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「おはようございます!」
「おはようございます。ちょうど良いところに来ましたね。ねこのてに頼んでいた新メニューの試作品が来たのですが、よかったら一緒に味見しませんか?」
「わあ、良いんですかっ。ありがとうございます!」
ドアを開けるとユウがデスクの上に宝石のように色鮮やかなイチゴのかき氷を置いていた。
脚のついたガラスの器にふわふわの氷が盛られ、花びらのように飾られた真っ赤なイチゴをイチゴシロップと練乳が彩っている。中にもアイスが入っていて、甘くてふわりと溶けていく氷の冷たさと食感を引き立てる。
「ん~おいしい~っ。かき氷って果物系から宇治金時みたいなアレンジしたものまで何でもおいしいですけど。イチゴの甘さとジューシーさが一番ですね~。ユウさんは何が好きですか?」
「僕もイチゴが好きですね。母が毎年暑くなるとイチゴを使ったかき氷を作ってくれるから、という子どもの時からの刷り込みのようなものなんですが。これも母のかき氷をアレンジしたものなんですよ」
「わあ、いいなあ。こんなおいしいものを食べられるなんて最高ですね! イチゴが好きならスムージーもいいですよね。はちみつや練乳でお好みの甘さに調節できるし、ベリーはもちろんマンゴーとかメロンみたいな味の濃い果物ともあうし」
「そんなに喜んでくれると母も喜びますよ。ところで、スムージーとは何ですか?」
「凍らせた果物を牛乳やヨーグルトとミキサーでさらさらになるまで混ぜて、お好みではちみつとかシロップで甘くした、飲むシャーベットみたいなものです。味もいろいろあって、バナナみたいな定番の果物はもちろん、紅茶とかきなこと黒蜜とかアレンジ物もありますし、野菜だけで作る方もいるんですよ。身体もさっぱりするし、しゃりしゃりした食感が楽しいんですよ~」
「ほおお、なるほど。そんなおいしそうな飲み物があるんですね。よかったら作り方も教えていただけませんか?」
「ええっと、確か……」
メイカが記憶をかき集めてなんとか説明するとユウは熱心にメモをとる。夏の飲み物として大流行したタピオカティーの話もするとユウは目をキラキラ輝かせる。
「なるほど、なるほどっ! これは面白い!! 貴重なお話をありがとうございます。さっそく材料を集めて作ってみますね」
「それは良かったです。あ、もし作り方が間違っていたらごめんなさい」
「いえ、気にしないでください。メイカさんの前世のお話は何でも面白いですし、やってみるのが楽しみなのですよ。そうだ。良かったら、今言ったことを書いてくれませんか」
「そう言ってくれるのはとてもうれしいですが。実を言うと、自信を持って皆さんに語れるぐらい詳しいわけじゃないんです。ましてやムスビに載せられるぐらい正確で良い内容の文章にできるかと言われるとちょっと……」
好奇心旺盛なユウはメイカが大好きな日本の話をするとすごく喜んでくいついてくる。
同じ趣味を持つ人と喋れるのは楽しいけれど、流行だからとちょっとかじっただけのメイカの話が「これが日本の生活、すごい!」だなんて手放しで喜ばれると恥ずかしい。ましてや、多くの人の目に触れるとなると正確さや雑誌にふさわしい良いものが書けるか、不安だ。
情けなく思いつつも本音を打ち明けると、意外にもユウは微笑む。
「そうですね。メイカさんが言う通り、僕も何かを作る時には自分が自信を持って良いと思えるものを作りたいと、常々思っていますよ。ですから、こう考えてみたらどうでしょう。自分が知った素晴らしいモノへの想いを言葉にして人に伝え、ファンを増やすのだと」
「想いを伝えてファンを増やすですか……?」
「ええ、そうです。まあ、初代社長である母の受け売りなんですが」
ユウは照れくさそうに笑う。
「僕の母はこの世界に自分たちのかつての故郷のことを広めるのが夢でしてね。父と一緒に異世界の記憶を持つ人たちの話や彼らが作った物を集め、このムスビやねこのてを通して広めていたのです。
今は本業が忙しくなったので三男の僕が仕事を継ぎましたが。母や母と同じく遠い国から来た彼らが愛する素敵な国の話を聞くのは楽しいですし、それをこの世界の人々や新しく来た人たちに伝えて喜んでもらえるととてもうれしいです」
