バドリム
異様な雰囲気の森。
辺りには、うっすらと霧が立ち込めている。
「・・・なぁ、バドリムってどんな魔物なんだ?この世で一番強い魔物なんだろ?弱点とかねぇのか?」
「・・・腐った泥色のスライム。」
美結に聞くと、めんどくさそうに“容姿だけを”教えてくれた。
・・・・・・もう少し詳しく言えよ。
「腐った泥色のスライム。体の色はミクロ単位で全て違う色なのだが、肉眼では同じ色にしか見えないらしい。」
・・・ハイハイ、“容姿だけの”丁寧な説明どうもありがとー。(棒読みー)。
心の中で呟くが、美結からは反応がない・・・っと。
「・・・何?なんか反応して欲しいわけ?」
イライラと美結が睨んでくる。
「・・・・・・別に。」
・・・ただ、この重苦しい雰囲気が嫌なだけだ。
しばらく歩くと、美結が何だか言いにくそうに言葉を発した。
「・・・・・・ね。やっぱり言っとく。
バドリムは火、水、風、土、魔法、物理的攻撃、その全部に弱いの。
そして、血管も無いから返り血の心配もないの。」
「・・・何だよ、急に。」
「・・・・・・たぶん、あんたなら平気。
・・・私らに何かあっても、バドリムを退治することだけに専念して。・・・お願いだから。」
・・・・・・意味わかんねぇ。
「・・・来たよ。」
美結が呟く。
途端に、周りの空気がガラリと変わった。
なんだか、お化け屋敷の雰囲気に似ている。
・・・だからと言って、お化け屋敷に入ったことがあるわけではない。
ただ、オレの中のお化け屋敷のイメージそっくりというだけだ。
何せ、生ゴミの腐った臭いが漂ってきている上に、生暖かい風まで吹いている。
「・・・・・・・・・・・・ッ。」
後ろで足音が1つ止む。
だが、美結は構わず足を止めない。
美代も同じだ。
オレは何となく気になって振り返ってみた。
すると、雛菊がうずくまっている。
「・・・・・・え?あ、どうした?・・・雛菊。」
「いいの。行くよ。」
具合悪そうにしている彼女に声をかけてみるが、美結に引っ張られて彼女の答えは聞けなかった。
「・・・・・・置いていくのか?」
美結に聞くが、彼女は何も言わない。
「オイ。聞いてんのかよ。」
少し強めに言ってみるが、美結は無視してオレの服を掴んだままスタスタと歩く。
更に進んでいくと、また1つ、足音が止む。
しかし美結は振り返りもせず、サッサッと歩いていく。
今度は、オレの振り返る隙すらも与えない。
「・・・なんで見捨てんだ?」
「・・・・・・・・・今は〜アレを退治するのが先だよ~♪」
そう言って笑顔の彼女が指差したのは5m程先にいる、本当に腐った泥色という表現がピッタリのスライムだった。
ここまで近づくと、生ものの腐ったような臭いが鼻につく。
大きさは高さ150cmくらい。
美結が横で風矢をいくつか射つがヒョロロ~と弱々しく飛んでいき、その多くがかなり手前で地面に落ちる。
かろうじてバドリムの体プシュッに刺さった1本も、すぐさまシュワッと蒸発して消えて、たいしたダメージにはなっていない。
・・・弱っ。
「ごめ~ん。やっぱり無理だぁ~♪エヘヘ。」
美結は歯を見せて照れたように笑う。
・・・・・・・・・・・・。
美結の下唇には血が滲んでいる。
彼女は、笑ってる風を装いつつも、バレないように下唇を噛んで自分の傷を隠しているのだ。
<ファイヤアローシャワー>
その名の通り、火ノ矢のシャワーだ。
無数の火ノ矢がバドリムに飛んでいき、突き刺さってはバドリムを燃やしていく。
・・・と、たった5〜10秒程でバドリムは消え失せた。
呆気なさ過ぎる。
「・・・・・・終わったぞ。」
「うん~♪クソ虫はスゴいねぇ~(棒読みぃ~♪)」
イラつきを泥沼に沈める。
「ねぇ〜クソ虫ぃ~♪これに【清メヨ】って言って~ハート♪」
美結は先ほどバドリムが居た辺りに行って何かを持って来ると、オレに渡す。
「・・・・・・・・・【清メヨ】。・・・・・・なんだこれ。」
見た目はクルミにそっくりだ。
「ネガティブシード(negative seed)だよ~♪バドリムの核ぅ~♪」
負の種か。
「さすがぁ~“全言語理解可能クソ虫”だねぇ~♪・・・バドリムを倒したらこれ回収しないとまた発生しちゃうんだよ~♪」
・・・・・・何だよ。全言語理解可能クソ虫って・・・。
・・・・・・・・・・・・長ぇ。
「・・・え~~そこ~?・・・・・・それよりぃ~、早く帰ろぉ~?クソ虫ぃ~。」
「・・・・・・ヘイヘイ。」
「・・・あ、間違えた。全言語理解可能クソ虫だったねぇ~♪」
「・・・・・・・・・・・・だから、長ぇって。」
「全言語理解クソ虫ちゃ~ん♪」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「アハハぁ~。マジ笑えるぅ~♪」
・・・・・・・・・・・・ハァ。
オレは深いため息を吐いた。
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美代は啜り泣いているのを、50歩程戻った辺りで発見された。
美結が先に行けと言うので、それに従って2人を置いて先へ行く。
雛菊は、美代から更に50m程戻った辺りで、うずくまっていた。
雛菊はオレの足音に顔を上げる。
・・・・・・雛菊は泣いていた。
声を出さず、泣いていることがバレないようにひっそりと。
オレも、彼女が顔を上げるまでは具合でも悪いんだと思っていた。
そこまで近づいても彼女の泣き声は聞こえなかったのだ。
「雛菊。」
静かに涙を流しつつも、氷のように冷たい瞳でこちらをジッと見つめてくる。
そんな彼女を無視して先に帰ることもできず、仕方なく声をかけてみた。
すると、雛菊はビックリしたように僅かに跳ねた。
「雛菊。終わったぞ。」
「・・・n・・・・・・く?」
「あ?」
氷のように冷たい瞳に、暖かな光が差す。
「・・・ひな・・・ぎ・・・く?
・・・s・・・さ、斎藤麻美花じゃなくて、雛菊麻美花?
私はs・・・斎藤じゃ無い・・・よね・・・?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?
「・・・そうだよ。あんたは雛菊麻美花。・・・・・・大丈夫だよ。大丈夫。」
いつの間にか来ていた美結にヨシヨシと背中を撫でられた雛菊は、声を上げて泣き出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・斎藤麻美花・・・って。
「思い出した?」
美結がオレに顔だけ向け、聞いてくる。
「・・・・・・・・・・・・あぁ。・・・・・・・・・・・・まぁな。」
泣いている雛菊と、それを宥める美結。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
オレは2人から視線をそらし、何となく呟いた。
「・・・・・・・・・・・・こいつ、小1の時から今まで、ずっっっと同じクラスのやつじゃねぇか・・・。」
1つ!
「・・・私らに何かあっても、バドリムを退治することだけに専念して。・・・お願いだから。」
美結の。
これは死亡フラグかしらね〜?
まぁ、私はフラグなんて無意識にベキベキ折っちゃう人間だって誰かさんが言ってたけどー(笑)




