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腐った世界で異世界生活(ライフ)  作者: たんぽぽ
第4章 異世界の学校
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灰色の曇り空

『彼らの偉大な力を利用しようとする民は、神の怒りに触れてしまった。その粛清として、神は我らから彼らを取り上げるだろう。』


前々から、そんな噂が流れていた。

さらに、彼女達本人も『そうなるかもしれない。』と不安がっている様、という噂もあり、噂の信憑性は増していた。



そんな中の、あの出来事。

小さな爆発の最中、彼らは姿を消した。


人々は『噂は誠だった』と神に祈り、懺悔し、必死に許しを乞うた。



そんな中、とある説が持ち上がる。


『ワールの民が私利私欲の為に、彼らを連れ去ったのでは?』と。

なぜなら、ワームの民と噂されていた2人も、一緒に姿を消しているから。

小さな爆発も人為的な可能性が高く、一部の熱狂的な神信仰者は『ワームの民の仕業だ!』『ワールの民は神へ罪を擦(なす)り付け、神を侮辱した!』などと騒いでいる。




――でも私にはそんな事、関係無いかな。

少しだけ、淀んだ空気の空間。

ガラス越しに空を見上げるも、分厚い灰色の雲が青い空を隠す。



……2ヶ月。

たった2ヶ月しかいなかったのに、ポッカリと開いた穴は大きいらしい。


少々ぎこちないながら、軽く談笑しつつ昼食を取る彼女達。

なんでか、彼女達の笑顔が泣き顔に見えてくる。

2ヶ月前と何も変わらないハズなのに、何かが変わってしまったらしい。



「サナちゃん!一緒にご飯食べよう?」


「…………。」



私は何も言わず、その場を離れる。



「え?……わ!待ってよ!サナちゃん。」


彼女は一瞬呆けるが、教室を出た私を慌てて追いかけてくる。


逃げる私。それを追う彼女。

逃げ続ける内に、自然と屋上にまで来てしまった。


私は観念して、後ろを振り返る。



「おひ、る、ご、はん、……いっ、しょに、た、べよ、う?」


ゼィゼィと息を切らし、それでも私に笑顔を向ける彼女。

地面にしゃがみこみ、髪は乱れ服も少しヨレている。


「…………なんで私なんかの為に、そんなに必死になるの?」



気付けば、自然と彼女に問い掛けていた。



「エヘヘ。」


質問が何であれ、聞いてくれたことが嬉しかったのか、彼女は嬉しそうに笑う。

でもそれが、私にとっては少し苛立たしい。



「……私は死神だよ?私の近くにいると、みんな不幸になるんだよ? 貴女も不幸になるんだよ?わかってるの?!」



叫ぶ私に、彼女は微笑みを返す。


「アハハ……。ちょっと待ってね。……ハァ、ハァ。……サナちゃん、歩くの早いんだもん。疲れちゃうよ。」



そう言って、息を整える彼女。



「ふぅ。……えっとね、サナちゃん。」


彼女は少しヨロつきながら立ち上がる。そして一歩、また一歩と私に近づき――

――不意に私を抱き締めた。



「私の不幸はサナちゃんの不幸だよ。私の幸せはサナちゃんの幸せだよ。サナちゃんが幸せじゃないなら、私も幸せじゃないよ。サナちゃんが悲しいなら、私も悲しくなるんだよ。」



