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腐った世界で異世界生活(ライフ)  作者: たんぽぽ
第5章 呪われし魂の集う場所
115/154

あなたに会いに行けば。

【???、+α side】


必死で伸ばした手は何にも触れない。触りたいのに、全然届かない。


前に行きたい。それなのに、私の体にナニカが触れる。ナニカは私の体を絡め取る。

見れば、真っ黒で禍々しい手、手、手……。たくさんの手が私を掴み、後ろへと引く。

私は抵抗するけど、子供の力じゃ簡単に負けてズルズルと引き摺られていく。


嫌だ嫌だ!

暴れても、どんどん距離が離されて行く。そうしていつの間にか、周りには誰もいない。黒い手は闇に溶けた。

ひとりぼっち、闇の中。



――どうして駄目なの?もうずっと会えないの?

私は一人、涙を流す。


嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!








いつしか泣き疲れた私。


真っ暗で寂しい闇の中。

凍えるような風が寒くて、体がブルリと震える。


動きたくない。

でも、私は立ち上がる。前へ一歩踏み出す。


探さなきゃいけないから。

助けなきゃいけないから。


道が分かる訳じゃない。

だから、さ迷う。

辺りは一面、闇世界。もうここが何処だかわからない。


それでも歩く。探すために。

――何を?

……分からない。だけど、とても大切なもの。



たくさん歩いた。

そして見つける、金の光。


私はそれを抱き締める。

会いたかった。ずっと会いたかった。


金の瞳が私を見据える。

私も金の瞳を見つめる。


そして、金の光は鮮血に染まった。




――それが私の最後の記憶。


----------



私はふと、目を覚ます。

知らない森。でも懐かしい空気。


ずっと知らない世界を見ていた。

妖精さんのいない世界。それは酷く寂しい事。


でも私は一人じゃなかった。

意識の大半は寝たまま、私を留めている肉体が成長していく様を夢として見ていた。

親となった肉体は子を産み、私はその子へと住み処を移す。そしてまた子は親となり、そのまた子へと私は受け継がれる。


そうして私は生きていた。

彼女達の人生をずっと、夢として見続けていた。


そうして今、目を覚ます。

この森に来たのは『異世界召喚』というものらしい。今の肉体が好んでいたのを覚えている。


でも私にとっては『故郷』であり、『帰ってきた』という思いが強い。

そして思い出すのは『私の気持ち』。


だから私はもう一度眠りについた。ここは違う。ここはまだ、とても遠い場所だから。



そして二度目の目覚め。


そこはまた森の中。

でも近くに湖がある。その湖に――が沈んでた。

助けて、助けて、苦しい!って、叫んでた。


私は――に手を伸ばす。でも届かない。

誰かが引き留めるように、私の肩に触れた。 邪魔!

――が、――が、苦しんでるの!助けなきゃ!!









「ねぇあなた、私とお話ししてくれる?」


リンとした透き通った声に、私は振り返る。


肉体の知り合い。でも私は知らない。

知らない人だけど、それでも『大丈夫。』って思える。



「あなたの名前は?」


聞かれたことは簡単なこと。だけど、……何だっけ。全然覚えてない。


『××の様に++++な子に育ってほしい、って願いを込めたの。』

靄がかかったように、思い出せない。



「じゃあ、質問を変えるね。ここに何があるの?」


そういって、肉体の知り合いは湖を指差す。

見えないのかな?――が湖の底で苦しんでる姿が。



「……シー君、が、ここに寝てる、の。……助けない、と。」


自然と口が動き、言葉を発した。

でも、シー君って誰?



「シー君?」


私から勝手に滑り出た言葉を拾い、それを不思議そうに聞き返してくる知り合い。でも、私にもわからない。……なんだろう。懐かしい響き。



「……私の弟。」


またも勝手に、私の口は動いた。

……湖に沈んでいる子はシー君で、シー君は私の弟なの?



「弟?」


「……うん。……お父さんに連れていかれて、それでシー君と会えなくなっちゃって、そしたらお母さんに――あれ?」



自分の言葉で思い出す。


弟を助けたくて伸ばした手。何にも触れず空(くう)を掴む。

弟はお父さんに引きずられて行き、私はお母さん達に引き止められた。それに私は必死に抵抗したけど、シー君は連れていかれちゃって……。


――それで


それでどうなった?

シー君はどこ?私は何でここに、一人でいるの??


「……わからないわからないわからないわからないわからない。シー君どこ行っちゃった?どこどこどこどこ?」



思い出せない。

わからないよ!


