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腐った世界で異世界生活(ライフ)  作者: たんぽぽ
第6章 微かな鈴の音
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ポカポカ

朝食を終え、また読書でもしてみようかと無駄なチャレンジを挑もうとしている私は、やはり斎藤くんの部屋を訪れます。なぜなら、あの部屋は暖かくて心地良いですし。


「ふふーん♪」



ノブを捻りガチャリと扉を開けば、バッと振り向いた斎藤くんと目が合います。……そうです。彼は昨日、目を覚ましたのでした。




「あゎゎ……。」


失念していました。どうしましょう!?えぇと、取り敢えず。



「おはようございます、斎藤くん。身体の具合はどうですか?」


「んー。若干ダルい気もするけど、悪い所は無さそうだぞ?」



あら。

今日は目の焦点も合っていますし、受け答えも普通ですね。



「…………ちなみに、私を見て気になる事はありますか?」


私がそう言えば、ゆっくりと上下へ視線を巡らせる斎藤くん。そして答えました。



「……悪ぃ。分からん。」


「デスヨネー。」


やはり、です。彼は私の胸に意識すら向けません。そんなに魅力がありませんか?大きい方が好みですか??……いえ。ここはポジティブに、育つ気配の無い平らな胸を注視されなかっただけ、良しとしましょうか?……ぅぅ。



「……なぁ、ここって何処だ?」


貴方の名は斎藤くんです。……はい、ごめんなさい。記憶喪失ではありませんよね!



「ララさんという方のお宅で、今はここでお世話になっています。」


「へぇ。」



呟く彼は、部屋をグルリと見渡します。




――あら、そういえば。


「あの、起きてから食事ってしましたか?」



今の今まで忘れていましたが、昨日の夕飯時も今日の朝ご飯の時も、彼は食卓に降りてきていません。



「……ララさんか他の誰かが持ってきたとか、そういう事はありましたか?」



「うーん。さっき起きたばっかりだからなー。」


あら?


「……昨日、食事は取っていませんか?」


「んー、朝ご飯なら記憶にあるぞ?お前も一緒に食ったろ?」


……ふむ。


「……恐らくそれは、使い魔召喚当日の話かと。」


「ん??」


「端的に言えば、貴方は1週間以上寝ていました。」


「……マジか。」


「えぇ、マジです。」



……にしても、恐らく。



「……昨日、目を覚ました事を、貴方は覚えていない様子。」


「んあ?」


私の言葉が聞き取れず、聞き返してくる斎藤くん。まぁ、ただの一人言ですから……。えぇ。(涙目)



「……何でもありませんよ。それより、お腹は空いていませんか?」





----------



斎藤くんを連れ、下階へ降ります。


「雛菊ちゃん、ごめんなさい。片付け終わった所申し訳ないのですが、斎藤くんに消化の良さそうなものをお願いできますか?」


「あ、うん。いいよ!」


いきなり現れた斎藤くんにビックリしつつも、雛菊ちゃんは笑顔で頷いてくれました。癒されます。



「……あの、出来れば『スズタン』が良いかと思われます。」


「うん、わかった!」



雛菊ちゃんはテキパキと食材を取り出し、料理を開始しました。


『スズタン』とは、うどんのような食べ物です。うどんと比べて少し細いですが、ちゅるん♪としていてとても美味しいです。もちろん消化も良く、暖かい汁が一緒ならもう最高です!

……あ、私も食べたくなってきてしまいました。朝ご飯を食べたばかりだというのに。



「……えぇと、ミーリャちゃんも少し味見する?」


そんな物欲しそうに見えましたかね?何にしろ、とても嬉しいお誘いです。



「良いのですか!?」


「美味しいもんね、スズタン。」


あの、ちゅるん♪とした食感が堪りません!



「ありがとうございます!嬉しいです!」


目の前には女神がいました。





「……あ、えと、話は変わるんだけど。」


スズタンを鍋に放り込んだ雛菊ちゃんが、遠慮気味に言葉を発します。



「何ですか?」


「……あの、……ゆうまの周りが、すごくキラキラして見えるんだけど。……えと、何かあったのかな~?って、……思って。」



恐らく、彼女の加護《声無きモノとの共鳴》によるものでしょう。

ギルドでステータスを計った際、新たに表示された加護の一つです。……と言っても新たに目覚めた訳ではなく、今までは自覚症状が無かった為に表示されていなかっただけの様です。



「“精”達ですか?」


「たぶん、そうかな?……えっとね、みんなゆうまに近付きたがらないの。……あ、嫌われてるんじゃなくてね、……なんか王様みたいな感じ?……えぇと、近付くのが畏れ多い?みたいな?……畏れ多くて、尊敬?してて。……えぇーと、でも今は『キャー!触っちゃった!』みたいな感じ?ゆうまの周りだけ、すごくキラキラして見える。」


“精”とは、妖精未満の生き物。しかし大して力は無く、基本的には無害で何も出来ない存在です。


精霊(ロボット)と同じく目には見えず、また至る所にいる様ですが、感情の無い精霊とは違い、普段は無邪気に楽しく遊んでいるそうです。中でも特に悪戯が好きで、生き物相手に悪戯を仕掛けることが度々あるとか。……いやいやこの情報、一体何処から持ってきたのです?私の脳ミソさん!?ミリぺディアですか?ミリぺディアなのですね!!

