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しかし、世の中そんな甘くはなかった。
「ううう~、難しいよ~」
仕事上がり。1階のカフェ”ねこのて”でメイカはがっくりうなだれた。
エン社で働き始めてから3ヵ月になる。
エン社はさる裕福な貴族が趣味で経営している出版社らしい。社長のユウの他、最初に案内してくれた愛嬌たっぷりで情報通の女性のナツメと、一見強面で無口だけれどユーモア精神あふれる男性マツバの3人が常勤で勤めていて、メイカのようにパートで働くスタッフが何人かいる。
ちなみに、ねこのても同じ貴族が経営しているらしく、店主いわくその方が趣味で作っている日本の物や食べ物を売っているらしい。社割が利くので夕食を食べて帰っている。
仕事は面倒見の良い先輩たちや前世で事務をしていた経験が役に立ってすんなり慣れ、最近はうれしいことに読者から寄せられた投稿文の編集にも携わらせてもらっている。
が、自分が書いた文章はまるっきりダメだ。
採用はされてはいるものの自分的にはいまいち。流行を追えばネタが被り、オリジナリティを出そうとすると内容や面白みが足りない。それでもめげずにねこのてのおいしい料理とスイーツの力を励みにせっせと書いていたが。そろそろネタもモチベーションも切れそうだ。
夏向けに始めたというコーヒーフロートをちびちび飲んでいるとナツメがやって来た。思い切って良い文章が書けないと打ち明けるとナツメはこくこくうなずく。
「あ~わかるわ~。仕事で書くものと違って自分が書く文ってはっきりしたテーマとか内容の決まりがないから、書きたいこととか内容の良さとか読者受けとか、あれこれ考えだして迷っちゃうのよね~。
ユウさんもね『ねこのての商品を宣伝するために”カフェまねきねこの日々”を書いているのに、まさか料理やスイーツのレシピの方が人気なんて、何に人気が出るのかわからない』って最初はぼやいていたのよ~」
「ええ!? あの”カフェまねきねこの日々”ってユウさんが作者なんですかっ!?」
社長のユウさんはニュースを担当している硬派なイメージだけれど、この世界ではまだ珍しいらしい日本の物をこよなく愛する情熱的な主人公を書いているなんて、意外だ。顔に出ていたのかナツメがくすくす笑う。
「ふふふ、ユウさんってクールに見えるけれどあれでなかなか情熱的な人でね~。妹のカレンさんもそうだけど安定した生活よりもライフワークに生きる人なのよ~。きっとご両親に似たのね~」
「へええ、2人とも若いのにバリバリ活躍されていてすごいですね。それに、まねきねこって日本の話が出てきて面白いです」
「うふふ、日本人のメイカちゃんに褒められたらユウさん喜ぶわ~。お母様がメイカちゃんと同じ日本の記憶を持っている方でね。ユウさんもカレンさんも子どもの頃から日本が大好きなのよ~。だから、会社と雑誌の名前も人と人とが出会って繋がるという意味の日本語にしたって言っていたわ」
「あ、なるほど!! エン社と雑誌のムスビはご縁の縁と結びなんですね。こんなに広い世界で日本が好きな方と会えるなんてまさにご縁ですね!」
メイカが前世を思い出したのはつい最近だけれど。異世界で困っているときに日本が好きな人たちに出会って助けられるなんて、まさに奇跡的なご縁だ。
「そうね~。この国ではまだまだ日本のことは知られていないから、奥様よりも新しい時代から来たメイちゃんががんばって広めてくれって両方の世界の神様のお告げかもね~」
「うっ、プレッシャー」
「あははは、そんなことないわよ~。この間書いた”おにぎらず”っていうおにぎりの新種みたいなののレシピ話も面白かったわよ~。そうねえ、今はいろいろ書いてみて、メイちゃんの好きを探してみたらどう?」
ナツメに励まされて沈んでいた心がぴょこんと跳ねる。
「ありがとうございます、ナツさん。やる気が出ました!」
「それなら良かったわ~。がんばりましょうね~」




