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3-14 一狩りしようぜ

 俺は2番鐘が鳴るとともに領主の館に着いた。すると門の前に革鎧を身に着けた集団がすでに集まっていた。

「おはようございます。良い狩り日和ですね〜」

「…おはようございます。クオンセル殿、昨日領主様とも相談して護衛をつけることにしました。ここは譲れないので納得してください」

 ムースンが代表して返事をしてきた。彼女の後ろにはおそらく騎士であろう人物が3人いた。ちなみに全員が普段の金属製の鎧ではなく革製の鎧を着ている。

「ええ、その方がいいと思います。ただ私の指示には従ってもらいます。なに、無茶な要求はしませんから」

 俺のセリフに全員が頬をピクピクとさせていた。


 訓練を始めて3日目の今日、俺たちは近くの森まで魔物狩りに出かけることになった。

 昨日、ポロスはめげずに訓練に来た。さらに初日に比べて俺が訓練内容を少し緩めたおかげで、少しばかり気を良くしていた。1日2日の訓練で大きな変化がある訳では無いが、俺が伝えたかったことを前向きに捉えてくれたようだった。

 だが調子に乗って「今ならゴブリンぐらいなら勝てる」とか言い出した。子供の戯言と流しても良かったが、「じゃあ明日は狩りに行こう」と提案した時の皆の顔は忘れられない。ポロスは吐き出しそうな顔色だった。


 もともと俺に叩きのめされる毎日だと辛いだろうから、その内に比較的安全な森にでも狩りに行く予定だった。その予定が前倒しになっただけだ。

 ただ辺境にあるこの都市の周辺は魔物が多く出没する。普通に考えて、城壁の外に出れば安全では無い。ポロスとの出会いも魔物に襲われているところを助けたのが縁だし。

 だからムースンに加えて3人の護衛がつく事になった。これは俺の力量に不安がある、というよりも大事をとっての戦力としてみた方がいいだろう。時期領主を死なせてしまってはことがことだ。

 俺に不満は無い。


「では行きましょう! コーメーはミーシャ様とお留守番だ。魔法講義で盛り上がっててくれ」

 見送りに来ていたミーシャにコーメーを預けて出発した。移動方法は当然徒歩だ。コラ、そこ。勝手に馬車に乗ろうとするな。


 街から出る時に門番がすこしばかり騒ぎ出したが、問題無く出ることが出来た。

 東門を出て、街道から少しばかり離れた平原を歩いていく。ここはビルリア周辺で最も安全性の高い場所だ。この都市から東に向かう街道を馬で半月程進めば【自由交易都市カース】がある。ここはどこの国にも属さない。その為に税も無く、11人の評議員により運営されている。ちなみに、ここには冒険者ギルドの本部があったりする。

 交易都市と名乗るに相応しく、周辺国家から様々な物資や人材が流れてくるらしい。その為にここビルリアとも良好な関係を築いている。辺境都市からは魔物の素材や魔石が多く輸出されている為である。

 その為に商人などの往来も多く、護衛に雇われた冒険者も頻繁に行き来する。それによって魔物はその数を減らしているのだ。

 それがルーキー向けの狩場となった所以である。

 とは言っても少し離れた森に入れば、それなりの魔物が出現するので舐めてはかかれない。


「さて、ここからは積極的に魔物に出会う為に行動します。ただ…」

 俺は周囲を見渡しながら言葉を綴る。

「森には入りません。森の近くまでは行きますが、危険を冒さずに頑張りましょう」

 ポロスはそれを聞いて少しばかり安堵したようだ。緊張が少しばかり緩んだようだ。

「ご存じかも知れませんが、この辺りはルーキー向けの狩場としても有名です。平野部にはゴブリン、ドルンリザード、ホーンウルフが多く出ます。絶対とは言えませんが、ほとんどがEランクの魔物なので安心して下さい」

 俺は移動しながら簡単な説明をしていく。ここに来たのは俺も初めてだが、事前にギルドで調べておいたことを話す。準備って大事だな!

