意味不明だから適当にやろう。
【優馬、美結、ミーリャ、+α side】
薄暗い細い廊下を抜けると、わりと明るい広めの廊下に出た。道は左右に分かれている。
右を見る。何もない。やっぱりこの廊下も薄暗くて、先は見えない。
左を見る。先は見えない。けど、なんか居た。
淡く光る扉の前で、2人が燃え尽きている。
――よし。右に行くか。アレに関わりたくねぇ。
俺は右へ向かう。
ゴンッ!
「痛ってぇ。」
何故か、ガラスの壁に頭をぶつけた。しかもガラスは、俺の眉より上の位置にしかない。
つまり、俺の頭位置より前にいる雛菊は無事。(咄嗟に片手を額にやってしまったため、取り落とし掛けたが一応無事。)ちなみに妖精らも、俺の服に掴まるなり自力で何とかして無事。
「……。」
少し頭を下げ、俺はガラスの壁を潜る。
ゴンッ!
「い、っう……。」
今度は頭上に出来たガラスの壁に、下から頭を打ち付けた。
さっきまで無かったぞ!他三名はまた無傷だし。
そして正面には、しゃがむだけでは潜り抜けられないガラスの壁。
ほふく前進でもすれば行けるだろうが……。
――これ、俺をこっちに進ませない為の嫌がらせか?
頭を打ち付け、膝に雛菊を乗せた俺はしゃがんだまま動かない。動くのが怠くなった。
「ゆぅゆぅ!あそこに人いるですよー!」
「……。」
「ゆぅゆぅ?」
「……へぃへぃ。」
気怠げに立ち上がると今度は頭上にガラスの壁は無く、すんなりと立てた。
しかしそんな事に気づかない俺は、ガラスの壁に背を向けて彼女達の方へ向かう。
「そんな所で何しているんだ?」
扉の前には美結とミーリャ。珍しい組み合わせだな。
「ん?クソ虫じゃん。生きてたんだ。」
「ん?一応生きているが?」
「あれ……?」
俺が答えれば、美結は首を傾げる。
「あの……、斎藤くんも分かるようになったのですか?」
「何がだ?」
「さぁ?」
美結に変わって質問してきたミーリャもコテンと首を傾げる。
「意味分からん。」
「ごめんなさい……。」
俯くミーリャ。彼女から目を反らすように、俺は視線を上げる。
そして目が止まったのは、彼女たちが凭れている扉に書かれた文字。
「『最悪呪人喰魂・殻拒怠心閉』?何だそれ。」
青い光を放つ文字は禍々しく、嫌な感じがする。
「んん??私らには、アンタが何て言ったかが分からないんだけど。」
「ごめんなさい。私も分からないです……。」
……どうも彼女らと何か噛み合わない気がする。
「まぁ、いいや。さっさと先行く。……腕疲れるし。」
「あ、何かと思ったら麻美花じゃん。大丈夫だった?最初は私達と一緒に居たんだけど、麻美花の中に何か意思あるもの?が入り込んだみたいで……。」
「ふーん。やっぱ、何か取り付いてたみたいだぞー?ショコラ。」
「別に私、詳しい訳じゃないですよ。」
ヒョコと、ショコラは俺の服の首元から顔を覗かせる。
「何せ、邪悪な物は感じなかったですから。」
「クソ虫のクセに可愛い子手懐けてんじゃん。クソ虫のクセに。」
美結がショコラの頬を突きながらボヤく。
「悪いかよ?」
「うん。」
何か即答された。
「でも契約は結んでないですよ。」
ツンと、嫌そうにそっぽを向くショコラ。
対してヒィリが嬉しそうに俺の服から顔を出す。
「じゃあ、ゆぅゆぅー。契約しよー?」
「な、何を!?私達のご主人様はナオ様一人です。こんな何処の誰とも知らない方を新たなご主人様にするなど、私は反対です。絶対に嫌です!」
「でもゆぅゆぅの魔力、なぉなぉみたいで美味しいもん。」
「そ、それは否定しませんが……。私は絶対に嫌です!」
そう言って、服の中に潜り込んでいくショコラ。
「ショコラってばぁ。」
ヒィリもゴソゴソと服のなかを這い回る。ゾワゾワして気持ち悪い。
「ジッとしてろっての……。」
呟く俺は、気持ち悪さを紛らわす様に歩き出す。
「……って、置いてくなぁー!」
しばらくすれば、少し騒がしい足音と共に美結とミーリャも追いかけて来た。
「にしても、妨害無いね。」
いくらか進んだ頃、後ろで美結が何か呟く。
「斎藤くんがいますから。」
「うん?」
「私達は侵入者です。ですが斎藤くんは建物にとって、侵入者ではない様です。」
「何それ。どんな基準……。」
「さぁ?そこまでは分からないです。……ただの、根拠の無い勘ですから。」
「へぇ。」
