09話 誇り
朝、ハルとアランはタリア平原を歩いている。
アランが見せたい物があるからついて来いと言ってきたのだ。ちなみにルナールはムルクベルに残っている。ギルドの事務的な事をしているのだろう。
「すまんなハル、ちょいと見せたいものがあってな」
「うん、それで、目的地はどこ?」
「ああ、南の海岸だ、そんなに距離はないぞ」
薄い雲のかかる空の下をムルクベルから歩いて30分程度らしい。見せたいものは何なのか聞いたのだがお楽しみだ、と返ってくるのみだった。
黒の重たいコートを羽織り二人は南に歩いていく。
「お、ここか」
海岸のゴツゴツした岩場にポッカリと空いた空洞。どうやら目的の場所はここらしい。
そこの入口にある岩に腰掛けてアランは言う。
「ハル、少し長話になるけど、いいか?」
真剣な話が始まるような気がした。いいよ、と返事をする。
俺とルナールは幼なじみって前に話したよな。実は俺達には親がいなくてな、とある施設で面倒を見てもらったんだ。そこの支援で学校は卒業してすぐに独り立ちしようと思ったんだ。あまり迷惑をかけたくなかったからな。でもその施設の俺より20歳くらい上の親みたいに慕ってた人が居てさ、その人が学院に行っとけって言ってくれたから学院に行ったんだ。戦闘学な。俺は5年かけてそこを卒業した。そしたらさ、その慕ってた人が今度は俺のギルドに入らないかって言ってくれてさ、勿論即答で「はい」って言ったよ。同時にその人に弟子入りしたんだ。それから仕事が楽しくて仕方なかったよ。今まで背中追ってた人と肩並べて仕事出来たんだからな。
楽しそうに話していたアランの顔が引き締まる。
そんで、5年前だ。
5年前、ルナールと話していた時にも聞いた単語だ。
この海岸に大きな魔物が現れた。そいつがムルクベルにまで来たらこの国は終わりだ、そう考えて軍やギルドが総戦力で討伐しに向かったんだ。俺達のギルドも戦いに参加していた。あまりに多くを奪ったんだよそいつは。数え切れないほどの命がここで散っていった。その時の戦いで俺達のギルドは俺を含め20余人中3人しか生き残れなかった。俺の尊敬する人も死んだんだ。
「それでだ、守られた人達はその時に戦死した人達を弔うため、感謝を伝えるためにに石碑をこの海岸線に建てたんだ。ここはそのうちの一つだ」
さあ、入ろうかと腰を上げる。
ハルは少しうつむき加減で僅かに首を揺らした。
洞窟内は暗かった。しかし奥から青白い明かりが漏れているので完全に視界は無いというわけではない。足元に注意を向けて歩きながらアランが続ける話を聞く。
「その尊敬してた人はギルドのリーダーでな、その人と同時にギルドは死んだ。それから俺はギルドの墓を作ったんだ。」
少し開けた、曇った光に満たされた空間に出た。鈍い光を放つ結晶があちこちにある。その空間にある沢山の石碑。手前に1番大きな石碑があり、群青色に輝く剣が地面に刺さっている。
「後にギルドリーダーの遺書が見つかった。その時は意味が分からなかったが今になれば分かる。」
「その、内容って?」
ぶつぶつと呪文のように唱える。
『俺は死ぬだろう。あいつを道連れにすると決まっているからな。 お前には息子は出来んが奇妙な境遇の息子は出来る。そいつに俺の剣を、魂を授ける事にする。お前には災難と試練が訪れるだろうが乗り越えれない高さではない。気張れよ、アラン。』
「その息子って...」
「ああ、十中八九ハルだろうな、昨日このことをふと思い出したんだ」
この言葉は知らん間に覚えちまったよ、と懐かしむ様に呟く。
その剣からは独特な、不思議な雰囲気がした。
「お前には重いかもしれんが、俺は受け取って欲しいんだ」
「うん...ああでも、本当に俺でいいのか」
自分にそんなことが出来るのか、役不足ではないかと思い迷う。一方アランからは迷いが感じれなかった。
「そうだ、ハル、お前に師を託す」
海岸の砂浜に沿ってハルとアランは並んで歩いている。背中には蒼の剣の鞘がかかっていた。
あまり重さは感じられなかった。しかし心にはずしりと重たいものが被さっていた。
二人の間に言葉がしばらく飛び交わず、無言のまま歩く。
「あ?あれって」
「ん?」
視線の先、白の海岸には何か漂着物がある。
「おいハル、あれ人じゃないか?」
走って近づく。確かにそれは人だった。顔を見ると自分と同じくらいの歳の女性、黒く長い髪は乱れている。服もボロボロだ。アランが肩を揺らす。
「お前、大丈夫か?おい!」
弱々しい息を吐いている。酷くやつれているがどうやら生きているそうだ。
「アラン!ど、どうすればいい!?」
「ああ、ひとまずムルクベルだ、走ればあと10分程だろうな」
その時、海とは反対側から何か黒い犬のようなやつが数匹走ってきた。
「うわぁ!あれ何!?」
「あれが魔物ってやつだ、そこまで強くない奴か。こういう時こそ冷静であれよ、ハル」
ハルはそいつの近くに居てくれ、と言うと大剣の柄に手をかけて魔物に走っていった。
先頭の魔物に叩きつけるように大剣を抜く。
キャン、と悲鳴を上げて倒れた。背中辺りが深く切れているみたいだ。動かなくなった瞬間その魔物は光のように姿を消した。
「一体どうなってるんだよ」
口からそんな言葉が漏れた。
前でアランは魔物に向かって大剣を振り続ける。
そのうちの一体がこちらに向かって走ってくる。
「う、うわぁ!」
どうする、いや、落ち着くんだ。
背中に右手をまわし剣を抜く。シャンと金属が擦れる音がする。
そうして両手で剣を持つ。
そうだ、剣道の要領でやれば...
振り上げて縦に切る。瞬間、魔物は変化球のように右に逸れた。
かわされた、噛み付いてくる!
そこから体を左に倒して剣を右に回し遠心力で魔物を切った。悲鳴を上げてバックステップで距離をとる。自分はどさん、と砂浜に倒れた。ほとんど無意識だったなと苦笑を浮かべる。だが相手与えた傷はあまり深く無かったみたいだ。
その後ろからアランが飛びかかってきて魔物に止めをさした。
「おい、ハル!大丈夫か?」
「な、なんとか...」
剣を支えに立ち上がり剣をしまった。
「よし、こいつも無事だな、早く病院に行くぞ」
ったく、休暇中に勘弁してほしいよな、と悪態をつきながらその少女を肩に背負う。銀色に光る大きな剣が邪魔そうだ。
「ハルって反射神経良いんだな」
「一応剣道やってたからね、木でできた剣を使うスポーツ」
「ほう、まあでもあれだな」
力は無いんだな。笑いながらそう言われる。
急な脱力感に襲われた。