 周囲を警戒しながらも目的地の森との境目まで来た。魔物に出くわさなかったのもあり、ポロスの表情は明るい。ただ少しばかり疲れているようだ。歩き慣れていないのは立場からも分かるので、根を言わずに頑張っているようなので好感が持てる。

「じゃあここで休憩がてら魔物を待ちます」

 俺は簡易の椅子を無魔法を使って、土を盛り上がらせて作る。そこへ全員を座らせて、水を飲むように促す。

「そこで休んでいて下さい」

 俺はそう伝えて1人離れていく。

 ここまで私語をしなかったポロスは、気が緩んだのかムースンに何か話しかけている。きっと楽勝だ、とか言っているのだろう。いやそれは邪推か。

 でもこのまま魔物に出くわさないのは問題だ。俺には広範囲に対しての索敵能力が無いので、探すのだけでも一苦労だ。となれば呼び込むしか無い。少し危険かも知れないが、護衛もいることだし少し無理をしてもらうか。


 俺は亜空間から以前倒したゴブリンを1匹取り出した。亜空間の中では時の流れが違うので死体はフレッシュだ。俺は手斧でそれをいくつかの部位に切り分ける。骨があるので切り分けるのはそれなりに重労働だ。ん? 別に食う為じゃ無い。ゴブリンの肉は臭くて食べれたものじゃ無いらしい。それに人型の魔物はあまり食べたく無い。オークなんかはそれなりに美味いらしい。

 ゴブリンの肉片をある程度距離を離して放り投げていく。血抜きされていないので、いい感じに血の匂いが辺りを包む。

「何をやっているんですか!??」

 ポロスたちのところへ戻ると、ムースンが掴みかかってきそうな勢いで寄ってきた。ポロスはポカンとしている。

「折角なので魔物をおびき寄せます。その内に血の匂いに釣られてそれなりの量の魔物が現れるでしょう」

「なっ?」

 声を上げてビビっているのはポロスだ。血の気の引いた顔をしている。

「基本的にはゴブリンを捕獲していきます。それ以外は殺します。護衛の皆さんにはポロス様を守るように囲んでおいて下さい」

 何か言いたそうなムースンを無視して辺りを見回す。どうやら早速なにかが来たようだ。

「じゃあポロス様は魔物との攻防をしっかりと見ていて下さいね。見て学ぶことも重要な訓練です」


 俺は離れたところから現れたホーンウルフの群れを視認した。ゴブリンじゃ無いので排除対象だ。さぁさっさと倒してしまおう。



「はぁはぁはぁ……、っ!」

「グギギギギャ?」


「やぁーーーー!」

「ギャギャァァー」

 ポロスは袈裟斬りに長剣をあてて、そのまま頭からゴブリンに突っ込んだ。斬撃により息絶えていたゴブリンは勢いのままに地面へと倒れ落ちる。

 

 これで一対一ならば武器を持ったゴブリンには勝てるようになった。肩で息をするポロスを見ながら冷静に戦闘力を確認する。このまま昼休憩をとり午後からは別種のモンスターと戦わせようと考える。

「お疲れ様です。お昼にしましょう」

 見張りを1人残して、残りは先ほど作った土の椅子へと座る。椅子と同じ要領でテーブルも作り、そこへ亜空間から取り出した料理を並べていく。サンドイッチ、スープ、野菜炒め、そしてシャイダーを各自に配っていく。

 ちなみにシャイダーはフィットからの依頼の報酬の一環で安く手に入れている。依頼とは亜空間を使ったシャイダーの輸送で2週間に一回くらいのペースで定期的に行っている。

「おお! これはシャイダーではないか??」

 ポロスが目を輝かせて俺が注いだコップを覗き込む。シュワシュワと炭酸の弾ける音がする。

「やはりそうか! クオンセルは何故これを持っておる? なかなか手に入らん筈だぞ?」

 ポロスの声はかなり弾んでいた。年相応の晴れやかな笑顔だった。


 昼食をとりながら、ポロスからシャイダーが好きでこれからも定期的に飲みたいという要望が出た。俺としては構わないのだが、どうせならフィットに直接卸させた方が良さそうだ。

 そこでシャイダーを扱っている商人を紹介すると伝えるとかなり喜んでいた。本当にお気に入りなようだ。なんでもポロス達に出会った時は、シャイダーを直接買いにコム村に向かう途中だったらしい。

 フィットとしてもローレンシウム家と繋がりを持ちたいと言っていたので、友人として仲介するのは嬉しいものがある。近い内に報告がてら飲みに行って教えてやろう。


 シャイダーを美味しそうに飲みながら、ポロスは気力と体力を回復させたようだ。午後からの魔物狩りは午前中よりも楽しそうにやっていた。

 

 街への帰り道、さすがに肉体的にも精神的にも疲弊したようだ。船を漕ぎながら歩いていたので、俺がおぶって帰ることになった。魔物との直接的な命のやり取りを経験したので、かなり消耗していたようだ。