聞き流していた女子トークが止まる。 うん、1%も理解出来ない。
「と、と。」
視界の端を何かが通り過ぎ、俺は軽く足を止めて振り返る。
見れば、通路の壁には目立たぬ様に壁と同化した深緑色の扉。
自分でも、なんで見つけられたのか不思議な程、見事に溶け込んでいる。
しかし扉は、確かにそこにあった。
「どーする?」
後ろに振り向き、彼女らに問い掛ける。
まだ先にも廊下は続いている。扉に入るか、廊下の先へ行くか。
「私はどっちでもー。」
「わ、私は……。」
即答する美結に対し、ミーリャは言い淀む。
「……腕が痺れる。」
「はぅあぅぁ!さ、斎藤くんは行きたい方向が決まってるハズです!ぁぅ……。」
手をパタパタさせ、ミーリャは慌てたように叫ぶ。
「何、急かしてんのよ。」
「ん??」
何の事だろう?……まぁ良いか。
「でも確かに。この中には『悲しいもの』がある気がする……。」
だから、中に何があるのか気になってはいた。でも二人が嫌なら別にいい。その程度の興味。
「じゃあ、決まりじゃん。」
美結が扉の前に立つ。
扉は赤く、いつの間にか『最悪呪人喰魂・怯虚怒心遠』という文字が刻まれていた。
文字は読めても、言葉の意味が分かる訳じゃない。
しかし俺の中の何かがトクンと跳ねた。
――まるで、何かを期待する様に。
美結はノブに手を掛けると、躊躇いもせずに捻った。
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そこは広く、真っ白な部屋。
向こう側の壁に一つの黄色い扉があるだけで、他に何もない。
しかし俺はこの部屋の空気に、変なモノを感じた。
――得体の知れない恐怖。非現実的な想像。耳を塞ぎ、目を瞑りたくなる。……それはまさに『怯え』。
この部屋の空気は怯えている。
――変なの。
自分の感じたモノがアホらしくなってきた。
空気に感情は無い。それが普通。
それでも、確かに『怯え』を感じる。
矛盾。違和感。何かが噛み合わない。どこか、ズレている。いつの間にか、歪みが大きくなっている。
……気持ち悪い。
思考を止め、出来上がったものは捨てる。
きっと、触れて良いものじゃない。
先頭の美結はツカツカと向かいの黄色い扉の方へと歩いていき、俺らもそれについて行く。
「やっぱ、開かない。」
黄色い扉のノブを捻る美結は呟く。
「たぶん、この部屋に隠されたギミックを解かないと、開かないです……。」
そう言って一つ頷くミーリャは、フラリと右の壁の方へと向かう。
「恐らくこの辺に……あ。」
彼女がペタペタと壁を触っていると、壁の一ヶ所がパカリと四角く開く。
「パズルですね……。」
呟くミーリャに近付き手元を覗けば、彼女は壁に埋め込まれた電子機器の画面を操作していた。
縦横十字に連なる5つのパネルを同時にひっくり返し、すべてを表面に揃える奴。
スマホのゲームでやってみた事があるが、俺には全然解けなかった。
「うわっ。スゴ……。」
「こんなの、計算すれば簡単に解けますよ?」
迷いなく手を動かすミーリャは、サクサクと解いてしまった。
画面には『GAME CLEAR』の文字が輝く。
と同時に、俺らの背後でも変化があった。
部屋全体で床が光を放ち、次第に何かを浮かび上がらせていく。
「マス目と……ボタン?」
美結の言う通り、白い光を放つ線は四角いマス目を描く。そしてマスの中には白と黒の丸いもの。球ではなく、ボタンの様に平べったい。
「8×8……リバーシですかね?」
「え?ゲロ?」
「こ、コラぁ!女の子がそういう汚い言葉使わないでください!“リバース”じゃなくて“リバーシ”です!オセロです!」
「ごめん、ごめん。なんかボケたくなった。」
「むう。」
なんか、仲良い事で。
「で、これが何なんだ?」
「恐らく、この白黒の石に書かれた数字の通りにプレイした時の、最終的な白黒それぞれが獲得した個数を算出するのだと思います。」
あ。よく見れば確かに、数字が付いてた。
「面倒くさっ。」
「えぇと、さすがに私も脳内プレイは辛いので、実際にここでこの通りにプレイしてみましょうか?と言うか、しましょう!」
そう一人で結論付け、地面に向かって何かを書き出すミーリャ。
見れば、何処からか取り出した板にペンとものさしでマス目を書いていた。オセロの盤面か?
