キンキン
「コタツで食べるミカンは、やはり良いですねぇ。」
「うんうん。」
美代ちゃんが完成させた立派なカマクラ。縦横約3.5m、高さ約2m。魔法は使わず、すべて彼女の手作りだそうです。……とても凄いですねぇ。私には到底マネ出来ません。
カマクラの中に机と布団を持ち込み、熱源を魔法で灯してコタツを再現しました。――もちろん、カマクラが溶けたり布団に火が付いて火事になる事が無いように、細心の注意を払い“暖かさ”だけを灯しましたよ。……えぇ、魔力の制御にはとても苦労しました、モグモグ。
コタツには、やはりミカンですよねぇ。甘いですが少し酸っぱくて。ぬくぬくのコタツで食べる冷たいミカンは、とても幸せです。ついでにアイスも食べたいですねぇ。……でもさすがに、それはお腹を壊すでしょうから我慢しますけど。
――あらら?
次のミカンはどこでしょう?机に山と積んだ筈ですが、皮の山しか見当たりません。実の詰まった物はどこでしょう?……もしやいつの間にか、全て食べてしまったのでしょうか?
「ミカン、知りませんか?」
「え。もう無いの?」
「……どうやらその様です。」
美味しいですからね、パクパク食べてしまいます。……そのうち、耳と尻尾がオレンジになってしまったらどうしましょうか?
「もう一度取ってきましょう。」
――さて。コタツから離れるのはツラいですが、ミカンが無いのだから仕方ありません。『ハムぱんまん』さんの用意してくれたミカンを、異次元の自室へ取りに行きましょう。……私の部屋、元々はユア……ハムぱんまんさんの家に繋がっていましたが、現在は切り離されてしまっているのですよねぇ。LもDもKすらない、ワンの部屋で一人暮らし状態です。
そうして一旦カマクラから出た私は、何もない空中にてノブを捻りドアを開けます。
簡素な机とベッド。小さなクローゼットと空きの多い棚。とても殺風景な部屋です。
そんな部屋の中央に置かれた、大きなミカン箱。私はその前に座ると、そこから一つ一つミカンを取り出し始めました。
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「つ、か、れ、たー!」
大量のミカンを抱えカマクラの中に戻れば、美代ちゃんが疲労のあまり溶けていました。
「やっぱ、止めようかなー。ほら、私不器用だし。編み目汚いし。下手クソだし。」
美代ちゃんは今朝から、編み物に悪戦苦闘しています。
一昨日の私に影響されたのでしょうか?
こういう作業は苦手と言いつつも、朝からずっと頑張っているのですよねぇ。
「……追加でミカン、食べますかー?」
「もち!」
グッタリしていた美代ちゃんは、水を得た魚の様に追加のミカンに飛び付きます。
腕に抱えた大量のミカンをゴロゴロと机の方へ転がし、手の空いた私もその一つを取ると皮を剥き始めます。
「うーん。結構、目が飛んでいますねぇ。」
放り出された編みかけの物を、私は観察します。
今回は往復を繰り返すだけの平編みなので普通は長方形になる筈ですが、所々飛ばしているので段を重ねる度に目が減り、台形になりつつあります。
「もう少し、ゆるーく編んだらどうですか?」
不慣れなせいか変に意気込んでいるせいか、編み目がギチギチにきついです。その為、針を入れる場所が潰れて見難いので編み目が飛ぶ様ですねぇ。
「適当ーで良いのですよ、練習ですから。」
「ふぁーい。」
頬にミカンをこれでもかと詰め込んだ美代ちゃんは、次のミカンに手を伸ばしました。
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第一回編み物教室を終えてカマクラの真正面にある家に帰る途中、ふと気になった私は西へ続く道沿いに家の裏手へ回ります。
ここは以前、ララさんに頼まれ斎藤くんを探しに行った時に絶景を拝める事の出来た場所です。
今日は先客がいました。ペタリと雪の上に座った2人が夕日に染められています。――斎藤くんとララさんですねぇ。……おや、何か話している様子。毛糸の帽子を被り寒さから耳を守っているので、声はよく聞き取れません。
よし、さりげなく隣へお邪魔しましょう。
「……直接?」
「そう。」
ララさんが頷きます。……何の話かさっぱりです。
「……大変。」
「……特別だから。」
「うん。」
「……ミ、は?」
突如、斎藤くん越しにララさんが私に話を振ってきました。
「……私、は…………全然、特別じゃないです。」
あの人達の特別になりたいと思った事もありますが、でもそれは偽りの仮面で作られた。中身の無い空っぽな物でしたから……。
「ふぅん……。」
――ハッ!?私は一体何の話をしているのでしょう?彼女たちが何の話をしているかも分からないのに。
でもまぁ二人の様子を見る限り、私の回答に不自然な物は感じなかった様なので、答えとしては合っていた……のでしょうか?
「……帰る。……ヒーくん、またね。」
突如、スクッと立ち上がったララさんは、斎藤くんを置いてあっという間に帰ってしまいました。
――あら?
『ヒーくん』って誰ですか?確か、斎藤くんの事は『フワくん』と呼んでいましたが……。
……ララさんの事なのできっと、大して違いは無いのでしょう。えぇ。
「斎藤くんは帰らないのですか?体が冷えてしまいますよ。」
「…………ん?……あぁ。」
『よっこらせ』と立ち上がった斎藤くんの体が少し蹌踉け、私は慌てて彼を支えます。
「あー、うん。悪ぃ。」
気怠そうな彼に、私は少し違和感を覚えます。――……あ。
「斎藤くん、斎藤くん。さっきまでララさんと何やら喋っていた事を覚えていますか?」
「え?あ、うーん?」
彼は眉を顰め首を捻ります。……あぁ、覚えていないのですね。なるほどです。
「……なんかずっと、……こう、……俺の中に俺じゃ無い人間がいるような。」
ポツリと、彼は呟きました。
「……夢を見るんだ。真っ暗な夢。…………クソ寒いはずなのに、……死ぬほど痛いはずなのに、なーんも感じないんだよなぁー。」
「……それは、貴方ですか?」
「ん?」
「それは貴方ですか?」
自然と私は、同じ質問を繰り返しました。
「……んー。たぶん、違うな。別人だ。」
なるほど。
……もしかしたら彼には、何者かが取り憑いている状態なのかもしれません。ですから時折記憶が飛び、場所も移動している事もあるのでしょう。
害は……ふむ。『勘』曰く特に無さそうですね。夢遊病状態も、時間が解決してくれそうです。
……もしかして、ララさんが彼を『ヒーくん』と呼んだのは、彼が彼でない事に気付いていたのでしょうか?
「……取り敢えず、家に帰りましょうか。」
「あぁ。」
私に、霊的な物へ対処する術はありません。
無駄とは思いますが、美代ちゃんにでも相談してみましょうか?