……まぁ、正確性は兎も角『勘』の情報にデマはありませんから良いですけど。




「前回、斎藤くんを見た時の『精』の様子はどうでした?」


「えっと、……前見たのが数日前かな。うーん、こっち来て3日目くらい?その時はもう、すっごい避けられてたよ。近付く事すら畏れ多いみたいで。……シャクト街に居た時は一部の火属さんだけに避けられてたけど、それは嫌われてる感じの“避け”だったから少し違うかな。たぶん、塔に行った後からだよ、畏れ多くなったの。」



鍋の中のスズタンを混ぜながら、彼女は教えてくれました。

……ふむ。塔の後、ですか。



「ちなみに、最近の雛菊ちゃんは何故斎藤くんを避けていたのですか?」


3日目が最後と言う事は、もう1週間近く斎藤くんに会っていない事になりますねぇ。



「はわっ!」


近くに置いてあった鍋の蓋が、ガシャーン!!と大きな音を響かせます。

動揺した雛菊ちゃんの肘が当たり、落ちたみたいですね。



「あゎゎ……。」


「……下手な質問をしてしまい、ごめんなさい。」


「……あ、わ、……ううん。えっと、……えっとね。」


「取り敢えず、深呼吸してスズタンに集中してください。私の質問に対する答えは何時間でも待ちますので。」



『う、うん。』と頷く彼女は、ちょうど茹で上がったらしい鍋の中身をお湯ごとザルにあけます。





――あぁ、やってしまいました。私は馬鹿です。アホぅです。

もっと良い聞き方やタイミングがあったでしょうに。


ザルの中で冷水にさらされる薄緑色の麺がつるん♪と輝き、とても美味しそうですジュルリ。









----------



「斎藤くん、大丈夫ですかー?」



もうすぐ出来るという事で一足先にこちらへ来ましたが、何やら斎藤くんが静かです。明らかにボーッとしています。



「斎藤くーん。」


「……んあ?」



あぁ、ようやく反応しました。



「悪ぃ。ボーッとしてた。」


「大丈夫ですか?調子悪いならちゃんと言ってくださいね?」


「……あぁ。」



なーんか不安ですねぇ。

昨日の事もありますし、定期的に様子をみる必要がありそうです。



「出来たよー。」


その時ちょうど、台所の方から雛菊ちゃんが現れます。

手に持つお盆には、大きな丼と小さなお椀が二つ。



「えへへ……。」


大きな丼は斎藤くんの前へ。小さなお椀は私の前とその隣へ。雛菊ちゃんが照れたように笑います。――美味しいですからね。仕方ありません。









----------


「……ふぁー。」


幸せでした。

ちゅるちゅるの麺と熱々のスープが、もう最高ですっ!


「ご馳走様です。」


「うん。お粗末様です!」


やはり、雛菊ちゃんの笑顔は可愛いですねぇ。癒されます。




「あ、えっと、それで……。」


「斎藤くんは聞いてませんから、安心してどうぞ。」


「あ、はい……。」



先程から、どうやら緊張している様子でしたからね。『勘』に頼らずとも分かります。





「……えっと、私がゆうまを避けてたのはね?」


「はい。」


「……な、なんか、ベッドで寝てるゆうまを見てたら、……この先ずっと目を開けない気がして、……不安になっちゃって、……なんか、これ以上不安が大きくなったら、何も手が付かなくなりそうで、だから考えない様に忙しくして、避けてた感じになったって……いうか?」



俯く雛菊ちゃんは、膝の上でギュッと拳を握り締めます。


「……ユアンスさんに、『リアちゃんの気持ちを私の気持ちだと勘違いしてるだけ』って言われたでしょ?けどね、……リアちゃんが弟君を放っておけないみたいに、私もゆうまの事を放っておけない。……今までずっとそんな感じだったんだけど、……それも勘違いなのかな?……病気になったらすっごく不安になるのも、勘違いなのかな?……たぶん、こんなのゆうまだけ。恩人さんだけど、なんかそれ以上?な気がして………。」



――答えはそのうち分かりますよ。……そう、勘が告げています。しかし彼女には言いません。その代わり。







「……あの、雛菊ちゃんはこれからも斎藤くんにご飯を作ってあげたいですか?」


「…………?もちろん!」


今は、それで良いと思います。



「斎藤くん、目覚めて良かったですね。」


「…………!……うん♪」



目尻に雫を溜めた雛菊ちゃんは、嬉しそうに微笑みました。


茹でる隣でスープもコトコトしてたのになぁ。描写するタイミングが無かった……。

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