サクッとマス目を書き終え、次に鞄から取り出したのは丸い石。
片面をペンで塗り潰すと、彼女は呟いた。
「【複製】」
一つの石が二つに増える。
「【複製】」
そうして彼女は、何度か繰り返す。
「……よし!」
完成したらしい。
満足そうに頷くミーリャはスッと立ち上がる。
「スライムさん、手伝ってくれませんか?」
手を前に出し、そう言うミーリャの手のひらから水色のスライムが『むにょん』と飛び出てきた。
「んー?平気なの?」
「この部屋、精霊がいる様です。手伝ってもらいます。」
「へぇ。じゃあ私も!カザン!」
『ワフ!』
美結の胸の辺りから、紅色の毛をした大きな犬が出てきた。
「私も手伝うー。」
「偽ご主人様の為ではありません。私達だけ寛ぐのはどうかと思っただけですので。」
「お、おう……。」
なんか知らんが、ヒィリとショコラも俺の服の中から飛び出てきていた。
「で、何するの?」
「手分けして順番通りに数字を探していただきたいのです。私がその通りにプレイしますので……。」
「うん。了解ー。」
美結の了承を合図に、皆は一斉に動き出した。
ミーリャ以外は数字探しに。
ミーリャ本人は、作った盤面板片手に空中へ浮かんで見せると、部屋の真ん中天井付近に陣取った。
上から部屋全体に広がるオセロを把握するのか?頭良いな。
「1がここで、2がそこ、3がここね。」
「ちょっと!は、早いですよ、美結ちゃん!」
楽しそうな彼女らを見ながら、とりあえず俺は暇を持て余す事にした。
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黄色い扉の隣の壁には、よく見れば『18(白□□黒□□)』と書かれた文字が並んでいた。ちなみに、□は回転式で今は空欄パネル。
「黒、34。白、30。なかなかの接戦でしたー。」
「お疲れー。」
「サボってたクソ虫に言われるとなんかムカつく。」
「だってコレいるんだし。」
俺は自分の背中を示す。
そこには未だに起きない雛菊。魔術使えるらしいから、前から後ろに変えた。お陰でわりと楽だわ。……ってか、今まで魔術使えなかったんだな。知らなかった。
「麻美花を物扱いすんな!」
「痛っ……!」
アイクで、美結に頭殴られた。
「まぁまぁ。と、取り敢えず、この数字をここに……あれ??」
パネルの下にあるボタンでポチポチと数字を変えていくミーリャだが、ボタンを押しながらも首を傾げる。
「斎藤くん、交代してください。」
「……うん?」
「これは、古代数字と呼ばれる文字ですね。」
「だそうです。」
ショコラの解説を聞いたミーリャが、雛菊ごと俺を前に押す。
「黒が34、白が30です。はい、どうぞ。」
仕方がないから、よっこらせと左手で雛菊を押さえ、言われるがままに数字をそろえた。
「偽ご主人様。黒白反対ではないですか?」
「はぁ?白が30、黒が34だろ?」
「いえ、ですから……」
「あ、なるほど!」
ショコラと言い合っていれば、ミーリャがポンと手を叩く。
「左が白で、右が黒だったのですか。」
「ん??そうだが……?」
「左が黒い文字、右が白い文字なので、てっきり色の通りなのかと。」
あ、確かに。
黒文字で『白』。白文字で『黒』だった。
「私らにその文字は読めねーの!クソ虫のアホ。」
「私は古代数字の4しか読めないので、てっきりクソご主人様が間違えたのかと!」
「……何で俺が悪いみたいになってんだよ。」
「いえいえ、助かりましたよ。私達じゃ読めないですし。」
「……お、おぅ。」
ミーリャに笑顔を向けられた俺は、慌てて視線を逸らした。
――誰かとダブりかけた。
思い出してはいけない、誰かの笑顔と。
「なーに照れてんの?クソ虫。」
「……ん?」
「可愛いミーリャちゃんの笑顔に、鼻の下伸ばしてるし。」
「はぁ?」
「さっきから麻美花のお尻触りつつ、背中で胸も堪能してるクセにー。」
プクッと頬を膨らませて見せる美結。何怒ってんだ?
