壁の向こうを観察する話。
美結ちゃんサイドに戻ります。
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「あの、……良ければまたいらしてください。アサミさんも私も、ずっと待っていますから。」
帰り際、ポチの背中に投げ掛けられた言葉。ポチは振り返りもせず歩いていく。
――私は未だに、モヤモヤが晴れない。
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帰りの馬車はポチが断った。
前を歩くポチが進む先には……街?
やがてポチは街の入り口まで来ると立ち止まり、私に背を向けたまま言った。
「ねぇ、ミユちゃん。ここら辺で、別行動とかどうだろう?君は街中でも見てくると良いよ。」
はぁ?
「そんな事したら、あの人……。」
最近、私達にはストーカーがいる。
ポチ曰く、ポチが一人にならない限り接触はないだろうって事だったんだけど?
「いい加減鬱陶しいから、さっさと決着つけてくるよ。彼の目的は分かっているからね。」
「いや、でも……。」
……今のポチを放っても大丈夫かな。いや、あんな話を聞いておいて、大丈夫なワケないと思うんだけど。
「しばらく、一人にしてくれる?」
有無を言わせない言葉。氷の様に冷えきった声が背筋を這う。
身体中を悪寒が走り、無意識に自分で自分の肩を抱いていた。
「……。」
ザッ、ザッ、ザッと彼の足音が響く。彼は私の返事なんて聞く気がないらしい。
でも。
でも、……何か言わなくちゃ。言わなきゃ彼は……。
「……ねぇ。」
ポチの足がピタリと止まる。
振り返らない彼の背中に、私は願いを投げつけた。
「今日の夕ごはん、唐揚げ食べたい。」
叶える事なんて、きっと容易い。
でも、彼をこちら側に引き留める為の約束。
そうでもしなくちゃ、彼は私を置いて、どこか遠くに行方を眩ましそうで。
「ポテトたくさん、だよね。」
「……うん!」
彼の優し過ぎる言葉に、思わず私は笑った。
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「あぁは言ったけど。」
賑わう街をブラブラ歩きながらも、思い出すのはポチの前世こと『熊木直弓』って人の話。
浅海さんと一緒に召喚された、もう一人の勇者。使い魔召喚の時に事故を起こした人。
『所謂、異世界ハーレムの主人公だよ。』――そう、他人事のようにポチは言った。
事故で飛ばされた後、彼らはいろんな所を旅した。
その道中で出会った4人の女性。
なんやかんやあり、彼女達は『熊木直弓』の恋人になった。
浅海さんの結婚を切っ掛けに、『熊木直弓』達も旅を止めて一ヶ所に定住した。
平和な日々が続いたある日。
突然、愛する彼女達は敵に回った。
うち二人の襲撃に遭い、『熊木直弓』は殺された。
彼を襲撃し、トドメを刺したのがあのエルフのメイドさんだった。
『熊木直弓』は、他者からとても好かれやすいタイプだったらしい。どんな人間であろうとも、彼とはすぐに打ち解ける。特に相手が女性なら、目が合うだけで恋に落ちると言われていた程。前述の4人だけでなく、彼に憧れる人はそこら中に居たらしい。
『モテたんだ~?』って聞けば、『無差別に魅了を振り撒いた結果だよ。』と言う、なんとも冷淡な答えが嘲笑と共に返ってきた。
そう、“魅了の呪い”。
ある日突然、愛する恋人達が『熊木直弓』の敵に回った理由。それは、その『魅了の呪い』が解けたから……らしい。
――『熊木直弓』は女性達を魅了で洗脳し、好き勝手に弄んだ悪魔だった。
それに気付いた恋人達。怒り狂った二人が先に行き、彼を殺して。
後から来た二人は、自ら手を下せなかった事を残念がりつつも、彼の死を喜ぶ。
私怨による復讐。
辛酸をバネに、勝ち得た自由な未来。
事実、ポチは『魅了を掛けて誑かした』って認めちゃってるけどさ。
……でも。
――怖かった……だろうな。
お城に着いて、馬車から降りて。
最初に再会した人が、自分を殺した相手なんて。
うん。とても怖かったと思う。私だったら滅茶苦茶怖い。だって、ホラーじゃん。
心構えもないままに、自分を殺した相手と顔を会わせるなんて……。
第一、馬車の中でだってずっと怯えてたじゃん。
昔を知る人に会うのが、怖かったんでしょ?
