10話 繋がる境界線
「大丈夫か?」
「ええ、命に問題は無さそうね」
「なんであんな所にいたんだろう」
例の建物の4階、昨日購入したハルのベットには少女が寝ていた。それを心配そうにハル、アラン、ルナールが見る。服はルナールが持ってきた白のローブを着ている。見つけてから今まで数時間の間意識は戻っていない。
「それにしてもこんなかわい子ちゃん、何があったんだろうな」
まぁ、確かに可愛いけど、そんなエロおやじみたいな発言をしなくても。
「確かに何が事情がありそうね。彼女が起きたらまずお水あげてね。私は食べ物を買ってくる」
アランはイエッサーと敬礼をしておどけている。
じゃあ任せたわ、とほんの少しそれに構いドアを閉めた。
「ねえ、アラン」
「何だよ」
一人掛けのソファに深く座りながら言う。
「魔物って、何なの」
同じく別のソファに怠そうに座りながらああ、と呟き半開きの覇気のない青の瞳でこちらを見やる。
「何なんだろうな」
そしてそう答えた。
「え?」
「よく分かってないんだよ。ただの一生物とも誰かが作り出したものとも言われてる。研究では俺達の血液のように何か力が体中を流れている、ってのは解明されてる。だから倒し方は切りつけたりしてそれを体外に放出させるんだ」
「へぇ、そうだったんだ」
「でもただの生物ではないだろうな、あいつらが死ぬところ見ただろ?」
倒して動かなくなった瞬間に光のようなもやになって消えていた。
「うん、雲みたいに消えてたよね」
「ああ、それと一緒に鉱石が出来るんだ。一般にリクシウムって呼ばれてるんだけどな、魔力を持っているらしくて、綺麗なものは高価で取引されている。俺の感覚では強い魔物ほど純度が高い物が沢山でるような気がするんだ」
「さっきの魔物は弱かったからその、リクシウムが少量しか出なくて気付けなかったって事?」
「ああ、そうだろうな。そういえばあの石碑があった洞窟の結晶は全部リクシウムだよ。あいつだ、ネメシスを倒した時の」
「それって、5年前の例の魔物?」
ああそうだ、と重力に任せてこくりと首を前に振った。
「ネメシスが出したリクシウムは特別にヴァクスリクシウムって呼ばれててな、まぁ邪悪なものとして嫌われてるよ」
「そうなんだ、また知識が増えたな」
誰も欲しがらんさ、と笑うアランに続いてハルも笑った。
「....ん」
ベットから声がした。さっとそちらに目を向ける。
「お、起きたぞハル、おい、大丈夫か?」
「あ...え?何?...」
彼女は混乱し、キョロキョロとしている。
「君が倒れてるのを見つけたから手当をしたんだよ」
まあ手当したのはルナさんだけど。
「あ、そうなんだ、確か私...」
手を頭に当てて何やら考えている。
「まぁお嬢ちゃん、水でも飲んで落ち着きな」
ほら、とコップを差し出す。
「そうだ!私!え、ここどこ!」
顔をこちらにぐいと近づける。
...え?俺と同じリアクション?
...まさか...いや、でも、そんな訳...
「き、君はどこから来たの?」
「日本だけど...」
え?...え?
「ああ、もう頭が痛くなってきたわよ」
ぐったりとしているルナール。
話が急に進んだ結果皆の頭のメモリー容量は限界、今や少しの情報も受け付けたくない程だ。
「まて、1回お嬢ちゃんの事を整理するぞ?」
「え?はい」
「お嬢ちゃんはアルト出身、名前はタチバナユキコ、森を散策して気が付いたら海岸にいた、それで...」
「あ、頭が痛くなってきました...」
結論を言うとだ、とアランは首をひねりこちらを見る。
「俺と...同じって事?」
「信じ難いがどうやら、な」
「えっとハルさん?」
「いや、多分同い歳くらいだしかしこまらなくても...」
「タチバナユキコ、また目立ちそうな名前だな、でもな...」
「もう、一体どうなってるのよ」
少しの間質問が飛び交う時間が続いた。
「でだ、話をまとめようか」
立花由希子、アルトから来たハルと同じ境遇。長い黒髪と生まれつきなのか、こんな状況にあってもおっとりとしている顔立ちが印象に残った。そんな彼女はやはり名前が目立ってしまうため、ひとまずはユキ・ローセス、ルナールの妹という事なった。
「うーん、よく分からないけど大体分かりました」
分かってないじゃんそれ。
ユキ、やっぱりアルトとザルトって何かあるのかな。
アランとルナールは下の事務室にいる。4階ではハルとユキだけである。ユキはベットで上半身を起こしている。
「ねぇ、ハル君てさ」
唐突に質問を投げかけられた。
「ん、何?」
手元の本から彼女に意識の先を切り替える。
「これからどうするの?」
「まだ、何も決めてないかな」
「私って...どうすればいいの?」
俯いている彼女からはグスリと音が聞こえた。
「俺にも分からないよ...でも、ここで悩んでても仕方ないし...」
自分の事を大切に思ってくれる人がいる。それだけで生きている価値が見い出せる。
「だからユキも生きるといいよ、そうすれば帰れるかもしれないしね」
「うん、そうだよね...」
泣き出してしまった。
男としてここはどうすれば...そうだ、ハグだ、こうギュッと。え?いやいや、そんな度胸なんかない、漫画の見すぎだ。そう、何か言葉をかけよう。...何て言えばいいんだ?…浮かんでこないよ。ど、どうすればいい...
涙を必死に堪える少女の横で頭を抱えて悶えていると乱暴にドアが開け放たれた。
「おー、お楽しみ中悪いけどなあ、お嬢ちゃん、今夜はルナの家に...」
救世主!助けに来てくれたのか!
どうすればいい?と必死にアランに向けて目で事の成り行きを伝えようとする。
「ハル、お前...」
ん?伝わったか?
「なぁに女の子泣かしてんだ!」
伝わってないし!すごい形相でこちらにズンズンと向かってくる。
「いや、それは..」
「ちょっと!何やってんのよあんた達!」
ルナールが部屋に駆け込んできた。
一気に部屋が騒がしくなる。
ふと見るとユキはふふ、と口を押さえて可笑しそうにしていた。
外ではもう雲は消えて星空が鮮明に見えていた。
満ち満ちた月と散りばめられた星。流星群が地平線に吸い寄せられる。
明日も雲に遮られることなくこの夜空が見れるといいな。




