タクタク
「熱、下がらないですね……。」
温くなったタオルをずらし、彼の額に手のひらを乗せた私の口から、ふとそんな呟きがこぼれました。ハッと我に返った私は辺りを見渡し、誰も見ていない事に安堵します。
――どうやら、ボーっとし過ぎた様です。
気を取り直し、私は温いタオルを冷水の入った桶に浸します。そして桶の中に入っていたもう一枚のタオルを絞り、彼の額へ乗せました。
……まぁ、こんな事はやはり無意味ですけど。
あれから5日。斎藤君の容態が良くない事に変わりはありません。
一昨日にもユンさんに定期検診をしていただきましたが、何故か魔力が回復しておらず治癒能力も働いていないそうです。外部からの治癒魔法は、魔力が溜まること無く流れ出してしまう為に不可能。元最上位風属妖精のフゥさん曰く、今は他者からの魔力を受け付けない状態にあるそうです。
ですから私がせっせと額に冷たいタオルを乗せていようと彼の容態が良くなる訳が無く、熱が下がることもありません。あぁそういえば、通常の風邪等の場合でも額を冷やしても解熱効果は無いんでしたっけ。
つまり、私のしていることは無意味でしか無いのです。あぁ、私の存在自体が無意味でしたね。
料理も出来ません。洗濯も出来ません。掃除も、皿洗いすらも出来ません。何も出来ません。
一度、買い物について行った事はありますが、この辺は皆善良な店ばかりである事を確認して以来、私は留守番係り、もとい自宅警備員です。自宅警備員と言いつつ、業務は暇です。なので暇潰しにと本も読んでみましたが、内容は自然と『勘』で理解してしまうので結局読む意味が無くなってしまいます。ならばと斎藤くんの看病をしてみているものの、彼は点滴と同等の魔法にて辛うじて命を繋げているのみです。私が看病しようがしまいが、意味なんてありません。すべてが無意味です。
暇潰しに展開されていく思考は堂々巡り。これは、一体何度目でしょう?48回目などという答えは求めていません。そんな答えに意味なんてありません。やはり、すべてが無意味です。
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「……んん。……私のおーちに人がいる。」
「ひゃん!?」
ボーっとしていた私は、突然聞こえてきた声にビックリして変な声を出してしまいました。恥ずかしいです。
扉の方を見れば、見慣れない女性が部屋の外からこちらを見ていました。
薄桜色の髪は腰まで長く、真っ直ぐなストレート。テグスの様に透明感がありとても美しいです。
眠たげにこちらを見る瞳は、綺麗な桜色。肌は雪のように白く、整った顔立ち。まるで本物のお人形さんみたいです。
「……大人の営み中?……邪魔した、かも。」
「へゎゎゎ!?違います、違います!そんなことしませんよ!」
「……ん。」
慌てて否定する私に顔色一つ変えず、軽く頷いた彼女は部屋の中へと入って来ました。
「……聞いてる。……否定しなくて大丈夫。」
「いや、恋人じゃないですし!誰からそんな話……あ、えっと?」
彼女の言葉を、『直感』で補填していきます。
「……私達がなぜこの家にいるのかという事は、帰ってくる途中に寄った騎士団の詰所にてシュラさんから聞いているので、『私達は貴女の留守中に入り込んだ泥棒ではないです!』と否定しなくても良い、と言う事ですか?」
「……ん。」
彼女はコクリと頷き、私の解釈を肯定します。
ちなみに“大人の営み云々”は、事情を知った上で冗談として言った事の様子。……いや、言葉の欠落が酷すぎません?ボケと真面目の差が皆無で、『勘』が無ければ誤解に誤解を生んでましたよ?!
「……かなり重症。」
「はい?」
私が脳内ツッコミを繰り広げている間に、彼女は斉藤君の診断をして結論を出したようです。
「……花が咲いた。……水を変える。……私の水は嫌。」
優しく響く言葉。
恐らく彼の診断結果でしょう。私には、ちょっと意味が分かりません。ごめんなさい。
あぁでも『私の水は嫌』とは、『私の魔力を受け入れるのは嫌なんだね。』というような意味でしょうか?自信は無いですけど。しかしそうすると『水を変える』とは『魔力を変える』という意味に……?むむむ。
「……大丈夫。……逃げないで。……怖くない。……力を貸してあげて。」
静かに紡がれる言葉。やはり意味が分からないですけど!
しかしそれだけで、……何かが変わった気がします。何故でしょう?妙な感覚です。
「……あれ。人がいる。」
顔を上げた彼女が、私を見て首を傾げます。
「……ビックリ。」
「あの。私は最初から、ここに居ましたけど……。」
「……気付かなかった。」
最初部屋に来た時、言葉を交わした筈ですが……。
えぇと、どうやらフワフワした方ですね。
「あの。失礼ですが、貴女がララさんですか?」
「……ん?」
『はて?』と、彼女は心当たりが無さそうに首を傾げます。
……え。違うのですか!?確かララさんという方は、この家の持ち主で、医療知識を持ち、しかしとてもルーズな方でしたよね?
