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3-15 狙われたのは……




「拠点に戻ります。メンバー全員を集めて下さい」

 フランは【血の乙女】のメンバーらしき少女達にそう告げると、弾かれたようにギルドから出て行く。随分と余裕のなさそうな雰囲気だった。

「何かあったのかな?」

「……おそらく〜、チームメンバーに〜何か起きたのでしょ〜」

 俺の何気ない一言にシルムナがそう返してきた。

「それにしては取り乱しすぎではないですか?」

「いえ〜、むしろ〜あれくらいなら〜度々見かけますよ〜?」

「え、そうなんですか? 血相変えて出て行きましたけど……」


「彼女はチームメンバーに何かあると、いつもああなんですよ。身内には激甘なんです、あの娘は」

「ギ、ギルマス〜?」


 どうやら彼女(フラン)には俺の知らない意外な一面があるようだ。ハーピーの件で、凛とした自分にも他者にも厳しそうな印象だったけど、どうやらそれだけじゃあないみたいだ。っと、それよりも。


「こんばんはギルマス。どうかしたんですか?」

 俺は話に割り込んできた女性に声をかける。彼女の横ではシルムナがプルプル震えている。そして立派なお胸はたゆんたゆんと……。緊張してるのかな?

「ええ、ちょっとクオンセル君に伝えておきたいことがあったので……」

 彼女はその美しい唇をきつく横に閉じる。


「あまり楽しそうなお話では無さそうですね」

「ええ、実は若手の冒険者達が行方不明のようです。普段ならそこまで珍しくないし、たまたまギルドに顔を出していない可能性もあるんですが……」



 彼女が言うには若手、それも成人前の少年少女の冒険者が複数名、行方知れずらしい。彼らは日帰りで出来る簡単な依頼を受けており、普段通りならば既にギルドに来ているハズなのにまだ戻ってきていないそうだ。

 冒険者としてみれば、それほど大騒ぎになることではない。表現は悪いが、成人前の冒険者が居なくなるのは良くある事(・・・・・)だ。だが、ここ数日の子供の失踪事件のこともあるので、ギルマスは何か関連性があると考えているようだ。


 ちなみに、ここビルリアは辺境という事もあり冒険者が多い。さらに言えばその質も平均的よりも高いらしい。しかし、いやだからこそ若い冒険者もそれなりにいる。そのため成人前の冒険者なども珍しくない。彼らの大体がスラムなどの出身で、腕っぷしに自信があったり、一流冒険者を夢見たりして登録をしているらしい。

 スラムで残飯あさりしているよりも危険は多いが、その分の見返りがある。ハイリスクハイリターンなのだ。


 

 ただ、ギルドとしても子供冒険者は比較的危険の少ない、近場の薬草の採取や雑用の依頼を受けるように促している。身の丈にあった依頼を受けないと待つのは死だけだ。無用な死人を出さないように予防線は張ってあるらしい。

 だがいくら安全マージンを取っていても、街から出れば魔物に襲われる可能性は高くなる。ここは辺境である為にそれなりに強い個体などと出くわす事も珍しくない。よって、いくら対策を練ってもある一定の割合で命を落とす子供冒険者は後を絶たないのだ。


「……」

 俺はギルマスの話を聞きながら1つの懸念が生まれた。

「そんなに怖い顔をしないで下さい。彼女なら無事ですよ」

 俺は言われて顔に手をやる。どうやら無意識のうちにかなりキツイ表情をしていたようだ。シルムナが青ざめた様子で双丘を震わせている。

「いや、すいません。……それで伝えておきたい事とは?」

「領主様の依頼に気をつけて下さい」

「……狙われると?」

「これまで貴族などの子供は狙われていません。可能性は低いですが、ゼロではないです」

 警備が厳重な貴族の子供をわざわざ狙うのはリスクが高い。あり得ることか? 


「冒険者も攫われている可能性があります。犯人の戦闘力や規模は不明ですが、決して侮れる存在ではないのです。気をつけてください」

「はい。とは言っても毎日一緒にいるわけではないので……。それにポロス様には優秀な護衛も付いていますよ」

 いくら気をつけても、ダメな時はダメだ。誘拐犯に未知の特殊な能力があれば対応もできない可能性がある。

 でも依頼を受けたからには、仕事の分はしっかりと働かないといけない。前世では中途半端な事ばかりしていたけど、この世界では責任を持って頑張ると決めている。俺が近くにいる分には誘拐なんかさせない。

 俺は誘拐対策を本格的に準備する為に、ギルドを出た。



     ――――――




「では、連れ去られた子供達に共通点は無いのですか?」

「年齢、性別、種族、出身などはバラバラです」

 ギルドマスターこと『ルーラ・ラー・ロロヌ』は部下の報告に頭を抱えてしまう。彼女は今回のエルフの子供の拉致から始まった事件に頭と胸を痛めている。

 そもそもの発端であったエルフの里『カルアラレ』から子供が連れ去られた時点で、嫌な予感はしていたのだ。エルフという種は寿命が長い。個体差はあれど、300年は生きるとされている。そのためか、繁殖能力が非常に低い。個体の生きる期間が長いために次の世代を残す、という感覚も他の人族とかなりのズレがある。また精神的な身体的な成長も緩やかで、成人と認められるのは60歳だ。この時期に体の成長も止まり、また若い外見をかなり長い期間維持することができる。

