奈落へ降り立つ。
【ミーリャ、ユアンス、+α side】
ボロボロの扉を開けて真っ黒な建物に入った瞬間、体全体に鳥肌が立ちました。
嫌です、ここ。建物が私を拒絶しているのが分かります。
こんな事なら大人しく、ユアンスさんの言う通り外で待っていたら良かったです。
しかし、後悔しても後の祭り。後ろを振り向いても、そこにもう扉はありません。遥か彼方、闇の向こうです。
少しでも恐怖を和らげるため、私はユアンスさんにしがみつきました。
行く先は明るいですが、後ろは闇が追ってきているのです。
艶々に磨きあげられた床は白く輝き、私達が足を前へ踏み出す度にコツコツと軽い音を立てます。
壁も白く、どこかのSFチックな研究所を思わせる廊下です。
ユアンスさんは早く目的の場所に行きたいのか、歩くスピードが早くて付いていくのが結構大変です。
ユアンスさんをこんな風にさせる物って、一体何なのでしょう?分かりません。
しばらくして辿り着いたのは、実験場の様な凄く広い所です。丸い形で天井は高く、向こう側の壁もとても遠くにあります。
しかし、室内には何もありません。入ってきた扉以外の、他の扉すらありません。ここは行き止まりでしょうか?つまり、ここがユアンスさんの来たい所……?
――と思ったら、ユアンスさんは迷わず歩を進めます。
向かう先には……あ、透明なガラスの階段がありました。
階段は“壁から突き出た只の板”の様な形ですが、見る角度によって反射する光が七色に分かれ、とても幻想的です。
丸い部屋の壁。ぐるぐると続く螺旋階段を見上げると、上の方に小さく木の扉が見えました。――あそこへ行くのですか。見ただけで、今から疲れます。
私は一旦、ユアンスさんから離れます。くっついていては上りにくいですし。
ユアンスさんとの会話はなく、私は後ろにつきながらせっせと上ります。
先ほどから徐々に感じ始めていたのですが、どうやら今ユアンスさんはデリケートな様なのです。
『気が立っている』程ではないですが、放つ空気が軽くピリピリとしていて、何か気に触る事があればすぐに機嫌が悪くなりそうです。メーターは現在、“ギリギリ安全圏”な状態でしょうか?
こういう時は、そっとしておくのが一番です。
そうして幻想的な階段を上ること数分。
――なんとなく、こうなるような気がしていました。
ピキッ。
パキッ。
上に行けば行くほど、足元から不穏な音がし始めていました。
もうすでに私の足が離れた階段は崩れ去り、目下の闇へと消えています。
――えぇ。相変わらず私の背後には化け物の如く闇が迫っているのです。
「……あ。」
チラリと後ろを振り返ったのがいけなかったのでしょう。
足元の階段が崩れ、私は下へ真っ逆さま――だったら良かったのですが……。
どんくさい私は、足を踏み外した所為で真っ逆さまに落ちてしまいましたよ。これでは、老朽化した階段のせいに出来ないじゃないですか!
「ミーリャ?!」
慌てたように振り返り、落ちていく私を見るユアンスさん。
走馬灯の様にゆっくりと落ちていく私には、慌て顔が次第に困り笑顔になるユアンスさんが見えていました。
きっと彼は、“こうなることを知っていた”のでしょう。意識が闇に落ちていく中、私の勘は静かにそう告げていました。
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闇の中。
微睡みのようなフワフワした感覚が次第に薄れ、だんだんに意識はハッキリしてきました。
私の背筋はピンと伸び、シャキっとした気分にさせます。
閉じていた目を開けば、そこはとても暗く狭い小部屋です。何だか掃除用具入れの様な場所ですね。
そして、なぜ私はここで正座をしているのでしょう?
――まるで、いじめでも受けているような気分にさせられます。
私は軽く頭を振り、嫌な思い出を追い出します。
もう終わったことです。思い出しても仕方ありません。
私は(狭い部屋なので)少々苦労しつつ立ち上がり、正面の扉を押し開けます。
――あれ?
