チリチリ
6章のタイトルはオリジナルオノマトペです。実際の意味とは違う使い方をしている事があります。
「しーくん!」
よく知った声に、彼は嫌々振り返る。
「しーくん!」
『鬱陶しい。』そんな感想を抱きつつ眠そうな目を向ける彼に、彼女は変わらぬ笑顔を向けた。
「ねぇねぇ優馬くん!私、良いこと思い付いたの!この園にはさ『ゆうま』って子が他にもいるから、君の事は『しーくん』でどう?」
早口で捲し立てる彼女に向かって、彼はダルそうに口を開く。
「そいつなら、この前出て行ったじゃん。」
「え……。」
「…………。」
彼が言うのはもちろん、里親に引き取られて行ったという意味で。
バッサリと口実を潰された彼女の、キラキラしていた瞳からは光が消える。
「あ、ははは。ま、まぁ良いんだよ……そんな事は……うん。」
「…………。」
愕然とする彼女に、彼は構わずいつもの仏頂面の無言を貫く。
「う、うん。そんな事より!!」
立ち直るのが早い。
ガッ!!と彼の肩を掴む彼女の瞳は、またキラキラとしている。口実とかは捨てたらしい。
「何で『しーくん!』か、知りたくない?」
「別に。」
興味無さげに即答する彼に構わず、彼女は続ける。
「あのねあのね、優馬くんの名字は『椎名』でしょ?だから『しーくん!』」
自らを捨てた母親と同じ名字だからか。 普段動かない彼の表情が、嫌そうに歪む。
「でね、私は『木嶋』って名字だから『きぃ姉』って呼びなさい!しーくんと同じだよー♪」
不快を露わにする彼に構わず、彼女は彼を人形のように抱き上げる。
「しーくんはお母さんの事が大好きだもんね。」
イヤイヤと無言で否定する彼だが、彼女はそんな事に構わない。
「大丈夫だよ、しーくん。」
呟くように言う彼女は、彼の小さな体を優しく抱き締めた。
彼を『しーくん』と呼ぶのはただ一人。
他の誰がその名で呼び掛けても、彼は反応を示さない。
『きぃ姉』から発せられる『しーくん』にだけ、反応をする。
『しーくん』は『きぃ姉』にベッタリで、他の誰とも関わらなかった。
――彼が、里親となる女性に引き取られるまで。
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「熱、下がらないですね……。」
あれから5日。
未だに彼は、目を覚ましません。