自分の過去の悪事を知っていて。
……誰だって、逃げ出したくなるだろうよ。
「……でも、残酷過ぎるって。」
心の底から相手を愛していて。
なのに裏切られて、貶されて。
恨まれて、殺されて。
なのにさ。
『今もまだ、貴方を愛しています!』……なんて。
憎くて殺したワケじゃない。あの時は騙されていた!……なんて。
私達は操られていた。貴方が悪魔だと、洗脳されていた!……なんて、さ。
……じゃあ、なんで殺されたワケ?何の為に殺されたワケ?
普通なら『ふざけんな!!』って怒るだろうな。胸ぐら掴んでユサユサして。
……怒って良いと思うよ。
“魅了を掛けて誑かした”なんて負い目があるのかもしれないけどさ。
でも、浅海さんも言ってたじゃん。『魅了の呪い?何ですか、それ。まさか貴方は、洗脳されていた彼女達の妄言を鵜呑みにしたのですか?』って。
メイドさんも、自分の気持ちは本当の物で、誰かに操られて作り上げられた物ではないって言ってたし。
私も、『魅了の呪い』なんてそんなもの、無かったと思う。だってポチってさ、そんな他人を弄んで楽しむような人間じゃないじゃん。他人の不幸を笑うような、そんな人間とは程遠い。
それでもポチは『“魅了の呪い”を掛けたのは事実だよ。』なんて言い続けて。
全部自分のせいにして。
……別に、八つ当たりしたっていいじゃん。
ぶちまけたい事はたくさんあるだろうに。
服の裾はしっかりと握り続けたまま。
ニコニコした表情の、その瞳の奥は笑ってなくて。
いつもの優しい口調はそのままに、でも声質はどこか固く、冷たい棘を含んでた。
抑え殺した感情は、怒りなのか何なのか。私には分からない。
でも、何かに堪えてるのは誰の目にも明らかで。
もちろん、浅海さん達にも丸分かりだったみたい。
浅海さんは何度か、ポチを怒らせて怒りを吐き出させようとしたみたいだけど全部失敗に終わった。浅海さんが何と言おうと、ポチは内に秘めた感情を晒け出そうとはしなかった。
完全に、ポチは心を閉ざしてた。
ただ、『自業自得だよ。』『魅了を掛けて心を奪い、多くの人の人生を狂わせたのは事実だよ』なんて事を繰り返し言い続けて。
……なんでアイツは、あんなに自分を卑下するんだろうね。なんで全部、自分のせいにするのかな。
メイドさんの罪悪感を拒絶して、謝罪を無かった事にして。
口では『気にしていない。』なんて言って、でもそれが嘘なのは明らかで。
……余計に苦しめてるだけって、分からないのかな。
感情のままに怒るのは良くないのかもしれないけどさ。
でも、勢いで怒りの感情をぶつけたって、そうして責められた方が救われる事だってあると、私は思うよ。
――自分を殺した相手だから。自分は相手を憎んでいるから。だから絶対に救ってやらない。精々苦しめ。……なーんて。
たぶんポチは、そうじゃないと思うなー。
ただ、自分を責めているだけ。
自分が悪いんだって、そう本気で思っているだけ。
周りは悪くない。全部自分が悪いんだ、って。
ただ、怒りの矛先が自分に向いてるだけ。
「あー!なんか、すっごくモヤモヤするー!!」
ぶっちゃけ、ポチの過去に何があったかなんて知らない。
信じてた恋人に殺される、それ以上の不幸があったのかもしれない。
でも、すべてがすべて、ポチのせいな訳ないじゃん?
――いつか、全部ぶちまけさせる!