「そうだったんですか……。私も初めてねこのてに来た時にはとてもほっとしたんです。今思えばまねきねこや風鈴みたいな、日本人の私が好きなものがあってうれしかったんです。ユウさんとお母様のおかげですね、ありがとうございます」
初めてねこのてに来た時なぜか強く惹きつけられた。それはきっと無意識に日本人のメイカが見慣れない異世界で故郷のものを見つけて安心したのだと思う。
「それに、私も日本のことをユウさんとお喋りできるのがすごく楽しいです。この世界でも日本の生活があってとてもうれしいです」
メイカの半分はこの世界の人間だけれどもう半分は日本人で、時々日本の生活が恋しくなる。だから、この世界で日本のことを知る人たちと出会えて、こうして楽しくお喋りできることがとてもうれしい。大好きなモノに出会えたなら尚更だ。
ユウは驚いたように目をしばたたかせたが、ふわりと微笑んだ。
「ふふ、僕も同じですよ。母がよく語って聞かせてくれる日本から来たメイカさんとこうしていろんなお喋りができてとてもうれしいです。きっとこうしてメイカさんと出会えたことを母がよく言っている”ご縁がある”と呼ぶのでしょうね」
ユウは空になったガラスの器を愛おしげに撫でた。
「それに前に、ねこのてにいらした方が『こんなに素敵なお店にまた会いに来られるように、がんばろう』と言ってくださったのですよ。
だから、どんどん素敵なモノを作ってその方がまた来られた時に喜んでもらえること。そして、かつての僕がそうだったように『こんな素敵なモノがあるんだ』と知って喜んでもらうこと。その二つが僕の物作りの指針です。
僕の考えが参考になるかはわかりませんが。メイカさんももっと気楽に、好きなことを紹介しようぐらいに考えて楽しんで書いてみたらどうでしょう」
ユウの優しい言葉がじんと沁みる。
メイカが書いている文章を喜んでくれる人たちからのメッセージは大切な宝物だ。それにメイカがねこのての日本の品物たちに励まされたように、自分が知る素敵なことを精一杯伝えていきたい。そして、自分が書いた文章が誰かの心の支えになったらうれしい、そう思う。
「ありがとうございます、ユウさん。元気出ました! 私も私が好きなことを精一杯書いていきたいと思います」
「それなら良かったです。やはりモチベーションは大事ですからね。
良かったら時間がある時に集めた話を読んでみたらどうでしょう。新しいアイデアが浮かぶかもしれませんし、書けそうなモノならば書いていただいてかまいませんよ。
まあ、以前にカレンが何を思ったのか”カレー味のポーション”などというゲテモノ……貴重な素材の無駄遣い……いえ、究極の失敗作ですね。僕にはまったく利点が思いつかないモノを作り出して、ムスビに載せるはめになったこともありますが……。まあ、一部とはいえ読者の方々に喜んでいただけるものならば良いですよ」
「そ、そうなんですか……。ありがとうございます、読ませていただきます」
とても気になるが恨めしげなユウの前ではさすがに言えない。ユウもにっこり笑って話題を変える。
「毎日通うほどねこのてを愛してくれるメイカさんが力を貸してくれて本当に心強いですよ。そういえば、メイカさんはねこのての商品で何かお気に入りはありますか?」
「全部好きですけど、あの壁に飾っているでっかい手ぬぐいシリーズが好きなんですっ。いつか1人暮らしを始めたら部屋に飾るのが夢なんですっ」
ついはりきって答えるとユウは楽しそうに笑う。
「ははは、そうですか。それは良かった。では、メイカさんが家を出て1人立ちするという夢を叶えた時にお祝いに一式贈りましょう」
「えっ、ええ!? それはありがたいですけど、でも、さすがに甘えすぎというか……」
「お気になさらず。いつもとても興味深い話をしてくれるお礼ですから。それにこれからの素晴らしい働きへの追加報酬です」
ユウの笑顔は優しいのに、なぜだろう圧を感じて背中を冷たい汗がつたう。
「え、え~っと。前向きにが、がんばりますね」
「ええ、がんばってください。わが社の売上とねこのての知名度を広めるために、メイカさんにはとても期待していますよ。さっそくですが、このかき氷の宣伝をお願いします。夏の目玉商品なので先ほどのように食べたくなるような感想をいただければ」
さあ、仕事に戻りましょうか。爽やかな笑顔でド鬼畜な難題を押しつけるユウにメイカは内心べそをかきながら「この人鬼だーっ」と叫んだ。




