クッキー2
「うわっ!何コレ。ちょー美味しんですケド。」
俺と美結がようやく家に辿り着くと、中から声がした。
恐らく先に帰った三人のうちの妖精、リーフだろう。
「何って、クッキーだよ?」
雛菊の声もする。
「ただいまー。もー、あんた達帰るの早いよー。――――うゎっ。おいしっ!」
一緒に帰ってきたはずなのに、俺を置いてさっさと家の中に入った美結が、早速クッキーをつまみ食いしたらしい。
確かにおいしそうな匂いがするので、俺も家の中に入る。
「美結ちゃん。外から帰ってきたら、手洗い・うがいしなきゃダメだよ!」
「ハイハイ。麻美花は真面目だね~。」
「い、いや……だ、だって、手洗い・うがいしないと風邪引いちゃうんだよ。」
「そしたら魔法でちょちょいのちょい、って直せばいいじゃん。」
「…………と、とりあえず、美結ちゃんは着替えてきなよ。その格好じゃあ冷えるよ?」
――――確かに。
今の美結の服はビリビリに破けて悲惨な状況だ。
見る人(男性)が見たらより悲惨な状況に陥るだろう。興奮するという意味で。
何せ、彼女のは巨乳の部類に入るんじゃないか?ってくらいに大きい。
それが今は、隠れるか否かという程度なのだ。
「クソ虫変態。」
「……ん?」
「ってか、着替えて来たらクッキー無くなりそうじゃん。」
美結は口を尖らせて、雛菊に反論する。
「そうなったら、また焼けばいいじゃん。生地はまだたくさん作ってあるし。」
「……ん。残ってなかったら、次焼く分は全部私ので。」
不貞腐れたように、美結は2階へ上がっていった。
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「わわわ!ヤバイ!あと30秒でタイムリミット!」
突如、焦ったように慌てるリーフ。
「あわわ。あ、これクッキー。妖精さん、みんなで分けてね。」
そういって雛菊は、あらかじめ用意してあったらしい妖精サイズの紙袋を渡す。
「ありがとう、まみか。」
「いえいえ。また、いつでもどうぞ。」
「うn――。」
リーフの嬉しそうな声は、突如開いたバタンという音に書き消され、扉の前にはフラフラしているミーセントが。
「ク……ッキー……、俺にm……。あああああぁぁぁーーーーーークッキぃぃぃーーーーー!!!」
そして何か強い力に引っ張られるように、残像と絶叫を残しつつ消えた。
「またね。」
リーフもそういい残し、同じように消えた。
「なー、タイムリミットってなんだ?」
なんとなく聞いてみる。
「……あ、えっとね、妖精が森から出るには森主からの許可が必要なの。でも、許可は滅多に下りないし下りてもタイムリミットがあって、その時間までに帰らないと強制的に森に引きずり戻されちゃうの。」
「ふーん。」
「なんでかっていうとね、昔、妖精さんを捕まえて連れて行っちゃう人がいっぱいいたんだって。で、実験に使ったり強制労働させたり……。だから、怒った森主さんが森に結界張って、許可のない人は中に入れないし、妖精さんも外に出れないの。」
「ふぅーん。良く知ってんな。」
「い、いや、私もね、ある人に教えてもらっただけだよ……。」
雛菊は俯き、沈黙が落ちる。
「あ、あの……。」
「……ん?」
「あ……、えっと……。美結ちゃん助けに行く前に言ってたですよね?どうやって隠し場所を、ゆう……アサマくんから教えてもらったのか、って。」
雛菊は真っ赤になって俯きつつも、頑張って聞いてくる言葉を紡ぐ。
「あぁ。」
「えっと、あの、……ド、ドクシンジュツってわかります?」
「ん?美結の、心を読むってやつか?」
「あ……えと、唇を読む方の『読唇術』です……。」
「へぇ……。」
「で、そのことをアサマくん知ってたみたいで、口パクで教えてくれたっていうか……。」
「ふぅん……。」
「あ、いや、優馬がアサマくんを嫌いなのは知ってるけど……、ま、いいところもあるんだよ?みたいな……。
…………あ、私ちょっと上行って、二人の様子見てくるね……。心配だし……。」
雛菊は居づらくなったのか、それを言い訳にするように俺の視線を避けながら部屋を横切って階段を登り2階へと上がっていった。
別に、睨んでなどいないのだけれど。
そして、その場に残されたのは俺一人。
読唇術が使えるということは、言葉を発さずに会話ができるということだ。
美結といい雛菊といい、便利な特技を持っている。
対して、オレと美代は何も無しか。
――――………ってか、アサマねぇ。
…………意味も無く、好かないやつ。ただそれだけ。
ここに居ても暇なので、俺も部屋へ行こうと階段を上った。