「ちょ、ちょっと美結ちゃん!そういう事言っちゃ、ダメですよ!」
「じゃー、美結。お前が代わりに背負うか?……結構重いが。」
「斎藤くんも、女の子を重いとか言っちゃダメですー!」
「いや、実際重いし。」
「こ、コラぁぁ!! も、もう行きますよ!何言っても無駄そうですので、もうこの話はお仕舞いです!!雛菊ちゃんは斎藤くんが背負っててくださいな!ほら、行きましょ、行きましょ。」
ミーリャが扉を開けてから俺らの後ろに回り込むと、次の部屋に俺らを追い立てた。
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そこは、古ぼけた木屋の一室という感じ。狭く小さいこの部屋は、全体が茶色。しかし、入り口の黄色い扉と、出口?の白い扉がミスマッチで違和感ありまくり。
――あと、空気が『苦しみ』を訴えている。
痛くて怖くて素直になれない。内を駆けるおぞましいモノが、もう少しで出てきそうなのに、吐き出せなくて気持ち悪い。雑巾のように絞られて、水分も無くカラカラで空っぽの心になれたなら、少しはこの苦しみから解き放たれる気がする。
潤った心が、痛む傷口に悲鳴をあげる。何も感じる事が出来ないように乾いてしまえたなら、きっと傷口も痛くない。
そう思うのに、そう願うのに、感情を凍らせることが出来ない。内から湧き出る怒りが俺を狂わせる。傷口が熱を持ち、俺の心を攻撃する。痛い痛い痛い痛い痛い!痛みが苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい……
「斎藤くん?」
ハッと我に返れば、ピンクの髪の彼女が首を傾げながらそこにいた。
「……大丈夫、ですか?」
「ん?あぁ。大丈夫だろ。おぶった方が楽だし。」
「いぇいぇ、雛菊ちゃんの事じゃないです。斎藤くんの事です。」
「うん?」
何の事かと俺は首を傾げれば、ミーリャは困ったように目尻を下げる。
「……この部屋には、かなり強い『思い』がある気がします。だから、大丈夫かな?……と。」
「へぇ。」
「その『強い思い』と斉藤くんは波長が合ってる気がして、少し心配なんですけど……。」
「ほー。」
「た、他人事みたいな返事しないでくださいよぅ!」
「正直どうでもいい。それより重い。」
俺がボヤくと、ミーリャは軽く頬を膨らませる。
「もうー!精霊がいるのですから、魔術で雛菊ちゃん用の椅子でも作っていればいいじゃないですか!」
「お。それナイスアイディア。」
俺は早速土魔術で石板を作り、部屋の角隅に適当な高さでくっ付けた。
「手抜きですね……。」
「これで立て掛けとけばいいだろ。」
「相変わらずの物扱いですか……。」
ミーリャが何か後ろでボソボソ言っていた気がしたが、たぶん大したことじゃないだろ。
「じゃ、私達も美結ちゃんのお手伝いを――」
「できたぁ!」
ミーリャの言葉は美結の叫びに掻き消された。
「これで開くハズ!」
「今回は早いな……。せっかく作ったのに無駄になったな。よっこらせ、と。」
