ヒラヒラ
物語が、常に優馬くんを基準にして進むんだよねー。……とか思ったから、急遽予定外の話を追加。
先が長過ぎるから、寄り道なんてしている場合じゃないんだけどさ!
「……ちょっと出掛ける。」
「どこ行くんだー?」
スレイさんの問いが聞こえていないのか、ララさんはポヘーっとしたまま玄関の扉を開けました。
「いやいや、待て待て。ちょっと待て!行き先はギルドだな?ギルドに行くんだよな!ついでの用事があるから、ちょっと待て。待てったら待て!」
ドウドウとララさんを引き留めて部屋に引き入れると、開けっ放しの玄関扉から入ってくる寒風を遮断します。
さすが、スレイさんです。ララさんの扱いには慣れている様子。
――ララさんが帰ってきた今、本来ならばスレイさんがこの家に留まる必要はありません。元々、ニャルさんの手伝いがてら遊びに来ていただけの方。ニャルさんが自分の家に喜び帰った今、用事など無いに等しいです。
しかし自由奔放なララさんと、素性も曖昧な私達が一緒に暮らすという事への、不安を感じたのでしょう。(主に、私達を気遣う形で。)その為スレイさん自ら、両者の橋渡し役もしくはクッションとして、今もこの家に留まって貰っています。
――いや、私達は『迷惑でしょうから、出ていきますよ?』的な事は言いましたが……。
しかしこの家の主であるララさんは『何故、出て行くんだろう?不思議。』という風に首を傾げてしまいますし、スレイさんはスレイさんで『俺の部屋は狭いから、女の子3人も住めねーぞ?そもそも男の部屋だし、マズイだろ。』と。
『宿に泊まるという手があるでしょう?』と言えば、スレイさんに『金の無駄。』と一蹴。『ただで泊めてくれる女の家があるんだから、大人しく甘えとけ。』だそうなので、お言葉に甘え、今は有り難くお世話になっている次第です。
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ギルドの内部は一般的な作りとほぼ同等です。入って奥に受付カウンター、左側にクエスト掲示板、右側には厨房があり、建物の中央にはいくつかのテーブルと椅子。ここでは飲食も出来る様です。
ララさんは入るとすぐ、奥の受付へと向かいました。スレイさんも、私達を引き連れて奥の受付へと向かいます。
受付は3つありますが、今開いているのは一つ。確かにギルド内は人がまばらで閑散としています。恐らく、利用する人が少ない時間帯なのでしょう。
ララさんの一つ前には、黒色のローブを着た背の高い男性と水色のローブを着た女性。男性の方が触れている水晶は赤く光っています。
「ではこちらに……。」
三言四言会話した後、そう促されて二人は受付の奥へ消えました。
「……物騒だねー。」
呟くスレイさん。……あぁ、なんとなく察しました。
「あの水晶はステータス測定器。赤く光ったあの人は、指名手配犯か何かですか?」
「あぁ。指名手配って程じゃないかもしれねーけど、何らかの事件を起こした犯人なのは確実だろーな。」
ここら辺の地域はわりと田舎です。そして、田舎は設備が不十分になりがちです。――恐らく、偽の身分証明書でも作りに来たのでしょう。そして発覚、連行ですか。悪い事は出来ませんねぇ。
「ねぇ、なんか……。」
不安そうな顔で呟く美代ちゃん。
「どうかしましたか?」
「え?あ、ううん。何でもない!」
声を掛け聞いてみれば、誤魔化されてしまいました。
ララさんの用事(クエスト達成報告)はサクッと終わり、帰ろうとしたララさんをスレイさんが引き留めながら、私達の番になりました。
私達の用事。それは身分証明書もといギルドカードを取得する事です。
前居た国、シュム国にて住民票とギルドカードのそれぞれを取得していましたが、ここでそれは両方共使えません。
シュム国が外の世界を知らないように、外の国々もまた、シュム国の存在を知らないのです。つまりは、日本のクレジットカードが異世界では使えないのと同じ事です。
その為、現在私達は身分を証明出来るような物は持っていません。しかしこちら側の国々にも冒険者というものがあり、ギルドカードは身分証明書になり得ます。
ですから今回、スレイさんに『ついでだから取っとけ、取っとけ!』と軽いノリで連れて来られました。――しかし、ララさんを強引に引き留めた上、急遽出掛ける事になった私達が支度を終えるまで待たせてしまった状況は、果たして『ついで』と言えるのでしょうかね?
それと何故か、スレイさんに3人分の手数料も払っていただく事に………。――いや、せめてお金は私達で払うと言ったのですけどねぇ?いつの間にか私の財布には、こちら側の国々共通のお金が入っていましたから……。えぇ、恐らく犯人は『ピンチになった時に名前を呼べばすぐに飛んで来るであろう、例のあの人』でしょう。彼には、人の財布の中まで筒抜けなのですか!?物理的に!
