引き寄せられる魂。
※あとがきに挿絵あり
【優馬、ヒィリ、ショコラ、麻美花、+α side】
黒い扉を開けた俺は、しばらくその場に呆けていた。
先程とは違い、床は絨毯っぽい材質で壁は一般家庭の壁紙っぽい。廊下と廊下が交わる所みたいなココを、淡く青い光が照らす。
――そう、まさに廊下。
左右と正面。三方向へ、通路が伸びている。
先は見えない。どの方向へ進もうか、迷っていたのだ。
と。
「上です!」
言葉少なく、ショコラが叫ぶ。
『何だぁ?』と上を見上げると、そこは吹き抜けのようになっていた。
だが、気になったのはそこではない。
「ぐェ……。」
何かに押されバランスを崩した俺は、上から落ちてきた何かにもろに下敷きにされた。 ぶつかる直前、一瞬落下が停止した気がしたんだが、気のせいにも思える。
とりあえず、そんなに大きな衝撃は無く、俺は彼女の体重に潰されるだけで済んだ。
「だ、大丈夫ですぅ?」
「……まぁな。」
彼女をゴロリと退かし、俺は体を起こす。大して痛む所はない。
落ちてきた彼女もムクリと体を起こし、床にペタリと座っている。
「ん?雛菊か?」
真っ黒の長い髪。この薄暗がりの中、白っぽく見えるその服の、本来の色は薄い青色だったはず。
しかし、彼女からは反応が無い。座ったまま、ボーっとしている。
『頭でも打ったのか?』などと思いつつ俺は、彼女が落ちてきた上を見やる。天井には白い龍が、金色の瞳でこちらを睨み付けている。
しかしそれだけ。
上には扉も窓もない。一体、どこから落ちてきたのやら。
「……呼んでる。」
「ん?」
「……シー君が呼んでる。」
ポツリと呟いた彼女は、いきなり立ち上がると駆け出した。
彼女が向かうは扉正面の通路。
「いや、待てよ!」
俺もつられ、雛菊を追いかけるように駆け出した。
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通路を照らす青い光。それが何でか、禍々しく感じて気味が悪い。
十字路、T字路、L字路。 細い道、太い道。
雛菊は入り組んだ通路を右へ左へ、小走りで駆けていく。
それを追いかける俺。――地味に疲れた。だが、こんな迷路みたいな場所で、彼女を見失うわけにはいかないのだ。
「シーくん……、シーくん……。」
そればっかり呟きながら、何かに縋る様に足を進めている。
「……偽ご主人様。大丈夫ですか?」
「あん?」
「何かに苛立っている様子。」
「……チッ。」
『しーくん。』
昔誰かが、俺をそう呼んでいた気がする。
誰だったか忘れたが、その人だけが俺をそう呼んでいたような。
別の奴がその名を口にしていて、尚且、俺の昔の何かを穿り返されている気がして苛立たしい。
でも、雛菊の呼んでいる『シーくん』は、たぶん俺じゃないだろうな。雛菊が知るわけないし。
つまりコレは八つ当たりか?――まぁいいや。
余計な事は思考の奥に追いやり、俺は誤魔化すようにショコラに答える。
「……気のせいだろ?いい加減、疲れただけだ。」
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「開けて……、開けて……。シーくんが……、シーくんが……。」
うわ言のように呟きながら、雛菊は廊下突き当たりの壁を叩いている。しかし、疲労が濃いのかその拳は弱々しい。
「何かに取り憑かれているのでしょうか?」
「さぁな。そっち方面は良くわからん。でも、こいつの瞳、元は黒だからな?取り憑かれると色変わるのか?」
現在絶賛休憩中。
「変わらないと思いますよ。知り合いと向かい合えば、違和感を感じさせてしまいますから。」
「ふぅん。」
今現在、雛菊の瞳は鮮やかな紫色を放っている。
周りが薄暗く青っぽいから定かではないが、明らかに黒ではない。
「ま、いいや。そろそろ行くか。」
そう言って、俺は立ち上がった。
手元には赤と黄色2つの透明感ある石。丸い形は平べったく、手の中に収まるサイズ。水切りする石にピッタリそうな形、ってやつか?
そして壁には、緑色をした同じ形の石。これを取れば、雛菊の叩いているこの突き当たりの壁は開く。
取らなければ壁は開かず、雛菊を見失う事はない。
3回目にしてようやく、石を取る前に休憩すれば良いことに気づいた訳だ。
淡く光を放つ、ガラスのような緑の石。
それが壁の台座から離れた瞬間に行き先を封じていた壁は消え、それをスタート合図に雛菊は走り出す。
右へ左へ今度は真っ直ぐ?
