思い出
―― 麻美花side ――
コンコン。
「美代ちゃん。大丈夫?追加でクッキー持ってきたよ。」
私はお盆片手に彼女の部屋をノックし、声を掛ける。
お盆の上には2枚のお皿とそこに乗せられた数枚のクッキー。
「麻美ちゃん……。うん、ありがと。」
部屋の扉を開けて顔を覗かせた美代ちゃんは、疲れたように笑う。
私は部屋のテーブルにクッキーの乗ったお皿を置くと、静かに扉を閉めた。
やっぱり、ダメージが残っているんだろうな。
誰だって、忘れたい過去や嫌な思い出の1つや2つ、それ以上の数を持っている。
生きていれば、幸運ばかりじゃいられない。不幸なことだっていくらでもある。
でも、その乗り越えた過去、もしくは今乗り越えようとしている嫌な出来事。
それを利用するなんて、絶対ダメだと思う。
それに、その人の弱い部分に漬け込んで言うことを聞かせるなんて―――――。
コンコン。
「美結ちゃん。クッキー持っt……。」
急に扉が開いて腕を捕まれて中に引きずり込まれ、気づいたときには美結ちゃんに抱きつかれていた。
一瞬の早業だった。
しかも扉はいつのまにか閉まっているし、クッキーの乗ったお盆は近くのテーブルにちょこんと置かれていた。
「・・・…消えたい。」
美結ちゃんが呟く。
涙腺が緩んでくる。
これ以上涙が出てこないように目をギュッと瞑る。
こんなときに不謹慎だけど―――――
―――懐かしい。
私をギュッと暖かく抱き締めてくれたお母さんと菊姉を思い出してしまう。
思い出したくない。
だって、いっつも寂しくて泣いちゃうから。
もう私を暖かくギュッてしてくれる人あっちの世界には居なかったから。
でも、同じ暖かさを持った人がここにも、しかも身近にいるんだな、と思ったら
なんだかやっぱり、泣けてきた。




