第63話 緑竜は見た目の割に強いです
ここは、緑の谷…と言う場所らしいです…らしいというのは、トパーズがこの名を口にしていたからというだけで、確たる証拠がないからです。
「緑竜! さっさとやってしまいなさい!」
「わかってるよ我が主! でも、相手が逃げてばかりで見つからないもん!」
緑竜とトパーズがそんなような会話をしながら近くを通り過ぎて行きました。
「どうする気だ? このままじゃ勝てないどころか、ナデシコに戻れないぞ…。」
「仕方ないでしょ! 見た目の割に強いんだから…。」
油断した私たちも悪いのですが、緑竜は思ったよりも強く、相当な実力を持っていました。
もしかしたら、炎竜もかなりの実力を持っているのかもしれませんが、それに関してはハッキリ言って未知数です。
「どうして、お姉ちゃんはこういう時に限っていないのよ…。」
私がそうつぶやくと
「お呼びですか~?」
「おっお姉ちゃん!?」
私たちの後ろからひょっこりとお姉ちゃんが顔を出しました。
「びっくりした…変なところから出てこないでよ…。」
「いえいえ~壁がどのあたりにあるのか見たくて飛んでいたら、偶然上から見つけたので、寄ってみました~」
そんなことを言いながら、お姉ちゃんは何やら術式が描かれている紙を広げ始めました。
「お姉ちゃん? それって…。」
「炎竜さんを召喚するための術式ですよ~ちょっと待っててくださいね~『召喚魔術 炎竜召喚』」
お姉ちゃんがそう唱えると、白い煙と共に炎竜が出てきました。
炎竜は、私たちが隠れている茂みより大きいのですが、木の陰にうまいこと隠れていたので、相手からは見えていないと思います。
「敵さんは、トパーズとかいう女の人と、緑竜さんだけなんですか~?」
「もう一人オパールって言う名前の女の人もいたけど、この場にはいないみたい…。」
「わかりました~じゃあ炎竜さんに乗って、さっさとナデシコに戻っちゃいましょうか~背中を見せて逃げるのは、あまり好きではありませんが、早くこの場を離れるに越したことはありませんから~」
お姉ちゃんは、そう言いながら立ち上がりました。
「お姉ちゃん?」
「どうかしましたか~?」
「別に…なんでも…。」
気のせいでしょうか? さっき、お姉ちゃんは何か、覚悟を決めたような眼をしていたような気がしたのですが、こちらを向いて返事をしたお姉ちゃんは、いつも通りの何を考えているかよくわからない表情だったので、気のせいだったのでしょう…
私は、頭の中でそう結論付けて炎竜に乗りました。
「また乗るのか…。」
「まぁ今回ばかりは仕方ないだろ…。」
「アウラは、お姉ちゃんと一緒がいい!」
こんな状況だというのに、のんきなことを言いながら、私とヴァーテル、アウラ、竜也が炎竜の背中に乗りました。
「お姉ちゃん! 早く乗らないと!」
私がそう言うと、お姉ちゃんは向こうの方を向いたままこう言いました。
「炎竜…飛んで…。」
その声を聞いた炎竜が動揺しているのが、私にもわかりました。
「しかし、主がまだ乗っていないではないか!」
「命令よ…飛びなさい!」
お姉ちゃんが語気を強めて言うと、炎竜は空高くに向けて飛び立ちました。
「私が敵さんの気を引きますので、うまく脱出してくださいね~」
先ほどの迫力は、どこへ行ってしまったのか、いつもの口調でそう言ったお姉ちゃんがトパーズと緑竜がいる方へ歩いていくのが見えました。
「お姉ちゃん! どうしたのよ! あんなに強いドラゴンと一人で戦ったら死んじゃうよ! どうして一緒に来ないの! お姉ちゃん!」
私の声が聞こえているのかいないのか、お姉ちゃんはこちらを向いて手を振っています。その顔は、今まで見たこともないような笑顔に見えますが、炎竜はぐんぐんと高度を上げているので顔をはっきりとみることはできませんでした。
「どうして…どうしてよ! どうしてなの…。」
「まだ、死ぬって決まったわけじゃないんだから…。」
真っ青な顔をした竜也が、私の肩に手を置いて、そう言いました。
「そう…だよね…お姉ちゃん、生きて帰って来るよね…。」
私が、そう言うと竜也はこう言いました。
「あの人が、そんな簡単に死ぬわけないじゃん…妹がそれを信じなくてどうするのさ?」
「そうだね…妹の私がちゃんと信じないとね…。」
私たちを背中に乗せた炎竜は、ナデシコへ向けて一直線に飛んでいくのでした。
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