第35話 すべてはここから始まりました
ナデシコで一泊した私たちは、昼前には、私が最初にこの世界の土を踏むこととなった港町を見下ろすあの丘に来ていました。
この世界に来て初めての情景は、あの流氷だったのですが、ある意味では、この港町がすべての始まりの地なのだと思います…
もし、流れ着いたのが、別の町だったらずいぶんと結果が変わっていたことでしょう…
「へぇ…町が一望だね~これなら十分あれだな…。」
「すごい! アウラの大好きな海がよく見える!」
なぜだか、船の一件で海がお気に入りになったらしいアウラがピョンピョンと跳ねています。
「振出しに戻ったわね…。」
「まぁスタートとは違って西へ行くんだがな…。」
この町の場合、一番長くとどまっていたこともあり、まるで故郷にでも帰ってきたような気分になります。
百々と再会したのも、空と出会ったのもこの町でした。
「百々…どこにいるんだろう?」
百々と再会できたこの町には、おそらく彼女はいないのでしょう…
スイレンで聞いた話だと百々が所属している行商の一団は、ラーウスに急ぎの用があるとかで、途中の町では、休憩するぐらいだそうです…
なぜ、そこまで急いでラーウスに急ぐのかは知りませんが、そのことを配慮すればなかなか会えないのと思います…
「まぁゆっくりとしたいところだが、少し休憩したらすぐに発つぞ…。」
ヴァーテルは、そう言いながら丘を下り始めました。
「私は、もう少しここにいるから、先に行ってて!」
「アウラも一緒にいたい!」
どうやらアウラは、あまり離れたくないらしく全身でそう示しています。
「えっと…それは…。」
「ダメなの?」
アウラが上目づかいで私を見つめました。
ちょっと、これは断りづらいを超えて断れません…
「だから…。」
「まぁいいだろう…ここは、牡丹にとって特別な場所だからな…すぐに来るさ…。」
私が、言葉に詰まっているとヴァーテルが、アウラを説得しようと試みます。
「うん…わかった…。」
数分の沈黙の後、アウラはしぶしぶながらも納得したようです。
「それじゃぁ、先に行ってるからな…あとから来いよ…。」
ヴァーテルがそう言うと、3人は丘を下って町の方に歩いていきました。
「さてと…。」
私は、ヴァーテル達が丘を下りて行くのを見届けてから伸びをして、四苦八苦しながら魔法を使おうとしていたあの時と同じように構えました。
「『草魔術 葉の防壁!」
あの時とは、練習している魔法が違いますが、それでも、前と…この世界に来た時と同じように練習していました。
突然流氷の上に飛ばされて右も左もわからないときに出会った仲間…思いもよらぬ再会を果たした親友…突然、竜に乗って登場する姉…山の村で出会ったかわいい妹分…港町で再会した曲者の同級生…これだけにとどまらず、セコンデや空、色々な町の宿の主人、コスモスで快く机を貸してくれたおじさん…気づけば、この世界に来てからたくさんの出会いがありました。
そして、これらの出会い…そして、いつか訪れる別れもたくさん経験していくことになるんだろうと思います…
「あっ…。」
余計なことを考えていたせいか、魔法が失敗してしまいました。
「ふふ…はははははは!」
私は、草原に寝転がって、心の底から笑いました。
まさか、いまごろこんな失敗するなんて…
魔法を使っていて、失敗して大笑いしている…はたから見たらただの変人ですね…。
「…頑張ろう…。」
散々笑った私は、立ち上がって、背中に着いた草を払いました。
「『草魔術 草の防壁』」
いつか元の世界に戻ることになるのならば、時間が許す限りこの世界で一生懸命生きよう…
もしも、元の世界に戻るといった時に、この世界に未練を残さないように…
たくさんの思いを乗せて、世界は廻ってゆく
始まりを告げた風は、どこへ吹いてゆくのでしょうか…
あの時と同じような風が、私の後ろから町の方へ吹き抜けて行きました。
読んでいただきありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。