ルーズか否かはともかく、先程『私のおーち』と仰っていましたし、斎藤くんの容態を見て何かをしていましたから、恐らくこの方がララさんで間違いないと思うのですが……。
「あの、貴女の名前を伺っても宜しいですか?」
「……私?……えーと、51番……だったかなー?」
「は、はい?……『51番さん』ですか?」
番号呼び……ですか?
「……む。おーちが賑やか。」
私の質問には答えず、フラりと部屋を出ていく彼女。
ふむ。どうやら、買い物に行っていたニャルさん、雛菊ちゃん、美代ちゃんが帰ってきたようです。ついでにスレイさんも。
私も彼女を追い掛けるように部屋を出ました。
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「ニャー!ララ、やっと帰ってきたのニャ!」
下に降りれば既に、ニャルさんがフィーバーしていました。
しかし、やはり彼女はララさんだった様子。あ、ちょうど良いですから、詳しそうなあちらの方に聞いてみましょうか。
「スレイさん、スレイさん。ちょっと良いですか?」
部屋の隅にて、暇してそうな彼に話しかけます。
「おー?何だー?」
「ちょっと聞きたいのですけど、あの方が例のララさんという方ですか?」
「そうだが?」
「えぇと。先程、斎藤くんを診ていただいた様なのですが、その時に名前を伺った所『51番』と仰っていまして……。」
「あぁー。」
スレイさんは、呆れたように苦笑いを浮かべます。
「あいつ、よく自分の名前忘れるからなぁ。」
「あら……。」
不思議な方だとは思っていましたが、そんなに……ですか?
「しかも、正確にはあいつ、67番だし。」
……えぇと?
若干ツボにハマったらしく、スレイさんは笑いながらも話してくれました。
「俺ら、……えぇと、ニャルとララと俺な?……俺ら3人は、元奴隷なんだよ。で、奴隷に小洒落た名前なんて無く、適当に振られた番号が名前になるワケ。結局はシュラんとこの婆さんに助けられて、こうして普通の名前も貰ったけどな、……で、ララだけはどうも、名前に執着がないらしい。他人から名前を聞かれても奴隷時代の名残か、番号で答えるんだよ。しかも適当な数字言うから、毎回違くてさー。」
彼らは元奴隷でしたか……。下手な質問をしてしまい、申し訳ないです。
幸いにも、彼は特に気にしていない様子ですが……。
しかし彼らが名字を名乗らなかったのは、元奴隷故に“名字を持っていなかったから”でしたか。この辺の国で名字を持たない方は孤児である方が主ですから、てっきり彼らもそうであると思っていました。
『にしても51番とか!掠りもしねぇww』と爆笑している姿からは、彼が奴隷だったとは思えないでいる自分がいます。
「……確かサナカルア国の奴隷は、特に酷いと聞いたことがあります。」
この国での奴隷は法整備がされておらず、扱いは最悪。ヒト扱いなどされる訳がなく、正に金持ちの玩具。当然の様に、肉体も精神もボロボロに壊されます。
「まー、俺とニャルは力仕事メインの奴隷だったから、そこまで酷くなかったぞー。……それに、あの頃があったからこそ、今がめっちゃ幸せに思えるしな。」
ヘヘッ!と、スレイさんは楽しそうに笑いました。
9月30日ですよー!
腐世界さん、改稿したいなー目標日です。まぁ出来なかったですけど。
でもでも、これ以上伸ばしてもだらだら長引くだけだと思うから、
>> 感想欄解禁するっ! <<
ぅぅ。怖いw 感想いりません。コミュ障だから返せないのです!
感想来たなら返せるように頑張るけど、すさまじく精神削るからヤメテ!!
でも、アレなのです。ミスってるところの指摘は欲しいかもって。
特にミーリャちゃんのデスマス口調は、たんぽぽには使い慣れていなくて不自然なところが多い気が……。(チラッ)
ただし、4章までの指摘は改稿してからにしてください!説明不足なのは重々承知してるから!!
……そのうち、感想来るかもしれない恐怖に負けて、また閉じるかもしれないけれども。
あ、新しい小説さん、10月1日1時に投稿ですよー。
読んで欲しいとは言わない。読みたいなら読めば?的なスタンスで。(ごめんなさい!)
まぁ自慢できるようなものじゃないし、あれを面白いと感じる事の出来る人はきっと少ないから。
だから『面白いから読んで!!』なんて言わないし、無理して読む価値も無いと思うよ。