 俺の隣をムースンが歩き、囲うように3人の騎士が続く。またムースンの手には小さな袋があった。その中にはゴブリンの牙とホーンウルフの角が数本ずつ入っている。

 ポロスが「父上に狩りの成果を見せたい」と言うので剥ぎ取っていたものだ。ちなみに剥ぎ取り自体もポロスにやらせたが、泣き言も言わずに黙々と作業をしていた。

 ムースンはそれらが入った袋を大事そうに、そして誇らしげに抱えていた。

「今日狩った魔物の残りの素材はギルドで換金しておきます。今度の訓練時にそれを持ってきますので、皆さんで山分けにでもして下さい」

 俺がそう申し出ると、周りにいる騎士達の表情が明るくなった。思わぬ臨時収入に喜んでくれたようだ。さすがに周囲への警戒が疎かになることは無かったが、口々に礼を言っている。


 東門まで戻る。

 ムースンからここで解散しようと提案されたので、ポロスを騎士の1人に預けた。まだ気持ち良さげに寝ている。時間が出来たので、換金の為にギルドへと向かう。その後はフィットのところに顔を出して飲みに行くのを誘おうと決めた。ローレンシウム家にシャイダーを卸す件を伝えた時の喜ぶ顔を想像しながらギルドへと向かった。


 ギルドはまだ夕方のピークには時間も早いこともあり、人は少なかった。だが、受付の一角には人集りが出来ている。服装から冒険者では無く、依頼人のようだった。かなり張り詰めた空気感を出していた。

 気にはなったが知り合いもいなかったので、俺は素材の買取場に行き素材の査定をしてもらう。買取明細書を受け取りカウンターに戻ると、そのまま現金化の手続きをする。対応してくれたのは受付三人娘の巨乳担当のシルムナちゃんだ。

「では〜、こちらが素材の買取金額になります〜」

 独特の語尾が伸びる口調で硬貨を渡してくる。俺はそれを受け取り、小袋に入れると亜空間に収納した。

「だから依頼を出したいのよ!」

「何か情報は無いの?」

 別のカウンターからなかなかに激しい口調で、先ほどの人集りが受付と揉めている。ちなみに対応しているのはスレンダー美女のクリヤだ。彼女では対応しきれないのか、かなり大変そうだった。

「シルムナさん、あそこのクリヤさんのとこ。何かあったんですか?」

「ん〜、少し込み入ってまして〜。人数が多いから〜こちらとしても〜対応しきれないの〜」

 クリヤだけでは対応出来ないのか、数人の職員が助けに入ったが、彼らの熱は下がらない。いや、どうやら場所を改めるようだ。全員が2階に移動し始めた。

「なんでも〜子どもが行方不明なんだって〜話ですよ〜。ここ1週間ぐらい〜行方不明の子どもの捜索依頼が増えてて〜。あの集団はその保護者達の一部です〜」

 彼らが移動するのを目で追いながら、彼女は愚痴るように呟く。


「親からすれば必死にもなりますね。このようなことは良くあるんですか?」

 ビルリアは辺境都市のために荒くれ者が多い。冒険者に限らず、それなりにダークな部分まある。人攫いがあってもおかしくは無いほどだ。

「ここまで同時期に〜大量の子供が消えるのは〜珍しいです〜。それも〜、行方不明の子達に共通点が〜無いみたいですよ〜」

 シルムナは眉間に皺を寄せる。

「衛兵の詰所にも〜同じように消えた子どもの保護者達が〜押し寄せているらしいです〜。ギルドとしては集団誘拐の〜方向で考えているの〜」

「…何人くらい行方不明なんですか?」


「ギルドで把握しているのは〜50人くらいです〜。詰所との情報を擦り合わせたり〜、依頼を出していない保護者もいる可能性があるので〜実際はもっと多いと思われています〜」

 どうやら結構な事件のようだ。子ども誘拐……、まさかエルフの子が攫われた件と繋がりが? ギルマスはどのように判断しているのだろうか?

 ここまで大規模だと以前聞いていたような少数精鋭よりも、人海戦術の方がいい気もする。

 ……手伝えることは無いだろうか? 子どもが攫われるというのは個人的にも胸糞が悪くなる話だ。幸いポロスの訓練は来週まで休みなので時間もある。

「シルムナさん、もし良ければ何か協りょ――」

「――なんですって!!?」

 俺の言葉を遮るようにギルド内に声が鳴り響く。声のした方を見ると、数人の男女がいた。先ほどの声はその中にいた見知った女性のものだった。

 少しばかり苦い思い出のあるチームのリーダー。あのフランだった。



お読み頂きまして有難うございます。

可能であればご意見ご感想などあれば、いただけると非常に嬉しいです。作者のやる気に拍車がかかります。

メッセでもオケーです。


あ、ブクマや評価も嬉しいです。宜しければそちらもお願いします。

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