シー君シー君シー君シー君シー君どこなの?どこにいるの?誰か教えてよ!わからないわからないわからないよ!



『……お姉ちゃん。僕はここにいるよ。』


「……シー君!?」



風の中、微かに聞こえた懐かしい声。


私は立ち上がり、走り出す。

ちょっと体が重いかな?でも、シー君が待ってる。急がないと。






----------





洞窟の中は、嫌なものが蠢く。私が進むのを妨害しようとする。


『私達は関係者です!邪魔しないでください!』


私の近くで響く声に、嫌なものは姿を潜めた。

何だろう?分からないけど、私はこの人を知っている気がする。



『リア、走って!シュラの所に行くのでしょう?』


「うん!」


わからない。もうちょっとで何か思い出せそうなのに。




考え事をしていたからかな?


『リア!』


叫ばれると同時、私の体は傾く。洞窟が途切れた所で、地面は砂へと変わっていた。


私はそのまま、砂の中へと吸い込まれる。

脱出出来ない。身動きも取れない。


――ここで死んじゃうのかな?


顎の下まで砂に埋もれた辺りで、突然纏わりついていた砂は消えた。



気が付けば、私は地面に座っていた。


『こっち……こっちだよ、お姉ちゃん。』


しばらくぼんやりしていると、シー君が私を呼んだ。


私は走る。

疲れなんて知らない。シー君が待っているの。



「いや、待てよ!」


誰かが言うけど、私は行くの。

シー君の所に。






----------



気が付けば、また黒い闇の中にいた。

体が軽い。


見れば、私は『私』だった。

肉体が、あの子のものじゃなくなってた。

少し透けてる気がするけど、動く分には問題ない。


『お姉ちゃん。』


「シー君!?どこ?」


私は走る。闇の中、金色の光を探す。


息は切れて、それでも走る。そうしてやっと、みつけた。

私は手を伸ばす。大好きな、大好きな弟に。



『リア、違う!』


誰かが叫ぶのと同時。

私の体は後ろへ引っ張られる。


「離して!」


振り向けば、そこには小さな子が一人。

重たそうな白い髪にボロボロの服を着た子。


「離しなさいよ!」


私が強く言うとその子はフルフルと頭を振り、より一層私を強く抱き締める。



『リア、あれは幻想!囚われちゃダメ。』


「邪魔、しないでよ!」


私は叫んで彼女を否定し、白髪の子を引き剥がす。

ガンッと大きな音がして振り向けば、その子は床に頭をぶつけていた。


「邪魔するから、痛い目に遭うの!」


私は言い捨て、またシー君に手を伸ばす。

すると片足に何かが纏わりつき、前に踏み出すことが出来ない。


見れば、白髪の子が私の左足に縋り付いていた。


「離して!離してよ!」



自由な右足で、彼を踏みつけて引き剥がそうとするけど、ビクともしない。

彼は必死に、私にしがみつく。


「離して!離して!離して!離して!離して!離して!離して!離して!」


『いい加減にしなさい!リア!』


頭をガンッと、何か鈍器で殴られた気がした。

彼を蹴り始めていた私の足はピタリと止まる。



『よく見て!あれは貴女の弟?』


私の頭の中で、彼女は前方を指差した。


目の前に佇むモノ。

スカイブルーの綺麗な髪に気弱そうな金色の瞳。怯えるように立つ彼は、縋るように私を見つめる。



『お姉、ちゃん……。』


彼は、私に向かって手を伸ばす。


いつもそうだった。

あの子はとても人見知りで引っ込み思案。他の子と遊びに行くこともなく、私にべったりで離れようとしなかった。

私もあの子が大好きで、いつも一緒にいた。


それなのに、引き離された。会えなくなった。

そうして、たくさんの時間が経っちゃった。


だから今すぐにでも、あの子を抱き締めたい。

もう大丈夫だよ。って背中を撫でてあげたい。


だから私は、その手を掴む。小さな体を抱き締める。



