あなたに会いに行けば。
【???、+α side】
必死で伸ばした手は何にも触れない。触りたいのに、全然届かない。
前に行きたい。それなのに、私の体にナニカが触れる。ナニカは私の体を絡め取る。
見れば、真っ黒で禍々しい手、手、手……。たくさんの手が私を掴み、後ろへと引く。
私は抵抗するけど、子供の力じゃ簡単に負けてズルズルと引き摺られていく。
嫌だ嫌だ!
暴れても、どんどん距離が離されて行く。そうしていつの間にか、周りには誰もいない。黒い手は闇に溶けた。
ひとりぼっち、闇の中。
――どうして駄目なの?もうずっと会えないの?
私は一人、涙を流す。
嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!
いつしか泣き疲れた私。
真っ暗で寂しい闇の中。
凍えるような風が寒くて、体がブルリと震える。
動きたくない。
でも、私は立ち上がる。前へ一歩踏み出す。
探さなきゃいけないから。
助けなきゃいけないから。
道が分かる訳じゃない。
だから、さ迷う。
辺りは一面、闇世界。もうここが何処だかわからない。
それでも歩く。探すために。
――何を?
……分からない。だけど、とても大切なもの。
たくさん歩いた。
そして見つける、金の光。
私はそれを抱き締める。
会いたかった。ずっと会いたかった。
金の瞳が私を見据える。
私も金の瞳を見つめる。
そして、金の光は鮮血に染まった。
――それが私の最後の記憶。
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私はふと、目を覚ます。
知らない森。でも懐かしい空気。
ずっと知らない世界を見ていた。
妖精さんのいない世界。それは酷く寂しい事。
でも私は一人じゃなかった。
意識の大半は寝たまま、私を留めている肉体が成長していく様を夢として見ていた。
親となった肉体は子を産み、私はその子へと住み処を移す。そしてまた子は親となり、そのまた子へと私は受け継がれる。
そうして私は生きていた。
彼女達の人生をずっと、夢として見続けていた。
そうして今、目を覚ます。
この森に来たのは『異世界召喚』というものらしい。今の肉体が好んでいたのを覚えている。
でも私にとっては『故郷』であり、『帰ってきた』という思いが強い。
そして思い出すのは『私の気持ち』。
だから私はもう一度眠りについた。ここは違う。ここはまだ、とても遠い場所だから。
そして二度目の目覚め。
そこはまた森の中。
でも近くに湖がある。その湖に――が沈んでた。
助けて、助けて、苦しい!って、叫んでた。
私は――に手を伸ばす。でも届かない。
誰かが引き留めるように、私の肩に触れた。 邪魔!
――が、――が、苦しんでるの!助けなきゃ!!
「ねぇあなた、私とお話ししてくれる?」
リンとした透き通った声に、私は振り返る。
肉体の知り合い。でも私は知らない。
知らない人だけど、それでも『大丈夫。』って思える。
「あなたの名前は?」
聞かれたことは簡単なこと。だけど、……何だっけ。全然覚えてない。
『××の様に++++な子に育ってほしい、って願いを込めたの。』
靄がかかったように、思い出せない。
「じゃあ、質問を変えるね。ここに何があるの?」
そういって、肉体の知り合いは湖を指差す。
見えないのかな?――が湖の底で苦しんでる姿が。
「……シー君、が、ここに寝てる、の。……助けない、と。」
自然と口が動き、言葉を発した。
でも、シー君って誰?
「シー君?」
私から勝手に滑り出た言葉を拾い、それを不思議そうに聞き返してくる知り合い。でも、私にもわからない。……なんだろう。懐かしい響き。
「……私の弟。」
またも勝手に、私の口は動いた。
……湖に沈んでいる子はシー君で、シー君は私の弟なの?
「弟?」
「……うん。……お父さんに連れていかれて、それでシー君と会えなくなっちゃって、そしたらお母さんに――あれ?」
自分の言葉で思い出す。
弟を助けたくて伸ばした手。何にも触れず空を掴む。
弟はお父さんに引きずられて行き、私はお母さん達に引き止められた。それに私は必死に抵抗したけど、シー君は連れていかれちゃって……。
――それで
それでどうなった?
シー君はどこ?私は何でここに、一人でいるの??
「……わからないわからないわからないわからないわからない。シー君どこ行っちゃった?どこどこどこどこ?」
思い出せない。
わからないよ!
