フワフワ
ひゃー!寒いです。」
外に出れば、たちまち寒風が私目掛けて吹き付けてきました。上着・マフラー・手袋・帽子の4点セットを着けてきて正解ですね。……あ、帽子から耳は出しません。寒いので。
――さて、何処を探しましょうか。東は街方面。南には例の塔。西方面の道は森の辺りへ続いています。
「……おや?」
正面北方向。開けた平野に、どうやらモゾモゾと動く人影が。すぐ近くには雪がこんもりと積み上がっています。
「……あら。」
近付いてみて分かりました。これは“かまくら”ですね。それも、かなり巨大です。
そしてそれを作っているのは……。
「あ、ミーりん!」
美代ちゃんが顔を上げました。寒風にさらされた頬が真っ赤です。
「凄いですねぇ。一人で作ったのですか?」
「うん、そうだよ。なんか、たくさん積もってるからつい作りたくなっちゃって。えへへ。……でも、高校生にもなって雪遊びしてるなんて、そんな所見られちゃって少し恥ずかしいかなぁ、なんて。アハハ。」
美代ちゃんが困ったように笑います。
「……私は、全然良いと思いますよ?年齢なんて関係ないです。したい事は我慢せずにするべきです。」
「……そっか。ありがとね、ミーりん♪」
あら。ホッとした様にお礼を言われてしまいました。
……正直私は、こんな風に無邪気に遊べる美代ちゃんが羨ましいです。彼女にはこのまま、ずっと純粋でいてもらいたいですねぇ。
「……あの。完成したら、一度で良いので中に入らせていただく事は出来ますか?」
「うん、もちろん良いよ!大歓迎♪」
「ありがとうございます!!」
とても嬉しいです。
私、かまくらに入った事無いんですよねぇ。完成が楽しみです。
――と。
私はふと、外に出てきた目的を思い出しました。
「……あ、そういえば私、斎藤くんを探しに来たのでした。彼を見ませんでしたか?」
危うく忘れる所でした。危ない、危ない。
「んー、確か結構前にあっちの方に行ったよー。今もいるのかは知らないけど。」
美代ちゃんが指差したのは西の方。
「情報ありがとうございます。行ってみますね。」
「うん、いってらっしゃいー!」
----------
しばらく歩けばパッと視界は広がり、眼下は一面が雪景色。そこへ差し込む橙色の光が、周囲を鮮やかに染め上げていました。
「綺麗、ですねぇ。」
「う、ん……。」
神秘的な景色に見惚れて思わず呟いた私に、そっと同意する声が一つ。
振り返って確認すれば――え?斎藤くん??……しかし、何だか彼らしくありません。
私の困惑を余所に、彼は言葉を続けます。
「……前見た時は、もっと赤かった。空の雲は黒かった。地面は荒れ果てていた。……全然綺麗じゃ無かった。」
「えぇと?」
どういう事でしょう?
「……周りは全部火の海で、たくさんの黒い煙が空に上がっていく。…………戦争、だよ。僕が引き起こした戦争。」
「えぇーと?……何の話をしているのですか、斎藤くん?」
少なくともこの国――サナカルア国で戦争が起きた事などありませんよ。
元世界の日本なら……約70年前が最後ですよね?もしや中身は爺さんですかっ!?え、あの、違いますよねぇ??……あぁ、外国の話ですよね??ね?
「……んー?」
ゆっくりと斎藤くんはこちらへ振り向き、眠そうな瞳が私を見据えます。――見つめないでください照れてしまいます、はゎゎ。
「……えぇと、あの……戦争がどうとかいう話、最初から説明お願い出来ませんか?」
「……ん?」
斎藤くんは、はて?と首を傾げます。
「……ですからあの、今さっき言っていた戦争の事について――」
「……なぁ、一つ聞いても良いか?」
「あ、はい。」
首を捻りながら、斎藤くんは言葉を発します。
「……ここ何処だ?」
……ハッ!
いやいやいやいや。……まさか。
「あの!もしや、ここへ来た時の記憶が無いとか言いませんよね?!」
「無いな、全く。」
遠慮無くバッサリですか!!
「ちなみに今の会話、どこまで覚えています?」
「……ん??」
「えぇと……、我に返ったのはどのタイミングですか?」
「んー。……あぁ。お前、俺の名前呼ばなかったか?確かその時だな、こんな場所にいる事に気付いたのは。」
ふむ。
――脳内で先程の会話を再生した所、私が彼の名を呼んだのは戦争云々の後の様ですね。つまり、戦争云々は覚えていなさそうです。
「……ちなみに、今日は何をしていたか聞いても良いですか?出来れば、朝、起きた時からお願いします。」
「んー。……確か、朝起きて、ボーッとしてたらお前が来て、朝飯食って、……昼飯食って、ピンクと緑の奴を紹介されて、……ピンクの奴と少し話して、……んー、名前を呼ばれて振り向いたらお前が居て、今に至る……のか?」
結構、飛び飛びの様ですか……?
「ちなみに、朝ご飯とお昼ご飯の間は何を?」
「さぁ?覚えてねーな。」
「では朝ご飯の時、貴方が椅子に座ってから私が椅子に座るまで、どのくらいの時間差があったのか分かりますか?」
「んー。……1分か30秒か、そのくらいか?」
「ふむ……。」
ハズレです。正解は8分34秒でしたー。
「うーん。考えてみりゃ、結構抜けてるな、記憶。」
「……でしょうね。」
朝ご飯の前、彼がボーッとしていたのを覚えています。恐らくそのボーッとしている時の記憶が抜け落ちているのかと。
「確か、さっきまでリビングの椅子に座ってたと思うんだが……。気付いたら瞬間移動してたとか、なんかホラーだよな。」
「……貴方の体調の方がホラーだと思います。」
「確かに。」
「……ん?」
素直に認めるとは意外ですね。
気になって彼の方を見れば、斎藤くんは不愉快そうに眉間にシワを寄せていました。
「……確かに、な。……起きてからずっと、体に何か妙な感覚が纏わりついてる様な気がする。」
「一週間以上も寝ていたのですから、体が鈍っているだけかもしれませんよ。」
「あぁ、なるほど。」
眉間のシワは消え、納得顔の斎藤くん。
……いやいや。簡単に納得しないでくださいよ!鈍っているからといっても、記憶が飛ぶのはまた別の問題かと。――あ、いえ。弱った体が休息を求め、暇な時間に軽く寝ていたのをボーッとしている様に見えただけという事もあり得ます、か……?夢遊病の如く寝たまま彷徨けば、いつの間にか場所を移動していた事にも説明がついてしまいますねぇ。あれ?あれれ?
――ともあれ。
「日も落ちてしまいましたし、早くお家に戻りましょうか。」
「あぁ。」
答えの出ない事を無駄に考えるのは後回しです。
何せ私には、斎藤くんことフワくんを探し出して連れ帰り、ララさんに献上する使命がありますからね!
ミ 「只今戻りました。ララさん、斎藤くんですよ。」
ラ 「……そう。」
ミ 「斎藤くんに用事があったのではないですか?」
ラ 「……???」
ミ (あ、特に用事があった訳では無い様ですね。只の気紛れですか……。もしくは斎藤くんの状態を察して私を……いや、違いますね、ハイ。)




