第30話 久しぶりの海辺です
しばらく滞在していたあの町を出発して約半日…私たちは、さらに下にある港町コスモスにやってきました。
「うーん! 潮の香りがすると海に来たって感じね…。」
アウラからの情報を頼りにヴァーテルが宿を探している間、散歩をしていることにした私とアウラは、港まで来ました。
私が伸びをしている横でアウラは、港を行きかう船を見ています。
「向こうの町で見た船より大きい!」
アウラは、旧王国領行きの船を指差してそう言っています。
確かに、あの見晴らし台から見えた船はかなり小さかったのですが、おそらくこの船と同じような大きさだったのでしょう…
「ほんとに大きな船だね!」
ここで遠近法がどうのとか言っても仕方ないのでアウラの言ったことにどうと言うことはしません。
「ねぇお姉ちゃんは海好き?」
「そうね…私は好きかな…これは、陸を歩く旅でも同じなんだけど、この広い海を渡るとそこには、今まで見たことがない町があって、たくさんの出会いがあって、そして、いつか別れる…だけど、世界は思っているほど狭くないからすぐに会える…そう考えると素敵でしょ?」
「なんか難しくてわからないけど海ってすごいんだね…。」
アウラには難しかったようです…
アウラは、海の向こうには神様が住んでいる島があるって言ってましたけど、この海の向こうには、それよりも素敵な人との出会いがあるのです…
「ねぇねぇ! お姉ちゃんは海の向こうに行ったことあるの?」
海の向こうかぁ…ある意味では行っている気がします…流氷に流されていただけですが…
「私はないかな…だからね、言ってみたいのよ…この海の向こうに…。」
「その時は、アウラも一緒だからね!」
「そうね…いつか、アウラやヴァーテル、百々や空と一緒にこの大海原を旅するのも面白いかも…。」
このセリフ、向こうの世界にいるお母さんやお父さんに聞かせたらなんと言われるやら…
私がこの世界に来てから半年が経とうとしています…
「お母さん…今、どうしているのかな?」
たった半年前まで日本にいたのに、日本で過ごしていた日々がまるでずっと遠くの昔のように感じます…
「そうだ…手紙でも書こうかな…。」
「お姉ちゃん誰かにお手紙書くの?」
そう言えばアウラがいました…
「そうよ…だから、どこか手紙を書きやすいところを探してくれる?」
「わかった…『探知魔術 地形把握』」
港から少し離れたところにある商店…
今、私はこの店の前に置いてある机で手紙を書いています。
アウラは、迎えに来たヴァーテルと先に帰りました。あまりいい顔はしていませんでしたが…
「それにしても、お嬢ちゃん…いまどき手紙とは律儀なんだねぇ…。」
「えぇ…連絡する方法を知らないもので…。」
私の答えに店主は頭に疑問符を浮かべる。
「連絡方法を知らないねぇ…まぁいいよ…使いたいんだったらビンも自由に使ってもらって構わないから…。」
「ありがとうございます…。」
この世界には、こちらの世界における電話にあたる電信魔術があり、遠くの人間に連絡を入れる時は、自身がこの魔法を使うか町にある役場に行って電信係に依頼するのが主流です…
ただし、電信魔術は音声しか伝えられないので、文章に残したい大事な文章は手紙を書いて手紙屋に持っていくそうです…
「書けた!」
私は、机を貸してくれた店主にお礼を言って海の方まで戻ります…そして、届くはずのない手紙を海に流しました。
「お母さんに…向こうの世界に届くように…。」
奇跡的に向こうの世界にたどり着いたときのために、手紙には住所も書いておきました。
あとは、お母さんのところにつくように祈るのみです…
私は、日が傾いて赤く染まった海にビンに入った手紙を流しました…
拝啓 母様へ
私がいなくなって心配しているでしょうか?
突然いなくなってごめんなさい…でも、心配しないでください。
私は、異世界で元気にやっています…
あなた様も元気でしょうか?
お父さんにもよろしく伝え置いてください
牡丹
私の思いを乗せたボトルメールは、波にもまれながらも遠くの方へ流れて行き、やがて見えなくなりました…
読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




