閑話 秘密事
店を始めて2、3日目くらいの話かな~。
「ねぇ。何してんの。」
真夜中の商店街。
店『マユヨカ』の前に、闇に溶けた一つの人影。
見るからに怪しい人物。
私はそいつに声を掛けた。
「ん?ミユちゃんこそどうしたの?」
のほほんとした声質。
闇に溶け込んで顔はハッキリしないが、それはユアンスだった。
「あんたに関係ない。」
素っ気なく言い捨てる。
「ふぅん。」
ユアンスは興味を失ったように背を向ける。
しかしすぐに『あっ!』と呟きゴソゴソと闇の中で何かをし始めたユアンスは、ふとその手を止めると呟いた。
「【小さな灯火】。」
彼が手に持っていたランタンに、ボワッと明かりが灯る。
小さな炎が真っ暗な闇を照らし出す。
「はい、どうぞ。」
さも当然であるかのように自然に差し出されたランタン。
私はその流れに乗せられ、素直に受け取ってしまう。
満足そうにニコッと笑ったユアンスは、私に背を向けて店の前に戻ると先程と同じ何かをし始めていた。
何をしているのだろう?と思い、私はユアンスに近づく。
「あんまり店に近づかないでね?足元に気を付けて。滑らないように。」
彼の背を向けたままの注意を受け、足元を注意深くランタンで照らす。
すると、店の前の道路には水溜まりが出来ていた。ランタンの明かりに照らされて、光を反射する。
「何?これ……。」
(なんでこんなところに水溜まり?)
よく見ると、ガラスドアや壁にも水滴が飛んでいる。もう乾きだしているのか、白いくなっているものもある。
「……ここ。」
ユアンスが地面の一ヶ所を指差す。そこには白いナニカ。
ランタンで照らしてジーッと観察する。
「卵?……の殻?」
それは、潰れた卵の殻に見える。
「うん。これも見てごらん。」
ユアンスに言われたところをランタンで照らすと、透明ではない色のついた液体が、透明の液体と完全に混じらずに広がっていた。
「卵の黄身?……なんでこんな所に。」
呟いて、ハッと理解した。
私がここに来たのは、『誰か』がこの店に嫌がらせをしようと企んでいる声を聞いたから。
その『誰か』は分からない。たくさんの声が入り交じる為に、誰が誰だか分からない。
「誰かからの嫌がらせ、だね〜。……卵への。」
「……へ?」
「こんなことをした人は卵が嫌いなのかな?だから卵に恨みを込めて投げ捨てたんだね。
でも、卵料理の中で僕は、だし巻き玉子が一番好きかな。ジュワーって出てくる出汁が堪らないよね。」
「……う、うん。」
確かに、麻美花の作るだし巻き玉子はめちゃくちゃ美味しいけど……。
意味不明な彼の発言に戸惑う。
「駄目だよ、ミユちゃん。そこはちゃんとツッコミを入れないと。……ミーリャなら的確にツッコんでくれるんだけどな。」
そう言うユアンスは少し残念そう。
「……あぁ、そう。」
少々の呆れと、納得のいくようないかないような、変な気分。
「さて、バレないうちに片付けちゃおっか。」
――誰にバレないうちに?
――そもそも、アンタはなんでココにいるの?
彼に対する疑問は増えていく一方だが、聞いたところできっと教えてはくれないんだろう。
――彼なら何をしてもおかしくない。いちいち気に止めるのは時間の無駄。
いつしか、そんな諦めに似た感情が生まれていた。
次話は『らくがきコーナー』です。
その名の通り、今まで書き溜めた『イラスト』と『ゴミ絵』を載せます!