「美結ちゃん……?」
小部屋よりは明るい、でも十分薄暗いそこでは、美結ちゃんが崖下を覗き込んでいました。
「そこで何を……いえ、誰が落ちたのです?」
私の直感は一瞬で、彼女のその行動の意味を理解していました。
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【美代、ユアンス、+α side】
「ううー!」
どんなに力を込めてもダメ。抜け出せそうにない。
上手く力が入らないからビクともしない。
お腹すいた。ご飯食べたい……。
「はぁ。」
溜め息を吐く。
思い出すのはさっきの事。
『……遠くに行かないで。いなくならないで。』
吊り橋が怖くて、つい美結姉への本音が出ちゃった。
――恥ずかしい。
言う気なんて無かった。美結姉は絶対嫌がるもん。
案の定、はぐらかされちゃったし。
でも、目を離した隙に美結姉がフラフラ~とどこか遠くへ消えちゃいそうに思えるのは本当の事。
美結姉とは、『ただのすれ違っただけの他人』よりも遥かに距離が遠い気がする。壁が分厚すぎて、私の声なんか全然届かない。そんな感じがしちゃう。
『俺らの事情を知られたくない。』
こっちの世界に来て、美結姉との距離は近付いた気がしていた。でも……。
多分、このユアンスさんの言葉がきっかけ。美結姉との距離は元に戻っちゃった。
麻美ちゃんにとっては良い人なんだろうけど、私から見れば……気の利かない人、かな?
周りの事を気にせずに、好き勝手しそうなタイプに見える。――いや、実際そうだよね!お店の事とか学校の事とか外国に飛び出すとか……フィーナさん達の事とかね。
ユアンスさん曰く。
フィーナさん達の住む国、シュム国は大きく二つに別れてる。 人間と人間じゃない人達。つまりエルフ、獣人、ドワーフとか、またそのハーフ。まとめて“亜人”って呼ぼうかな。
『人間』は『亜人』を見下している。なぜなら、普通の人間とは違う異形の耳や尻尾は“罪人の象徴”とされているから。 対して『亜人』は、平等を願って近々戦争を仕掛けようとしてるとか。
その戦争の最大戦力として、私達はフィーナさん達に呼ばれたとか? これは美結姉が、フィーナさんの心の声からも聞いた事って言ってたから、ユアンスさんの嘘じゃないと思うけど。
うん。つまり、戦争の道具から私達を救い出したユアンスさんは、やっぱり良い人なのかなー? ……なんか、納得いかないんだけど。
コツ。コツ。コツ。
どーでも良いことを考えてた私の耳に、何か足音が聞こえた。
コツ。コツ。コツ。
水滴のように静かに響くその音は、だんだんこっちに近付いているみたい?
そしてすぐに、その人は私の前に姿を見せる。
「あれ?ミヨちゃん。そんな所で何してるの?」
――そんな所。
吊り橋から落っこちた私は今、蜘蛛の巣に引っ掛かってる。
体の周りには、例の規則的な模様に張り巡らされた白い糸。手と足も同じ白い糸で、完成された蜘蛛の巣に固定されている。
そしてね、ここから重要だよ。
蜘蛛の巣は空中に張る物。私を捕らえてるこの蜘蛛の巣も例外じゃなくて、もちろん宙に浮いてるの!
私、高所恐怖症なの!吊り橋から落ちた上に、今も空中にいるの!
現実逃避もしたくなるよね!?
「た、たた助けてくださいよぅ!呑気にボーッとしてないで、ほら!!早くぅ><」
深緑色のローブを纏った紺髪のその人――ユアンスさんに、思考世界から現実に戻された私は必死で訴えた。
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「もうやだ……。高い所なんて大っ嫌い……。」
服が汚れるのも構わずに地面に座り込む私。足が竦んで、もう立てない。
「……僕、早く先に行きたいんだけどなぁ?」
困り顔のユアンスさんは無視。元がつくとはいえ、女子高生に気安く触るのは良くないと思う。……お陰で助かったけど。
「ねぇ。どうしたら立ってくれるの?僕が何すれば先に進める?できることならなんでもするよ?」
――え?今なんでもって?
「……っていうか、そんなに先に行きたいなら一人で行けば良いじゃん。」
つい、素が出た。出ちゃった。
けどまぁ良いや。美結姉を傷付けた奴だもん。言いたい事言っちゃう!
「何?大の大人の癖して一人が怖いの?それとも、気味悪い建物に怖じ気づいたの? どっちでも良いけどさ、私が一緒に行かなきゃいけない理由が分からないよ。この先は危険があるかもしれないけどさ、ここは安全っぽいよ。だったら私をここに置いて、アンタ一人で出口探しに行けば良いじゃん。ねぇ、そうは思わない?」
頑張ったよ!いっぱい言ってやった。
特別大サービスだよ。
「そ、そんなに立ちたくないなら僕がおぶっていこうか?」
「ハッ。女の子に気安く触るとか変態じゃん。それにさ、私の足を地面から離すの?バカなの?死ぬの?私が死ぬよ!怖いからやめて。」
高所恐怖症な上に吊り橋から落ちて、その上空中の蜘蛛の巣に絡め取られた私の耐久力は、もうゴリゴリ削られて擦り切れてる。
これ以上、地面から足を離すわけにはいかない。マジで死ねる。
「…………女は嫌いだもん。」
そっぽを向いて微かに呟くユアンスさんの声は、ちゃんと私の耳に届いた。
――女は嫌い。なら……。
同性愛か……!
