それ、人違いだろ?
【優馬side】
息苦しさに意識が浮上する。
「………………まぁ……お……て……。死んじゃ嫌だよぅ。」
――死ぬ?誰が?
「ご主人様、ご主人様ぁ~。起きてくださいよぅ……。ぅぅ……。」
ゆっくり目を開けてみるが、声の主もご主人様とやらもどこにもいない。
――というか、より一層首が絞まってきて、地味に命の危険を感じる。
何だか意識が朦朧と……。
「グズッ……、ご主人様ぁ~。死んじゃ嫌ですぅ……。」
「ちょっと、ヒィリ!!ストップ!止めなさい!!」
「ふぇ……。ショコラ……?」
「ほら、服が引っ張られて首が絞まりかけてるじゃない。あなた、コイツを殺しかけてたのよ?」
「ぅぅ……。で、でもご主人様なら許してくれるんだもん。」
呼吸が楽になり、自然と閉じていた目を開ける。
視界に入るのは木、木、木。
――――アレ。これ、以前にもあった気が……。
そして眼下、仰向けに寝転がっている俺の胸を足場とし、口論を繰り広げる2人の小さな……人型のナニカ。
一人は淡いピンク色のクルクルした髪に赤い髪止め、そして白い服を着ている。
もう一人は腰までのストレートなオレンジ髪に薄青いワンピース。
――と、クルクル髪がこっちを見て飛び跳ねる。
「うわわ!ご主人しゃま!ショコラ、ご主人しゃまが生き返った!ぉゎ!ほゎ!ヒャハ!ミャハ!ヒャッホィ、キャッホィ、ルンルンラ!!」
「落ち着きなさい、ヒィリ。まず、コイツは死んでいませんよ。私的には死んで欲しいと思いますけどね。」
「ご、ご主人様ぁ……。ショコラが……ショコラが……ぅぅ……。」
ヒィリと呼ばれたクルクル髪は、俺の服に抱きついて泣き出す。……テンションの浮き沈みが激しい。
――――そんな事より。
「さっきから言っている『ご主人様』って、……まさか俺の事なのか?」
「はいッ!もちろんです!」
泣いていたはずのヒィリが、ガバッと顔を上げて嬉しそうに返事をした。
…………。
「んー。たぶんこれは夢なんだろうな。じゃ、もう一回寝るか。」
そう言って、目を瞑る俺。
「ご、ご主人様ぁー……。」
「……現実逃避ですか。」
クルクル髪のヒィリが悲痛そうな声でその場に崩れ落ち、オレンジ髪のショコラは冷たい声で吐き捨てる。
「だってよ、俺を『ご主人様』なんて呼ぶ奴に会ったことねぇし。」
「……現実逃避は図星ですか。私達のご主人様も、現実逃避が得意でした。」
「…………ん?前に俺に会ったことがあるのか?」
「いえ。……前のご主人様と言った方が分かりやすいでしょうか?いや、私は貴方をご主人様なんて認めてないんですけどね?私達のご主人様はナオ様一人です。
しかしナオ様は……それはもう、人使いが荒く自己中心的な身勝手なのです。それに毎回振り回されました……。しかも女の子にすこぶる弱く頼み事は断れません。――その為に、あんなことになってしまった訳ですが。…………って、聞いてます?」
「ゆぅゆぅ、大ー好きッ♪」
「……オィ、降りろ。」
「やーだ!ゆぅゆぅと一緒ー♪」
「ったく。」
「…………無視なのですか。」
ショコラの悲壮感溢れた呟きは、もちろん俺らには届いていなかった。