「守ってあげられなくってごめんね、シー君。」


小さな小さな体を抱き締め、柔らかい白(・)髪(・)をワシャワシャ撫でる。


――本物はこっち。私を引き留めてくれた子。

髪の色が変わっても、瞳の色が変わっても、シー君はシー君。大好きは変わらない。



「シー君、シー君。私がいない間、大丈夫だった?」


『……うん。僕はもう、大丈夫だよ。』


「そっか。大きくなったんだねぇ。」


覚えている感覚よりも、少しだけ大きくなったシー君の体。それがとても、愛おしい。



『お姉ちゃん。』


「うん?なぁに?」


なんだかポカポカと温かくって、視界がボンヤリしてきた。



『……僕はもう、大丈夫だよ。』


「そう……。」


思考が微睡みの中に沈んで行く。幸せの海に溺れそう。



『だからお姉ちゃん。もう安心して、眠っていいんだよ。』


トロトロにとろけた気分の私は、素直に『うん。』と頷く。

そうして私の意識はフワリと溶けた。







-----------



『逝っちゃったわね。』


「……(コクン。)」


『ねぇ。結構蹴られてたけど、大丈夫なの?』


「……(コクン。)」


『そう……。暴力が日常だったとはいえ、痛いものは痛いって言わなきゃダメよ。』


「……?(首を傾げる)」


『知ってたの?じゃないわよ!私だってシュラを助けたかったのに。……なのに結界が張ってあって、妖精の私は入れなくて!見ている事しか出来なくて!』


彼女は彼を抱き締める。

彼女に実体は無い。触ろうとしても通り抜けてしまうから、抱き締めるような格好をするだけ。

それでも彼は、何か暖かいものに包まれる。



「……――」


『ん?今なんて?』


『……僕、は、……お外に、出ちゃ、ダメ。』


『それは、あいつが勝手に……』


(フルフル)『出ようと思え、ば、……自分で出られた。……でも、ダメ。』


『……シュラ?』


『あり、が、とう。ごめ、んね。……デイジー。』



唇に微かに笑みを浮かべ、彼は彼女をポンと押す。

軽く押したそれだけで彼女は勢い良く飛ばされ、その真っ暗闇の空間から弾き出された。




闇の中、一人の少年は笑みを消す。


――お姉ちゃんを殺したのは僕。

僕がお姉ちゃんを殺した。

だから僕は、お外に出ちゃいけないんだ。


誰も、僕に関わらなくていいんだよ。

デイジーも、僕を気にしなくていいのにな。


痛いのは僕だけでいい。僕は痛みを感じないから。

だからお願い。これ以上……




----------



【麻美花 side】





「んぅ……。」



フワフワした眠りから目覚めて、私は体を起こした。


微睡みの中でずっと、彼女の夢を見てた。

彼女が“シー君”を思って必死に走り続ける夢。

彼女が今までそうしていたように、私も彼女の行動を夢として見ていた。


気づかなかったけど、ずっと一緒にいたみたい。

彼女が居なくなったせいか、私の心の中に細く冷たい風を感じる。心臓のあたりが少し痛くて、少しだけ息苦しい。


でもそれ以上に、たくさんの嬉しさで溢れている。

やっと会えた。良かったね!って。



心臓がギュウってなりそうなくらい、甘酸っぱい?感じのまま、ここが何処だか分からない私は自然と、周りを見渡していた。



芝生のような、そうでないような地面。まだ幼い、若葉色の柔らかい草が辺り一面に広がってる。

そして所々に生える木々。濃茶色の幹をして堂々と生えているそれらには、ピンクの花――桜が満開に咲いていた。

時々吹き抜ける風に、桜の花びらは舞い踊る。


遠くまで見通せる程に天気が良かったなら、きっとスゴく綺麗な景色だったんだろうなぁ。って、思う。



でも今は、薄く霧が掛かってる。薄水色のような、薄灰色のような?……なんか、透明感のある霧。

ベールのように、景色を曖昧にする。






「……――。」



……あれ。声が聞こえた?



