脱出ゲーム展開なの、これ?
【美結、美代、雛菊、+α side】
「うーん!」
目を醒まし、伸びをする。
木々の隙間から差し込む光に、先程まで閉じていた瞳は眩しさを感じる。
――ここどこよ。
周りを見ると、隣で美代が気持ち良さそうに寝てた。
そして反対側には大きな湖。水面が太陽の光を反射し、キラキラ輝いてる。
「あれ。」
湖のすぐそばに人影を見つけた。水面の淵にしゃがみ込み、パシャパシャと水を飛ばして遊んでる。
「あ、麻美花。何してるの?」
近づいて声を掛けるけど、何か変。――心の声が全く聞こえない。
「……麻美、花?」
「ふぇ……。ミユ姉、どうしたの?」
『ふわーぁ。』と欠伸をし、寝起きのトロンとした目を私に向ける美代。
「あ、おはよ。起きたんだ。」
『僕も起きてるワン!』
モフモフしたものが、服の中から顔を見せる。
紅色の毛をした犬。私の契約した使い魔、カザン。
「美代の使い魔は?」
「ここいるよ〜!」
ちょこんと膝に乗った、2匹の小鳥。
ピーチクとしか喋らないが、動物の心を読んで会話が出来る美代には意思疏通は難しくない。
「じゃあ、麻美花の使い魔は?」
「ほら、あそこ。」
パシャパシャと水遊びをしている麻美花。
その横で、麻美花を突ついたり、顔の前で手を振ったり、背中に乗りジャンプしてみている女性。
「クソ虫とあの人達は、近くに居なかったから一緒にいないって認識で良いのかね?」
クソ虫が魔方陣に吸い込まれて白い光を溢れさせた時、私達は魔方陣から少し離れた場所、ユアンス達は扉の近くにいた。
だから、光に呑み込まれる時差とか魔方陣からの距離とかが関係して、バラバラになったのかな?ただの憶測だけど。
とりあえず、初めから意味不明。一体どうすりゃ良いのやら。
圧倒的説明不足。知っているなら全部教えなさいって感じ。――って言っても、聞かなかった私らも私らなんだけどさ。
「……とりあえず。」
現実逃避気味になりつつある思考と視線を戻す。
「……麻美花。大丈夫ー?」
なーんて。絶対大丈夫じゃないよね。
靄が掛かったみたいな思考。霧が濃くて周りが見えない。
意図的に遮断している訳じゃない。何かに遮られている感じ。
『マミカ、何か呟いてますよー?良く聞こえませんけど。おっとととぉー!』
麻美花の頭の上にタンッと乗り、バランスを取るのを楽しんでいる女性。
半透明で、服装とかが全体的に白っぽい。なんか幽霊みたい。
『あの池、変な臭いがするワン。』
カザンが私の体の中に入りながら、嫌そうな声を出す。
「どういう事?」
『臭いワン。酷い悪臭だワン。』
それ以上、カザンは答えてくれない。私の中で寝てしまったらしい。
ま、近付けば私らにも何か分かるでしょ。って思って湖に近付いてみるけど、何の異臭もしない。
湖面はキラキラと輝き、水中は透き通っていて綺麗な湖に見える。
まさに絶景!って感じの湖なんだけどな。
まぁいいや。よくわからないし、考えるのは一旦諦めた。
それより、重要なのはこっち。
「麻美花、大丈夫?」
パシャパシャと、水をすくっては投げすくっては投げしてる麻美花。そんな彼女の肩を揺する。
「……邪魔、しない、で!」
呟く麻美花はブルブルと体を震わせ、私の手を振りほどく。
「美結姉。ちょっと私にやらせて?」
後ろから声を掛けてきた美代に交代した。
「ねぇあなた、私とお話ししてくれる?」
それは美代の、暴れている動物等に話しかける時の常用文句だった。
「……なぁ、に?」
ピタリと手を止め、麻美花は美代に向き直る。
「あなたの名前は?」
「……名前?」
「そう、名前。」
「……わからない。」
麻美花はフルフルと頭を振る。
「じゃあ、質問を変えるね。ここに何があるの?」
「……なに、が?」
コテンと首を傾げたまま、麻美花は虚ろな瞳で湖を見る。
「……シー君、が、ここに寝てる、の。……助けない、と。」
「シー君?」
「……私の弟。」
「弟?」
麻美花は一人っ子で、弟どころか兄弟すらいなかったはず……。
「……うん。……お父さんに連れていかれて、それでシー君と会えなくなっちゃって、そしたらお母さんに――あれ?」
麻美花の様子がおかしい。
頭を抱え、体を震わせてる。
「……わからないわからないわからないわからないわからない。シー君どこ行っちゃった?どこどこどこどこ?」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて?」
美代が宥めようとするけど、麻美花は聞く耳を持たない。
膠着状態。こうなったら、麻美花が落ち着くのを待つしかないのかな?
その時。
ザザザァーと強い風が吹く。
周りの木々が枝を引かれ、湖面は泡立つ。
体が持っていかれそうな程の突風が落ち着いた時。
「……シー君!?」
勢いよく立ち上がった麻美花は駆け出した。
「待って!」
「どうなったの?美代。」
美代につられ私も走りながら、彼女に状況を聞く。
「麻美ちゃんの中に、別の、何かが入り込んでるの!強い思いを抱えた、知能あるモノ。それ以上は分かんないよ!」
既に走り疲れた様子の美代が叫ぶ。
「だから、麻美ちゃんを一人にしちゃダメだと思う!先、行って!」
「わかった!」
美代は鈍足。私は普通。
麻美花も走るのは遅いハズなんだけど、今は私の足でも追い付けそうにない。入り込んだ何かのせいかな?せいぜい、見失わないようにするのが精一杯ってとこ。
……っていうか、身体強化魔法の効きが悪いッ!何ココ、魔封結界でも張られてる!?
