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腐った世界で異世界生活(ライフ)  作者: たんぽぽ
閑話章 彼が彼になる前の話。
148/154

愛を拗らせて暴走する話。

彼は現在、人化しています。



「おい、お前!」


声を掛けると同時、奴は立ち止まり、振り返る。……まるで、俺が声を掛ける事を知っていたみたいだった。


「あぁ。こんにちは、闇の妖精さん。」



そう言って、奴は不気味に笑った。




-----------



「用事はコレの事だよね?」


笑顔のまま奴は懐に手を入れると、そこから何か白いものを取り出した。


遠目だけど、俺にはハッキリと分かった。ルミだ!あれは確かにルミだ。生きているルミだ。ルミが動いている!相変わらず可愛い。10年経った今でも、天使の様な愛らしさは健在だ。


だが俺は喜ぶと同時に、ルミを見た途端ゾッとした。


取り出されたルミは、とても苦しそうだった。可愛らしい顔を歪め、不快を露にしている。きっと奴はルミが逃げ出さないように、力強くルミを握っているに違いない。痛いだろう。どれだけ苦しいか。奴はルミの儚さを知らないのか?あんなに力強く握ったら、か弱いルミはすぐに潰れて死んでしまう。早く助けなくては!


「おい、テメェ!今すぐルミを離せ!」


「嫌だね。」


「なっ!」


嫌、だと?奴には、苦しんでいるルミの姿が見えないのか?

それでもお前は人間か?苦しそうなルミを見て、それでも笑っていられるお前は、もしや悪魔か?


そんな悪魔は笑顔のまま、ツカツかと俺に近寄ってきた。

その不気味さに、俺は思わず、一歩後退ってしまう。



「はい。」


「は?」


悪魔は遠慮なく俺に近寄り俺の手を掴むと、何かを手渡した。

俺の手の中で、小さな生き物が身動きをする。


「ルミ?」


それは小さくて愛らしいルミだった。

10年間俺が求め続けた、生身のルミだった。

一度は諦め、しかし今、あっさりとルミは戻ってきた。

これは夢か?――頬を摘まむ。痛い!現実か?現実であってほしい。夢なら覚めるな!



「あんな場所で手を離したら、この子は地面へ向かって落っこちてしまうよ?そんな事、誰も望んじゃいない。……コレはきちんと返したよ。じゃあ僕はこれで。」



クルリと背を向け、彼はこの場から去っていく。

……そうだ、お礼を言わなくちゃ。お礼を――




「ヤダです!」




懐かしい声(ボイス)。ずっと追い求めた、幻の呼び声。

それが今、奴の足を止めさせた。あぁ、やはりルミは天使だ。

でも何故?なぜアイツの足を止めさせる?



「ルミ?」


「行っちゃヤダです!」


「あっ……!」


ようやく見つけたのに。

ようやく手に入れたのに。

ようやく掴んだのに。


愛しの人が今、俺の掌から飛び立つ。



純白の光を煌めかせ、空中を舞うルミ。着地に失敗し、落ちそうになりながらも『うー……しょ!なのですっ。』と可愛らしくよじ登った。

可愛い。クソ可愛い。可愛過ぎて世界が輝く。

やっぱりルミは、最上位の名に相応しい、最強の光の精だ。光を見失って以来、暗く沈んでしまった僕の心まで、眩しいほど明るく照らしてくれる。


そんなルミが。ルミが!

今ルミは何処にいる?

あぁ、奴の腕だ。奴の腕から落ちそうになりながらも、必死にしがみついている。


「テメェ。……ルミに何を吹き込みやがった?」


あんなにも優しく純粋なルミが、俺を置いてあんな卑劣で薄汚くて邪悪で、なんかもう性犯罪の十や二十、軽くヤってそうな顔で禍々しいオーラをビンビンに放つアイツを選ぶわけがないだろ?アイツは可愛くて純粋で可愛くて可愛いルミに、何か良からぬ事を吹き込んだに違いない。



「まぁまぁ、落ち着きなよ。ルミも、彼の所へ戻ったらどう?」


「ヤダです!カルとは絶対離れないですっ!!」


カル?ルミは今、奴の事を『カル』と呼んだのか?



「カルって。……ルミ、ご主人様はもう死んでるんだよ?」


「でも、カルはカルって呼ばせてくれたです!それだけでいいです!!」


あぁ、あぁ。確かに俺らの亡くなったご主人様の愛称は『カル』だ。だがご主人様は、俺らに『カル』と呼ばせてはくれなかった。せめてルミだけはと頼んでも、それを良しとしなかった。


「ルミ。ソイツはご主人様じゃない。偽物だ!名前は『カル』かもしれねぇけど、でも偽物なんだよ!」


そもそもご主人様は亡くなった。生きている訳がない!