シー君シー君シー君シー君シー君どこなの?どこにいるの?誰か教えてよ!わからないわからないわからないよ!
『……お姉ちゃん。僕はここにいるよ。』
「……シー君!?」
風の中、微かに聞こえた懐かしい声。
私は立ち上がり、走り出す。
ちょっと体が重いかな?でも、シー君が待ってる。急がないと。
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洞窟の中は、嫌なものが蠢く。私が進むのを妨害しようとする。
『私達は関係者です!邪魔しないでください!』
私の近くで響く声に、嫌なものは姿を潜めた。
何だろう?分からないけど、私はこの人を知っている気がする。
『リア、走って!シュラの所に行くのでしょう?』
「うん!」
わからない。もうちょっとで何か思い出せそうなのに。
考え事をしていたからかな?
『リア!』
叫ばれると同時、私の体は傾く。洞窟が途切れた所で、地面は砂へと変わっていた。
私はそのまま、砂の中へと吸い込まれる。
脱出出来ない。身動きも取れない。
――ここで死んじゃうのかな?
顎の下まで砂に埋もれた辺りで、突然纏わりついていた砂は消えた。
気が付けば、私は地面に座っていた。
『こっち……こっちだよ、お姉ちゃん。』
しばらくぼんやりしていると、シー君が私を呼んだ。
私は走る。
疲れなんて知らない。シー君が待っているの。
「いや、待てよ!」
誰かが言うけど、私は行くの。
シー君の所に。
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気が付けば、また黒い闇の中にいた。
体が軽い。
見れば、私は『私』だった。
肉体が、あの子のものじゃなくなってた。
少し透けてる気がするけど、動く分には問題ない。
『お姉ちゃん。』
「シー君!?どこ?」
私は走る。闇の中、金色の光を探す。
息は切れて、それでも走る。そうしてやっと、みつけた。
私は手を伸ばす。大好きな、大好きな弟に。
『リア、違う!』
誰かが叫ぶのと同時。
私の体は後ろへ引っ張られる。
「離して!」
振り向けば、そこには小さな子が一人。
重たそうな白い髪にボロボロの服を着た子。
「離しなさいよ!」
私が強く言うとその子はフルフルと頭を振り、より一層私を強く抱き締める。
『リア、あれは幻想!囚われちゃダメ。』
「邪魔、しないでよ!」
私は叫んで彼女を否定し、白髪の子を引き剥がす。
ガンッと大きな音がして振り向けば、その子は床に頭をぶつけていた。
「邪魔するから、痛い目に遭うの!」
私は言い捨て、またシー君に手を伸ばす。
すると片足に何かが纏わりつき、前に踏み出すことが出来ない。
見れば、白髪の子が私の左足に縋り付いていた。
「離して!離してよ!」
自由な右足で、彼を踏みつけて引き剥がそうとするけど、ビクともしない。
彼は必死に、私にしがみつく。
「離して!離して!離して!離して!離して!離して!離して!離して!」
『いい加減にしなさい!リア!』
頭をガンッと、何か鈍器で殴られた気がした。
彼を蹴り始めていた私の足はピタリと止まる。
『よく見て!あれは貴女の弟?』
私の頭の中で、彼女は前方を指差した。
目の前に佇むモノ。
スカイブルーの綺麗な髪に気弱そうな金色の瞳。怯えるように立つ彼は、縋るように私を見つめる。
『お姉、ちゃん……。』
彼は、私に向かって手を伸ばす。
いつもそうだった。
あの子はとても人見知りで引っ込み思案。他の子と遊びに行くこともなく、私にべったりで離れようとしなかった。
私もあの子が大好きで、いつも一緒にいた。
それなのに、引き離された。会えなくなった。
そうして、たくさんの時間が経っちゃった。
だから今すぐにでも、あの子を抱き締めたい。
もう大丈夫だよ。って背中を撫でてあげたい。
だから私は、その手を掴む。小さな体を抱き締める。
「守ってあげられなくってごめんね、シー君。」
小さな小さな体を抱き締め、柔らかい白髪をワシャワシャ撫でる。
――本物はこっち。私を引き留めてくれた子。
髪の色が変わっても、瞳の色が変わっても、シー君はシー君。大好きは変わらない。
「シー君、シー君。私がいない間、大丈夫だった?」
『……うん。僕はもう、大丈夫だよ。』
「そっか。大きくなったんだねぇ。」
覚えている感覚よりも、少しだけ大きくなったシー君の体。それがとても、愛おしい。
『お姉ちゃん。』
「うん?なぁに?」
なんだかポカポカと温かくって、視界がボンヤリしてきた。
『……僕はもう、大丈夫だよ。』
「そう……。」
思考が微睡みの中に沈んで行く。幸せの海に溺れそう。
『だからお姉ちゃん。もう安心して、眠っていいんだよ。』
トロトロにとろけた気分の私は、素直に『うん。』と頷く。
そうして私の意識はフワリと溶けた。
