カボチャの煮物
ジリリリリリリリ!!!
至福の時を切り裂く喧しい音。
学校の避難訓練でよく聞く、火災警報器の音にそっくりだ。
何事だろうと下に降りてみるが、音がしている以外特に変わったことは何もない。
火事が起こっているようでもない。
煙りはどこにも見あたらないし、焦げ臭くもない。
じゃあ、一体何なのだろう。
……と、玄関の扉が開いて雛菊が姿を現す。
雛菊は靴を脱ぐのもそこそこに、キッチンの中に駆け込んだ。
音はすぐに止んだ。
「ご…ごめん。うるさかったでしょ。」
雛菊が顔だけをキッチンから覗かせて言う。
「………ん。」
それより…。
「……何の音なんだ?」
聞くと、雛菊は嫌なことを思い出したかのような顔になり、キッチンの中に引っ込んだ。
そして、次に姿を見せたときには鍋を抱えていた。
雛菊がその鍋をリビングのテーブルに置いて蓋を取ると、
きれいな濃い黄色をしたカボチャが現れた。
表面は艶々光っている。
…が、所々黒くなっているところもある。
「ちょっと、焦がしちゃったんだ。」
言いながら、雛菊は明らかに落ち込んでいた。
「あの音、焦げてますっていう警報なんだよね…。
美結ちゃんたちのところ行ってたら、すっかり忘れちゃって…。……ごめん。」
「…………ん?
…………別に、焦げたところは避ければいいだろ?……何で謝るんだよ。」
「………うん!」
なぜかはわからないが、オレの言葉を聞いた雛菊は満面の笑みで頷いた。
「…………ん。
……夕飯できてる?…腹へった。」
「うん!ちょっと待ってね。………はい!」
出てきたのは、いつもより大きい茶碗。その中にはご飯が半分程。
「………………。」
「…あ、あの、その………
汁だくがいいか、汁無しの方がいいか、わからなかったから………。
………ど、どっちがいい?…………あ、肉丼なんだけど………。」
「…………あんたがうまいと思う方。」
別にどっちでもいいのだが、“どっちでもいい”と答えると質問した側が困る。
「うん、わかった!汁だくでいい?」
「…………良いって言った。」
「あ、うん。そっか。……はい、汁だく!」
ちょうどいい量に盛られた肉丼が目の前に置かれる。
………肉丼の周りがキラキラ光って見えるのは……きっと気のせいだろう…。
「…あ。」
しまった!というような声が、雛菊の口から漏れる。
「……あ…えっと……カボチャの煮物、煮崩れてるけど……いい…かな?」
「……ん?
何でだ?」
「………えっと……私的には、
そっちの方がトロトロしてて好きなんだけど………。」
「………いや、
……………何でそんなこと聞くんだ?……煮崩れてちゃ、なんか悪いのか?」
「……えっと、………見た目?…が悪い……らしい。
…あと…歯応えが残らないとか………。」
「………ダメなのか?…煮崩れてちゃ。」
「………私的には好きだけど…………。」
「………ならいいじゃねぇk…。」
バァン!
「私にも汁だくとカボチャの煮物、ちょーうだい!」
「麻美花ちゃん。私も汁だく……。…ご、ご飯は持ってきたよ。」
急にオレらの話に割り込んできたのは、美結と美代だ。
うち、美代は丼を両手に2つ抱えていて、靴を脱ぐのに手間取っている。
「…あ、えっと………さっき作ってたご飯は?」
雛菊が美代から受け取った丼に2人の分をよそいながら聞く。
「爆弾化した。」
「……ば、爆弾?」
「うん。食ったら死ぬ。」
「…あわゎ。……わ…私のレシピのせい?」
「いや、私らが、ホント料理ができないだけだから。麻美花のせいじゃない。」
「で……でも、さっきまでうまくいってたとおもt…。」
「麻美花が帰ってから、10秒で爆弾化。
………全く。クソ虫がちゃんと火、見てないから。」
空になった茶碗を雛菊に差し出して3杯目のおかわりを頼むと、
急にオレに話が振られた。
「……………オレ、料理出来ねぇし。」
「………く…食いついてこない……。」
「みゆ、食べないの?美味しいよ?」
オレの予想外の反応にガックリと項垂れてしまった美結に
美代が呼び掛けるが、美結は
「うん…。」
と言ったまま食べようとしない。
「じゃあ、みよがみゆの分も食べてあげるね。」
そう言って、美代が美結の丼に手を伸ばし、手に取る。
…………前に、
美結がガバッと跳ね起き、急いで美代より一瞬早く丼を手に取った。
「あんた、今何杯目?それで6杯目でしょ?まだ食べる気?」
「うん!…え?
これなら10杯は軽いよ?」
そう言って、美代は美結に向かって手を差し出す。
「………えー!?あげないよ!これ、私の!」
「………そっか。残念。……麻美花ちゃん。おかわり、まだある?」
「うん、大丈夫!いっぱい作ったから。………ゆうまはおかわりいる?」
「………いや、もういい。…ごちそうさま。」
さすがに、4杯も食べればお腹も苦しくなってくるってもんだ。
いくら、お店で食べるよりもボリュームが無いとはいえ、さすがに10杯は無理だ。
オレはさっさと、リビングを後にした。