『分かる』能力への対策石。アレさえ壊せば、アイツの心も隅々まで読める。
その時は、粉々に砕いてやる!
対策石だけじゃなくて。
――心の壁も、全部壊してやる。
「……あ、お腹すいたわ。」
目標を決めた途端、自身の空腹に気付く。
何だかんだ、お昼ご飯食べてないし。
夕暮れ時の賑わう街。
建ち並ぶ屋台からなのか、あちこちから美味しそうな匂いが漂ってくる。
「なーににしようかな。」
夕御飯に唐揚げ頼んじゃったからお腹は空かせておきたいけどね。せめて一つだけで良いから、軽くお腹に入れときたい。
私は軽く、周りを見渡す。
怒りに任せて、結構歩いてたらしい。入ってきた入り口からは若干離れてた。
「あれ、君!こんな所で会うなんてビックリだ。あれからどうだ?アイツの調子は……って、あれ?」
私に向かって大きく手を振り、親しげに声を掛けてきた男性。
水色の髪に黄色い瞳。騎士の様なキッチリとした服装。
小走りに近付いて来たけど、途中で首を傾げ始めた。
……何?この人。……って、あれ。心の声が聞こえない。
「……何か私に用ですか?」
「えぇと……、すみません。たぶん、人違いでした。」
「……たぶん?」
ペコペコと頭を下げる彼に、思わず聞き返す。
「……えぇと、1週間くらい前に貴女ととてもそっくりな方に会っていまして。……でもどうやら別人みたいですね。すみません。」
「……はぁ。」
話に付いていけない私から出たのは、そんな曖昧な返事。
「勘違いでご迷惑をおかけしました。では失礼します。」
そう言って、騎士っぽい男性は去ってった。
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「……ただいま。」
太陽が完全に沈み、空を闇が覆う頃。
そろそろ良いかな?と思い、私は異空間の居住スペースへと帰ってきた。
「おかえりなさい。どうです?楽しめましたか?」
「……え。……あ、はい。」
目の前に現れたのは、気の強そうな吊り目の女性。エメラルド色の鋭い視線が私を射抜く。
「……えぇと、誰。」
「あぁ、まだきちんと名乗って居ませんでしたね。ジュマの森出身、ショコラと申します。」
ジュマの森……?何処そこ。
『妖精の子だワン!』
カザンの言葉で、ようやく繋がった。塔でクソ虫と一緒にいて、その後ポチが拾ったっていう……。確かに服はそのままだし、腰くらいまであるオレンジの真っ直ぐな髪もあの子と同じ。
「……でも何か大きくない?」
「クロに人化の術を教えて貰いました。」
「クロ?」
私が聞き返すと、ショコラちゃんは意味ありげな視線をリビングの扉へ向けた。
リビングからは賑やかな声が漏れ聞こえている。
「一体、何が……って、え。ちょっと!」
いつの間にか、彼女は私を置いてリビングの方へと立ち去ってしまった。
慌てて靴を脱ぎ、追いかける。
開けた扉の先には、黒い服の青年と壁際で佇むショコラちゃん。それと薄黄色い髪の妖精ルミちゃんと、ショコラちゃんと一緒にいた桃髪の妖精の、合わせて4人?がいた。
「むー!出来ないよ、クロー!」
「ヘタクソ。ちゃんと自分の中の魔力を感じて。」
「シャドー、難しいのです。」
「もう一度、僕と一緒にやってみよう?大丈夫だよ、ルミならちゃんと出来るから。ルミが出来るようになるまで、僕も一緒に頑張るよ。」
「むー!!ルミちゃんだけズルいー。私もー!」
「煩い黙れ。俺とルミの邪魔をするな。」
「むぅー!!」
……何か、一気に住人が増えてた。
「あら、ミユさん。おかえりなさい。」
キッチンの方から声を掛けられそちらに向かえば、白髪に水色の瞳の女性が振り返った。肌はとても白く、どこか病弱そうな雰囲気が漂っている。
「あぁ、うん。ただいま。……ラミちゃん、かな?」
「えぇ、そうです。……あら?それは。」
ラミちゃんは私の持っていた包みに気付いた。
「少しお腹空いちゃってね。美味しかったからお土産として買ってきたんだけど、……三つしかないんだよねぇ。」
ショコラちゃん達の事を失念していたとはいえ、さすがにここまで賑やかになってるとは思わなかった。
