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腐った世界で異世界生活(ライフ)  作者: たんぽぽ
第5章 呪われし魂の集う場所
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闇は深いんだけど!

【美結、ミーリャ、+α side】





「ひぃぅ!」


後ろで上がる、小さな可愛い悲鳴。



「……うわ!」


軽くほっこりしていた私は冷たい指を頬に感じて、短い悲鳴と共に頬に触れる空気を払う。

だけどそこには、何もない。


「全く、心臓に悪いよ……。」


ほんのりと白い光に照らされた霧掛かったような通路。 さっきからオバケ屋敷のごとく、霊的なドッキリ仕掛けが多い。



「はぅ、ぅぅぅ……!」


また、遠くなった距離を確認して、私は足を止める。

後ろを振り返れば、ビクビクと怯えながらも一歩一歩頑張って前へ進むミーリャちゃん。


そんな様子の彼女に、私はふと思った事を聞いてみた。


「ねぇもしかして、オバケ怖かったりする?」


「あぅ……。は、はい……。怪談話とかは本当に無理ですっ。」


そう言うミーリャちゃんは足を止め、縮こまってしまう。



「……ある日の事、彼はいつもの通り」


「やめてくださいー!」


軽く怖い話しようとしたら止められた。

うん、やっぱり可愛い。つい苛めたくなっちゃうよね。



「ごめん、ごめん。つい、面白くて。」


「うぅぅ……。」


俯くミーリャちゃんに、やり過ぎたかなぁ?と私は少し反省する。



「ほら、手ぇ貸して?繋いでたら、少しは安心でしょ?」


そう言って私はミーリャちゃんに手を差し出す。

しかし彼女は私の手を見てビクリと震えると、半歩後ろに下がった。


「あ、ぁぅ……。ごめん、なさい……。」


無意識に怪訝そうな顔にでもなっていたのか。

私の顔をチラリと見て、ミーリャちゃんは怯えたようにすぐ謝ってきた。


私は差し出した手を下げ、彼女に聞く。



「私が怖い?」


彼女の心は読めないけど、それくらいは分かる。

彼女は私に怯えている。私を怖がっている。



「あぅ……、はい……。」


彼女は、戸惑いながらも私の質問を肯定した。


「そっか。」


「……えと、……あの。」


「いいよ。嫌われるのは慣れてるし。」


「……ダウトです。」


笑って見せる私に、ミーリャちゃんは静かに告げてくる。



「慣れてるからと言っても、“平気”って訳じゃないですよね……。」


「……。」


図星。嫌われるのが平気な人間なんて、いないでしょ。



「……で、でも、そうじゃなくて。」


何かを言い掛けるミーリャちゃんの、その声は震えてる。


「……わ、私が怖いのは、美結ちゃんじゃないんです。“美結ちゃんに嫌われる事”が怖いんです! そ、そこは勘違いしないで欲しいです……。そんな勘違い、悲しいです。」


水色の瞳を潤ませながらも、彼女は私を真っ直ぐに見る。


「うん、そっか……。」


こっちの世界に来てから、面と向かって好意を向けられる事が多い気がする。

それが少し怖い。いつか、向けられるその好意が殺意に変わりそうで。


最初から嫌われるよりも、好かれていた人から嫌われる方がよっぽど応(こた)える。


だから少し、距離を置く。

嫌われる覚悟が出来るまで。



「……じゃあ、オバケと私に嫌われるのだったら、どっちが怖い?」


「嫌われる方が怖いです!」


即答された。


「そっか。……ま、余程の事がない限り、私は基本ウェルカムだから大丈夫だよ。」


いい加減、止めていた足を前へ進める。

しかし、しばらく歩いたところで他に足音が聞こえない事に気付いた。


「ミーリャちゃん?」


戻ってみたらミーリャちゃんは俯き、突っ立っていた。


「ほらほら、さっさと行くよー。」


少し迷ったけど、彼女の右手を掴んで引っ張る。

左手は胸の辺りを押さえてた。


ハッとしたようにミーリャちゃんは顔を上げる。けど、私に引っ張られるがまま。

チラリと横目で彼女を見た私は納得する。


「それ、ペンダントか何か?」


首もとで微かに光る銀の鎖。それの先は服に隠れてる。

胸を押さえてるのも、ペンダントを触ってるんだろね。親の形見とか?



