家族にはなれなかった話。
ストック放出。
「あぁ、やっと来た。」
室内から外に出れば、近くの樹木に体を預けていたクロくんが私達を見るなり近付いてきた。
「どうかしたのかな?」
疲労が見え隠れするポチはそれでも普通を装い、私達を待っていたらしいクロくんに問い掛ける。
「見せたいものがある。」
ぶっきらぼうに言うクロくんは私達の返事も聞かず、先導するようにスタスタと先を歩いてく。
私達は無言でそれに付いていった。
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「……お墓?」
家の裏手。
こじんまりとした小さな庭には、大小の異なった3つの墓石が鎮座していた。
周囲はとても綺麗に手入れがされており、この空間はどこか神秘的な空気を放っている様に思える。
「左から『ナオユミ』『ティア』『ルル』だってさ。」
私が名前を読み上げ彼を見れば、少しだけポチの表情は曇った気がした。
「コレって家族なのかなぁ?大きさ的に、父、娘、母、みたいだよね。」
確かに。クロくんの言う通り、墓石の大きさは、大、小、大、の順になっている。それはまるで、“娘を挟んで見守る両親”みたいで。
「……嫌味かな?」
口元に苦笑いを浮かべるポチは、その家族っぽい墓石から逃げる様にそっぽを向く。
――ルルさんって確か。
殺された『熊木直弓』の、婚約者の一人。
マイペースなのんびり屋さんだったと言っていたっけ。
そんな彼女は熊木直弓が死んだ後、狂ったらしい。
フラフラとこの家やその周囲を徘徊し、時折虚空に向かって話し掛ける。
『なぉなぉー、起きた?』
『なぉなぉ、ご飯出来たよ。』
『なぉなぉー。あれ?何処かなー?』
『なぉなぉ?』
『どこなのどこなのどこなのどこなのどこなのどこなのどこなのどこなのどこなのどこなの……』
『なぉなぉ、見つけたー!もぅー、いなくなっちゃ駄目だよぉ。』
『なぉなぉー、愛してるー。』
他の誰が声を掛けても一切の反応を見せず、彼女は一人の世界に埋没した。
それはまさに廃人そのもので。
――家族、ねぇ。
左の大きい墓石が『ナオユミ』、右の大きい墓石が『ルル』。
それを左右から挟むような小さな墓石が、愛娘的存在だった『ティア』。
子供とは血も繋がっていないし、まして二人は婚約者という関係で終わったけど。
……これはまぁ、何と言うか確かに。
盛大な皮肉だこと。
「なぁ。手、合わせないの?」
不思議なものでも見るように、クロくんはポチを眺める。
「これ、知り合いなんだろ?」
「……いい。遠慮しとく。」
裏庭自体に近付こうとすらしないポチは、気まずそうにプイッとそっぽを向く。
「……へぇ。人間ってやっぱり不思議だね。毎日来て丁寧に世話をするような人もいれば、君みたいな素っ気ない態度をとる人もいるんだ。――ねぇ。コレは、君にとって何なの?」
“コレ”と、墓石を指差すクロくん。
問われたポチはそっぽを向いたまま。しかし少しだけ、何かを考える風になって。
――そしてポツリと。
「…………愛された証?」
疑問系のその言葉は不確定さを秘めたまま、風に乗って溶け消えて。
「ふぅん。……よく分からないや。」
クロくんからは、つまらなそうな返事。何で聞いたのさ?と苛立つ事が出来るくらいに、それは無機質な言葉に思えた。
冷たく乾いた風が吹く。
3つの墓に供えられた3つの小さな花束は、冷風に花びらを揺らした。
「ねぇ、僕からもいいかな?毎日ここに来て、世話をしている人がいるの?」
困った様な表情をクロくんに向け、ポチは静かに問い掛ける。
「らしいよ。妖精達がそう言ってる。」
「そう。……それって、ピンク色の髪の女性かな?」
ピンク……。ポチの言葉で、私の中には心当たりが一人浮かぶ。――だって、最近会ったばかりだし。
「らしいね。もしかしてアネンの知ってる人?」
「ベリーヌさんだね。……この、劣化遅延や魔除け、人避け等を含んだ結界も、毎日彼女が掛け続けているんだろうね。……なら、ココがバードリ国だったのは、幸いかな。」
「どういう意味?」
思わず聞けば、彼はふっと表情を和らげ、説明してくれた。
「バードリ国は、努力が実を結ぶ場所。そういう気候とでも言えばいいのか。才能が無くたって、努力次第で使える様になる。……ベリーヌさんは、魔法が大の苦手だったから。」
愛おしそうに遠くを見る瞳は、……あぁ、とても近しい関係だったんだなぁ、って。
転生した。そう聞いて、一応理解はしていても、どこか実感が無かった。あの場所で親しそうに会話している姿でも、中身の無いハリボテの様にも感じていて。
でも今の彼は、ちゃんと“この人は『熊木直弓』だったんだ。”って思える。
今はちゃんと、あの人達の事を思ってるんだ、って事が分かる。
――でもそれは、今ここにいる彼が、酷く遠くにいるように感じて。
……私の知らない彼だった。
「……頑張ったんだろうね。でも……僕の事なんて捨て置いて良かったのに。」
それは卑屈なのか。
それとも、未だに縋っている者への慰めなのか。
……たぶん、卑屈の方なんだろうな。
コイツは、自分の代わりに相手が傷付く事が、場合によってはこっちも傷つくんだ!ってのが分かってない。
愛した人を弔ってあげたいって思うのは、当然でしょう?
今も尚、思い続けてくれてるなんて、とても凄い事なんじゃない?……それを否定するなんて。
自己犠牲が、逆に相手を傷付ける場合もあるんだって。
何で……。
何故、何でもかんでも自分のせいにするんだろ。
何でコイツは、こんなにも卑屈なんだろ。
そんな部分が、私は酷く腹立たしい。
――まぁ。私は、コイツの事を何も知らないんだけどさ。




