出会うべくして出会った話。
さっきまで勢い良く流れ去っていた景色が、だんだん勢いを衰えさせていく。
――あの花なんだろ。
疑問に思った事でようやく、馬車の速度が落ちていることに気付いた。
一瞬だけ視界に映り、すぐに過ぎ去っていたはずの草花が、今はちゃんと認識出来る。
ボーッとしてた。
頬杖をついて、外の流れていく景色をボンヤリと見ていたことは覚えてる。
でも、内容が無い。どんな道を走ってきたのか。どんな風景だったのか。……全く覚えていない。
「何、考えてたんだっけ。」
何か、考えてた気がする。考えたって意味のない、下らない事。――でも何故か。
……どうでも良い内容のはずなのに、思い出せない事にモヤモヤする。
その間にも、流れる景色は順調に速度を落とし。
――やがて馬車は静かに停止した。
「でっか!」
馬車を降りれば、大きなお城がそこにはあった。
……何だろ。なんかこう、イメージしてたのとは全然違う。王宮とか王様の城とか、全然そんな感じじゃない。
お城。ただのお城。武士の時代によくある、純和風なお城。歴史の教科書によく乗ってる写真のやつ。
「うん、でかい……。」
迫力ありすぎて、それしか言えなくなる。
――と。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
綺麗な所作でお辞儀をしたのは、ピンク髪のメイドさん。
まだ若く、20代半ばのお姉さんって感じ。……あぁ、エルフか。
――お城にエルフのメイドさん。……意外にも違和感が無いんだけど。
あ。でも、重要なのはそこじゃない。
このメイドさんを見たポチが、見事にビクッ!って跳ねてた。……もしや知り合いなワケ?
でも、……んー?メイドさんはポチの事は知らないっぽい。『アサミさんは何故、この人達を呼んだのかしら?』とか心ん中で言ってる。
「……どうか、しましたか?」
先行していたのに着いて来ない私達を不信に思ったみたいで、メイドさんは立ち止まって私達を振り返る。
「いえいえ~!何でもありません。……ほら、行くよ。」
私は固まってるポチの背中を押す。
「……あ、あぁ。」
何その嫌そうな顔。ほら、行った行った。
ポチが前。私が後ろを着いていく。
……だってメインはポチみたいだし、先行くべきでしょ?ほら、私はオマケみたいだし?
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修学旅行のお城見学みたく、入り組んだ廊下を進む。
会話は無い。若干重い空気の中、せっせと足を進める。
階段をドンドン上り、長い廊下を奥へ奥へと進んで。
やっと、メイドさんは一つの襖の前で立ち止まった。
「アサミ様。例の方をお連れしました。」
「どうぞ。」
しわがれたような老婆っぽい声。でも何か、声的にしっかりしたおばあちゃんっぽい?
返事を確認したメイドさんは、丁寧に襖を開ける。
「どうぞ。」
「失礼します」
「お邪魔しますー。」
中に入るように促され、私達はソッと室内に入った。
中は結構和風。畳張りだし、窓の方には障子。部屋の端には……えーと何だっけ?掛け軸とかが掛かってる場所。……うーん。忘れたけどまぁいいか。とりあえずココ、完全に和室じゃん。
そして部屋の中心には布団が一つ。
布団から体を起こした体勢で座っているのは、白髪の女性。若干顔色は悪いけど、背筋はピンと伸びていて、なんか自然とシャキッとする雰囲気がある。
……それとこの人の心が読めないんですが。え?キッチリした人みたいだから、ガードが固いのかなぁ?
「ベラ、貴女にも関係のある話です。こちらに来てもらえますか?」
礼をして下がろうとしたメイドさんを、おばあさんは止めた。
「了解しました。失礼します。」
メイドさんはスッと、おばあさんのサイドに座る。
つられて、ポチがその場――おばあさんの斜め前――に正座し、私もおばあさんの正面に正座した。
「このような形でお迎えしてしまい、申し訳ありません。」
おばあさんは小さく頭を下げる。
「私、アサミ・フィッスノー、旧姓、牧田浅海と申します。」
んんん?牧田?何故か親近感湧く名字かも。……どっかで聞いた事でもあるのかね?知り合いにはいなかったはずだけど。
「名前の通り、私は異世界人であり、日本生まれです。隠された土地、シュム国にて召喚されましたが、不運な事故により今はこちら側にいます。」
え?……あ、あれ?もしかしてポチの話してた元勇者の?かな。
「そこの貴女、屋代美結さん……で宜しいですか?」
「は、はいっ!」
あ。つい、反射的に返事しちゃったよ。あれ。何で名前を知ってるのかね?
「私は、貴女の母親の姉に当たります。」
「え。」
え。どゆこと。……え?
「私は貴女の伯母であり、貴女は私の姪です。」
「はぁ。」
嬉しそうに目を細めるおばあさんには悪いけど、急な話に着いていけなくて曖昧な返事になる。
……うーん。マキタ、マキタ?あぁ、そういえば確か母親の旧姓も牧田だったはず。その母親の姉、って言ってたっけ。
「……姉!?」
あれ。いや、ちょっと待って。母親の姉?……あの、気持ち悪い能力持ちで、周りから好かれて、母親の嫉妬の対象だったあの姉!?私と仕草がソックリとかいう姉?え?