何それ聞いてない!全部ユアンスのせいにしといちゃえ、バカぁ!
『マミカ、待ってくださいー!』
宙に浮かぶ麻美花の使い魔の女性が、物凄いスピードでピューっと走って(?)行った。
――あ、麻美花を一人にしちゃダメらしいけど、あの子が追いかけていってくれたなら一人じゃないよね!!
私は少し、走るスピードを緩めた。
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森が開け、そこに立つのは漆黒の塔。所々苔生して、ひび割れている。
青空の下、太陽の光を浴びるその塔は、やつれた空気を漂わせていた。
その塔の正面。朽ちかけの扉は開いて、青白っぽい服が中へと消える。――麻美花が彼処に入っていった。
ギギギ……と、ゆっくり時間を掛けて閉まり出す扉。
慌てて私も扉に飛び込み、隙間を押し広げる。
――と、私は内開きの扉を背中で壁に押さえたまま、その場で腕を擦っていた。
塔に入る一瞬前。
ゾワリとした気持ちの悪い空気に身体中を舐められ、全身に悪寒が走った。奥から来る湿った風が、鳥肌のたった肌を撫でる。
――外界とは空気が変わった。
そんなことを自身の肌が感じていた。
ここは気味が悪い。嫌な感じがする。ここにいてはいけない。そんな思いにさせる。
しかし足がすくみ、前へも後ろへも一歩たりとも踏み出せないまま、私は開けたままの扉に背を預けるしかできない。
そんなこんなで、全力疾走により荒れていた呼吸が少しが整い出した頃、美代が遅れてここへと駆け込んで来た。
「は、ヒィ!?」
大きく吐き出そうとした息は、小さな悲鳴へと変わる。
同時に体がピクンと跳ね、美代は寒がるように体を縮こませていた。
「何ここ、気持ち悪い。幽霊でも出てきそう……。」
「本当に出てきたら面白いかも?」
「えー、嫌だよ。」
震える美代に冗談めかして言ってみたけど、帰ってきた返事は本気で嫌そう。
「だって、その幽霊が襲ってきたらどうするの?ここ、魔術使えないんだよ?」
「え?どういう――」
ギギギ……という音が耳を掠め、私は口を閉ざす。
遥か遠くで開け放たれていた扉が、今ゆっくりと閉まっていく。
「え?」
私は入り口の扉へと走る。
私達は動いていない。確かに扉は押さえていた。でも、いつの間にか扉との距離が開いていた。
狭まる外界の光。絶対に間に合わない。
変な考えが脳裏を掠める。
――扉は私達が走っても間に合わない距離まで逃げてから、閉まり出したんじゃ?……アホらし。
こんな時なのに、やはり身体強化魔法は発動しない。
――あ、行けるかも?
ギリギリ、間に合うかもしれない。
そんな事を思っていた時期がありました。
パタン。
伸ばした手は、扉の縁を撫でることさえできなかった。
ついでに、私が急ブレーキを掛け、扉にぶつからないだけの距離をも残している。
完敗。 何でか私をそんな気持ちにさせた。
外からの光がなくなり、辺りは闇に包まれた。
地面に敷かれた砂利が後ろで音を立てる。
「美結姉……。」
「なんなのよ、ここー!!あー、疲れたぁ。」
ボヤく私の横を美代が通り過ぎ、彼女は扉の前に立つと扉に触れる。
「……あ、そっか。閉まっちゃったなら開ければいいじゃん。私、馬鹿じゃん!」
ふとその考えに思い至り呟く私。疲労が倍増してきた気がする。
「……ううん。……美結姉の頑張りは無駄じゃないかもよ?」
扉を前に美代が呟く。
「あのさ、脱出ゲームって大抵、入ってきた扉が開かなくなるじゃん?」
「…………え?マジ?」
美代の言いたい事を察し、私は苦笑いになる。
「うん、この扉開かなくなってる。」
「あはは……。」
私は乾いた笑いしか浮かばなかった。
――と。
ポッと、背中の方で明かりが付く。
振り返れば、ポッ、ポッ、ポッと手前から奥へと順に洞窟の壁面に設置された明かりが光を発する。
――そう、まさに洞窟。
砂利の敷かれた地面。石を積み上げ作られた壁面には、苔がびっしり生えている。
時折、ポトン、ポトンと落ちる水滴の音が狭い通路に反芻する。
屋内のハズなのに。
「さっきの続きだけどさ。……ここね、精霊がいないの。」
「あー。だから、魔法も発動しないんだぁ。」
美代の言葉に、私は納得する。
精霊は普段空気中に漂い、魔術や魔法を具現化させる。
だから、精霊のいない人工的な空間は魔術や魔法が使えなくなってしまう。
そういえば、使い魔のカザンが私の中で寝ちゃったのも精霊がいないからかな?
使い魔という存在は、精霊がいない場所にいると、直に消えてしまうらしい。美代の使い魔たちの姿が見えないのも、そのせい?
「ねぇ。脱出ゲームってさ、やっぱ追いかけてくる敵とかいるよね……。」
戦いを挑むことなく、姿を見たらひたすらに逃げて敵を撒く。――よくあるね。
魔術が使えないって事はさ、近距離戦しか手が無いって事かな。いざとなったら嵌めて倒す?
「まぁとりあえず、進むしか道はないよね……。」
「追い掛けてくる類いの敵が、出てこなきゃいいね。」
私達はお互いに顔を見合わせ苦笑いを浮かべると、白い灯りの照らす洞窟を歩き出した。