「……あ、これですか?」


そう言って歩みを緩めると、首元から鎖を引くミーリャちゃん。手は繋いだままで、少しやりにくそうだった。


「ユアンスさんが作ってくれた物なんです。」


そう言って見せてくれたのは、ピンク色に光る石。

触ろうとしたら指先に静電気が走って、慌てて指を引っ込めた。



「ぁぅ……。あの……。」


「バチッて来たぁ。」


「無理矢理他者に盗られないように、防衛機能が……。」


「ふぅん。」



ユ(ア)ア(イ)ンス(ツ)って、摩訶不思議魔道具がよく出てくるよね。


「……あの、盗らないでくださいね?これ無くなったら私、美結ちゃんを傷付けてしまいますから。」


「それもしかして、私の読心術をレジストしたりしてる?」


「え……。あ、はい。ごめんなさい。」


そう言うミーリャちゃんは消え入りそうな声になり、俯く。



「そんなに、心の中で私の暴言吐いてるんだぁー!」


「違います!」


ふざけたら、怒りの込もった瞳が向けられた。



「ごめん。」


「ぅぅ……。」


気まずくなって、また歩みを再開させる。でも手は繋いだまま。ミーリャちゃんが強く握っている。








「ひゃん!」


ミーリャちゃんが隣で、ビクッと飛び跳ねた。



「ふふふ……。」


「ぅぅ……。」



可愛い反応のミーリャちゃんに笑みを漏らせば、彼女は恥ずかしそうに俯いた。








----------





進んだ先には紺色の扉。


「ちょっと待ってください。」


私がノブに手を掛けると、横からミーリャちゃんのストップがかかる。



「何?」


「……えぇと、その、……この部屋は危険です。」


告げるミーリャちゃんは、真剣な眼差しで扉を見る。


「それって、絶対に当たる勘ってやつ?」


「はい。」


「じゃあ戻るの?でも道は他に無いじゃん?」


「いいえ。……走り抜けるしかないかと。」


「うん、分かった。」



ミーリャちゃんの勘は必ず当たるみたいだし。

彼女が危険と言う部屋を前に、私の体にも緊張が走る。



「じゃ、開けるよ?」


「……呑まれないでください。」


微かに聞こえたミーリャちゃんの呟きを脳が理解する前に、私の思考は停止した。





扉を開いたそこは、部屋全体上下左右全ての壁から水晶が生えていた。たくさんの水晶は、鏡の様に私を映す。

鏡に比べて水晶は面がたくさんある分、映る私もたくさんいる。あらゆる方向にたくさんの自分がいる。



その中の一人と、私は目が合った。映る『私』はニヤリと笑い、閉じていた唇が開く。



『知らないフリをしているだけ。』


スルリと入り込み、触れられたくない心の中の闇を突つく。

無意識にその言葉を拒絶する。頬が火照り、思考が途切れる。


辛うじて僅かに残った、冷静な部分が理解した。

これは心の奥底の闇を引っ張り出す。


前に行かなきゃいけない。

でも、足は動かない。


『本当は愛されているんだよ。』


――違う!


『悲劇のヒロインぶってるの?』


――うるさいよ!