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『逝っちゃったわね。』
「……(コクン。)」
『ねぇ。結構蹴られてたけど、大丈夫なの?』
「……(コクン。)」
『そう……。暴力が日常だったとはいえ、痛いものは痛いって言わなきゃダメよ。』
「……?(首を傾げる)」
『知ってたの?じゃないわよ!私だってシュラを助けたかったのに。……なのに結界が張ってあって、妖精の私は入れなくて!見ている事しか出来なくて!』
彼女は彼を抱き締める。
彼女に実体は無い。触ろうとしても通り抜けてしまうから、抱き締めるような格好をするだけ。
それでも彼は、何か暖かいものに包まれる。
「……――」
『ん?今なんて?』
『……僕、は、……お外に、出ちゃ、ダメ。』
『それは、あいつが勝手に……』
(フルフル)『出ようと思え、ば、……自分で出られた。……でも、ダメ。』
『……シュラ?』
『あり、が、とう。ごめ、んね。……デイジー。』
唇に微かに笑みを浮かべ、彼は彼女をポンと押す。
軽く押したそれだけで彼女は勢い良く飛ばされ、その真っ暗闇の空間から弾き出された。
闇の中、一人の少年は笑みを消す。
――お姉ちゃんを殺したのは僕。
僕がお姉ちゃんを殺した。
だから僕は、お外に出ちゃいけないんだ。
誰も、僕に関わらなくていいんだよ。
デイジーも、僕を気にしなくていいのにな。
痛いのは僕だけでいい。僕は痛みを感じないから。
だからお願い。これ以上……
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【麻美花 side】
「んぅ……。」
フワフワした眠りから目覚めて、私は体を起こした。
微睡みの中でずっと、彼女の夢を見てた。
彼女が“シー君”を思って必死に走り続ける夢。
彼女が今までそうしていたように、私も彼女の行動を夢として見ていた。
気づかなかったけど、ずっと一緒にいたみたい。
彼女が居なくなったせいか、私の心の中に細く冷たい風を感じる。心臓のあたりが少し痛くて、少しだけ息苦しい。
でもそれ以上に、たくさんの嬉しさで溢れている。
やっと会えた。良かったね!って。
心臓がギュウってなりそうなくらい、甘酸っぱい?感じのまま、ここが何処だか分からない私は自然と、周りを見渡していた。
芝生のような、そうでないような地面。まだ幼い、若葉色の柔らかい草が辺り一面に広がってる。
そして所々に生える木々。濃茶色の幹をして堂々と生えているそれらには、ピンクの花――桜が満開に咲いていた。
時々吹き抜ける風に、桜の花びらは舞い踊る。
遠くまで見通せる程に天気が良かったなら、きっとスゴく綺麗な景色だったんだろうなぁ。って、思う。
でも今は、薄く霧が掛かってる。薄水色のような、薄灰色のような?……なんか、透明感のある霧。
ベールのように、景色を曖昧にする。
「……――。」
……あれ。声が聞こえた?
「……――か。」
正面に、誰かの人影。
でも霧に紛れて、誰なのかが分からない。
「……――みか。」
懐かしい人の、声の気がする。
……でもあり得ない。
「まみか!」
「……お母、さん?」
『どうして、ここに?』言葉にならない。
「良かった。会いたかった!」
思いっきり、抱き締められた。
不思議と、それだけで嬉しくなる。
「お母、さん!」
泣いちゃダメなのに。
嬉しくて、涙が止まらなくなった。
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いっぱい喋った。
お母さんが居なくなってからの話。
現実世界の楽しかった事。
ネット世界での友達『弥生』ちゃんの事。
その弥生ちゃんが、美代ちゃんだった事。
美代ちゃんと出会った、今いる異世界の事。
上手く言葉が見つからなくて時々詰まっちゃうけど、お母さんはずっと聞いててくれた。
『うん、うん。それで?』って、優しく笑ってくれた。
――久しぶりに、いっぱい喋った。
――すっごく、嬉しかった。
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「ねぇ、お母さん。」
「うん?なぁに?」
「『恋』って、なぁに?」
こっちの世界の学校の、クラスの子達に結構聞かれてた。
“ユウマ君の事、好きなの?”って。
毎日お弁当作って、めげずに毎日誘ってたら、そう思われるのも不思議じゃないかも?なんて。
でも私には、この感情が『恋』かどうかなんてわからない。
好きなのは事実だけど、likeとloveの違いがわからない。
恩がある。『凄い』って思ってる。
未だに、喋るときはドキドキするし、サナちゃんと二人っきりで喋ってるのを見ると、少し寂しい。
だから聞いてみた。『恋って何?』
「まみか。」
「は、はいっ。」
お母さんは姿勢を正し、顔つきが真剣になる。
――私、怒られるような事言ったかな?