彼女の激しい心臓音が、私にまで伝わる。

きっと貧弱な体力ながら、必死に追いかけて来てくれたんだろう、と。



「……でも、私は死神なんだよ。……私が。……私が、お父さんとお母さんを殺したんだよ。」



震える手で、彼女を引き剥がす。


私のせいで、両親は死んだ。……私が殺したんだ。



「あれは、サナちゃんが悪いんじゃないでしょう?あれは不幸な事故だったんだから。」



「……でも私がいなければ、神官様の魔法でお父さんとお母さんは治ったんだよ? 私が精霊を乱して魔法を使えなくしたから、お父さんとお母さんは死んじゃったんだよ?」



小さい頃、家が火事で燃えた。


私は両親に守って貰った為に無傷。

しかし、両親は軽くない怪我を負って助け出された。

普通なら治癒魔法で治る程度の傷。しかし、私のせいで魔法は乱れ、治療が出来ないまま両親は死んだ。


私がいなければ、火が大きくならない内に消す事が出来たはず。

私がいなければ、ちゃんと両親を治療出来たはず。



「……私が殺したも同然なんだよ!!」


「サナちゃん……。」



いつの間にか溢(こぼ)れていた頬に伝う雫を、彼女が袖で優しくぬぐってくれる。

私は恥ずかしくなって、彼女に背を向けた。



「……私に憑いてる精霊が、意地悪な笑みを浮かべて他の精霊達に嫌がらせするの。まるで、物語の魔王サマみたいに。他の精霊達は私の精霊にいじめられるのが嫌で、逃げるの。だから私の近くにいると、魔術や魔法が乱れて使えなくなる。」



両親の治療をしようとしてくれた神官様の精霊にだって、私の精霊は変顔をして相手をバカにし、彼女が無視して魔法を使おうとすれば、その魔法を散らす。

散々邪魔され、バカにされた神官様の精霊はひたすらに泣きじゃくっていた。




「……サナちゃん。」


「……今だって、アナタの精霊にちょっかい出してるんだよ?精霊、困り顔だよ? 私には、止めることが出来ないの!だから、私から離れてよ!!」



一度溢(こぼ)れた雫が止まらない。

泣いているのを隠したくって、私はしゃがみこむ。


そこへ暖かい手が触れ、背中を擦る。



「……ねぇ、サナちゃん。E組の臨時先生やってた人知ってる?」


「え?ワールの民だって噂の?」



優しい声音。脈略の無い話に、思わず隣に座り込んでいる彼女を見る。



「サナちゃんが噂を知ってるのかー。意外だな。」


「……酷い。」


「ごめんごめん。 それでね、その人が私に教えてくれたんだー。」


「……何を?」



空を向いていた赤い瞳が、急に私を優しく見つめる。


「サナちゃんが世界を好きになれば、サナちゃんの精霊も周りに優しくなるんだって。」



「世界を……好きに?」



「サナちゃんが世界を憎んでいるから、精霊は攻撃的になる。精霊はサナちゃんの事を大事に思ってるから、サナちゃんが傷付かないように守ろうとしている、って。」


「……うん、そうかもなー。」



世界が嫌い。世界が憎い。

『そうかもしれない』って、ストンと納得できる。



小さな頃。生まれつきの目のせいで、周りの子供には苛められ、大人には気味悪がられた。

何で私だけ?って。悪い事なんて何もしてないのに!って。


そして周りを……世界を憎んでいたかもしれない。



「世界を好きに……かー。難しいなー。」



太陽を隠し分厚く重なる雲のような灰色のこの世界を、私は好きになれる自信はない。



「それならさ、サナちゃん!」


弾んだ声を響かせる彼女。



「ユウマ君は好きなの?」


「へ?」


キラキラと、彼女は期待に満ちた視線を向けて来る。



「サナちゃん、隙あればユウマ君にベッタリだったじゃん。……ね、ね?いつから好きなの?どこがいいの?彼氏がいなくなって、寂しくなぁい?」



乙女な顔だった。この子も恋バナとか興味あったんだ。

いつもホワワンってしてるから意外かも。



「彼とは何も無いよ。好きって訳じゃないし。」


「自らを死神と言い、他人には近づかないあのサナちゃんが、理由も無く彼に近づくなどあり得ない!!サナちゃんはユウマ君に恋したに違いない!!……って、みんな言ってるよー?」