それに、奴の魔力はご主人様とは違う。明らかに別人だ。

……まぁ、少しだけ、ほんの少しだけ似ているから、きっと可愛い可愛いルミは間違えてしまったんだろう。

だが元はと言えば、ルミを騙したアイツが悪い訳で。



「……お前。どうやったって、ルミを解放する気は無いんだな。」


「早く故郷へ帰れって、常日頃から言っているんだけどねぇ?まぁ、反論した所で無駄なのかな。君は、好きな娘(こ)の事になると話を聞かなくなるみたいだからねぇ。」


「……そうか、わかった。あくまでルミの洗脳を解く気は無いと。……なら、力ずくで取り返す!【潰れろ!】」



最初から全力だ。ルミが帰ってくるなら、相手が死んでも構わない。殺す気で行く。


幸いにも、奴は戦闘が得意ではないのだろう。魔法への適正も高くない。一瞬で終わる。――そう思っていた。



「ダメですっ!」


ギィンと嫌な音が響き、俺の魔法が相殺された。ぶつけられたのは光の魔法だ。


見れば、奴と俺の間にはルミがいた。奴を庇うように、ルミは小さな腕を精一杯に広げている。可愛い。



「そんなのしたら、カルが死んじゃうですよ!カルは弱いのです!すぐに怪我しちゃうのです!だからやめてなのですっ!!」


可愛い可愛いルミが、薄汚いアイツを庇っている?あり得ない。奴はきっと、何かしら細工をしてルミを騙しているんだろう。可愛い可愛いルミを弄ぶ悪魔が!


「ルミ、目を醒ませよ!お前はソイツに騙されてんだ!」


【沈め】


「ヤーダーでーすーぅ!!」


【切り刻め!】


ルミの背後で魔法を発現させる。ルミが気付く前に、あの悪魔は始末してやる。

ジャキーンと鈍い音が鳴り響き、漆黒の刃が奴を貫いた。予め奴の足は沈めておいた。その場から逃げるどころか動く事すら出来ず、奴はアッサリと命を散らせた。


「あっ!?あーあぁぁぁあ!!!シャドーの大バカですぅぅぅ!!」


嫌な音に振り返ったルミは、奴の死体に近付いていく。

そしてぽろぽろと、ルミの瞳からは涙がこぼれ出す。

悪魔から解放された事が嬉しいのだろう。雫は後から後から、ルミのプニプニした頬を伝い地面へと落ちていく。



「……大丈夫だよ。もう安心していい。君を泣かす悪魔は、もうこの世から消えたんだ。これからは、僕が君を守るよ。だからほら、こちらへおいで。ルミ。」



「ヤダですぅ!!」


差し出した手が振り払われる。



「シャドーなんて、大っっっ嫌いですぅぅー!!」


「ぐっ!」


嫌い、か。……フフ。まぁ良い。ルミを悪魔から守れるなら、少しくらい嫌われたって。



「カルぅー!!死んじゃ嫌ですぅぅ!!!」


「ルミ、おいで。帰ろう?」


「ヤダです!絶対にヤダですぅ!帰らないでーすー!!」


……嫌?……ルミは嫌だと言ったのか?俺達の所へ帰るのを?



「シャドーなんか嫌いです!大っ嫌いです!嫌いです!嫌いです!嫌いですぅ!!」


嫌い?……え?……ルミに、……嫌われた?


…………あぁ、完全に嫌われたんだ。

なら僕の人生は終わりだ。絶望だ。死のう。ルミに嫌われた人生に、価値なんてこれっぽっちも無い。

特大魔法でも使えば、魔力枯渇で逝けるだろうか。妖精は魔力が枯渇すれば消える。死体は残らない。

……僕は妖精で良かったかもしれない。

ルミに嫌われたなんて恥だ。僕という存在が恥だ。死んで尚、死体という己の存在によって僕の恥を周囲に晒し続けるなんて、僕はごめんだ。


「よし、死のう。最後の最後でルミに会えた。僕はそれだけで幸せだ。……さようなら、ルミ。――あべし!」


「この、変態がぁ!!」



特大魔法を唱えようとした瞬間、僕の脳天には衝撃が走った。


「しばらく会わないうちにシャドウくん、貴方ルミ馬鹿が拗れてるじゃないですか!貴方の大事なルミを、よりにもよって自分の手で泣かせるなんて。……最低ですよ。」


泣きそうな、それでいて優しい言葉。

青空を背景に彼女は、引っくり返った僕を見下ろしてた。


「お久しぶりです、シャドウくん。お忘れですか?ラミアです。まぁ?ルミさえ居ればそれで幸せな貴方ですから、私の様なゴミクズなんてどうでも良い存在だとは思いますけどね?」