思いつつも、私はつられて若草の上で正座した。
「お父さんの事は忘れなさい、って言ったでしょう?」
「……えっ?」
「お母さんは確かに、お父さんに恋をした。……でもね、嫌な思い出ばかりより良い思い出をたくさん持つ方が、人生楽しいわよ?」
「う、うん……。」
なんだろう。……なんだろう?なんか、変な感覚。
「まみかはお父さんに、良い思い出があるの?」
「ううん……。」
――覚えているのは、お母さんを殴るお父さんの姿だけ。
幼い私は毎晩それを、扉の隙間からこっそり覗いていた。
恐くって、声を殺して泣くしかできなかった。
……それしか覚えてない。お父さんとの良い事なんて覚えてない。
「だったら、忘れなさい。覚えていても良い事無いでしょう?」
「……良い、事……無、い?」
自然と復唱していた。
――何かが、変?
「どうしたの、まみか?」
「う、ううん。……うん、分かった。お父さんの事は忘れれる様に頑張ってみる――」
――なんか、違う?
「そうね。でも、無理に頑張る必要はないわよ?まみかが嫌なら、別にいいの。」
「……あ。」
全く同じ言葉。
前に聞いた。お母さんの『最後のお願い』。
でも、意味が……。
違う!違う!違う!違う!
ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!
ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!
泣きながら、私はお母さんから距離を取る。
――コレは違う。お母さんじゃない。
私は背を向けて走り出した。
涙がこぼれて前が見えないまま。
だからまた、足を踏み外す。体勢を崩して、穴の中に転げ落ちる。
ゴロゴロと転げて、いろんな所が痛い。
――コレは、忘れてた私への罰かな。
ごめんなさい、お母さん。
私……、私は……!
---
白い部屋。白いカーテン。白いシーツ。白いベッド。
『まみか。……まみかは、お父さんを恨んでいるかしら?』
『え?……な、なんで、そんな事聞くの?』
『辛い事、いっぱいだったでしょう?お父さんがいた時も、居なくなってからも。全部お父さんのせいだって、恨んでいても不思議じゃないわ。』
『…………。』
『……ねぇ、まみか。一つだけお願いがあるの。』
『なぁに?お母さん。』
『……お父さんの事、恨まないであげて?嫌いでもいいから、恨むことは止めてあげて。』
『え……?』
『……あの人は、不器用な人なの。愛情表現がヘタクソなだけなの。……だからどうか、あの人を恨まないであげて。』
『……お母さんは、お父さんが今でも好きなの?』
『そうよ。』
『……うん、分かった。私も、お父さんの事が好きになれる様に頑張ってみる。』
『無理に頑張る必要はないわよ?まみかが嫌なら、別に嫌いでもいいの。』
『でも……。』
『“麻”のように真っ直ぐに、美しい花を咲かせて?自分に素直に、想いを貫きなさい。嫌いなものは嫌いでいいの。自分の好きなものを好きになればいい。
でも、お父さんを恨む事はしないで。恨みは憎しみしか生まない。そんなのは悲しい。
愛する娘に恨まれるなんて、あの人も可哀想だから。お互いに損しか無いのよ。
嫌いでいい。恨まないで。』
『うん!』
母親のいない世界を知らない彼女は、満開の花のように無邪気に笑った。
強い思い・強い願いは 肉体が滅んでも尚、そこにとどまり続ける。
(ミュウボア国御伽話、一部抜粋)
(……あ、これリアちゃんの事ね!心残りくんに『もう大丈夫』って言われた彼女はきちんと浄化されました。)