最初の石をとった直後から、規則的に続く様になった十字路。しかし一つでも曲がる角を間違えば、迂回して合流なんてまね簡単に出来やしない。(体験済)
時間は遡り、一つ目の赤い石を取った直後のこと。
近道しようと別の道へ行ってみたんだが、ショコラ曰く曲がる角が違えば辿り着く道は別の道だそうな?なるほどわからん。先に言え。
まぁ、同じようにこの塔に迷い込んだらしい、小さな白髪の男の子の案内がなかったら雛菊の所に辿り着く事は出来なかっただろうな。
そうしてフラフラーとクタクタに疲れた状態で(ゴールした証であるかのように)2個目の黄色い石を取った俺に、ショコラが言ったのだった。
「……休んでから取ればいいじゃないですか。」
――すでに2つ目の壁は開き、雛菊が走り出した直後の事だった。
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4番目の石は水色だった。
鮮やかな、海みたいに濃い水色。
「シー、くん……。」
ここに辿り着いたとき、雛菊は床へと倒れ込んだ。ショコラ曰く、ただ寝ているだけだそうな。走りすぎて、疲れが限界に達したのか?
寝ていても、彼女は未だその名を呼び続ける。
「シー、くん。」
「…………きぃ、姉?」
ポツリと、自然に俺から漏れた言葉は、はて?誰の呼び名か。――まぁ、いいや。
「さて。どーする?」
水色の石を手に入れた俺は、開いた壁の先を眺める。
「正しい道、分からないですしね。」
「迷子だぁー!」
「ま、俺が運ぶしかないよな。」
もちろん、俺が悩んでいたのは雛菊の事だ。
周りには床と壁だけ、段差はない。
……道の事はなんとかなるだろ。最悪、またあの白髪の子に教えてもらえばいいだろうし。
「仕方ない。」
バランスは悪いが、寝ている雛菊は『お姫様だっこ』をする。
背負ってもいいが、椅子になる段差がなきゃ、どうやって背負うんだか。ダラーンとして、上手く背中に乗せられないじゃんか。
「ヒューヒュー!」
「……ん?すきま風の真似か?」
「うにゅ?」
ヒィリに聞いたら、真似っ子していた本人に聞き返された。上手いか下手か評価して欲しいのか?
「上手いか下手かなら、下手かなー?全然すきま風っぽくない。」
「むぅ。すきま風じゃないもんー!」
「……貴方、アホですか?」
よく分からんが、何か二人から変な目で見られた。……変な奴らだな。
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「案外楽だったな。」
道の終わり、進んだ廊下の突き当たり。そこには、壁まで豪華に装飾された半円の台座。円の断面は壁に密着していて、円のもう半分が壁に埋め込まれている様な形になっている。
「適当に曲がっている様ですごく不安でしたが、まさか簡単に辿り着いてしまうとは……。」
「最後は一本道だったとはな。俺も驚きだ。」
右へ左へカクカク曲がる道だったが、分かれ道は一つも無く迷わずここへは辿り着けた。
「え?一本道ですか?ずっと十字路でしたよ。」
「……ゆぅゆぅって、頭おかしいの?」
「は?意味わからん。」
何か頭おかしい認定された。変なのはそっちだろう?
「……偽ご主人様には、間違いの道が見えなかったのでしょうか?」
ショコラがなんか呟いている気がしたが、よく聞こえなかった。
「それよりも。」
目の前にある、半円の台座を見る。
一番手前には、黒い石。
真ん中には4つの窪み。
一番奥の壁際には紫色の石と白い石。
そして、手元には同じ形をした赤、黄色、緑、水色の石。
「これ、適当に置いて良いものか?」
彼女らに意見を求めつつ、俺は適当に石を置く。
取った順の赤、黄色、緑、水色。……違うか。
そこからは適当に並び替えていった。
「……あ。」
妖精どちらかが声をあげたと同時。
台座が光を発し、壁の奥から透明のケースが出てくると、台座に被せられる。
それと同時にガシャンガシャンと音がした。見れば、右の方に新たな通路が出来ている。
「……この並び、どこかで見たことがあるのです。」
台座のガラスケースによじ登り、ショコラが唸る。
それを見ているとふと、ガラスケースの上でフワフワと浮かぶ青い光に目が止まる。
綿毛のようなそれはゆったりと宙に漂いながら、だんだんに俺へと近づいてくる。
俺は “ソレ” に、ゆっくりと手を伸ばす。
“ソレ”はどこか神秘的で、懐かしい気持ちになる。
『やっと会えたよ』そんな気持ち。
ホワホワと踊る“ソレ”に俺の指が触れた時、“ソレ”はシャボン玉の様に弾けて消えた。
「ショコラー、ゆぅゆぅ、行かないのぉ?」
俺の肩に器用に寝転がるヒィリに、現実へと引き戻される。
まさに夢心地。そんな気分から、ハッと我に帰った。
ボーとしていたらしい。走りすぎて疲れが出たのか?
首を傾げる俺。――この時点で既に、俺の中には“ソレ”の記憶は無かった。
「ゆぅゆぅ?」
「あぁ、今行く。」
ショコラを回収し、床に置いていた雛菊を抱きかかえると俺は、新たに姿を見せた扉のその先へと進む。
結局、意味の分からなかった迷路部屋に背を向けて。
閉じた扉の外側、俺が背を向けた面。
そこにピンクの光を放つ文字が刻まれていた事を、その時の俺は知らない。
『最悪呪人喰魂・裏切色心奪』
と。




