トロトロ
フッと意識は覚醒しました。
瞼を開けば、そこは真っ暗です。どうやら夜中……みたいですね。
……今、何時でしょう?
スマホを探り、画面を確認します。
「3時26分……。」
発せられる光に目を細めてしまいました。眩しいです。
――段々に思い出してきました。
そうです。塔が崩れ、私達は落ちたのでした。
私の勘では恐らくあそこは最上階だったのですが、……痛むところはありませんね。怪我等はしていないようです。
――では、ここは?
体を包むのはフカフカなお布団です。ベッドの上……ですよね?仄かにラベンダーのような香りがして落ち着きます。
……あ、良い香りのせいでお腹がペコペコな事に気付きました。
そういえば昨日は、お昼も夕御飯も食べていませんでした。そりゃお腹も空きますね。
私はベッドを降り、スマホの明かりを頼りに部屋の外を目指します。
他人の家の中を無断でうろつくのは良くない事ですが、ここに居ても無駄に時間を過ごしそうです。
私のベッドの隣では美代ちゃんが寝ていました。きっと他の皆も、誰かがここに運んでくれたのでしょう。
私は美代ちゃんとは反対側にある扉へ向かい、部屋の外へと出ました。
「寒っ。」
えぇと確か、こちらはもう冬真っ只中の筈です。太陽の昇る前の、一番寒い時間ですしね……。
凍える空気の廊下を進みます。
廊下はまだ薄暗いですが、近くの階段から下階の明かりが見えました。こんな朝早くに、誰かが起きているようです。
私は下階へ降りました。そして、光の漏れる部屋を覗きます。
そこはキッチン兼リビングのようでした。赤毛の女性が、鼻歌混じりに青物を刻んでいます。
……寒いです。冷たい廊下と接する足が冷えてきてます。なので、行きましょう。
「お邪魔しますー。」
ソローっと、暖かな部屋の中へ滑り込みます。そしてパチパチと音を立てる暖炉のそばへ。
温いです。幸せです。なんだか眠くなってきました。さっきまで寝ていたのに。
「******。」
私の声が届いていたのでしょう。赤毛の女性が手を止め、こちらへ来て下さいました。
「****?」
しかし、言葉が分かりません。
失敗です。ユアンスさんに言葉の問題を聞くのを忘れていました。正直、この事は思い至りませんでした。シュム国では普通に話せていましたし……。ユアンスさんからも言われる事はなかったので、彼も忘れていたのだとは思うのですが。
そして、ユアンスさんと斎藤くんなら問題無く言葉が分かるでしょう。ですから彼らに通訳して貰えば良いのです。……しかし、こんな朝早くに起こすのは少し申し訳ないですね。この案は却下です。……さて、どうしましょう。
「******?」
あ、なんか、首を傾げて心配そうな表情で、彼女は何かを聞いてきている気がします。
「ごめんなさい。言葉が分かりません。」
言っている事は分からないでしょうけど、意味は通じる筈です。
っていうか正直、勘で言葉を補填していけば言っている事の意味は理解出来ますけど、それは一方通行で私の言いたい事は伝わらないんですよね。しかも曖昧なので誤解を生む可能性も。
「****。」
『どうしたらいいかな。』という感じですか。……本当、どうしましょう?
「あ。」
直感が働き、私は彼女に知らせるべく彼女の後ろを指差し示します。
彼女は慌てて飛んでいきました。鍋が吹き零れそうだったのです。
……いえ、間に合わず吹き零れてしまいましたが。
私に構ったせいですね……。
心の中で『ごめんなさい。』と呟きます。ユアンスさんにも注意されましたが、自己否定の癖は治りそうにありません。
しばらく暖かな暖炉の前でポーとしていれば、次に起きてきたのは雛菊ちゃんでした。
扉の隙間からそっと覗いていた彼女においでおいでをすれば、小動物のように此方へ小走りで駆けてきます。何だかそれが、可愛らしくて和みました。
私と同じく暖炉の前に座る雛菊ちゃんですが、私と彼女の間には妙に距離があります。
私に近付くことを遠慮しているのでしょうか?これが心の距離ってヤツですか!……うぅ(泣)
――仲良く……なりたい、です。
しかし私はダメな人間です。ですから、誰かと仲良くなれる自信がありません。
正体を隠しているという後ろめたさからでしょうか。
隠しているものがある今、心を開けと言われても全てを曝け出す訳にはいきません。
“時期が来るまで” それがユアンスさんとの約束です。
時期が来てしまえば、私は私に戻るのです。戻らなければいけません。それは、……嫌、ですね。
……せっかく生まれ変わった気がしていたのですけど、……やっぱり私は私のままです。臆病で、常にビクビクしているままなのです。
でも、変わりたい。仲良くなりたい。終わりが来るまではせめて、私じゃない私のままで……。
暖炉の中の、オレンジ色に揺らめく炎を見ながら、そんなことを思います。
――私は嘘つきです。 昔も今も。
一旦休載したいなー。 って考えるほどに、5章のせいで燃え尽きてストック0文字……。次話はいつも以上に遅くなるかもしれません。(って言っておけば、筆が進むはず。天邪鬼。)




