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1-9 目指すべきもの

 今回の修行のまとめとして、夜通し話をすることになってしまった。

 俺としては、かなり有意義な時間だったからむしろキシリとエスペランサには感謝するべきなんだろうな。


 おかげで今後を考えるための材料がかなり手に入った。



母親(ミランダ)への謝罪については、手紙を書くことになった。キシリ曰く一度実家に帰ればミランダは俺を手元に置きたくなり、再度の別れに心を痛めるとのことだった。子離れの為にも帰郷するのはやめるべきだと言われた。ちなみに俺の手紙に加えて、キシリも俺についての手紙を同封するとのことだった。


・無魔法についての可能性は、これから修行を重ねて伸ばしていくことになった。キシリの意見としては俺がやって見せた土塊の形状変化は、今までの常識では土魔法に適性の無い人間には不可能なことだそうだ。しかし俺の理論で言えば、この世の森羅万象に干渉することが無魔法には出来るはずなんだ。

 キシリも俺の理論に納得してくれたので、都度検証することになった。相手の魔法によって生じた現象に対しても、無魔法で干渉することも出来るようになれば防御面での心配は少なくなる。と言っていた。

 【暴川(バイオレント・リバー)】のお墨付きを貰えたので、安心して修行に望もう。まずは他の基本属性に対応するために火と水への干渉も必要になるだろう。いきなり対人の魔法を相手にするのは怖すぎる。……それに怪我するのは嫌だ。


・魔力を体中に循環させることを【身体強化】と呼ぶらしく、各部位を集中して魔力を込めることを【部分強化】と言うらしい。ある程度の実力者になれば必須技術らしい。特に戦士系の前衛職はこれが出来ないと話にならないと言っていた。

 拳や足などで攻撃をする際の破壊力は『重量』×『速度』だ。筋力を増強することでこの2つを上げることは可能だが、速度を生み出す筋力を身体強化で上乗せすることが魔法では出来るのだ。またその循環の効率と注ぎ込む魔力によって効果は増大する。

 また剣などの得物を手に持てば、その破壊力は増加する。そして得物そのものに魔力を通して強化することを【性能強化】という。自分以外の物に魔力を通すことは難しく、上級者向けの技術だ。また普通の得物では、注がれる魔力に耐えることができないので、ミスリルなどの魔力と相性の良い素材を使用したものが望ましいらしい。


・魔力量の増加については、成人となる15歳までは良く起きることらしい。原因が何であるかは明確になっていないが、魔力を扱うことを幼い頃から実践している者にはかなりの頻度で起きるそうだ。

 俺自身の経験則では、魔力を使い切った状態から回復すると以前よりも魔力量が増えていたように感じた。これはしばらく続けていこうと思う。


・神の祝福については転生している部分を除き、物心がついたタイミングで夢の中で祝福を受けたと伝えた。

 この件は更なる驚きをキシリに与えたが、なぜか同時に納得もしていた。この世界には神々から祝福を授けられた人間もおり、神託を受ける人間もいるようだ。

 また世界には数多の神々がいて、国や地域・種族などで色々な信仰があるようだ。興味深いことに宗教戦争などは今のところ起きてはいないそうだ。

 ちなみに俺に祝福を授けた神については特定できなかった。他の世界の神様だし、彼についての情報も少ないためにそれ以上知ることは出来そうになかった。


・どこまで強くなりたいのか?

 世界最強なんかは目指していないけど、わがままできる力がほしい。自分の気に入らない「敵」を圧倒する戦闘力がほしい。


 この辺りまで話した段階で、この話し合いはお開きになった。

 具体的なものは明日からの修行をしながら、適宜考えていくこととなった。

 しばらくは基本的には午前中を身体強化を含めた格闘術をエスペランサから学び、午後を師匠との魔法についての実践や講義と検証を繰り返すこととなった。


 だが最後にキシリから言われた言葉は、俺にまだ眠ることを許してくれそうになかった。


「出来損ないの弟子よ、これはすぐに答えを出さないでも良いんだが……。お前は何になりたい? 話を聞く限り、お前が求める強さはその辺の個人が持つレベルを超えていくんじゃないか? 場合によっては各国の要人から声がかかったり、敵対されたり、権力に巻き込まれる可能性もありそうだ。あたしだってこの国に縛られているしな」

「…特にになりたいという目標はないです。ただ…」

 俺は拳に力をこめて言った。

「ただ立派な人間になりたいです。みんなからそう思われるような人物になりたいです」

 