「……――か。」


正面に、誰かの人影。

でも霧に紛れて、誰なのかが分からない。



「……――みか。」


懐かしい人の、声の気がする。

……でもあり得ない。



「まみか!」


「……お母、さん?」


『どうして、ここに?』言葉にならない。



「良かった。会いたかった!」


思いっきり、抱き締められた。

不思議と、それだけで嬉しくなる。


「お母、さん!」


泣いちゃダメなのに。

嬉しくて、涙が止まらなくなった。









----------







いっぱい喋った。


お母さんが居なくなってからの話。


現実世界の楽しかった事。

ネット世界での友達『弥生』ちゃんの事。

その弥生ちゃんが、美代ちゃんだった事。

美代ちゃんと出会った、今いる異世界の事。


上手く言葉が見つからなくて時々詰まっちゃうけど、お母さんはずっと聞いててくれた。

『うん、うん。それで?』って、優しく笑ってくれた。



――久しぶりに、いっぱい喋った。


――すっごく、嬉しかった。










----------



「ねぇ、お母さん。」


「うん?なぁに?」


「『恋』って、なぁに?」



こっちの世界の学校の、クラスの子達に結構聞かれてた。

“ユウマ君の事、好きなの?”って。

毎日お弁当作って、めげずに毎日誘ってたら、そう思われるのも不思議じゃないかも?なんて。


でも私には、この感情が『恋』かどうかなんてわからない。

好きなのは事実だけど、likeとloveの違いがわからない。


恩がある。『凄い』って思ってる。

未だに、喋るときはドキドキするし、サナちゃんと二人っきりで喋ってるのを見ると、少し寂しい。



だから聞いてみた。『恋って何?』





「まみか。」


「は、はいっ。」


お母さんは姿勢を正し、顔つきが真剣になる。


――私、怒られるような事言ったかな?

思いつつも、私はつられて若草の上で正座した。





「お父さんの事は忘れなさい、って言ったでしょう?」


「……えっ?」


「お母さんは確かに、お父さんに恋をした。……でもね、嫌な思い出ばかりより良い思い出をたくさん持つ方が、人生楽しいわよ?」


「う、うん……。」


なんだろう。……なんだろう?なんか、変な感覚。



「まみかはお父さんに、良い思い出があるの?」


「ううん……。」


――覚えているのは、お母さんを殴るお父さんの姿だけ。

幼い私は毎晩それを、扉の隙間からこっそり覗いていた。

恐くって、声を殺して泣くしかできなかった。


……それしか覚えてない。お父さんとの良い事なんて覚えてない。



「だったら、忘れなさい。覚えていても良い事無いでしょう?」


「……良い、事……無、い?」



自然と復唱していた。

――何かが、変?



「どうしたの、まみか?」


「う、ううん。……うん、分かった。お父さんの事は忘れれる様に頑張ってみる――」



――なんか、違う?



「そうね。でも、無理に頑張る必要はないわよ?まみかが嫌なら、別にいいの。」


「……あ。」


全く同じ言葉。

前に聞いた。お母さんの『最後のお願い』。

でも、意味が……。


違う!違う!違う!違う!

ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!

ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!


泣きながら、私はお母さんから距離を取る。


――コレは違う。お母さんじゃない。


私は背を向けて走り出した。

涙がこぼれて前が見えないまま。


だからまた、足を踏み外す。体勢を崩して、穴の中に転げ落ちる。

ゴロゴロと転げて、いろんな所が痛い。



――コレは、忘れてた私への罰かな。


ごめんなさい、お母さん。

私……、私は……!







---


白い部屋。白いカーテン。白いシーツ。白いベッド。



『まみか。……まみかは、お父さんを恨んでいるかしら?』


『え?……な、なんで、そんな事聞くの?』


『辛い事、いっぱいだったでしょう?お父さんがいた時も、居なくなってからも。全部お父さんのせいだって、恨んでいても不思議じゃないわ。』


『…………。』


『……ねぇ、まみか。一つだけお願いがあるの。』


『なぁに?お母さん。』


『……お父さんの事、恨まないであげて?嫌いでもいいから、恨むことは止めてあげて。』


『え……?』


『……あの人は、不器用な人なの。愛情表現がヘタクソなだけなの。……だからどうか、あの人を恨まないであげて。』


『……お母さんは、お父さんが今でも好きなの?』


『そうよ。』


『……うん、分かった。私も、お父さんの事が好きになれる様に頑張ってみる。』


『無理に頑張る必要はないわよ?まみかが嫌なら、別に嫌いでもいいの。』


『でも……。』


『“麻”のように真っ直ぐに、美しい花を咲かせて?自分に素直に、想いを貫きなさい。嫌いなものは嫌いでいいの。自分の好きなものを好きになればいい。

 でも、お父さんを恨む事はしないで。恨みは憎しみしか生まない。そんなのは悲しい。

 愛する娘に恨まれるなんて、あの人も可哀想だから。お互いに損しか無いのよ。

 嫌いでいい。恨まないで。』



『うん!』


母親のいない世界を知らない彼女は、満開の花のように無邪気に笑った。

強い思い・強い願いは 肉体が滅んでも尚、そこにとどまり続ける。


  (ミュウボア国御伽話、一部抜粋)




(……あ、これリアちゃんの事ね!心残りくんに『もう大丈夫』って言われた彼女はきちんと浄化されました。)

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