↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐った世界で異世界生活(ライフ)  作者: たんぽぽ
第6章 微かな鈴の音
123/154

シトシト

雨は降っていませんけど……。

「あ、そういえば神宮寺くんが夢斗くんに押し倒されたアレは最高!」


「確かに……。あの時の神宮寺くんの動揺具合は、なかなか可愛らしかったですね。しかし、事故とはいえ押し倒してしまった側の夢斗くんは……。」


「グハッ!(吐血)」


美代ちゃんは、幸せそうに口元を押さえます。……彼女とは、こんな話ばかりですね。楽しそうで何よりです。




「あら……?」


目の端に捉えた小さな影。自然と、私の視線はそちらを見ます。

窓越しの雪景色。雪の積もった道の真ん中で、一匹の獣がこちらを見上げつつ、行儀良くお座りをしています。


三角形の耳に、ボリュームのあるフワフワな尻尾。

鮮血色の瞳と凛々しい顔立ち。その中に隠された鋭利な牙。

――大きな犬、……もしくは狐?……いえ、『狼』ですか。


紺色の美しい毛並み。しかし耳と尾の先っぽだけは白銀に輝いています。

――私はあの耳と尻尾を、見た事があると思われます。……塔に入る直前に。


あの狼の耳や尻尾は、『彼』に付いていたものと同じ様に思えます。もしくはそれに準ずるもの……。



「……ユアンスさん?」



私は慌てて部屋を飛び出しました。





----------




外に出れば、あの狼さんの姿は消えていました。

代わりに、狼さんの座っていた場所には布に包まれた小さな包みが一つ、残されていました。



……そういう事ですか。

いくらか悟った私は、包みを開きます。


すると中には3つのペンダント。――そのうち一つには紐が付いていないようです。

ひし形の平面形。色は赤、橙、桃。――赤が雛菊ちゃん、橙が美代ちゃん、桃が私、ですか。紐が付いていないのは桃色のペンダントです。恐らく私の分は、今付けているペンダントに追加しろ、って事なのでしょう。

水色……美結ちゃんの分は無いようです。――つまりはそういう事です。




包みには簡素な手紙も入っていました。


まず、このペンダントは言語翻訳機能の付いた半永久稼働型コリア、だそうです。

……つまり、付けていさえすれば文字を読む事も出来ますし言葉も通じます。

コリアは中に術式が組んであるので、必要魔力は最小。稼働するにも一度魔力を流してしまえば、後はペンダント側が勝手に魔力を取り込むので、魔力操作に意識を割く必要はありません。相変わらず、コリアは有能です。



――さて、手紙の内容へ戻りましょう。


二行目の内容は、しばらくは私達と合流出来そうにない事。

一年という約束が終わる時までには必ず迎えに行くので、それまでにこの世界に残るのか、それとも元の世界に帰るのか、決めておいてほしい、と。


……前にも言いましたが、私は元の世界で作り上げたすべてを捨てて、この世界に飛び込んで来ました。今さら戻るなんてあり得ません。答えは一つしかないです。



手紙の最後には追伸として、美結ちゃんは無事である事。ユアンスさんと一緒なので心配しなくていい、という事が書かれていました。


3行しか無い簡素な手紙。




……一つ、良いですか?







「ユアンスさんなんて、大っっっ嫌いですー!!」







ユアンスさんがいるであろう森へ向かって、私は叫びました。


……あぁ、でも。

私はきっと、ユアンスさんとはしばらくは会えない事が分かっていたようです。

数日ではなく数ヵ月。

大きく違うのに、それほどショックを受けていない自分がいます。……こうなる事が分かっていたのでしょう。勘が良すぎる自分に、怒りさえ芽生えます。


――しかし。


ミーリャという人間(……兎人?)でいられる期限は、あと5ヶ月。

ユアンスさんと会えるまで、あと5ヶ月。

ユアンスさんと一緒にいる美結ちゃんに会えるまで、あと5ヶ月。


一歩を踏み出すのが遅くなったばかりに、美結ちゃんとは友達になれないじゃないですか!

ユアンスさんも、約束の時が過ぎれば一緒にいられなくなるかもしれませんし。



「ぅぅ……。」


ジワリと潤む視界。

少しだけ……少しだけ、泣かせてください。……泣くのはもう、今日で最後にしますから。




「ミーリャちゃん。」


暖かい手が、私の背中を擦ってくださいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。