「えぇー。……マジ?」
「マジ、だよ。」
ポチに確認すれば、ポチは静かに頷いた。えぇー。
「ってか知ってたの?」
「……まぁ。」
ポチは曖昧に頷く。……っていうかさっきから、やけに静かだねぇ。
「美結さん。」
「はい?」
名前を呼ばれて、私は浅海さんの方に向き直る。
「私のせいで貴女にまで辛い思いをさせてしまい、申し訳ありません。」
浅海さんは弱った体で、私に精一杯頭を下げた。
「……えぇーと?」
一体何の話?
私の疑問に答えるように、浅海さんは続けた。
「うちの妹は貴女に辛く当たったでしょう。そうなると分かっていても尚、妹の愛情を奪い、彼女を歪めてしまった私の責任です。本当に申し訳ない事をしました。」
……えーっと、あーっと、……なるほど?
「えーっと、謝る必要なんか無いです。それは、浅海伯母さん?のせいではないと思います。祖父母と母親、母親と私、それぞれは別の問題で、そこに浅海伯母さんは関係ないと思います。」
何て言えばいいのか困るけど。……何だろう、こう。……少なくとも、浅海さんには関係ないんだし、責任感じるような事じゃないと思う。
「……それに、……親として最低限の事くらいはしてくれていたかと。」
普通に学校は行かせてくれたし、朝昼晩の食事もある。洗濯やその他諸々も。
会話は無いけど、他は普通だったと思う。――私が愛情を欲しがった故に、それを歪めて見ていただけで。
「そうですか。」
浅海さんは悲しそうに呟いた。
「……そ、それより、何で知っているんですか?私の事とか、母親との関係とか。」
名乗ってないのに、私の名前知ってたし。母親が私に辛く当たるとか、知らないはずじゃ?その頃にはもう、こっちの世界来てただろうし。……第一、私達がこの城に来たのだって、予定通りって感じだったし。
「それは、貴女も持っているでしょう?」
すぐに切り替えたらしい浅海さんは軽く笑み、そして言った。
「私は、『運命が分かる』のですよ。……ですので知る筈の無い出来事でさえ、知る事が出来ます。誰も知らない未来の事も、私は知っています。」
運命が分かる。……え。“私も持ってる”って何?
「貴女も何かが『分かる』のでしょう?」
「……え?え?」
浅海さんは期待するような目で私を見るけど。
……いや、ホント何の話?ワケ分かんないんだけど。
「……心の声が分かる。」
隣でポツリと呟かれた言葉。ポチだった。
「『心の声が分かる』のですか。……それはとても、苦労したでしょうね。」
「いや、まぁ、……えぇ、はい。」
そりゃ、周囲の人間の感情が絶え間なく流れてきて嫌だったけどさぁ。うん。
「……いやだから、『分かる』とかって何それ!?」
ポチに向かって聞いてみたのに、ポチは『フイッ。』って顔を逸らした。なんで!?
「『分かる』と言うのは、生まれつきで持つ“能力”の一種です。」
ポチの代わりに浅海さんが説明してくれる。……浅海さんはなんか具合悪そうだし、遠慮してポチに頼んだのにな。
「“能力”は遺伝によってのみ受け継ぎ、祖先と血の繋がらない人間に能力が現れる事はありません。しかし、全員が全員能力を持つことは無く、精々3、4代に一人程度だと言われています。」
へぇ。遺伝なんだ?っていうか、私や美代みたいな気持ち悪い能力持ちが、浅海伯母さん含め他にもいるんだ。
「『分かる』の能力には特徴が三つあります。一つは女性限定ですが、料理が破壊的になる事。恥ずかしながら私も、料理は全く出来ません。」
うわ。私も心当たりが。
暗黒物質になるのには、そんな理由があったんだ……。道理で、麻美花に教えて貰っても出来ないわけだよ。
「二つ目は“『分かる』の能力者に対しては分からない”事です。」
うん?
「……具体例を上げるとするなら、……美結さん。貴女は今、私の心が読めますか?」
「読めません、けど?」
「私は運命が分かります。こうして、『分かる』を持つ人の心を、貴女は読む事が出来ないのです。」
……なるほど。同じ能力持ち同士は無効化、ってワケね。
「最後の一つです。『分かる』の能力は三種類あります。“思”、“質”、“知”。この内“知”だけは特別で、『分かる』人に対しても分かります。」
うん?『分かる』人に対しても分かる。……つまり、無効化の無効化って事?
「ちなみに、私の『運命が分かる』能力は“知”です。その為、『分かる』を持つ美結さんに関しても分かります。今日ここに美結さんが来る事も、予め知っていました。……しかしまぁ、運命なんてそうポンポン分かる物ではありませんが。」
話しながら、楽しそうに浅海さんは笑む。
「……えぇ。『分かる』は血縁のみの能力なんです。血縁のみです。……さて。そろそろ、心の準備は出来ましたか?私、貴方に色々と聞きたいのですよ。血縁でもないのに『分かる』を持っている事とかを、」
浅海さんは微笑み、ポチの方を見ながら続けて言う。
「ね?熊木くん。」
つられ、私もポチを見た。




