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「久しぶり、ルリ!! 元気にしてた?」
「お久しぶりです、メイカ様! ええ、私はこの通り元気ですともっ。メイカ様こそふっくらされて、きれいになられて。あの家から出られて良い方々に出会えて本当に良かったですわっ」
「うんっ、おかげさまで元気よ。ルリも元気で良かった」
久しぶりにねこのてで会ったルリは感極まったように目を潤ませる。離れても気にかけてくれるのはめちゃくちゃうれしいけれど、仲良しの店主や店員に温かい目を向けられてちょっぴり恥ずかしい。
注文を済ませるとルリはうきうきと店内を見回す。
「ふふふ、こちらのお店懐かしいですね。前に来たときにはメイカ様はとても気に入られて『家を出て安定した仕事を見つけたら毎日通うわ!』と意気込んでいたのですよね」
「そ、そうだっけ……?」
「ええ、メイカ様の一大決心ですもの、きちんと覚えていますともっ。メイカ様があの有名雑誌ムスビの人気ライターになって、こうして憧れのお店に私を招待してくださるなんてっ。本当に立派になられて、私はもううれしくてこの日が楽しみで!! 王都の知り合いに宣伝してきますねっ」
「ありがとうルリ。でも、恥ずかしいからあんまり言わないでくれるとうれしいな……」
メイカは一人前のライターになりありがたいことにファンもついている。貯金もでき、こうして遠い地方に帰った元メイドのルリを呼び寄せることもできた。本当にユウたちには感謝しかない。
「そうですね。まずはお世話になっている方々にぜひお礼を……」
「あ、それは気持ちだけで大丈夫よ。ありがとう。そういえば、手紙にも書いたけれど。ルリは何か語りたい話とか人に教えたい話とかない?」
話好きなルリが、何でも深掘りしたがるユウやネタに飢えている社員たちに捕まったら、メイカのことをあれこれ聞かれたあげくどんな記事を書かれるか恐ろしい。
慌てて話をそらすとルリは少し考えて、ぽんっと手を叩く。
「そうそう、そうですわっ。いろいろと考えたのですけれど、やはりメイカ様の人柄を表すのはこれだと、持ってきましたわっ」
「え、なになに。あ、これ授業でとってたノートだ。懐かしいな~」
ドヤ顔のルリが出したのは令嬢マナー教育の授業で書き留めていたノートだった。何度も読み込んでいたのかすりきれている。
見栄っ張りな両親が伝手を使って評判の教師を呼んでくれたおかげでマナーだけは褒められる。「礼儀作法と教養を身につければ、貴族と関わる良い仕事が見つかる」とカレンにアドバイスされ、ルリと一緒にがんばったのも良い思い出だ。
「実は、お仕えしている家の同僚たちとこのノートを使って勉強していますの。皆、わかりやすいし、好きな時に勉強できるからスキルアップになると喜んでいるのですよっ。中には取引先の方に見初められて結婚が決まった子もいますしっ。ですから、メイカ様が書いたこのノートをムスビに掲載して、もっと世のために人のために役立てていただきたいのです!」
「そうなんだ。私が書いたものがそんなに喜んでもらえているんだ……」
自分が書いた文章が人のために役に立っている。何よりも親友に「これが読みたい!」と熱烈に応援されて心がじんと熱くなる。
――私、ライターになって良かった。
心からそう思う。
「わかったわ、ルリ。私、がんばるわ!!」
「ええ、発売を楽しみに待っていますわ!」
*****
「なるほど。さすがはメイカさんを応援する方イチ推しの作品ですね、とても興味深いです。ちょうどスキルアップのための教本が流行っているようですし、ブラッシュアップして本にしてみませんか」
「わあ、ありがとうございます! がんばります!!」
ユウに見せるとあっさりと採用された。しかも、書籍化と聞いて誇らしくなる。
「では、さっそくタイトルを考えましょうか。そうですね、男爵令嬢のマナーを身につけるという内容ですし、わかりやすく”令嬢マナー教本”はどうでしょう」
「やだ~、ユウさんったらそんな辞書みたいな堅苦しいタイトルじゃ女の子は見向きもしないわよ~。メイちゃんの代表作になるんだから、もっとかわいい名前にしないと。そうねえ、親しみやすく”普通の女の子でもばっちりわかる、楽しく学べる貴族令嬢のマナー!”なんてどう?」
「それこそ貴族から苦情が来ますよ。ただでさえ、どこかの恋にのぼせた当主が平民に熱をあげて正式な妻にしようとしていると社交界中の噂になっているのですから。変な恨みを買うようなタイトルはやめてください」
首を突っ込んできたナツメにユウがしかめ面をする。どこかで聞いたような内容だけれど、まさかアディンゼル伯爵家のことじゃないよね。内心だらだら冷や汗を流すメイカをよそに2人はあーでもないこーでもないと盛り上がる。おろおろしていると静かに見守っていたマツバがメイカに話しかけてきた。
「……”わかりやすい”と”令嬢マナー”というキーワードは興味を惹くと思う。前に話していたハウツー本というもののタイトルを参考にしたらどうだろうか」
「あ、なるほど! それならわかりやすいですものね。じゃあ、う~ん。……”一からわかる令嬢マナー”なんてどうでしょう?」
「ふむ、良いですね。ではそれでいきましょう。ああ、一応内容はマナーに詳しい貴族に監修してもらいますが。正確さなどは気にせずにメイカさんの好きなように書いてもらって大丈夫ですよ」
「ありがとうございます!! さっそくとりかかりますねっ」
ユウがゴーサインを出すとナツメとマツバもがんばれと応援してくれる。皆に背を押されてメイカははりきって執筆にとりかかった。
”一からわかる令嬢マナー”はすぐに人気になった。中にはルリが言っていたように「貴族と関わる仕事をするための勉強になった」とお礼の手紙を送ってくれる読者もいて小躍りする。
それからも新刊を楽しみに待っていてくれているルリと読者のためにメイカはせっせと執筆に励み、エン社の人気ライターとして充実した日々を過ごしていた。
しかし、皮肉にも人気作が幸せな日々を終わらせた。