筋骨隆々のゴツイ男性に、何の抵抗も出来ず良い様に弄ばれるユアンスさん。
うん、ユアンスさんは絶対受けだよね。モヤシみたいに細っこいし、なよなよしてる感じするし。 ……あ。でも、ユアンスさんって格上の相手でもニコニコしてそう。まさかの攻めなの?!逆転攻めなの?!
……あ、ヨダレが。
「ミヨちゃん、……いい加減行かない?」
ユアンスさんの顔見て(妄想して)たらなんか元気出てきた!
「よし、イきましょう!」
3次元男の子は乱暴な気がして関わるのは怖いけど、ユアンスさんは暴力振るいそうにないしね。安全と分かれば、妄想も捗るのだ!
でもどっちかって言うと、2次元の方がタイプだけど!!こっち触ってこないもん。
「……何か急に元気に――?」
「気のせいです♪」
訝しげなユアンスさんの質問を遮って、私は軽い足取りで先に進み始める。
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木造作りの立派な廊下。天井には明かりが灯り、私達を照らす。
今までの洞窟といい吊り橋といい私の方は薄暗い所を通って来たから、こうやって文句無く明るいのは嬉しい。
でも一つマイナスなのは、時折窓から見える景色が酷く寂し気な事。
魚の居そうにない濃紺色の湖の周りには、生きている気力が感じられない木々。辺りには灰色の霧が鬱陶し気に纏わりついてて、酷く寂れた雰囲気が漂ってる。
「……雨、降りそう。」
空を覆うたくさんの白い雲が、景色をより一層悲しく見せる。
「……ここ一応、建物の中だよ?この景色は人工的。だからずっと止まったまま。だから雨は降らない。 でもまぁ、空があるとか異質な空間だよね。」
ユアンスさんの呟きに、『あぁ。』と一度納得しちゃう。
確かにここ、真っ黒い塔の中だったよね。
「……え?でも広すぎない!? あ、異空間なのか。」
扉の先の空間が異空間なら、外から見た建物の広さは役に立たない。
「え?でも、地下を通って別の建物へ続いてるって可能性は?」
「無いよ。」
即答するユアンスさんの声には、隠し味の唐辛子のような……ピリッとした刺を感じた。
……聞かれるのが嫌な質問だったのかな。
「えっと、なんかすいません……。」
思わぬ所に怒りの琴線があるのは、よくある事。なら、素直に謝っちゃった方がいいと思ったんだけど。
「……君が謝る必要はない。」
斜め前を歩くユアンスさんの声は、いつもと少し違う気がする。なんか、凄く不機嫌オーラが滲み出てる。
「あー、もう!」
小さく呟いて、髪の毛をワシャワシャするユアンスさんのフードはパサリとずり落ちた。
紺髪の間から姿を覗かせるのは、パタパタ動く三角形の獣耳。
「え?亜人側だったの?」
美結姉は“フィーナさん達の敵”って言ってたから、つい人間なんだと……。
それに、耳が生えてるとこ見たこと無いし。もしかして、髪の毛に隠れて見えなかっただけなのかなぁ?
「あ、まさか!フィーナさんは女性だから駄目なんじゃ!?……ユアンスさん、ホモだし。」
「ミヨちゃん。なんか僕の事、盛大に勘違いしていないかな?!」
ユアンスさんは足を止め、勢いよく私を振り返った。
「ひゃぁ!!」
「ねえ、なんで君の中で僕がそんな事になっているのかな?」
ヤバい。この人、めっちゃ詰め寄ってくる!怖い!!
「なんでかな?なんでそうなっているのかな?まさか僕ってそんな風に見えるの?違うよね?この僕が、あんなことやこんなことするなんて、ありえないよ?まぁ、あんなことやこんなことの知識くらいあるけれど、実際にやりたいと思ったことはないよ?っていうか、何があんなに楽しいのか僕にはわからないんだけどな?ねぇ、そこの所どうなの?」
「えっと、その……。」
壁際まで追い詰められた私がしどろもどろになっていると、急にユアンスさんはフラフラと離れていく。
「……うん、少し取り乱した。ごめん。」
窓の無い方の壁に凭れ、ズーンと落ち込んだみたいな姿勢で座りこむユアンスさん。背後には『ドヨーン』て感じに、青紫色の縦線が何本か見える気がする。
「えぇと……。」
ホモ確定させたのがそんなに嫌だったのかなぁ?