俺は雛菊を背負うと、扉と美結に近寄る。
「あ、あの……。」
「んじゃ、開けるよ。」
そう言って、美結はノブを掴む。
「……うん?」
「……どうした?早く開けろよ。」
「ぁ……あのぉ……。」
「……。」
美結がノブを握ったまま、何も言わずに固まっている。
「あの、お二人さん……。」
「んー?」
「まだ、扉を開ける為の第一段階をクリアしただけで、まだ次があるのではないですかー?なんて……。」
振り向けば、後ろではミーリャが若干引け腰で後退っていた。
「ん?つまり、これ開いてないのか?」
「た、たぶん……?」
何故か壁際ギリギリまで避難しているミーリャから視線を外し、俺は未だにノブを握ったまま固まっている美結を見た。
「オイ、美結……?」
「……テヘ☆」
美結は小さく舌を出し、自身の頭をコツンとした。
----------
気を取り直して、雛菊を再度壁に立て掛け直した後にギミック解除に取り掛かる。
ギミックはやはり、壁の中。古めの木材がクルリと回る。
そうして出てきたのはまたパズル。今回は5つの空欄に5つのパネルを嵌める奴。
「数増えたし……。」
美結のやってた奴は4つだったとか。
「確率的には5倍増加ですね……。」
「また総当たり?」
「そうなりますね……。私の勘は、こんなピンポイントに当てるのは難しいですし。」
「面倒くさぁ~。」
2人は5つのパネルを、カチャカチャ入れ替えていく。
パネルには『あ』『か』『な』『る』『さ』という文字が書かれていた。
(※日本語ではありません。彼女達には意味の分からない記号にしか見えていません。)
これ、文字を入れ替えて言葉を作る奴か?
『あなぐらむ』って言うスマホゲームと同じ様なものだよな。
うむ……。 赤なるさ! そのままだな。
『お前、赤猿な!』とかか?劇の役決め的な。……違うか。
わからん。『あなぐらむ』難しくてすぐやめたし。
ふと、美結の解いたという4文字を見る。
『フッポタ』
確か、小麦的な奴の名称。
昔は作物があまり育たなかった為に、これが主食となっていたとか。
今では食糧事情も改善されていて主食でも何でもないらしいが。……って、なぜ俺はこんな事を知ってるんだろうな?
「ぉ。」
「ぉぉ!早いです。」
どうやらパズルが解けたらしい。
「さなかるあ?」
完成された単語を見れば、そう書かれていた。
「あ、それ国名ですよ。」
「へぇ。」
「これ『サナカルア』って読むんですね……。ここがサナカルア国である事が何か関係しているのでしょうか?」
「さぁー?」
俺に聞かれても困る。
「クソ虫、じゃあアレはなんて読むの?」
美結は4文字の方を指さしていた。
「『フッポタ』か?」
「あ、わかんないwww」
「まさに英単語ですね。違いますけど。固有名詞か何かでしょうかね?」
――うん、話が見えない。
俺らは3人して、各々首を傾げた。
----------
次の奴も5文字。
『い』『つ』『だ』『お』『て』 何時だ、お手? 犬かよ。
……あれ?犬といえば、赤いのは?
