テコテコ
「さて、何か質問はありますか?」
斎藤くんが食べ終えるのを待ってから、私は話を切り出します。
「質問?」
『何の事だか分からない。』と言いたげに、彼は首を捻ります。
「例えば、使い魔召喚陣の事。あの不思議な塔の事。この国の事。私の答えられる範囲でなら答えますよ。」
「ふぅん。」
興味無さげな斎藤くん。……あゎゎ。あの、えぇとですね?はゎゎ。
「……えぇと。聞きたい事・知りたい事など、無いのですか?」
「今は特に思いつかないな。」
即答です……。
……えぇ、彼はこういう方でしたね。ハイ。
「……あ、一つだけ。」
ふと何か思いついたように、彼は声を上げました。何でしょう?
「ユアンスって何処行ったんだ?いつもお前とセットだろ。」
――あら。よりによってそれですか。
自然と、瞳を細め冷めた視線で彼を見詰めます。
「……その方の名前、金輪際出さないで貰えませんか?私はあの方に対して怒っていますので。」
鈍感な彼でも察せるようにたっぷりと不機嫌オーラを纏い、抑揚の無い冷たい声で言い放ちます。
「……お、おぅ。すまん。」
素直で宜しい。
私はスッと感情を消します。――彼には何の恨みもありませんしね。それに、がっつりドン引かれてしまっていますから。……別に、豆腐メンタルではありませんから傷付いてなどいません。本当です。本当ったら本当です!……分かりましたか?(威圧)
「さて、これはただの独り言ですがね?」
そう一つ前置きをして、私は簡単に事を説明します。
興味は無くても、彼の耳に入れるくらいはしましょう。流して構いませんから。
――使い魔召喚の日。
名前を言ってはいけない例のあの人から予め簡単な説明を受けていた私達は、自身の召喚儀式が終われば各自教室に戻る所を敢えて戻らず隣の部屋に隠れ、例のあの人と共に待機していました。
斎藤くんが室内に入った時、隣の部屋から壁を(魔術で)突き破りコッソリ侵入。
溢れた光の中に落ちていく斎藤くんに、私達も続いたのでした。
辿り着いたのは、冬真っ只中のサナカルア国。今いる場所は、その東側の地域です。
「冬、か……。」
『冬』という言葉に反応する斎藤くん。
「……何か気になりましたか?」
「いや……。正直、6月くらいの天気だと思ってた。……あー、でもそうだよな。11月って普通に寒いもんな。……あれ?でも11月に雪って、ちと早くね?」
「そういう世界なので。」
『仕様です。』これ、とても便利な言葉ですねぇ。
「へぇ。」
興味を失った様に、気の抜けた返事をする斎藤くん。これも仕様です。……冗談ですよ。ふふっ。
……あ、いやいや。そんな事より。
「何故6月だと思ったのですか?」
「うーん……。梅雨ってさ、6月だろ?」
………?……………あぁ、察しました。なるほど。
確かに森の中に転移した時、名前を言ってはいけない例のあの人がまだ起きる前に、軽く雨が降りましたねぇ。コリアを使用し雨避けのバリアを張ったことを覚えています。
「ちなみに、その時周りに木々はありましたか?」
「あったぞ?」
「木々には葉っぱが生い茂り、傘代わりになったのでは?」
梅雨の印象を抱くならば、葉の色は若々しい緑の筈です。
「あぁ。……でも、少しは濡れるだろ?近くにちょうど良く建物あったし、雨宿りをしに入ったな。」
「なるほど。」
――季節外れの雨。それは、斎藤くんを塔の中へ誘い込む為のものでしたか。
あの塔は『関係者』を引き寄せます。使い魔召喚の魔方陣が暴走し転移陣になったのも、あの塔が何かしらの影響を与えたのでしょう。
名前を言ってはいけない例のあの人曰く、前勇者も使い魔召喚の魔方陣で飛ばされたと言っていましたねぇ。正確には『呼ばれた』と。恐らくその方も『関係者』なのでしょう。
…………。
そういえば。
「斎藤くんの下の名前は確か、“優しい馬”でしたよね?」
確認の意味を込め、私は彼に問いかけます。
「……あぁ、そうだが?」
チラリと台所の方に視線を向けた私は、雛菊ちゃんが聞いていないことを確認してからコッソリと呟きます。
「“椎名優馬”……あの塔の最上階にあった石板の3段目の名前。貴方の事で合っていますか?」
「……っ!……あぁ、まぁそうだな。」
彼は嫌そうに眉を潜めながらも、渋々認めます。――ごめんなさい。私なんかが生きていてごめんなさい。
あの石板に書かれていたのは7人の名前。
日本語名が4人。外国名が3人。
斎藤くんとユアンスさん、それとカルサンス・アネンさんの名前もありました。
それともう一人、気になる名前が。
石板の1段目、スィーラン・メアグさん。
このサナカルア国には『ヤディン・メアグ』という名の偉人がいます。その方と同じ名字ですねぇ。親族ですかね?……気になります。
それともう一つ、大きな疑問が残っています。言わずもがな、カルサンス・アネンさんの事です。
彼は塔から帰ってきた時、瀕死の重症でした。
攻撃を受けたのが行き帰りの時か塔内か、それによって話は変わってきますが、もし塔内ならどういう事になるのでしょうね?
……一つ可能性があるとすれば。
斎藤くんとユアンスさん。
彼ら二人は無傷です。仲間である私たちも同様に。
カルサンス・アネンさん。
彼は重症です。
この二種類を比べ、今の所見つけられた双方の違いは一つだけ。
――石板の名前と名乗っている名前が違う事です。
斎藤くんは“斎藤優馬”ではなく、石板には『椎名優馬』と。
ユアンスさんも同様に、石板に書かれた名は“ユアンス・パスカル”ではありませんでした。
しかしカルサンス・アネンさんはそのまま『カルサンス・アネン』でした。
さて。たったこれだけの違いです。この違いに何か意味はあるのでしょうかねぇ?私の『勘』でも、正確な事が分からないでいます。ミリぺディアに閲覧制限が掛かっているのでしょうか?肝心な時に役に立ちません。
……あぁ、そういえば。
カルサンス・アネンさんの事が、大の苦手なシュラさん。……本当でしょうか?少々気になりますねぇ。
口では嫌いと言いながらも、彼の事をとても気にしている風でした。
……もしや、美代ちゃんの大好きな展開なのでしょうか?
代「あ、三次元は無理だから。」
ミ「あら。……でもユアンスさんは?」
代「んー。アレは例外。」