まぁ、私が勝手に妄想したんだけどね!でも、女性は対象外って言ったのはユアンスさんだよね?あれ、そこまでは言ってなかったかな?
「さっき、女性は恋愛対象外って言ってたよね?」
「ん?……あぁ、『女は嫌い。』それでか。」
そっぽを向いて、不貞腐れた顔になるユアンスさん。……ヤバい、可愛い。腐心をくすぐる!
「……全く。男も嫌いだっての。」
静かな空間に、彼の呟きは響く。
その事に気付いたらしいユアンスさんは更に不機嫌オーラを強めてて、なんか余計に可愛い……。
「あれ?でもそしたら、ユアンスさんは誰を嫁にするの?ミーリャちゃんとか?」
「……なんで恋愛話に持っていくんだよ。……でも……きっと、この先僕は誰かを好きになったりしないよ。」
何、この“失恋した直後です。”みたいなこの子。……ヤバい。萌えメーターが上がる!!萌え死ねるッ!
「じゃ、じゃあ、女でも男でもない人がタイプなの?んー、オカマとか?」
「だから、なんでそうなるんだよ?」
グハッ……!心底嫌そうに不貞腐れるユアンスさんがいちいち可愛いです。
連続攻撃で、今かなり萌えやすいんでもう勘弁……。
「……僕は、この世界に生きる全人類が嫌いなんだよ。その中で、誰かを好きになんてなれるわけ無いだろ?」
The傷心なぅ!って。可愛いなぁ、もう。
……はぁ、はぁ。うん、一旦落ち着こ?話題変えよ? 話題ー話題ー、別の話題ぃー。
「じゃあ、なんで私達と一緒にいるの?亜人側なら私達がいなくなれば困るんじゃ?それとも、耳生えてるのに人間側なの?」
全然変わってなかったぁ!!
確かに、他人嫌いなら私達といる理由がわからないけども!!亜人側なら、私たちを連れ出す意味が分からないけども!!
……話題変えようとしたハズだよね!?私。
「亜人側とか人間側とか関係ない。全部が嫌い。……でも、君達だけは例外。僕は、君たちの味方でいたい。……僕自身、君達には悪い事をしたからね。だから、償いたいかな。なーんて、……ただの自己満足でしかないんだけどね。
……君たちの為に僕は、一旦あの国を離れてから自分で判断したほうがいいと思ったんだよ。誰かにやらされるんじゃなくて、自分達で決めたほうがいい。だから、あの国に戻らずにこっちで暮らしてもいいんだよ。……あぁ、地球の方に戻ってもいいんだしさ。
……ってやっぱりこれって、こっちの勝手を押し付けてるだけかな。でも、守りたいってのは嘘じゃないんだよ?」
デレたよ!?なんかツンデレ来たよ?……まぁ、萌えてる場合じゃないんだけどさぁ。
……進路選択な時期なのかぁ。元の世界なら高2の冬だし、やっぱそういう時期だよね。大学行くか就職するか。今はそんな選択肢じゃないけども。
元の国に戻るか、この辺の国に住むか、ねぇ……。地球に戻るって選択肢は無いね、うん。
「……ったく。何、俺は暴露してるんだか。」
ヨロヨロ~っと、ユアンスさんが立ち上がる。
「ほら、行くよ。……あと、今の事は忘れてくれると嬉しいかな?」
「無理ですね。腐女子的には。」
「ホモじゃないからね!?」
『はぁ。』と溜め息を吐くユアンスさんは、諦めたように私に背を向けて歩き出す。
その背中は、窓の景色と相俟って酷く寂しげだった。
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ぎぃぃ。
木造の扉が音を立てて開く。
ユアンスさんは躊躇せず中に入り、私も続く。
中は少し薄暗い。……と思ったら、まるで私達を歓迎する様にポワッと明かりが灯った。
明るい所で周りを見渡せば部屋中がたくさんの本棚で埋め尽くされて、まるで入り組んだ迷路。各本棚にはもちろん、本がギッチリ詰まっている。
試しに、私は手近な本を抜き出して開いてみた。
「読めないよ!?」
知らない文字がページを埋め尽くしてる。 びっしりな文字は小さいし、読めたとしても読みたくないなぁ。
本は棚に戻して、私は適当に歩く。
気付けばユアンスさんはいない。目的の本でも探しにいったのかな?
