宇宙の神秘、ブラックホール
存在の限界、そこは悪魔の住処か、それとも、宝の宝庫なのか?見ることもできないブラックホールの中を探求できれば、この宇宙の原理そのものを見ることになるだろう。
そして、そこは宇宙の終着点でもあり、スタート点でもある。
欲に駆られた人間は剣を持ち、互いの正義を貫くために戦う。
そして、苦悩に喘ぎ、悲しみに沈み、嘆きの海へと流される。
喜びも悲しみも、欲も情熱すらも、ぼくらが必死になって求めたものの全てを飲み込む怪物。それがブラックホールである。
ぼくらの行いも、ぼくらの抗いも、ぼくらの心痛すらも、まるで何事もなかったように食い尽くし、それは、宇宙空間の中に、ただ鎮座し続ける。
何も反射しない真っ黒な存在。
しかし、それは宇宙の真理を透かす鏡のような存在でもある。
現実、空間、時間、物質。
そこが全ての境界線であるなら、そのメカニズムを知ることで、宇宙の本質が見えるかもしれない。
おそらく、この黒い物体の中には確信的な情報が隠されているはずである。
いや、宇宙全体の情報が詰まっているはずである。
ブラックホールは宇宙の最果てでもあり、終焉の地でもある。
また、存在自体を無に帰す、スクラップ工場のような役割も持っている。
これを語らずにして、宇宙を語ることはできない。
ブラックホールというのは、表層の重力が大きくなりすぎて、光すら脱出できなくなった星である。要するに、滅茶苦茶、重力が大きな所と思ってもらえばよいだろう。
例えば、太陽の質量であれば、半径3km以下に収縮すると、ブラックホールになり得る。しかし、現実的には、太陽はそこまで収縮することはない。
ブラックホールを生成するためには、もっと大きな質量を持つ恒星でなければ実現できない、というのが一般論である。
恒星の内部で生じている核融合が停止(燃料切れ)すると、内部圧力の低下により恒星は収縮(潰れる)していくのだが、恒星の質量により最終的に行き着く先が変わってくる。
燃え尽きたミイラのような白色矮星になる場合、超新星爆発というとてつもない爆発を起こした後に残存した核が中性子星になる場合、それから、ブラックホールになる場合などである。
ブラックホールになるためには、最低でも太陽の10倍以上の質量が必要だと言われている。
(ブラックホールが生成される詳細メカニズムについては、かなり研究が進んでいるようだが、ここでは割愛させてもらう)
すごく重い恒星が潰れて小さくなると、表層の重力がどんどんと大きくなってしまい、遂には光すら脱出できなくなるというのがブラックホールという理解で十分である。
宇宙にとって、このブラックホールの役割は、とても重要なものである。
たぶん、これがなければ成立しないというくらいの重要性だと個人的には思っている。
ただし、物理学的な見地からも謎は多く、その役割についても明確にわかってはいないようだ。
では、早速ブラックホールへと向かってみよう。
ぼくらは、今、宇宙船に乗り、1000光年先にあるブラックホールを目指して飛んでいる。光速の99.9%の速度を出したとして、到着するには44年かかる距離である。
宇宙船に乗っている人間にとって、44年、地球で見守る者にとっては、1001年の旅。それは、正に、不帰の旅、決死の旅と言えるだろう。
光すらも脱出できない混沌の向こう側。
電磁波すら出られないのであれば、ブラックホールの中からの情報を得る手段はない。即ち、永遠に見ることができない世界である。
その中は、もはや宇宙の外側と言っても良いだろう。
さてさて、そんな宇宙の境界線の向こう側。
そこには、いったい何が待ち受けているのであろう?