美結の犬。ショコラとヒィリに、あとスライムだったか?それらがいないなーと周りを見渡せば、……なんか部屋の隅で遊んでたわ。
妖精らは犬にまたがり、犬は足元がスライム塗れ。
犬はスライム沼から抜け出そうとして、スライムは犬に纏わりつく。
暴れる犬が遊園地のアトラクションとなり、妖精らがはしゃぐ。
なんだか楽しそうだよな。混ざろうとは思わないが。
「おし、出来た。」
「終了です!」
しばらく異種間の戯れを眺めていた俺は、二人の声に振り向く。
完成したパネルには『おてつだい』と。なるほど。
「次のパズルは無さそうですね……。」
「んー?でもまだ開いてないよ?」
美結はガチャガチャと乱暴に、白い扉のノブを捻る。
「あと一つ、手順が残っているようです。」
呟くミーリャは『おてつだい』の文字をジッと見つめる。
「あ!」
しばらくした後、声を上げるミーリャ。
「ん?何々?」
美結に聞かれてミーリャは、パネルの上にあった小さな突起を指差す。
「うわっ。ちっちゃ。よく見つけられたね……。これ、どうするの?」
「……えっと、引っ張り出すとかでしょうか?」
そしてミーリャは、短い爪を突起に引っ掛けてそれを引っ張り出す。
彼女に引っ張られて出てきた板が限界まで出てくると、最後は重力に従いパタンとパネルに覆い被さった。
パッと見、ボロ板の壁に紛れてそこにパズルがあるようには見えない。
――苦しいモノに蓋をする。
意味不明だな。
突如浮かんだソレに苦笑いを浮かべる俺。
その間にもミーリャと美結は手分けして、残り二つの蓋も閉めていった。
「お。開いたよ!」
全部に蓋をし、出口の白い扉を開けた美結が手招きをする。
その声に、遊んでいた妖精らとスライムを背に乗せた犬は駆けていき、俺も扉へ向かって歩いていく……と。
「さ、斎藤くん?」
「うん?」
ミーリャに呼び止められた。
「あの、雛菊ちゃんを忘れないであげてください……。」
「あ。」
小さく呟く俺は部屋隅に置いた雛菊を回収し、扉へ向かう。
「あれ?」
白い扉。赤黒い小さな文字が目に留まる。
『ごつしぶく』
ゴツく、渋く?……まぁいいや。
いつもの通り、訳の分からないものは放っておく。
考えても仕方無いし。
さっさと忘れ去った俺は、白い扉を潜った。
----------
その部屋の形は長細く、とても狭い。一人用ベッド、4つ分くらいの広さ?
壁は薄茶色だが、右面だけは微妙に色が違う。
そして一つだけある窓は、今入ってきた白い扉と重なって妙な感じ。
――いや、違うか?
窓は絵。壁の一部だった。紛らわしい。
白い扉の向かいには青い扉。あれがこの部屋の出口だろうな。
あと。
――拒絶。
空気が訴える感情が、今までと違ってその2文字のみ。
大きな『拒絶』の文字がデン!と前に立ち、その後ろ側を見ることさえも拒絶している感じ。
――まぁいいや。どーでも。
邪魔な雛菊はさっきと同様にして隅に立て掛ける。
「で、今度は?」
「これは電気のスイッチです。」
「……お、おう。」
白い扉の近くの壁に、近代的な電気のスイッチ。
ジーっと見つめていたミーリャが、パチッ。と音を立て明かりを消した。
部屋を包む闇。――いや、そもそも電気ってどこにあったんだろうな?天井には付いて無いし。
パチッ。と音がして、明かりがつく。そしてミーリャがスタスタと、部屋の真ん中へ歩いていった。
「何々?何か見つけた?」
美結はミーリャに近づき、ミーリャは部屋の中央でしゃがみこむ。
そうして彼女は、床から何かを引き上げた。
高さ10cm、縦横15cmくらいの小さな箱。地面とくっついていて、それ以上は動かせないらしい。
箱にはオレンジ、水色、緑の3つのボタン。
「これ、どうするの?」
「……斎藤くん、電気を消していただけますか?」
ミーリャに言われ、俺は電気のスイッチを押す。
部屋の中は再度闇に包まれ――なかった。
中央の箱が朱色をした小さな光を放ち、闇をボンヤリと照らす。
「あの、上を見ていただけますか?」
ミーリャの言葉に上を向けば、天井には何やら模様のようなものが映し出されていた。
真ん中には六角形。その周囲を囲う6つの円。
