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1-8 片鱗を見た

 

 ――― 【内省の間】に入って三十日後 ―――



「今日が約束の日ですねー」

「ん? ああ~、クオンセルのことか」


「そうですよー。お孫さんは大丈夫ですかねー」

「大丈夫かどうかは、あたしにも分からんよ。まあ二週間前はちょっとヤバかったな」


 そうだ。あの時は結構ヤバかったな…。

 ヒントもやったし、発破を掛けてはみたけど……。何とかなっていて欲しいものだ。あたしだって、人並みに孫を可愛がりたかったんだ。

 でもあの子はどこか普通と違うから、どうしても期待とともにきつい言い方をしてしまう。

 一応あれから食事は摂っているはずだから、飢え死にしたりはしていないはずだ。

 ちょっと精神的にきていても、まぁ許容範囲だろう…。  うん。

 やばい方向に走っていたら矯正すれば良い。


 本人は自分を『出来損ない』と言っているが、とてもそうは見えない。

 あたしを前にして見せたあの胆力と、頭の回転の早さは異常だ。とてもじゃないが、あれは『頭のいいい子』の枠には納まらない。


 正直に言って基本属性の魔法適正が無いなど、さほどの問題ではないと思う。


 戦闘で強くなろうと言うのであれば、別にそこまで基本属性の魔法に頼る必要はないのだ。無属性の適性があるのなら『身体強化』が使えるはず…、つまり剣士などの戦士職や後衛でも弓や投擲をすることが出来る。


 それにあの頭があれば、ここで兵法を学んで軍師などの参謀役にもなれるんじゃないか? そもそも武官ではなく文官や商人の道もあるんだ。どの道を選んでも一朝一夕にはいかないだろうが、それなりにはなれる素質を持っている。


 確かに魔法国家バスタリア(この国)では魔法が使えない者は日陰者になるが、それもここだからだ。他国に行って士官でもしたら明るい未来もあるだろうに……。



「………その辺、気づいて欲しいんだけどな」

「なにか言いましたかーー?」


「いや、何でもないさ。……お前はクオンセルのことをどう思う?」

「まだ会ったことは無いんでー、なんとも言えないですねー。ただ聞く話によると、ちょっと若いかなぁー、と思います。でも愛さえあれば問題ないですよね~。それに将来出世しそうですしねー」


「いや、そうじゃ無い! そういう意味じゃない!! あいつの人生設計のことだ!!!」

「えっ、人生設計ですか? 彼が成人したら結婚してー、子供は男女で一人ずつは欲しいですねー」


「やらん! 孫をお前なんぞにはやらんぞ!!」

「え、ー良いじゃないですかー。お願いしますよー、お婆様ぁー」


「勝手にババァ呼ばわりするんじゃない!」



 この馬鹿弟子は何を考えているのか…。

 よくもまぁ、ズケズケと。

 おい、そんな目でこっちを見るな。変なアピールしてくるな!!


「は~…。なんでこんな馬鹿がうちで一番の体術士なんだ」

「エーーー、それって褒めてくれてるんですかー?」


「……。分かった。もう何も言うな」


 こいつは体術以外のことは、まともに関わっちゃいけないやつだった。

 もう放って置こう…。

 ん~、でもなぁ…。クオンセルに、こいつは必要になるかもしれないんだよな~~。


「……後で、クオンセルのところに行くからお前も一緒に来い」

「え、早速引き合わせてくれるんですか? 楽しみですっ」 


 スキップをしながら、あたしから離れていくのを見ると頭が痛くなる。

 

 






     ――――――







「なんだいこりゃ?」

「あらあらーーー?」



 そんな困惑したような声が聞こえてきた。

 俺は魔力を使って床から取り出した土塊を、きれいな球体とするべく意識を集中しているときだった。


「あれ? 師匠じゃないですか。もしかしてもう一か月たってしまったんですか? 早かったな~。ちなみに課題はそちらの壁に書いてあります」


 俺は振り返り、師匠に声を投げかける。そして課題どおり一面に文字を埋めた壁を指さしながら誇らしげに微笑む。

 そして、師匠の隣にいる獣耳の女性に気が付く。

(初めて見たけど、あれは亜人だ。尖った耳をしているけど猫かな? でも尻尾は随分とふさふさだ)