それとも、本棚の陰であんなことやこんなことしてるのかな?なーんて。
くだらないことを考えながら、本棚の間をプラプラ歩く。
「もうちょっと、歩きやすく真っ直ぐに並んでた方が良いと思うんだけどな?」
これ、ガッツリ迷路なんですけど。美夜姉・美結姉と違って、私は迷路苦手なんだけどな?
「……アレ?ちょ。棚、動いてない?動いたような?……今、絶対動いたよね!」
ガシャン、ガシャン、ガシャンと、ロボットの変身みたいな音と共に、新たな道が作られる。
「はぁ……。」
他の道は塞がれた。溜め息を一つ吐き出す私は、新に出来たその道へ歩き出す。
「どんだけ広いの……。」
結構歩いた先には棚の無い開けた空間。中央には大きめの机があって、その近くには椅子が一つ。
なんか、図書館の中の読書スペースみたいな感じ?椅子は一つしかないけど!
「うん?」
机の上には本が一冊。
タイトルのない本。赤い表紙のそれを手に取り、適当に開いてみる。
知った字もあれば、読めない字も混じってる。
適当に文字の羅列を眺める。その中で、見知った単語へと私の視線は吸い寄せられた。
『屋代美代』
――私の名前?
縦書きで書かれた『屋代美代』。その左隣には、黒文字の『屋代美結』、『屋代美夜』と続いている。
私の名前の右隣には、灰色の文字で双子の妹弟の名前。私達の上の段には、こちらも灰色の文字で親の名前。
「……家系図?」
でも、それにしては変な文字で書かれた名前?が2/3くらいを占めている。
それに日本ぽい名前の人は、私達を除いて全員灰色の文字。
「訳わかんない。」
美夜姉なら、頭良いから簡単に分かりそうだな。
――今頃、美夜姉は何してるんだろ?
私たちのいない世界で、一人になった美夜姉は……。
……出来れば三つ子の3人、ずっと一緒に居たかった。
入れ替わってみたり、誰が誰なのか当てるゲームしたり。そんな事も、してみたかった。
でもそれは、きっと無理。美結姉は美夜姉を恨んでいるから。私達は仲良くない。
――私がもっと、ちゃんとしていれば。
私が二人の仲を上手く取り持てれば、3人仲良く笑えたのかな……。
こんな事言ったら美夜姉は怒るけど、私はやっぱり3人で仲良くしたかった。
――この本の中で、3人の名前が仲良く縦に並んでるみたいにね。
3つの名前を撫でた私は、ふと一つの黒文字に目が留まった。
『浅海・××』
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「さて。ユアンスさんでも探しに行くか!」
考えるのは止めて赤い本を閉じた私は、机の奥へ伸びる通路へ歩き出す。――だって浅海なんて名前の人、私知らないし。
相変わらず、迷路のような棚の配置。棚に並ぶ本は滅茶苦茶分厚くて、薄い本はありそうにない。
何度目かの角を曲がったら、ユアンスさんはそこにいた。
結構早く見つけられたかな?
「この調子で。薄い本よ、私の所へ出て来い!」
「……何、叫んでいるの?」
「あはは……。」
疲れの滲む声音でユアンスさんは私に聞いてくるけど、私にも分からないから取り敢えず曖昧に笑っとく。
「っていうか、見ない間になんかやつれてない?」
「……そう、かな。」
なんかもう、死神みたいだよ?生気が感じられないんだけど。
ちゃんと寝た?ご飯食べてる?お仕事平気?――なーんて、私は母親か!
「……でもまぁ、いろいろ分かったよ。」
ユアンスさんは死ぬ間際の様な頬笑みを浮かべる。
「……ミヨちゃん。僕はさっき、これから先は自分達で決めるべきだって言ったよね。けどさ、シュム国に戻る選択だけはしないでもらえないかな。」
「……うん??なんで?」
私が聞き返すと、ユアンスさんは笑みを深めて言った。
「僕、あの国を滅ぼそうと思うんだ。」
「……え?」
「君達を巻き込みたくはない。危険な目に合わせたくないからさ?」
そう言うユアンスさんの笑顔は、おもちゃを見つけた子供の様に無邪気に輝いて見えた。
あれ?美代ちゃん、なんで腐ってるの?(困惑)




