりだ。

「ここがムルクベル、か...」

辺りをキョロキョロしながら呟く。

「おう!建物なんかもデカいだろ!目ぇ回すなよ、わっはっはっ!」

我が家を自慢するかのような勢いで話しかけてくる。なんだかこの人はずっと元気だな。

「あっそれと、だ」

何?ハルはアランの方に顔を向ける。急に声を潜めて話す。

「念を押して言うが、くれぐれもアルトのことは秘密だぞ?」

理由はハルでも大体の推測できた。向こうから見れば俺は異世界人。このことが露見すれば間違いなく面倒事に巻き込まれるだろう。

「もし言えば...消される?」

「ああ、ロウソクの火みたいに、パッとな」

アランは顔をぐっと近づけて怪談話が始まったような声で言う。

怖...絶対言わない、と再び固く心に誓った。


さて、そんなハルは繁盛している店の中、アランと向かい合う形で席に席についていた。木製で年季の入った四人がけのテーブルの上には料理が並んでいる。

「ほれ食えハル、腹減っただろ」

昼下がり、窓から光が差しており天井からはランプが垂れている。我が家のような、そんな温かい空間だ。なにか雲を掴むような違和感があったがその正体は分からなかった。

「ありがと、いつかお礼するから」

「ま、出世払いな」

愉快そうにしている。つられてハルも笑い出す。周りはガヤガヤと騒がしい。家族や友人、愛人などと来ているのだろうか。

そんな店内を忙しく動き回る数人の店員には活気があった。

お腹空いた。早速フォークを構え目の前に並んでいる料理の中のサラダから食べ始める。

「うん、なかなか美味い」

贅沢、高級感といったわけではなく家庭的な味わいだ。空腹ということもあってか凄く美味しく感じる。

「この辺りでは有名な店でな、俺もよく来てるんだ」

そう言いアランはクラバ焼きにフォークをぶっさして頬張る。クラバ、30センチ程まで成長する主に食用になるポピュラーな鳥だ。それを一口大にカットし、塩コショウを振りながらじっくりと焼く。そうして出来たこの料理を美味そうに食らう。その様はまさしく飢えた狼のそれだ。

「これ食い終わったら...例の魔法使いに...会いにいくからな...」

口に含みながら喋る。目も合わせてくれないや。

「分かった、案内よろしくね」

食い終わったらな、と言い再び手元の料理を口に運ぶ。

俺も早く食べてしまうか、少し食べるペースを早くしよう。アランと同じクラバ焼きを一口。香辛料のかかった皮はパリッと香ばしくコクのある肉汁が中から染み出してくる。鶏のモモ肉って感じだ、凄く美味い。

「ふう、ごっそさん。っとさて、」

ふと手元から目を離すとアランの皿の上は綺麗になっていた。大食いで、そして早食いだ。

「食いながらでいいから聞いてくれ、今から例の魔法使いに会いに行く。その後はムルクベルで宿を取るから一夜明かして明日に帰る、いいな?」

ご馳走様、と呟いて手をそっと合わせる。空になった皿を重ねてテーブルの端に寄せる。

「分かった、じゃあ早速行く?」

「そうだな、行くか」

伝票を店員に渡してお金を支払う。単位はアウル。商店街の出店を見てた感じでは日本円に直すと大体100円で1アウル、といった感じだ。ちなみに今回の昼食の会計は15アウル、周りの店で昼を済ませてもこのくらいになるのだろうか。

お金を払い終わると店の外に出た。大通りはやはり人通りが物凄く多い。2人はその濁流のような人混みをかき分け、とある場所へ向かう。


大通りを外れ細い路地を歩く。両側には5階建てぐらいだろうか、アパートのような建物が隙間なく並んでいる。上を見上げると空が狭く見える。昼過ぎだというのに薄暗い。何もないのに鬱な気分にさせられる。そんな独特の空間を歩く。

前を歩いていたアランが立ち止まる。なんだろうと思い彼を見やると、左側にある建物をじっと眺めていた。

「この建物がどうかしたの?」

「いや、なんでもねぇよ」

アランの口角は上がっていた。必死に下げようとするがやはり震えながら上がってきてしまう。かなり気持ち悪い。

「なんで笑ってるんだよ」

「あーもういいもういい、ほれ、行くぞ!」

話を強制的に切るためにアランはハルを急かせる。まるで子供が悪巧みをしてる様だ。

「えー、気になるなぁ」

「そのうち分かるからよ、」

またしてもニヤニヤ。ますます気になる。まぁどうせ教えてもらえないのならもう考えないでおこうか。

急いで早足で前を行くアランを追う。

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