先代の異世界人
力を付け、横暴になりつつある貴族達。
そして、出現した新種の魔物“バドリム”。
ロサピト歴134年。
徐々に迫り来る崩壊の危機に、国を治める王族は焦りを募らせていた。
人種の差別化。貧富の格差。そして何と言っても、各地を治める貴族達の弾圧化。
国の重鎮たちがいくら頭を捻っても、一長一短、どれも似たようなものばかり。
やむを得ず彼らは“古くからある、とある言い伝え”に縋った。
それは、新月の晩。聖なる森の隠れた祭壇に、願いを書いた紙と『ピージュの密』を供物として供えるというもの。 そうすれば、森にコッソリ隠れ住む〈ワールの民〉が力になってくれるらしい。
実際に〈ワールの民〉を見た者が言うには、彼は全身を覆う灰色のマントを着ていて、髪色は青。男であろうが、いつもフードを目深に被っていて不確か。その他の特徴も無し。
そんな怪しい民に意見を求めると言うのは、些かリスクが大きい。
しかし最終的には、聞いてみるだけ聞いてみようということになったようだ。結局決めるのはこちらなのだから、と。
機密情報は出来る限り伏せ必要最低限の情報と、要件を書いた手紙。
新月の晩それを持った使者は、国に3つあるうち一番近場の聖なる森〈クージュの森〉へ向かった。
森に少し入った所にある、歪な形の木。
その木の裏には、小さな子供が入れそうな大きな洞があり、中には手紙を置く所だろう小さな机と穴の開いた細長い筒が壁に立て掛けてあった。
使者は手紙をその机へ置き、細長い筒を一旦洞から取り出し『ピージュの蜜』を注ぎ込むと、また元の様に洞の中へ戻し壁に立て掛けておいたという。
3日後。
返事の手紙は、王のベッドの枕元に置いてあった。
もちろん城の警備は厳重。
部外者は王の寝室どころか、城の中に入り込むことすら出来ない。
そして驚くべきことがもう一つ。
手紙の返事には外部の人間が知り得ない、ボカしたはずの機密情報に関する事や、国を取り仕切る彼らすら知らない内部の細かい情勢まで、事細かに記されていたのだ。
そして最後には。
“私は煙のような存在。”
“何処へでも行け、どんなに秘密の情報さえも知る事が出来るのです。”
この言葉を素直に信じれば、王の寝室へ誰にも気づかれず入る事が出来たのも、国の機密情報が知られていたのも、納得できてしまう。
そして<ワールの民>、彼らからの提案は一つ。
“こことは違う異なる世界に住む者、すなわち『勇者』を呼べ”
どうやら『勇者』とやらは、我々とは異なる知識・考えを持っているらしい。
異なる考えを持つ者の意見を聞けば、新たな考えが生まれるかもしれない、と。
早速、手紙に書いてある手順に従い王らは“勇者”を呼んだ。
一人の男性と一人の女性。
王は二人に命令した。
『国を救え』と。
王直々の命令など、身に余る栄光。
しかしそれを、彼らは拒絶した。
それでも粘る王らに彼女たちは『時間が欲しい。』と言った。
『この世界の事など何も知らない。まずはこの世界の事を知らねば、答えは出せない。』と。
勇者二人は、この国に唯一の学校へと通い始めた。
この世界の事を知るには、それが一番良いと言う。
そして彼らは、この世から消えた。
使い魔召喚の授業中だったという。
彼ら二人は白い光に包まれて消え、それ以来消息は不明。
それは、国の希望である勇者へ、命令などと無礼を働いた我々への天罰なのか。
はたまた、今まで住んでいた場所を離れさせられ無理矢理こちらに連れてこられた彼らへのお詫びなのか。
その事を、我々は知りえない。
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― 麻美花side ―
図書館の本は、重要そうなものはほとんど読み尽くした。
大半が偽りのストーリー。
でもこの本だけは、私の知らない話が書かれている。
本棚の隙間に、隠されるようにあった本。
声が聞こえなかったら見逃していたかもしれない。
この内容が事実かどうかは分からない。
でも、私達より前に、召喚された人達がいたなら……。
男女二人。その人達は一体何処へ?
使い魔召喚で事故……。どんな?
そして、〈ワールの民〉。
青い髪にマントとフード。
マントの色は違うけれど、この特徴だけなら身近に一人いる。
ユアンスさんなら、真実を知ってるかな。