「立派にねぇ。……強くなる、偉くなる、誰かに頼られる、必要とされる、認められる、賞賛される、支持される、受け入れられる、人気を集める、好感をもたれる、喝采される、脚光を浴びる。そんなことがあれば立派なのかね~。あたしには良く分らないな」

「師匠は立派な人間ですよ」


「あたしがかい? まさか! あたしなんてのは巷では英雄なんて言われているが、実際は大量殺人者だ。弟子を多く取っているが、別段人格者というわけじゃない」

「た、確かに……」


「ハハハ、だろう? まあいい。お前が何をもって『立派』とするのか、よくよく考えておきな。すぐに答えが出るもんじゃないから、ほどほどにな。まあ今日は明日に備えてよく寝ておきな」


 そう言ってキシリに新たな部屋へと案内された。





 ここは、新しく用意された俺の部屋だ。居住スペースは王都の外壁にくっついているんだが、なんと個室で窓からは夜空がよく見えるんだ。

 この世界に来て、俺はこれほどマジマジと星を眺めたのは初めてで思わず見入っていた。


「俺の知っている星座はひとつも無いな…」

 この世界でも月は、変わらずに輝いているんだな…。


 そんな感傷に浸っていると、月が雲に隠れてしまった。

 辺りは月明かりも消えて、闇に包まれてきた。

 



「この世界で何を目指すのか……」

 俺の目標は立派な人間になること。そして、基本的なスタンスは俺に関わってくれた人のために頑張れる、守れる人間を目指していくつもりだ。


 そういえば……。

 神様は言っていたな。勇者になろうが魔王になろうが俺の勝手だってさ。

 勇者って何だ? 正義の使者。人道的な行いで不特定多数の人を助けるなど人々に称えられる行動をした人のことだ。

 魔王って何だ? ちなみにこの世界に魔族と呼ばれる存在は居ない。世界征服を宣言したとか、一国を壊滅させたとか、大虐殺をしたなどの所業をする強い戦力を持つ個人を魔王と呼ぶらしい。

 

 明確に敵対している存在が居ないためか、規格外の能力や成果を得た人のことをこのように言うらしい。

 ちょっとスケールがでか過ぎるが、どっちも抱えるものが大きすぎないか?

 参考にするには能力値に差がありすぎるな。この二つを目指すところにするのは、適切じゃないな。

 


 次は何だろう?

 王様かな? どこかの国を乗っ取るか? お姫様と結婚するか?? いっそのこと一から作るか???

 いやいや、これも勇者クラスだな。つーか最低でも偉人クラスだろ…。

 

 でも明確に敵対しているものがある訳じゃないし…。

 仮想の敵だときりが無いしな。片っぱしから危険を排除していったら、それこそ魔王とかになっちゃうし…。そもそもそんなに強くなれそうに無い。

 

 



 あんまり大きな目標を作るのは無理だな。

 現実感が無い話をしていても駄目だ。

 どうしよう……。

 

 

 その時、雲が割れた。

 思わず月明かりで開かれた景色に目を向けてしまう。

 

「へぇ~、ここからだと王都の町並みが見えるのか」

 王都は所々に薄い明かりが灯っている。こんな景色は初めて見るな。

 確か王都には100万人くらいが住んでいるんだっけか。


「俺みたいに、星を見ているやつも、この中には居るんかね」 

 そもそも星を見るとか星座とか、そんな感覚はこの世界には無いのかも知れないな。

 改めてこの世界のことについて何も知らないことが分かるな…。

 こんな判断材料の少ない状況じゃ、何になるも何も無いな…。


「よし、まずは世界を知ろう」

 月並みだが、色んな人に出会おう。

 そのためには旅がいいだろう。異世界を楽しもう。


 旅人ってやつかな?


 幸いにも出自にこだわる必要はなくなっているんだ。

 

 そこで出会った国や人が気に入れば、そこに根を張ればいい。

 それこそ場合によっては仕官してもいいと思う。

 

 相手が居れば結婚して子供を作って、前世では出来なかった自分の家族を作ることもやりたいな。


「そうだな、世界を回ろう。今はそのための準備期間ってところかな」

 修行して、そこら辺の悪党には負けない強さを手に入れたら旅に出よう。

 

 明日の朝一番に今の考えをキシリに伝えよう。

 ミランダへの手紙にも書こう。


「そうと決まれば…。寝る前にもう少し星を眺めてから寝るか…」

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