「美結ちゃん!」


ミーリャちゃんに手を引かれ、私の足がようやく動く。

そのまま、私達は走る。



『私、本当は愛されていたんだよ。』



気持ち悪い声を背に、私達は扉を抜けた。






----------



「ハァ、ハァ。」


ミーリャちゃんと私。出てきた扉に凭れて呼吸を整える。



「ぅぅ……。グサッと来てゴリッとしましたぁ~。 スコップで砂掘るみたいですぅ。ごっそり持っていかれましたぁ。」


私より平気そうだったミーリャちゃんは、今は半泣き。

私も何か、ドッと疲れが出てきた。何も考えたくない。



「今日は良い天気ですー。」


「……ん?」


「うぅぅ……。気分転換に世間話をしてみようとか考えちゃって、ごめんなさい……。」


体操座りでメソメソし出す、ミーリャちゃん。

私は何も言えない。思考が一部、ショートしてる。



「……私あの部屋で、存在の全否定されました。『何故、平気な顔してのうのうと生きているのですか?』とか『私の存在は害悪です。周りを不幸にします。』とか『肉片残らずグチャグチャのミンチになって死ねば良いのです。』……とか。」


「…………。」


「でもあの部屋は、自分が心の奥底にしまってある本音を見せる部屋みたいなんです。……つまり、私は私を全否定してるんです。」


彼女の体が微かに震えてるように見えて、私はミーリャちゃんを抱き枕代わりにする。


「えぇ、そうです。私は私の全部が嫌いです。私は私を全否定してますよ。『生きていてごめんなさい』なのは、私の方ですから……。」


――彼女はやっぱり、微かに震えてた。



「反論なんて、出来ないです……。……ぅぅ。」



「……私も、」


呟く私は、止めていた思考を動かし出す。


「私も、反論出来ないや。」


考えたくないけど、ここまで突き付けられたら逃げれない。



「私は、『本当は愛されていた。』」


抱き枕が心地良い。あったかい。


「ずっと、母親からの愛情は“全部美夜に取られてる”って思ってた。 ……けど違う。母親は、ちゃんと私も愛そうとしてくれてた。」



知ってた。


私は母親にとって、イラナイ子じゃない。大切な娘。


愛そうとしてくれてた。けど、上手く出来なかっただけ。


ただ素直に愛す事が出来なかった。 愛情よりも、嫌悪が先に飛び出てしまうから。


母親の姉も私達と同じ、気持ち悪い能力を持っていたから。

母親の姉はそれを使い、親や周辺に上手く取り入った。

能力の事を知っていたのは母親だけ。

親の愛情は全て姉へ行き、母親は姉を恨み、嫌悪した。


その姉と私を、母親は重ねてしまう。

顔が似ているわけじゃない。私の何気ない仕草が、母親に憎悪を思い出させてしまう。



娘を愛せない自分に苛立って、母親はそこから目を逸らす。

私と母親の距離は、次第に開いた。


愛するが故。


……全部知ってた。全部分かってた。


でも、知らないふりしてた。



『足りない』から。

『美夜はズルい』って思っちゃう。


ちゃんと“私を”見て欲しかった。

目を逸らさないで欲しかった。

『私』は『私』だから。


『悲劇のヒロイン』ぶってるのかもしれない。


でも、もっと愛して欲しかったんだってば!




「ずっと、美夜に嫉妬してた。『アンタだけズルい』って。 そうやって、私が勝手に敵視して突っ掛かれば、美夜も私の事が嫌になるよね。嫌いになって当然だよ。悪口言われて当たり前。」


背中を擦ってくれる手が心地良い。



「……私に美夜を、恨む資格なんて無いよね。」


私の呟きに反応したように、じんわりと暖かな手がピタリと止まった。



「……美夜ちゃんは、恨まれるべき存在ですよ。」


「え?」


憎悪のこもった声が、私の鼓膜を打つ。



「あの子は最低な子です。人間の屑です。恨まれて当然ですよ。」


「……美夜の事、知ってるの?」


「まぁ……。私も一応、地球から来た日本人ですから。」


驚きの答え。でもその言葉には、それ以上聞かれるのを拒絶するようなものが感じられた。



「……でも私はさ、もう美夜を恨むの止めようかなぁー、って。どーせもう会わないんだし。」


恨み続けるのは疲れるって言うしさ?自覚無いけど。



「そう、ですか……。」


呟く様に言うミーリャちゃんの声は固く、冷たくてゾッとするような何かを感じた。


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