「わざわざありがとうございます。そこ、置いておいてください。後でみんなで分けますから。」
「……半分にすればみんな1/2づつ。僕の分はミユちゃんにあげるよ。」
「え?」
キッチンの奥から、そんなくぐもったポチの声がした。
「あ、何かいる。」
覗いてみれば、キッチンの奥で丸まっている黒い布を被った何かが居た。ローブの裾からは紺色の尻尾がはみ出している。
「ポチー、何してんの?そこで。」
彼の前にしゃがみ、はみ出た尻尾をつついてみた。
――ただの、興味本意だった。
「っ!!」
「ひゃあ!?」
突如彼に突き飛ばされ、私は尻餅をついた。
「危ないですよ、キッチンで暴れないでください。今揚げ物しているのですから……ってミユさん?大丈夫ですか?」
「……へ?あ、うん。大丈夫、……だけど。」
視線を上げ正面を見れば、両手を前に突き出したままの状態で固まっているポチの姿がそこにあった。
「……ん…さい。……ごめんなさい。」
「ポチ?」
何か様子が変だった。
でも私が声を掛けると、彼はハッ!とした様に立ち上がった。
「ユアンスさん、大丈夫ですか?さっきよりも顔色悪いですよ。」
ラミちゃんに心配された彼は気まずいのか、フードを深く被り半分以上顔を隠してしまう。
「……ごめん。部屋戻るよ。ラミ、後はお願い。」
「分かりました。」
そして、私の位置からは辛うじてギリギリ見える黄色い瞳が、私を見た。
「ミユちゃん。……耳と尻尾に触るのだけはさ、勘弁して欲しいかな。」
疲れた顔で微かに微笑む彼に、何でか私は何も言えなくて。
「……嫌なら嫌って、最初っから言えばいいじゃん。」
閉まった扉を睨みながら、私はポツリとこぼした。
「しかも、謝るのは私の方だし。」
「……まぁ、そういう方ですからね。」
ポテトを揚げる手を再開させながら、ラミちゃんは静かに告げてくる。
「……ラミちゃんはさ、知ってたの?耳と尻尾。」
「知りませんでしたよ。……かなり長く一緒にいますけど、あの人は滅多に自分の事を教えてくれませんからね。自分の弱い部分に関しては特に。」
「ふぅん……。」
何なんだろ。……やっぱ一人で抱えてる。
「……でも、あの耳と尻尾。普段は全く出ていないのですよ。」
「え?」
「シュム国の方では、全く出ていなかったでしょう?」
……あー、うん。確かにそうかもしれない。
でも何せ、美代達とはぐれてからはずっと、耳と尻尾のあるポチと居たワケで。
私の中では正直、耳と尻尾のあるポチがデフォルトになってる。
「……彼、意外と感情が表に出やすいタイプなのですよ。怒ると、途端に耳がニョキっと生えてますし、怯えると、シュルシュルと尻尾が出てきて、あの人の身体に巻き付くのです。しかしそれは反射的な行動でして、冷静になると引っ込めてしまいます。」
「え?でも今は……。」
「……抑える事すらままならない程の感情が、彼の中で渦巻いているのでしょう。その中には恐らく、耳と尻尾を引っ込める余裕すらない自分への嫌悪も含まれているかと。今はどうしようもないくらい、卑屈になっているのでしょうね。」
「……何それ。自己否定の塊じゃん。」
殺された事だって、全部自分のせいにして。
全部自分が悪いって。
自業自得だから仕方ない、なんて言って。
それって何か……。
「……シャドウくんの魔法、逃げるどころか防ごうとすらしませんでしたからね。咄嗟に私が庇わなかったら、本当に死んでました。」
「え?あ、ごめん。今なんて?」
小声で呟かれたラミちゃんの言葉は、ハッキリとは聞こえなかった。
……逃げるとか庇うとか死ぬとか、何か物騒な単語が聞こえた気がしたんだけど。
「……手を離さないでくださいと言ったのです。」
「手?」
っていうか、さっきから油の弾ける音が大きくなってる気がする。
「あの人はシャドウくんに、ショコラさん達を含め私達全員を預けようとしていたのだと思います。まぁただの希望的観測で、本気で預ける事が出来るとは思ってはいなかったのでしょうけど。」
「うん。……うん?」
観測?……星?流星群?