推論や予測は多々あれども、今の科学では解明しきれていない世界である。たぶん、永遠に見ることはできず、内部構造の確定はできないと思われる。
ブラックホールの内部まで語るとすれば、推論とも呼べない単なる戯言になってしまうかもしれない。 それでも、物理学者達は理論と数式を駆使して内部構造を予測し、論理計算による裏付けも行っているようだ。
しかし、それも正しいとは限らない。
その数式が成立つとも限らないし、論理を確定するための観測もできない。
ブラックホールの表層は、質量による時空間歪が、光速脱出限界を超えた点であると定義されている。ややっこしい言い方ではあるが、要するに重力が光速を凌駕してしまっているという理解でよいかと思う。
言い方を変えれば、重力が時間と空間、それに存在自体をも凌駕しているエリアである。
光速の脱出限界が本当にあるのかという疑問もあるかもしれないが、実際にブラックホールが存在は複数確認されており、少なくとも、それらしきものがあるのは確実である。
現在の予測では、ブラックホールの内部は特異点とされ、重力が無限大になり時間は進まなくなると言われている。表層付近での空間歪は著しく変化するため、頭と足で大きく引き伸ばされるとかいう話もある。
ゴムシートに鉄球を置く例えであれば、凹みの角度が直角(90度)になるイメージであり、鉄球は限りなく下まで沈んでしまい、見ることもできない状態と思えば良いだろう。
ブラックホールの表層付近では、垂直の壁をどこまでも落下していくイメージである。
正に、ブラックホールは奈落の底、永遠に戻れぬ暗黒の世界である。
さて、ここから先は、想像と推測の世界だと思ってほしい。
ブラックホールがある場所は遠い。
それでも、ぼくらは44年の歳月をかけて、ブラックホールの間近に迫っていた。
間近に迫るブラックホール。
その姿は、正に怪物。
目の前に口を開けるブラックホールを見た瞬間、宇宙船の乗組員達は、想像を絶するような恐怖に体は硬直して動くこともできなくなってしまった。
例えられるものなど何もない。
それは、長い歴史の中で、人類が見た最も恐ろしい姿と言って間違えはない。
光が脱出できないブラックホールの表面は真っ黒である。その周囲は、凄まじい重力により激しく歪んだ光景である。光が幾重にも複雑に曲がり、まともなものは見えやしない。
それは、この世のものとは思えないほどに異様な姿であり、味わったこともない恐怖を抱かせるには十分であった。
誰もが言葉を失う中、宇宙船はブラックホールの重力に取り込まれていく。
抗うこともできない渦に巻き込まれたように、歪んだ空間を螺旋状に滑り落ちていくのみである。
宇宙の塵も、微細な粒子すらも、その重力には逆らえずに落ちていく。例えるなら、無限の食欲を持つ化け物である。
想像を絶する恐怖に胸が締め付けられながらも、乗組員たちの目は、その光景に釘付けである。
宇宙の果て。
そこでは、空間も時間も破綻し、全ての物も事象すらも崩壊していく。
果たして、この中に、ぼくらの足跡は残るのだろうか?
質量というものは、空間を歪ませて重力を生み出す。その重力は、物質を集約し、混沌の世界に秩序ある世界を構築する。宇宙の創生にとっては、重力の役目は構築と言っても良いだろう。
しかし、ブラックホールの表面近くでは、その論理は成り立たず、限界を越えた点は再び混とんと帰す。そして、時間と空間という概念さえも消失するのだ。
原点への回帰である。
いよいよ、ブラックホールは目前に迫り、そこに向かって宇宙船は吸い込まれていく。どんな抵抗も意味を成さない、凄まじい重力である。
そんな過酷な状況においても、宇宙船の内部は信じられないほどに穏やかだった。
地球を飛び立った後、強力な推進力で加速した時のようなGも感じられない。ただ、大きく歪んだ空間に沿って、自由落下していくだけである。
絶対に戻ることができない突入。もちろん、乗組員達は、それを熟知しており、覚悟も決めていた。
みな穏やかな顔で、ゆったりと寛ぎながら、最後のひと時を噛みしめていた。
既に、あの恐ろしいブラックホールの姿も見えなくなっていた。おそらく、辺りの空間が歪み過ぎているのであろう。
もはや、地球との交信も途絶え、彼らの見ている光景は誰にも伝わることはない。残されているのは、儚く消える一瞬だけである。
速度は、ほぼ光速に等しくなる。しかし、それでも光は相変わらず光速で無秩序に飛び交っている。ただ、そこには景色などというものは存在しなかった。
歪み切った世界は、この世のものとは思えず、宇宙の原点との境界がいかなるものなのかを少しだけ感じることができた。
「まだ、ですかね?」
「うむ、もう間もなくだろう。」
「・・・・。」
全ての消滅。
因果の終焉。
全てを呑み込む混沌という名のエネルギーの海。
その瞬間、物質という概念自体が消滅する。
宇宙船も人も機材も、そして、魂すらも、その意味を失いエネルギーの海に溶けていく。
おそらく、ブラックホールの中においては、エネルギーも物質も区別ができない。
あの公式を思い出してほしい。
E=MC²。
質量(M)×光速(C)の二乗は、エネルギー(E)と等しい。
ぼくらのいる宇宙では、エネルギーと質量(物質)は別物であるから、この式の意味はエネルギーと質量は互いに変換が可能であるという意味であろう。
しかし、ブラックホールの中においては、エネルギーと質量の区別はつかない。即ち、エネルギーと質量は同じものなのだ。
ブラックホールの内側には空間も、時間の経過すらもないのかもしれない。でも、ブラックホールの外側は表面近くまで空間と時間は存在しており、確実にブラックホールは維持されている。
例え、内部に時間経過や空間がなくても、重力というか、重力に相当する効果は消滅していないということになる。
ぼくらの宇宙から見れば、物質を吸い込み続け、その分、内部の質量が増大し続け、無尽蔵に巨大化しているように見える。それは、少なくとも重力という現象が消滅していないことを意味しているのだ。
しかし、その表層から少しでも中に入れば、そこには、もはや物質なるものも存在せず、時間も空間も存在しないも同然。要するに、そのような概念自体が消失した世界なのだ。
ある意味では何もなく、ある意味では膨大なエネルギーに相当するものがある世界。そのエネルギーも宇宙にあるようなエネルギー形態とは異なる可能性が高い。
外部から見れば、この化け物は無限に物質を食い続けるようにしか見えないのだが、それは、本当に無限なのだろうか?