 エルフの子供とは60歳以下の者を指し、里全体から見てもその割合は少ない。今回拉致された5人はそのまま里にいる子供の全てだ。


「子供を攫う理由は何でしょうか?」

 ギルマスから思わず漏れ出た言葉に部下が反応する。

「貴族や大商人の子供らが狙われていません。身代金のようなものでは無いでしょう」

「単純に奴隷にするためでは?」

「だが子供の奴隷では値段は高く無いでしょう?」

「それは用途にもよると思いますが……。単純に成人した者よりも攫いやすいからでは?」

「それにエルフは子供であろうと高く売れるのでは?」

「おい!」


 部下の1人が言った台詞に、秘書であるフリントが声を荒げる。


「こ、これは……。申し訳ありませんギルドマスター」

「いいんですよ。ただ事実を口にしただけです。エルフである私のことを慮ってくれてありがとうございます。フリントもあまり過剰に反応しないで下さい」

「失礼いたしました」


 エルフの奴隷は高く売れる。理由はその有用性と希少性だ。エルフという種は総じて造形が美しく、長寿である。また子を宿しにくいので、貴族の愛妾や高級娼館に高額で売られる。さらに精霊魔法の適性も高いので、戦闘面でも活躍できる。【限られた自由(フリーバウンド)】により、言動を縛れるので寝首をかかれることも無い。

 そしてエルフはあまり他の人族と接触をしたがらない。中には里を出て世界を旅したり、冒険者になったり、国に仕えたりする者もいるがそれはごく少数派だ。ほとんどが生まれた里などのコミュニティから遠くに離れずに一生を終える。つまり、奴隷としての捕獲し辛いのだ。

 これらのことからエルフの奴隷は非常に高値で売買される。ルーラ《ギルドマスター》としては腹立たしいことではあるが、現実として受け入れなければならない事実でもある。


「ですが調査の結果、ビルリアの奴隷商またそれに連なる者たちはすべて白です」

 ギルマスは可能性の芽を1つずつ潰していく。

「また被害者家族には強請りや脅迫もありません。決め付けは良くありませんが、私にはこの誘拐事件には別の思惑があるように感じてならないのです」


「「「……」」」


 この場の空気が重く張り詰めていく。

 相手の目的が分からないと、此方は常に後手に回ってしまう。現状として犯人の目撃情報も碌にないのため、特定することも難しい。

 誘拐を防ぐにもこのビルリアに一体何人の子供がいるのか? その全てを魔の手から守ることは現実的じゃない。更に冒険者までもがその毒牙に……。


「ちなみに行方知れずの成人前の冒険者についての報告は?」

「こちらにリストアップしてあります」

 フリントから渡された資料に目を通す。6組のパーティーの名前がそこに連ねられている。

「彼らについて何か共通点は?」


 ルーラの質問に応える者はいなかった。今までの被害者と同じで共通点は無い。


「何か無いのですか?」

 ルーラの声だけが部屋に響く。


「……そうですか。これ以上は時間の無駄ですね。新たな情報を依頼した冒険者達に伝えて下さい。また、成人前の冒険には十分な注意喚起をお願いします。出来れば大人の冒険者と行動を共にするように依頼などを調整して下さい」


 ルーラの指示が飛び、ガヤガヤと部屋に音と熱が戻ってくる。部下に指示を出すために部屋を出て行く者、部屋に残り報告書をまとめる者、見落としが無いか再度資料に目を通す者。

 そんな中、1人の言葉がルーラの耳に届く。


「よりにもよって、それなりに有望視された冒険者が消えているんだな」


 ルーラは何気無いその一言を聞き、再度行方不明のリストを見る。

 なるほど、確かに将来的に活躍出来そうなパーティーがほとんどだ。ここで言う将来性は杓子定規では無いが、1つの目安がある。パーティーに魔法使いがいるかどうかだ。魔法を使える者は全体の人口に比べてかなり少ない。それは冒険者の中にも当てはまる。パーティーに魔法使いがいるかどうかで、その戦略的な幅は大きく拡がる。

 このリストに挙げられたパーティーには少なくとも魔法を使える人間が1人はいる。


「魔法使い?」


 ルーラは無意識に声をあげた。

 エルフはそのほとんどが精霊魔法を使える。さらに魔力量が多種族に比べて平均的に多い。だが、それがどうした?


「子供の魔法使いが狙われている?」

 ルーラの頭にはそんな1つの疑念がゆっくりと、重く浮かび上がってきた。


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