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腐った世界で異世界生活(ライフ)  作者: たんぽぽ
閑話章 彼が彼になる前の話。
144/154

強者には逆らえない話。


場が凍りつき、緊張が走る。

浅海さんからは、肉食獣みたいな威圧を感じるし、メイドさんはピリピリとした緊張を放つ。



――にしても。

うーん。クマキ?なんかどこかで聞いた事ある気がするんだけど?


私が戸惑ってる間に、ポチは動いてた。




「申し遅れました。私(わたくし)、ユアンス・パスカルと申します。失礼ながら、誰か別人と勘違いしていらっしゃるのではないですか?」


胸に手を起き、軽く頭を下げるポチ。なんか紳士っぽい。



「勘違い……ですか?」


「えぇ。私は貴女様と顔を会わせた事すらありません。よって人違い、もしくは何かの手違いではありませんか?」


「……そう。」


浅海さんは思案気に顔を伏せる。



「『朝焼けのシロツメ草』……この言葉に心当たりはありますか?」


「ありません。」


眉一つ動かさず、ポチはキッパリと即答した。……えぇっと確かそれって、ギルドの受付嬢さんに聞かれたヤツだよね?……いやいや貴方、ギルドじゃガッツリ反応してたじゃん?違うの?




「そうですか。」


悲しみの籠った言葉が落ちる。



「……貴方はあくまで、別人と言い張るのですか。」


「言い張るも何も、名も知らぬ別人ですから。」


「……私の勘違い、ですか。」


「勘違いだと思います。」



暫しの沈黙。

視線を落とし畳の方を見つめるポチと、そんな彼を真っ直ぐに射抜く浅海さん。二人の視線は合わない。







「いいえ。」



息が詰まりそうな程ピリピリした空気を切り裂き、浅海さんはハッキリと告げる。


「私の勘違いでない事は、貴方が一番よく分かっているでしょう?誤魔化しても無駄です。言いましたよね?私の能力は『運命が分かる』だと。……私は予め分(・)か(・)っ(・)て(・)いたのですよ?熊木直弓の魂を持つ貴方が今日、ここに来ることを。……確かに今世で貴方は、私と会ったことは無いかもしれません。しかし、前世ならどうでしょう。私と共に未知の世界へ連れてこられ、共に苦難を乗り越え励まし合った事さえも忘れてしまいましたか?」


「…………っ!」



顔を上げたポチ。ようやく浅海さんと視線が合う。

真っ直ぐに彼を見つめる浅海さんの力強い瞳が、今は酷く傷ついて見えた。



「もう一度聞きます。貴方は私を、忘れてしまいましたか?」


「…………。」


数秒見つめ合った後、耐えきれなくなったらしい、ポチはプィッとそっぽを向いた。


どうやら、決着は着いた……のかな。

ポチは否定はしないけど肯定もしない。ただ単に彼女達から逃れるかの様に、身を一歩退ける。



「……あの、本当にナオユミくんですか?」


私と同じ結論を出したらしい。

今まで静かに話を聞いているだけだったメイドさんが、震える声でポチに問い掛けた。



「……。」


ポチは何も言わない。

浅見さんだけじゃなく、メイドさんの方すら見ようとしない。

それでも、メイドさんは必死に言葉をぶつける。



「……あ、あの、貴方がナオユミくんなのだとしたら、私は貴方に謝らなくちゃいけません!私、ずっとずっと、ナオユミくんに謝りたかったんです。お墓に対してなんかじゃなくて、ちゃんと直接謝りたかった。一度でいいからもう一度会って、ちゃんと謝りたかった。だからあの――」


「黙ってもらえますか?ベリーヌさん。」




「…………え?」


「謝罪は不要です。」



またもや耐えられなくなったのか。

冷淡な声が彼女の謝罪を押し潰す。




皆が戸惑う空気の中。



「……だから。」


ポチはそっぽを向いたまま、小さく呟いた。







「……だから来たくなかったんだよ、こんな場所。」







淡々とした乾いた声が、静かに響いた。


――スッと、目の端で何かが動いた気がして。

そっちを見て、ふと気付いた。行儀良く太ももに乗せられた彼の手のひらは、しっかりと自身の着ているローブの裾を握ってた。……さっき何かが動いた気がしたのは、より強くローブを握って布の端が動いた、って事なのかね?