永遠にブラックホールが物質を食い続けるのであれば、いずれ、周囲にある物質の全てが飲み込まれてしまうだろう。それには、もの凄い時間(何兆年なんて桁ではない。)がかかりそうであるが、いずれ吸い尽くされてしまう。
ブラックホールどうしが引き合い結合することもあるだろうが、全てのブラックホールが一つになるとは思えない。
いずれ広大な宇宙空間には、幾つかの巨大なブラックホールだけが、もの凄い距離を置いて点在するような世界になるものかもしれない。
そうなれば、宇宙は完全なる終焉を迎えることになりそうだ。
不思議なことに、光すらも脱出できないブラックホールであっても、僅かなエネルギーが放射されているらしい。更に気の遠くなるような年月をかけて、ブラックホールはエネルギーを放出し続け、遂には消滅するという予測もある。
しかし、そうはならないような気がする。
蓄積されるエネルギー量には、臨界点があるのではないだろうか。要するに、無限に呑み込めるわけではなく、どこかで限界に達するという予測である。
予測というよりも、期待と言った方が適切かもしれない。
もちろん、全てのブラックホールが臨界点に達するわけではないだろうが、中には臨界点を越えるブラックホールもあるのではないだろうか。
いつしか臨界点を越えたエネルギーは、ブラックホールの表面を突き破り拡散する。
正に、限界突破である。
ブラックホールの重力も、光速すらも凌駕したエネルギーの爆発。
何もかもを凌駕する壮絶な大爆発である。
論理的な根拠がある訳ではないが、個人的には、こちらを期待している。
思わず爆発という言葉を使ってしまったが、実際に起こるとしたら、爆発というよりも時間と空間の創生と言った方が良いのかもしれない。
ブラックホールを突き破ったエネルギーは、一瞬にして空間を生成しながら、遥か彼方まで到達するだろう。
そして、それが通過した点には、新たなる物質が生み出されて、新たなる時空が確定されていく。
おそらく、その時空間は、前宇宙の時空間とは切り離されたものになりそうな気がする。
もし、この新宇宙創生時に、前宇宙の残骸を巻き込むと考えれば、現宇宙において、その寿命よりも古い物質が発見できれば、その証拠になるかもしれない。
解き放たれたエネルギーは真空中にあるエネルギーをも物質に変換させながら拡散する。
このように、真空中に存在するエネルギーが活用できるなら、エネルギーは無限にあるということであり、そうなれば宇宙は無限に増殖できるはずである。
あとはドミノ倒しのように、どんどんと物質が増加し、物質の集約が始まり、必然的に宇宙が形成されていく。
この大爆発こそが、ビッグバーンという物語である。
そして、新たな宇宙の歴史が始まる。
ブラックホールとは、質量により生じる空間歪(重力)が、光速を含めて、全ての速度を凌駕した領域である。
時間と空間、物質と速度。
ブラックホールは、それらを全否定するものであるとも言える。
そこは、ほぼ確実に終焉の場所である。
それと同時に、始まりの場所でもあると信じたい。
もし、そうであるなら、ブラックホールは宇宙を循環させるための必須アイテムだということになる。
銀河系の中心にも、ブラックホールはある。
おそらく、この巨大なブラックホールの重力の影響で、銀河系自体の秩序は保たれているのだろう。要するに、ある部分を吸収しながらも、現状のまとまりを生み出しているということだ。
当然、このブラックホールも、周囲の物質を吸収し続けて巨大化し続けている。
いつしか、銀河にある星を全部食い尽くしてしまうのかもしれないし、その前に、限界突破、大爆発に至るものかもしれない。
どちらにしても、遥か先の話であり、その真偽のほどは確かめようがない。