天気が悪いから、見えたらいいなっていう程度、とか?
独り言を呟く様な声音は、油の音に書き消される。
「……貴女があの人を引き留めてくれたのだと、私は思います。……このポテトで。」
「ポテト?……あ、うん。ポテト。……え?」
あ、ポテト。うん、美味しそうだけど……。あの、さっきから手、止まってない?大丈夫?焦げてない?
「私の小さな手じゃ、あの人を引き留めきれないのです。」
「今、人化してるよね?ちゃんと箸持ててるよね?引き揚げられるよね!」
うん。盛大に話は食い違ってるだろうけどさ、そんな事よりタヌキ色になり始めているポテトの方が気になっちゃうんだけど。
「ラミちゃん、ポテト、ポテト!」
「え?あ、はい。ごめんなさい!」
我に返ったらしい、ラミちゃんはせっせとポテトを引き揚げてくれる。
「…………でももし、私がポチに置いていかれたら、……世界中を全力で探し出してやろうかな。」
いつか、アイツの心の声をぶちまけさせるって決めたから、さ。
「シャドー!出来たですっ!見て見て?です!」
「ギャァァ!」
リビングの方が、何やら一層騒がしい。
気になって覗けば、そこには奇っ怪な生き物が。
頭はメドゥーサの様な、跳ねた髪の先が全て人間の手の形をしている。身体からは左に9本、右に8本の腕。足も計9本。顔には目が三つ。口は裂け、ギザギザの歯がチラリと覗く。
「ルミ、少し失敗だけど、でもこれはこれで凄く可愛いよ。」
そして、それを撫で回す黒服の青年。
「化け物だよ!ショコラ、化け物がいるよぉー!!」
「あ?ルミを化け物呼ばわりすんじゃねぇ。」
「化け物を撫で回す、貴方が化け物です。」
「あ?何だとコラぁ!」
「シャドー!」
17本の腕で青年を絡めとり、暴れないようにしっかり押さえつけるルミちゃんの姿は、……まぁ抑止力的にはアリなんじゃないかなって。
「離せよおま、ギョエーー!!」
背後を振り返った青年が上げた叫び声に背を向け、私は思う。
……やっぱなかったわ。
<side ユアンス>
――なぜ、まだ生きている?
――なぜ、生にしがみつく?
――なぜ、今更死に怯える?
昔の俺なら、自殺なんて簡単に出来たのに。
――何で俺は、未だに生きているのかな。
「……死にたいなぁ。……死ねないなぁ。」
窓の無い部屋で。
静かに僕は呟く。
――嘘つき。
不意に、夢で聞いたそんな言葉が頭の中で反響する。
「……確かに君は、嘘つきだ。」
『永遠に君達を愛す』なんて、そんな宣言までしてたのにね。
――彼女達を愛してた。
『熊木直弓』の持つ感情は、既に過去形。
「馬鹿だよ、君は。」
下らない事に拘って。
大切だとか言うものを、形振り構わず必死に守って。
でもそれは、全て幻想で。
……世界なんて、最後には結局裏切られるものなのにさ。
いつもそうだ。裏切られて罵られて踏みつけられて捨てられる。
それが僕達の運命。
「でも僕は、そんな君が凄いと思うよ。」
――死んだ彼は。
殺されても尚、彼女達を愛してたんだ。
もうちょっとだけ続きます。(連投は終わりですが……。)