「『朝焼けのシロツメ草』ちゃんと覚えていますよ。……貴方と見た絶景、忘れる訳がありません。」


「そう。」



浅海さんは嬉しそうに、小さく笑む。


……えっと。じゃあ、やっぱり?



「……確かに、フィッスノー奥様の言う通り、俺は『熊木直弓』の記憶を持っています。だから日本に理解があるし、俺の生まれはシュム国ではありませんが、シュム国の存在は知っていました。勿論、フィッスノー奥様の事も覚えてますし、ベリーヌさんが俺にした事も覚えています。」


うん?メイドさんがポチにした事?何だろ。



「あっ。だからそれは、その……。」


「大丈夫です。自業自得ですから。形だけの謝罪は不要です。……今更、無理して媚売る必要は無いですよ。フィッスノー奥様の話が終われば俺はすぐに貴女の前から姿を消し、二度と現れないと誓いますので。」


「っ……!?」


ポチがサラリと吐いた言葉に、メイドさんはショックを隠せないでいるっぽい。

何なんかねー?この若干誤解がある感じ。

ポチはポチで、さっきから言葉遣い変だし。

ってかポチとメイドさん、二人の関係って何だろ。何かの敵(かたき)?


……心を読めば簡単に分かるんだろうけど、正直、メイドさんの心の声は読みたくない。なんか、ポチに対する後悔が津波になって押し寄せて来て、それに思いっきり押し潰されそうな気配がしてて怖い。





「熊木くん、一つ訂正して良いかしら?」


「……何でしょう?」


ポチは少し躊躇い、渋々と言った感じに続きを促す。




「私の事は『牧田』と呼んでくださいと言った筈ですよ。」


えっ、そこなの!?

何かもっと、指摘すべき点がある気がする。浅海さんなら、微妙に食い違ってそうな二人を何とか出来そうなのに。



「それと熊木くん。その、他人行儀な口調を止めてくださいね。無理は結構です。」




バッサリと言い切る浅海さん。

……あぁ、やっぱ無理してるんだ。口調だけじゃなくて、きっとそれ以外も。



「……無理はしていません。そんな事より、いい加減本題に移って貰えませんか?わざわざ俺らを呼び付けた理由を教えてください。」


「嫌よ。」


感情の無い声で問うポチを、浅海さんはピシャリと切り捨てる。


「無理をするなら、嘗ての貴方の口調に近付ける方向で無理をしなさい。でないと、いつまでも私は貴方をこの場所に引き留めますよ。」



「…………無茶苦茶です。」


静かに呟かれた言葉が、自然と空気に溶け消える。



「無茶も何も、私は貴方と再会出来るこの日をずっと待ち望んでいました。貴方が亡くなってから63年です。63年間、私は待っていました。ずっと待っていました。正直、待たせ過ぎです。ならば、貴方に対し少しくらい無茶を言っても良いと思いませんか?」


「……一体、俺に何を期待しているのですか?――じゃなくて、……何を期待してるんだ?」


「別に、何も期待していません。ただ単に、ある日突然この世から消えてしまった貴方と、またこうして再会出来た事を喜ばしく思うだけです。」


「……。」



一方は嬉しそうに微笑み、対するもう一方は不機嫌そうにそっぽを向いた。

割と最初の頃、転生タグ付けてたのは『ユアンス君が転生者だから』っていうのが理由だったり?


ちなみに、これを機に『熊木直弓(なおゆみ)』という名前を調べてみたのですが……。

出てきたのは、女の子の名前『直弓(なおみ)』でした。

……熊木くん、女の子じゃないからね?(涙目)

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