「では順番に、この水晶に触ってくださーい。」
ポニーテールの水色の髪に山吹色の大きな瞳。フレンドリーな雰囲気と爽やかな笑顔。如何にも『受付のお姉さん』という方です。
…………但し、その胸はもげろ。
何故、異世界には巨乳の受付嬢が多いのですか?ターゲット客は主に男性ですから、それを見越して狙っているのですかね?彼女が体を動かす度に奴は弾みますが、普通そんなに揺れませんよ?まさか、見せ付ける為にわざと揺らしている訳ではありませんよね?私に向かって?ジャンプしても揺れる事の無い、しっかりとした胸を持つ私に向かって?そんなに巨乳が偉いのですか?そんなに上に立ちたいのですか?――……はい、でもざんねーん。私の(心の中の)友達、美結ちゃんに比べればその程度、大して威張れるものでも無いのですよぉ~おほほほ。上には上がいるのです。分かったのなら、その無駄な脂肪を私にください……。
「次の方、どうぞー!」
目測Cカップの受付嬢さんが、邪気の無い爽やかな笑顔を私に向けました。
……さて、最後は私の番です。
私はそっと水晶へ手を伸ばします。
指名手配の心当たりはありませんが、少しだけドキドキしています。何せ、私の今この姿は偽物の姿ですから……。
ヒヤリと冷たい感触が手のひらを伝い、一瞬だけ肩が震えてしまいました。
そしてすぐに、目の前に広がるのは白の光。その中で、銀色の光が意味のある言葉を作り出します。
「隠したい項目は隠して良いですよー。」
受付さんの声。……なるほど。
目の前では銀色の文字が輝いています。恐らくこれは、私のステータスなのでしょう。
シュム国では“DNAと素質”を重視し測定していますが、こちら側の国々では“魂”のデータを読み取り、それがステータスに変換されます。
ですから、私の名前の欄には――。
……名前を隠すのは不味いでしょう。不審がられてしまいます。
ですから。
――……今の私の名前は『ミーリャ』です。『――――』ではありません。私の名前は『ミーリャ』です。『――――』ではありません……――
目を瞑り、心の底から願います。
ユアンスさんから貰ったペンダントが、僅かに熱を帯びました。
そして十数秒の後、私はとある確信を得ると閉じていた目を開けます。
白い光が眩しいです。目を細めつつ確認すれば、銀色に輝く『ミーリャ』の文字。本名は何処にもありません。
――ユアンスさんから貰った、一つ目のコリア。それのお陰で偽装は成功する、と私は分かっていました。
あともう一つ、加護の欄も消して。
私は確認の終了を告げました。
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「またFからかー。」
帰り道。
黒いカードを見つめ、溜め息をこぼす美代ちゃん。
黒いカードは一番下のFクラス。クラスが上がるごとに色が変わります。
「えぇと、……前もそんなに高くなかったよ?」
確か、彼女達のシュム国側のランクはD目前のEだったかと……。私?私は万年Fランクですよ!悪いですか!……誰かさんにくっついてばかりで、特に依頼を受ける事もしませんでしたからね!上げる理由も、特にありませんでしたし。
「なんかー、『一番下』ってのが嫌なの!だってサボってるみたいじゃん。」
そういえば、美代ちゃんはとても頑張り屋さんでしたっけ。自身の能力に見合う最低ラインを決め、努力し、結果がそれより下だった時はとても悔しがっていたのを覚えています。
「FからEなんて、すぐ上がるだろー。どうせなら手伝ってやろうか?俺、Bランクだから結構使えると思うけど。」
「遠慮します。」
美代ちゃんが即答しました。……まぁ彼女は、男性が苦手ですからね。
「……ナンパ、失敗?」
「ぐっ……。」
ララさんの指摘に、スレイさんは小さく呻きます。――恐らく、彼からしてみればナンパのつもりでは無かったと思いますが、結果的に手荒くフラれている形になりますので、そこにグサリと来てしまったのでしょうか?
「な、ナンパじゃねーし。ただの親切心だし?」
「……そう。」
彼の強がりに対し、ララさんは無関心な返事を返します。恐らく、言葉から滲み出る気持ちそのまま、全くの興味が無いのでしょう。スレイさんはまたしても『ぐっ……。』と呻き、胸を押さえます。
さて、何だか面白そうですね。つついてみたくなりました。
「スレイさん、スレイさん。急に胸を押さえて、どうしたのですか?誰にやられたのでしょう?取り敢えず、ララさんに見て貰いましょうか。って事で、この街のど真ん中にて全ての衣類を脱ぎ捨て、ここで正座し、通りすがる人からチラチラと意味深な視線を浴びつつ、一糸纏わぬ姿で1時間ほど羞恥心に耐えていてください。ララさんを含め、私達は先に帰りますけど頑張ってください。応援しません。」
「ふぁ!?そこは一応『応援してます!はぁと♪』って言う所だろ!つか、何で俺は自主的に、羞恥プレイしなきゃなんねーの!?変態か?ちげーわ!十分健全だよ!っていうか、容態を見る前提なのに、何で当のララは帰る事になってる訳?何の為に脱がせたの?見捨てるの?嫌がらせなの?そういや、なぜ正座しなきゃならんの?
つか、何で俺は街中で、こんな下らない事を叫んでいるのだろうかー!!」
「……お疲れ様です。」
私はポーカーフェイスのまま、彼へ一礼します。
「無表情!?お前が振ってきたくせに『街中で何してんのコイツ。』って目で見ないでくれるぅ!?」
「……丁寧なツッコミ、感謝します。今後も定期的にお願いします。」
「やらねぇよ!?」
……さて、スレイさんも元気になった様ですし、いい加減帰りましょうか。ララさん達の姿が見えませんので、迷わないか心配ですけど……あぁ、私には『勘』があるので問題はありませんでした。
「……ふっ。」
「笑った!お前今、俺見て笑っただろ!」
「いいえ。笑っ……ふふ……てなどいません。」
「笑ってるじゃねーか!」
ふふふふっ。
あー、可笑しっ。
私もまだまだですねぇ。
ふふっ。