「……何それ。」


「だって、ユウマ君と話してる時、サナちゃん楽しそうに笑ってるもーん。私にはいっつもムスーってしてるのにー。」



唇を尖らせる彼女。……そういえば時々、私を笑わせようとしてくれるっけ?本人が意図してるかどうかは分からないけど。



「……彼の周りにさ、朱(あか)い精霊達がたくさんいるんだ、いっつも。」


健気な彼女に、何だか話してみたくなった。



「精霊達はさ、いっつも彼に言うんだよ。『裏切り者!』って。」


「へぇ。」


「声は聞こえてないハズなのに、“気持ち”っていうか“雰囲気”は感じてたのかなぁ?……なんか、気が滅入ってるみたいだったから。」



――他人を寄せ付けない。

そこに、自分と同じものを感じたのかもしれない。



「だから、その朱い精霊達を私が散らしてあげたくなった。ただそれだけ。」



彼の火魔術が上手くいかなかったのはきっと、朱い精霊達に裏切り者扱いされていたから。

精霊達に嫌われるって、よっぽどの事をしたんだろうなー。



「……そういえばワームの民って人も、精霊達に嫌われてたよ。それも全属性。……凄かったな。あの人が通る度に、ササーッと精霊達が逃げて行くんだもん。」


「プフフッ。」


「ん?何笑ってるの?」



彼女が、堪えきれないって感じに笑ってる。そんなに変な話かな?



「だって面白いもんー。サナちゃんには、私達と違う世界が見えているんだね。不思議だなぁ。」


今度は優しい笑みを浮かべる彼女。表情がクルクル変わる。



「よし。それじゃ、ご飯食べよう!お腹もペコペコだしね。」


そう言って、お弁当の包みを取り出す彼女。



「ほら、サナちゃんの分ー。」


「……要らないのに。」


「せっかくお母さんにお願いして作って貰ったんだから、我が儘言わずに食べなさい!」


「……無駄な事、しなくていいのに。――に迷惑じゃん。」


ただでさえ、家の無くなった私を引き取って養ってくれてるのに。

お昼を我慢することくらい、出来るのに……。



「家族には、ちゃんと迷惑かけなさい!サナちゃんは私の大切な家族なの!」



ぎゅっと抱き締めてくる彼女。

その暖かさに、少しだけ嬉しくなる。



「アレナ……。」


「……サナちゃん。」



力を込めていた腕を緩め、顔を上げるアレナ。



「私の事は名前じゃなくて、『お姉ちゃん』って呼んでよ!」


「……え?」


「いつも言ってるじゃん。『アレナ』じゃなくて『お姉ちゃん』って呼んで欲しいの!」


「…………。」



私はアレナからお弁当をかっさらうと、包みを開く。

色とりどりのおかずが、綺麗に詰められている。



「いただきます。」


「……むぅー。」



膨れるアレナも、お弁当を開く。

彼女が末っ子だからって、誕生日が4ヶ月しか違わない私を妹にするには無理があると思う。



それでも。



「……ありがとう、お姉ちゃん。」



小さく、呟いてみた。




2ヶ月。

たった2ヶ月の間に、私の何かが変わってしまったのかもしれない。


――彼がいないから。

私が、教室の彼女たちの笑顔が今にも泣きそうに見えたのは、私が勝手にそう見ていただけなのかも知れない。


彼がいないから、教室の空気があんなにも淀んで感じたのかもしれない。


私の知らない所で、私は彼のいない事を悲しんでいたのかもしれない。






分厚い雲の隙間から、眩しい太陽がチラリと顔を覗かせる。

暖かく眩しい太陽。しかしすぐにその姿は雲の中に搔き消えた。


灰色の世界は、今日もどんよりとした曇り空。


 ― 回想 ―


美結  「ウィンハル君はこういう軽い剣の方が扱いやすいと思うよ。」


そう言って、かつて授業で作っていた剣を差し出す彼女。

トンクから作り出した粗悪品(レプリカ)だけど。


 ― 回想終了 ―


ウィンハル  「姉御ぉ……。」(もらった剣を見つめ、うるうると瞳に涙を浮かべる。)

カグヤ  「全く。アンタはいつまでウジウジしてるのよ!」(ツンと、上を向いて泣いてないフリ&涙乾かし中。)

ジェシラス  「ご恩は一生忘れません。姉御!」

他大勢男子  「姉御ぉー。(うるうる)」

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