「べ、べべ別にお前の事を忘れてた訳じゃねーけど……っ!?」


視線を固定させたまま、体を起こす。


白い髪、水色の瞳。

仁王立ちするラミの、そのすぐ後ろには。


「……テメェ。」


「ふぇぇ?カル?」



ニコニコ笑う悪魔がいた。


「シャドウくん。こちら、ユアンスさんです。私達の恩人なので、手出しをすればルミに嫌われますよ。」


「カルぅ♪」


「……っ!何で生きてやがる。」


俺の魔法は、ちゃんと奴を貫いたはず。現に今もあそこで、鮮血を撒き散らしているじゃないか!


「あれは映像です。私が作りました。」


「エイゾウ?」


「動く絵画です。つまりは幻影です。」


へぇ。あんなすごい魔法を……。




「……お前、何が何でもルミを返さない気なんだな?卑怯な手まで使って。」


ラミの後ろの悪魔を睨みながら、俺は問う。


「そうだねぇ。いい加減鬱陶しくなってくる頃だからさ、君が引き取ってくれたりしないかな。」


「ヤダですー。カルといるですー。ずっと一緒なのですー。」


「私も、あんな魔法ごときで殺される貴方を放ってはおけませんので。」


「……え、いや。アレ映像だよ?」



ベタベタと奴に貼り付くルミと、嘗ては見れなかったラミの笑顔。

どうやら二人は、奴に懐いているらしい。


――それを見て僕は、少し冷静になる。




「…………ねぇ。君の事、これからは『アネン』って呼ぶから。」


「どうしたんだい?急に。」


アネンが不思議そうに聞いてくる。


「ルミがアネンに着いていくなら、僕も一緒に着いていく。」


アネンの行き先なんて知らない。けど僕は、ルミと一緒に居れるならそれだけで良い。

ルミがアネンと一緒に居たいって言うのだから仕方ない。僕も着いて行くしかないじゃないか。


「……よりによって『アネン』なんて。もしかして嫌がらせかな?」


「そんなの当たり前。」


ルミが奴を、死んだご主人様の代わりにするのなら。

僕も奴を、ご主人様の代わりにする。


『カルサンス・アネン』という人間の代わりに。



「……じゃあ僕は君を、クロくんと呼ぼうかな。……全く、誰だろうね?『シャドウ』なんて呼びにくい名前を君に付けたのは。闇属性だから『シャドウ』なんて、安直過ぎるよ。」


「あ?テメェ、ルミを人質にしたからって、あんまり調子こいてんじゃねぇぞ?うちのご主人様を侮辱してんじゃねぇ。……ルミ、この悪魔から離れろ。今からこいつをズタズタに切り裂いてやる。」


「ルミ。」


ラミがルミに何か囁く。

そしてすぐにルミは、アネンを庇うように前に立った。



「ルミ、そこを退いてくれ。」


「シャドー。……やめて欲しいですよ?」


ルミがニコッと、天使の笑みを向けてきた。可愛い。滅茶苦茶可愛い。

つられて、僕の頬もヘニャリと緩む。


「怒っちゃ、嫌です。」


小首を傾げ、上目遣いで見上げてくるルミが可愛い。クソ可愛い。可愛い過ぎる。マジ天使。


「ルミの頼みなら仕方ない。命拾いしたね、アネン。」


「……僕のも一応、嫌がらせなんだけどなぁ。」


「何せ、シャドウくんですからねぇ。」



アネンとラミがなんか言ってるけど、全部無視。

僕の耳は、ルミの可愛く愛らしい声を聞く為だけにあるんだから!



「にしても。……また増えるのかぁ。」


「良いじゃないですか、もう一人くらい。……それにこれだけいれば、トランプし放題ですよ。」



「え?トランプです?する!するですっ!ねぇ、ねぇ、シャドー。トランプいっぱいしたいです!ね?たっくさん遊んで欲しいです!」


「うん、もちろん。」


トランプが何かは分からないけど、ルミがとびっきりの笑顔を向けてくれる、それだけで



僕は幸せだな。




シャドウ 「そういえば君、昔はもっと卑屈じゃなかった?」

ラミア  「あの人とずっと一緒に居れば、そりゃ卑屈な性格も矯正されますって。……ふふっ。」


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