六角形の頂点からは線が延び、各々の円に繋がっている。
「虫みたいだな。」
「クソ虫のアホ!そんなこと言ったら、本当にそう見えてきちゃうじゃん。」
「まぁまぁ……。」
プシュ。プシュ。
そんな音と共に、虫の足――もとい円はカラフルに光る。
「3つのボタンをとある順番で押し、円をすべて光らせるようですね……。最後がこんな簡単で、いいのでしょうか?6通りしかないじゃないですか。」
プシュ。プシュ。プシュ。カシャン。
ミーリャが呟くように言いながら、箱のボタンを押していく。――3つすべてのボタンが押し込まれれば、自動で戻るのか?凄いな。
そうして大して時間も経たずに、床天井壁の部屋全体にはゲームクリアを祝福するエフェクトが散りばめられた。
「うん。開いてるよ。」
電気を点けた部屋の中。
美結が青い扉を開く。
キラキラしたエフェクトのせいで、未だに目がチカチカしながらも、俺は雛菊をおぶった。
「……あの!」
部屋を出ようとした俺らを、ミーリャが呼び止める。
「この先は精霊さんがいませんので、使い魔さんたちを回収してからの方が……あの……。」
語尾に戸惑いを乗せるミーリャを見れば、彼女の視線は部屋の隅でピラミッドをしている彼らの方を向いていた。
犬が一番下で逆立ちをし、2段目担当の妖精らが犬の足に各々立つ。
妖精らが支える3段目にはスライムが、とんがり三角形になって偉そうにふんぞり返っていた。
「……ス、スライムさん。」
震える声で、ミーリャは自身の使い魔に声を掛ける。
「わ、私……」
彼女はゆっくりと人工ピラミッド?に近付いていく。
「貴方をそんな威張りんぼうな子に、育てた覚えはありません!!」
ブン!と音がした気がした。
ミーリャはスライムを鷲掴み、扉の外へぶん投げた。
スライムは、部屋を出てすぐ近くの壁にべチャリと当たり、地面へボトンと落ちた。
「ゆ、ゆぅゆぅ……。」
「クゥン……。」
逃げるようにこちらに飛んできた妖精らと犬。
犬は美結の方へ。妖精らは俺の服の中に逃げ込む。――暴れるな、気持ち悪い。
スライムをぶん投げたミーリャは、ムッとした表情のまま部屋を出ていく。
俺らも彼女を刺激しないようにソローリと続き、青い扉を潜った。
----------
外へ一歩踏み出した俺はグラリとよろめき、壁に手を付く。
部屋と廊下の境目に触れた瞬間、身体中に気持ちの悪い波が広がった。
石の投げ込まれた水面の様に波紋が生まれ、体の中身がグルンと掻き混ぜられた気がした。
見れば隣でも、ミーリャが壁に背中を預けていた。その隣には、ぐでーっと垂れたスライム。
「なんだよ、今の。」
「……空間移動の一種ですね。結構無理矢理に繋げた様ですので、我々への負担も大きかったのでしょう。」
「ふーん。」
あんまりよく分からないが、迷惑な事だな。
「うー。気持ち悪iおろろ……。」
「こ、コラ!ヒィリ!?こんな所で……!!」
なんか近くから、酸っぱい臭いが漂って来ているような……?
「あ、こんな時こそ!」
先程までとはうって変わって嬉しそうに呟くミーリャは、鞄から何かを取り出しそれを光らせる。
「浄化魔法、コリアverです!」
「「ぉぉー!」」
ヒィリとショコラが驚くが、俺にはイマイチ凄さが分からない。
何かしたのか?特に変化は見当たらないし。
「すごーい!」
「染み一つ、残ってませんね。」
……何か知らんが、良かったな。
「ワフーン。」
「あれ?カザンさん?」
ミーリャが元気無さげな犬をヨシヨシしている横で、俺は周りを見渡して気付く。
「美結、いなくね?」
「ちなみに、雛菊さんも居ませんよ。」
あ、確かに。重いのがいつの間にか無い。
「先程の無理矢理な空間移動で、はぐれたのか引き離されたのか……。」
「うわわ!?」
奇妙な叫びと共に、俺らが今出てきた扉から誰かが飛び出てきた。
「あれ?美代ちゃん?」
「はひ?」
彼女は床にペタンと座り、俺らを見上げる。
美結と瓜二つの顔。しかし髪は少し長く、いわば別人。――美代だった。
ちなみに3番目の部屋には嫌がらせギミックがきちんと存在するのですが……、ゆうま君がいるので発動しませんでした。