「あの師匠? そちらの方は??」

「……ん? あ、あぁ。こいつはあたしの弟子だ。名を『エスペランサ』という狐の亜人だ」


「―――はじめまして。クオンセル君」

 俺の手元の土塊を鋭い視線で見ていた狐の亜人は師匠の説明で、我に返ったように俺のほうを見て挨拶してくる。

「あ、はい。姉弟子の方でしたか。私のことはクオンとお呼びください」


「じゃークオン君ねー。お姉さんのことはエスお姉さんって呼んでほしいなーー。ところでー質問なんだけどクオン君」

「はい、何でしょうか??」


「それ、手に持っているのはなーにー?」


 エスペランサは無表情で、おれの手元を指さしてくる。間延びした声を発しているが、顔に表情はない。無表情というやつだ。しかも切れ長の目がどこか無機質な印象を与えてくる。人形みたいだ。

 話し方もあまり抑揚がないために、心情がつかめない。

 

 不思議な人だな。姉弟子なのだから警戒する必要は無いだろうが、少し苦手だな。


「先ほど、床から取り出した土塊です。訓練ですよ。無魔法で干渉して形を球体にしたものです」

「………そうなんだ。でもー、お姉さんの知っている限り、無魔法でそんなことが出来るっていうのは聞いたことが無いんだけどなーー」


「えぇっ!? そうなんですか? でも実際できてますよ? 私は土魔法をはじめ基本属性の適性はありませんから」

「それは聞いてたけどー。じゃ部屋中に穴ぼこがあったり、台座や何かの像みたいなものがあるのは君の無魔法でやったのーー?」

「あたしも聞いてみたいな。これは蛇か? よく出来てるじゃないか」


 彼女は俺が作り出した像を指差して聞いてくる。これらは俺が前世で好きだったアニメや漫画のキャラ達を形作ったものだ。

 あ、世紀末覇者様の頭にそんな風に手を置かないで! それと師匠、あなたが手にしているのはトグロを巻いている蛇じゃなくて、ただのまき○ソです。隣のキャラの付属品です。


「はい、私がやりました。こんなに散らかせては駄目でしたか? 責任を持って、直します。たぶん一時間程で戻せると思います」


「はははははははっ!! こりゃあ傑作だ! これが無魔法の仕業だってか。どうやらあたしの孫は規格外もいいところのようだ」

 俺とエスペランサの会話を聞きながら、今まで黙っていたキシリが突然笑い出した。

 思わずエスペランサを見てしまうが、彼女は変わらず無表情だ。ただ少しだけ驚いたように目を見張っている。


「師匠がこんなに楽しそうに笑うなんて…」

 誰に聞かせるでもなく、そんなことを呟いていた。


「おい、出来損ない。とっとと課題を見せな! ところどころ確認させてもらう部分があるだろうがきちんと話せ」

「師匠できれば、出来損ないはやめて頂けませんか? 御覧のように魔法を使えるようになったので……」


「いいや、駄目だ。アンタのことはこれからもずっと出来損ないと呼ぶ。あたしに名前で呼んで欲しかったら、きちんと出来損ないではないことを証明して見せろ」


 そう言いながら、課題を書いた壁のほうへ歩いて行ってしまった。 

 しょうがないので、エスペランサと共に俺も移動する。

 呼び名のことは残念だったが、気にしない。気にしないぞ!


 俺は早く確かめたいことが沢山あるんだ。

 この修行で出てきた疑問や仮説を師匠はきっと答えてくれるはずだ。

 是非、聞かせてもらおう。


 その上で、俺はどのように生きていくかを考えていこう。

 転生をして第2の人生はすでに始まってしまったが、ここからが本番だ。自分の力で自分の未来を切り開いていく。

 ここがその出発点なんだ。

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