閑話 お面を被ることにした
美結ちゃんsideです。
自室の扉を後ろ手で閉め、鍵をかける。
―――――――最悪。
ギリっと音と共に口の中に血の味が広がる。
いつの間にか噛んでいた唇が切れた。
しかしその唇の痛みよりも・・・。
―――――――苦しい。
心臓の辺りがギュッってなって呼吸がうまくできない。
ギュッってなった塊が痛くて苦しい。
背筋に震えが走る。
手足が冷たくなる。
―――――――怖い。
―――――『俺らの事情を知られたくないから、こうやって魔法かけてお前に聞かれないようにしてる』。
この言葉でやっと目が覚めた。
私は要らない人間なんだ、って。
ようやく思い出した。
私は鬱陶しい存在なんだって。
一番忘れちゃいけないことを、危うく忘れるところだった。
『別に、麻美花じゃなくったって美味しいご飯作れる人はいっぱいいるじゃん。』
《・・・そうだよね。私の代わりなんていくらでも居るもんね。》
なんとなく口走った私の一言にで、麻美花は苦笑いしながら心の中でそう思ってた。
『―――私達は『イラナイ人間』だからこっちに飛ばされたんだよね?―――』
クソは無反応だったけど麻美花と美代は反応した。
二人ともイラナイ人間ということを見て見ぬフリしていたのにそれが現実だということを突きつけられ、ついでに麻美花は私に気圧されて怯えた。
心を読むことはできる。
でも、私が言った言葉によってその人が何を感じるか、何を思うか、そこまでを察することができない。
これを言ったら相手はこう思うだろう。どう言えばちゃんと伝わる?
この工程をいつも忘れる。
―――だから。
だから誰とも、積極的には喋らなかった。
―――素直に心の声に反応してしまうから。
そうしたら、心の声が聞こえることがバレてしまう。
言いたいことを全部封じ込めれば、言ってしまうとマズイことも言わないで済んだ。
でも今は―――
この環境が、周りの人間が
勿体な過ぎるんだ、私には。
心が読めるっていう、気味悪過ぎるマジで最悪な私を嫌わないから。
だから安心して、思ったことを全部言っちゃう。
でもさ・・・。
美代は、動物と話せるということを信じてくれる人が欲しかっただけ。でも今は麻美花がいる。
その麻美花は、いわば通訳してくれるから私の能力を必要としているだけ。私自身を必要としているわけではない。
クソは、面倒くさい&どーでもいい。
私自身を必要としている人はいない。つまりは、イラナイ人間。用済みで不要な粗大ゴミ。
邪魔な粗大ゴミは鬱陶しい。
だから、存在を消せばいい?―――以前のように。
幸せ過ぎるんだ。
たとえ偽りだとしても、私を嫌わない人たちといるのは。
失うのが怖い。
だから離れる。
傷つくのはもう嫌だから・・・。
ふっ。と軽く息を吐き、お面の中に素を押し込むと、私は仏頂面で下へと降りた。
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ベッドにボフッと倒れ込む。
麻美花の言ってた言葉がよみがえる。
―――――――『君はイラナイ人間だからこちらの世界に呼ばれたんじゃないよ。《あちらの世界に居場所がないから、こちらの世界で新しく居場所を作ってあげよう》ってことで呼ばれたんだよ。』
つまり、あっちではイラナイ人間だからこっちに逃がしてあげたんだ~♪ ってことでしょ・・・。
―――――――『それはミヤちゃんも同じ。彼女も居場所がないからこちらに呼ばれたんだよ。』
は?ありえない。美夜に居場所がない?アホなんじゃないの?
頭が良くて家族の自慢で親からは大切にされて友達は多いし先生からの信頼も厚い。
周りへ気配りが出来て面倒見が良くて礼儀正しいし友達付き合いもいい。
でも、緊張するとよく声が震えるし少しドジな面もある。
しかしそういう欠点があるからこそ、等身大で人間味が増し周りに好印象を与えた。
対して勉強がさほどできない私は、『陰気で気味悪くて何を考えているかわからない。』『話しかけても返ってくる言葉にトゲがある。』などと陰口を叩かれ美夜とは正反対だとバカにされた。
おまけに修学旅行や○○体験学習などの外へ行く学校行事なんかだと『アイツのテンション低すぎるからこっちまでテンション下がるゎ~。』とかいう文句を垂れる奴もいる。
好印象の奴と悪印象の奴。
同じ顔なのにと比較され、悪印象の奴は好印象の奴を引き立たせ、彼女の周りには余計に人が集まる。
そんな奴の居場所が無い?
ふざけるのもいい加減にして欲しい。
アイツは私をバカにして軽蔑の目で見てくる、あっち側の人間だっていうのに・・・。
麻美花が渡してくれた紙袋に入っていた、円柱型の細長いクッションにギューーーと抱きついて、どこにもぶつけようのない怒りを紛らわす。
紙袋の中の空間は広げてあるみたい。だからこんな大きなクッションだって入った。
それにしても、なんで私の欲しいものが分かった?
―――――ユアンス。アイツの声も聞こえない。
〈空間魔術〉を使って、心の声が漏れないようにバリアを張っているみたい、と美代が言っていた。
一緒にいるミーリャも同じ。声は聞こえない。
でも、彼女は私と美代に怯えている。怯えてた瞳で見てくる。
ユアンスに余計なことでも吹き込まれた?
―――――――
―――――
―――
―
・・・嫌だよ?
嫌われるのは・・・。




