安堵
-- 美結side --
どろどろとした感情とボヤけた映像。
そして耳から聞こえてくる彼の微かな呻き声と、それとは別の、夢の中での彼の叫び声が頭の中に響き渡り、私は仕方なく眠くてだるい重い体を起こす。
時計を見るともう夜中の2時だった。
寝床に入ったのが10時半くらいだったから、もうすでに3時間半くらい、ベッドの中でゴロゴロしていることになる。
すべては彼のせい。彼の見ている夢のせいで寝れない。
普通の夢ならまだいい。それはもう慣れた。
昔は、他人が夢を見るたびにその映像が流れてきて、夜、ちっとも寝られなかったことを微かだが覚えている。
だから夜眠れない代わりに、昼間にはお昼寝をたくさんした。
―――――小学校に入る、ずっと前の話。
今じゃ、他人の夢に自分の夢を織り混ぜることによって安眠を確保できている。
―――つまりは聞き流しているようなものだが。
ただしそれは、流れてくる映像がとりとめのないモノならば、の話。
簡潔に言うと、彼が見ているのは悪夢だ。
怒り、憎しみ、憤り、そして疑問と少しの悲しみ。
そういう感情が混ざり合い、大きな沼を作って彼を沈めてく。
その沼からは※※※※という言葉が溢れ出し・・・。
―――――見させられてるこっちも、ネガティブな思考になり気分が悪くなってくる。
ベッドに居たって寝れるわけじゃないので、気分転換がてら水でも飲みに下に行こうかと思い立ち部屋を出る。
と、ドアを開けた瞬間―――
「「わぁ!」」
―――麻美花が私が開けたドアにぶつかりかける。
「ビックリした〜。」
彼からの心情が強すぎて、他の声は聞こえなくなっていた。
「麻美花。こんな夜中にどうしたの?」
「・・・え?あ。うーんとね、ゆうまくんの看病・・・かな。」
確かに、彼女が両手で持っているのは水の張られた大きめのボール。水の中には氷がいくつか浮かんでいる。
「えっと・・・・・・。」
〈腕が辛くなってきた・・・。〉
麻美花は小さな声でモゴモゴと何かを言いかけて結局やめるが、心は腕の疲れを叫ぶ。
「ん、交代。」
私は麻美花の手からボールを半ば強引に奪い取る。
「あ・・・ありがとう。」
「お礼はいいから・・・ほら、さっさとドア開けて。」
麻美花にドアを開けてもらって部屋の中に入ると、よりネガティブ濃度が濃くなり、激しい頭痛と目眩を覚える。
慌てて近くにあった机の上にボールを置き、壁に近づいて頭をゴンゴン打ち付ける。こうすると、壁とぶつかった後の一瞬だけ痛みが消えるのだ。
「だ!大丈夫?」
麻美花が声をかけてくれるが、返事は返さずに終わりの無い作業を続ける。
―――10分くらいたっただろうか。
痛みがマシになってきたので、今のうちにと行動を開始する。
「麻美花。悪夢を消す魔法とか無いの?」
「え?あ、えっと・・・あるのは禁忌の魔法だけ・・・。」
「ん、そか。・・・じゃあ、これしかないか。」
そう言って私はアイクを取り出し―――――ガツン―――――彼の腹辺りを勢いよく叩く。
「痛ってぇー!」
―――え?
彼に布団越しでアイクで触れた瞬間―――。
アイクを通して映像が流れてきたんだということに気づいたのは、彼が叫ぶのとほぼ同時。
今まで疑問に思っていた答え。―――――――それはあまりにも単純で、彼に出会って以来今まで抱えていた重たいものがストンと、収まるべき所に落ちる。
後に残ったのは穏やかな安心感。
このままでいいんだ、って思える。
「なんだよ。こんな夜中に・・・。」
「感謝しなさいな。クソ虫くん♪」
「はぁ?意味わかんねぇ。」
彼はそう言いながらも・・・。
〈嫌な夢だったな・・・〉と。
きっと、頭の中ではわかっているんだと思う。
それがうまく思考回路の表に出てこない・・・いや、出せないだけ。
彼はそういう人間なんだと―――。




